1問1答 論文 虫歯

術者が変わると、象牙質の接着強さは変わる?——牛の歯の象牙質に、臨床経験2〜7年の歯科医師5人が6種のボンディングシステムで接着した実験室研究(各条件10本)で、6種中4種(原著の結果から筆者が数えた)で術者の間に有意差があり、著者らは経験年数の長さとの相関は認められなかったと結論した(岡田 2005)

1問1答 論文 カリオロジー

カリオロジー|牛の歯の象牙質を#600まで研磨し、臨床経験2〜7年の歯科医師5人が、それぞれ一人で6種のボンディングシステムを使ってコンポジットレジンを接着し、24時間水中保管後と熱サイクル3万回後の剪断接着強さ(各条件10本)を比べた実験室研究(岡田・石田・野口・福井・長山 2005・奥羽大学歯学誌)

同じ材料・同じ手順書でも、誰が塗るかで接着は変わるのか。奥羽大学の岡田らは、臨床経験2〜7年の歯科医師5人に、牛の歯の象牙質への接着を6種のボンディングシステムでそれぞれ一人で行わせ、剪断接着強さを比べました。6種中4種(SB・DL・LB・FB。筆者が数えた)で術者の間に有意差があり、OA と MB では有意差を認めませんでした。有意に低い値が出たのは、いずれも臨床経験5年目の術者でした。著者らは、経験年数の長さと接着強さに相関は認められなかったとまとめています(相関係数などの統計は示されていません)。ただし術者は5人だけで、平らに研磨した牛の歯の象牙質で測った実験室の結果です。

論文
各種ボンディングシステムの接着性評価(1)象牙質について(Evaluation of Adhesive Strength and Durability of Different Bonding Systems (1) Dentin)
著者
岡田英俊、石田喜紀、野口博志、福井和徳、長山克也(奥羽大学歯学部 生体材料学講座、同 成長発育歯学講座 歯科矯正学分野)
掲載
奥羽大学歯学誌 2005;32(2):57-66(要旨は1999年の日本歯科理工学会と2004年の日本接着歯学会で発表)
種類
実験室研究(in vitro)。冷凍保存した牛の歯の象牙質を樹脂に埋め、#600まで研磨した平らな面に、臨床経験2〜7年の歯科医師5人(7年目・5年目2人・2年目2人)が、それぞれ一人で6種のボンディングシステム(論文では記号 OA・SB・DL・LB・FB・MB で表記)の接着・レジン充填・光照射を行った。接着面は直径6mm、レジンの厚さ2mm、室温23±2℃・湿度50±5%。全試料を37℃の水に24時間置き、そのまま測る条件(CO)と、さらに4〜60℃の熱サイクル3万回をかける条件(TH)で、剪断接着強さを測った(各条件10本)。測定は試料を作っていない1人が行った。統計は一元配置分散分析(p<0.05。多重比較の方法の記載は無い)
資金・利益相反
論文に資金・利益相反の記載は無い。製品名は記号でだけ示され、組成と組み合わせたレジンの製造者(3M・クラレ・松風・トクヤマ)が表1に載っている
PMID
なし(和文誌。奥羽大学学術機関リポジトリ:https://ohu-lib.repo.nii.ac.jp/records/2393)

①同じ材料・同じ手順書なら、誰が塗っても接着は同じ?

ボンディングシステムの説明書どおりに塗っているのに、なぜか自分のレジンだけ外れやすい気がする。逆に「ベテランが塗れば接着は強い」と、何となく思っていないでしょうか。では、同じ材料・同じ手順書で、術者だけを変えたら、象牙質の接着強さはどれくらい変わるのか。

これを牛の歯の象牙質で確かめたのが、奥羽大学の岡田らが2005年に奥羽大学歯学誌に出した実験室研究です。

結論を先に書きます。
・臨床経験2〜7年の歯科医師5人が、平らに研磨した牛の歯の象牙質に、6種のボンディングシステムでそれぞれ一人で接着した実験室研究(各条件10本・剪断接着強さ)
・6種中4種(SB・DL・LB・FB)で、術者の間に有意差があった(4種は原著の結果から筆者が数えた数)。OA と MB では有意差を認めなかった
・有意に低かったのは、いずれも5年目の術者(2人のうちどちらか、FB では2人とも)。2年目の術者が有意に低い組み合わせは無かった
・著者らは、経験年数の長さと接着強さに相関は認められなかったとまとめている(相関係数などの統計は示されていない)

②なぜこの研究が必要だったか

ボンディングシステムは、エッチング・プライミング・ボンディングの手順を短くした製品が増えてきました。操作が簡単になれば、水洗・防湿・乾燥・塗布の各段階でのテクニカルエラーが減る、という考え方です。著者らは、ボンディングシステムに求められる性質として、接着が長持ちすることに加えて、臨床経験などの術者の技術の差で接着強さが変わりにくいことを挙げています。

ところが、材料の各操作と術者の技術の両方に焦点を当てた報告は見当たらない、と著者らは書いています。そこで、操作の環境と被着体をそろえたうえで、操作の手順が違う6種のボンディングシステムと、臨床経験の違う5人の術者の両方で比べたのが今回の研究です。

③何をどう比べたか

・歯:冷凍保存した牛の歯を自然解凍し、樹脂に埋めて#600まで研磨した象牙質(平らな面)
・術者:臨床経験2〜7年の歯科医師5人(7年目、5年目A・B、2年目A・B)。接着・レジン充填・光照射の一連の操作を、各人がそれぞれ一人で行った。操作の手順は材料ごとに文章で示して術者に覚えさせ、ストップウォッチを用意した
・ボンディングシステム:6種。論文では製品名ではなく記号で書かれています。手順の型で分けると、リン酸エッチ+プライマー+ボンドの3ステップ(OA)、リン酸エッチ+ボンドでウエットボンディング(SB)、クエン酸・塩化第二鉄で処理して4-META 系のボンド(DL)、セルフエッチングプライマー+ボンド(LB・FB・MB)です。組み合わせたレジンは製品ごとに違います(Z100・クリアフィルAP-X・ライトフィルⅡ・パルフィークエステライト)
・条件をそろえた点:室温23±2℃・湿度50±5%、接着面はマスキングテープで直径6mm、レジンの厚さ2mm、光照射は60秒(同じ照射器・同じ色調)
・測定:重合後すぐ、全試料を37℃の水に24時間置いた。そのまま測る条件(CO)と、さらに4〜60℃の熱サイクルを3万回かけてから測る条件(TH)で、剪断接着強さを測った。各条件10本。測定は試料を作っていない1人が行った
・統計:一元配置分散分析(p<0.05)。多重比較の方法は書かれていません

④結果1:6種中4種で、術者の間に有意差

熱サイクル後(TH)の剪断接着強さの平均を、ボンディングシステムごとに、術者5人で並べました(原著の本文と図1〜6)。オレンジの棒が、本文でほかの術者より有意に低いと書かれた術者です。

熱サイクル3万回後の剪断接着強さ(MPa):術者5人の比較オレンジ=本文でほかの術者より有意に低いと書かれた術者 / 縦軸は6枚とも0〜35 MPaOA(3ステップ)術者間に有意差を認めず010203018.57年13.35年A10.55年B15.82年A18.82年BSB(ウエット)5年目Aが他の4人より有意に低い010203017.87年4.65年A14.85年B14.82年A11.42年BDL(4-META系)5年目Bが7年目・5年目A・2年目Aより有意に低い01020305.57年4.45年A0.95年B6.52年A3.12年BLB(セルフエッチ)5年目Bが他の4人より有意に低い010203030.97年32.35年A19.75年B29.92年A29.92年BFB(セルフエッチ)5年目A・Bが7年目・2年目A・2年目Bより有意に低い01020306.57年15年A1.25年B92年A5.62年BMB(セルフエッチ)術者間に有意差を認めず01020307.47年6.45年A85年B72年A7.22年B牛の歯の象牙質を#600まで研磨した平らな面・各条件10本・一元配置分散分析(p<0.05)。棒の下は術者の臨床経験(5年A=5年目A)。LB の有意差は熱サイクル後だけ(24時間後は記載なし)。システムごとに組み合わせたレジンが違うため、システムどうしの高さは比べられない。
図1:熱サイクル3万回後の剪断接着強さの平均(MPa)を、ボンディングシステムごと・術者ごとに並べた。オレンジ=本文でほかの術者より有意に低いと書かれた術者。牛の歯の象牙質を平らに研磨した面・各条件10本。システムごとにレジンが違うので、システムどうしの高さは比べられない。

術者の間に有意差があったのは、次の4種です(本文に有意差の記述がある製品を筆者が数えた)。

・SB(ウエットボンディング):5年目Aが、24時間後・熱サイクル後とも、ほかの4人全員より有意に低い(24時間後 3.2 MPa、ほかの4人は10.7〜16.6 MPa)
・DL:5年目Bが、24時間後・熱サイクル後とも、7年目・5年目A・2年目Aより有意に低い(24時間後 1.3 MPa、その3人は4.9〜7.2 MPa)
・LB:熱サイクル後で、5年目Bがほかの4人全員より有意に低い(19.7 MPa、ほかの4人は29.9〜32.3 MPa)。24時間後については、本文にも図にも有意差の記載はありません
・FB:5年目A・Bの2人が、24時間後・熱サイクル後とも、7年目・2年目A・2年目Bより有意に低い(24時間後 1.7と2.8 MPa、その3人は6.8〜10.7 MPa)

一方、OA と MB では、術者の間に有意差を認めませんでした。ただし OA でも、24時間後の平均は10.3〜18.5 MPa と術者で開きがあり、「有意差を認めなかった」は「同じだった」の証明ではありません。数字を表にまとめます。

表:術者ごとの剪断接着強さの平均(MPa)と、術者の間の有意差 条件 7年目 5年目A 5年目B 2年目A 2年目B 有意差 OA 24h 17.2 13 10.3 12.8 18.5 有意差なし OA 熱 18.5 13.3 10.5 15.8 18.8 有意差なし SB 24h 16.6 3.2 13.6 13.4 10.7 5年A低い SB 熱 17.8 4.6 14.8 14.8 11.4 5年A低い DL 24h 6.2 4.9 1.3 7.2 3 5年B低い DL 熱 5.5 4.4 0.9 6.5 3.1 5年B低い LB 24h 27.8 28.3 18.2 25.6 29 記載なし LB 熱 30.9 32.3 19.7 29.9 29.9 5年B低い FB 24h 6.8 1.7 2.8 10.7 8.9 5年A・B低い FB 熱 6.5 1 1.2 9 5.6 5年A・B低い MB 24h 6 5.5 5.7 4.9 7 有意差なし MB 熱 7.4 6.4 8 7 7.2 有意差なし 24h=37℃の水に24時間(CO)、熱=24時間の水中保管のあと4〜60℃の熱サイクル3万回(TH)。牛の歯の象 牙質を平らに研磨した面・各条件10本。オレンジ=本文でほかの術者より有意に低いと書かれた値 有意差の列:SB は5年目Aが他の4人全員より、LB(熱)は5年目Bが他の4人全員より、DL は5年目Bが7年目 ・5年目A・2年目Aより、FB は5年目A・Bが7年目・2年目A・2年目Bより有意に低い。OA と MB は術者の間 に有意差を認めず システムごとに組み合わせたレジンが違う(OA・SB=Z100、DL・LB=クリアフィルAP-X、FB=ライトフィ ルⅡ、MB=パルフィークエステライト)ため、システムどうしは単純に比べられない
表:術者ごとの剪断接着強さの平均(MPa)と、術者の間の有意差。原著の本文と図1〜6から。原著の図にはエラーバーがあるが、その種類(標準偏差か等)と数値は書かれていない。

⑤結果2:経験年数の順には並ばなかった

有意に低い値が出たのは、どれも5年目の術者でした。2年目の2人は、DL・LB・FB で7年目と同じくらいか、それより高い平均の場面もあり、2年目の術者が有意に低い組み合わせはありませんでした。著者らは、経験年数の長さと接着強さには相関が認められなかったと結論しています。

ただし、相関係数などの統計は示されておらず、術者は経験年数ごとに1〜2人ずつの5人だけです。「経験年数は関係ない」と言い切れる研究ではなく、「この5人では、経験年数の順に並ばなかった」と読むのが正確です。

そのほか、24時間後と熱サイクル後の傾向は、どのシステムでも同じでした。また、システムごとに平均すると LB が最も高い値でしたが、システムごとにレジンが違うため、単純に材料どうしは比べられないと著者らは書いています。

⑥差はどこから来たのか(著者らの考察)

著者らは、エッチング材は着色されていて塗った範囲が分かり、時間もそろえていたこと、水洗の指示も人による解釈の差が出にくいことから、エッチングや水洗が差の原因になった可能性は小さいと考えています。そのうえで、次の操作を候補に挙げています(いずれもこの研究では測っていない推測です)。

・水洗後のエアー:SB の手順は「1秒以内の弱いエアーで余剰水分の除去」。何を「余剰水分」とみなすかが人によって違えば、象牙質の湿り具合が変わる
・プライマー後のエアー:「マイルドなエアーで十分に乾燥」の「マイルド」「十分」の受け取り方が人によって違う
・ボンド塗布後のエアーと、ボンド層の厚さ:ボンド層を薄くしなければ、という思い込みでエアーを強くかけすぎ、層が薄くなりすぎた可能性。有意に低かった5年目の2人は、ボンド層を薄くしすぎていたのかもしれない、と著者らは書いています

一方、3ステップで手順の多い OA では術者の間に有意差を認めませんでした。著者らは、手順が多くても、各操作の指示がはっきりしていて材料の組成もシンプルであれば、術者の間の差は小さくなる可能性があると考察しています。

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・「慣れているから大丈夫」とは限らない:この実験では、同じ手順書でも6種中4種(筆者が数えた)で術者の間に有意差があり、有意に低かったのは経験の短い術者ではなく5年目の術者だった
・エアーとボンド層を見直す:著者らが疑ったのは、水洗後・プライマー後・ボンド塗布後のエアーのかけ方と、ボンド層の厚さ。ただしこの研究で確かめたわけではない
・あいまいな言葉を、院内で具体的にそろえる:「弱いエアー」「十分に乾燥」「薄く均一に」を、距離・時間・見た目の目安に言い換えて共有する、という工夫が考えられる

手元のボンディングシステムの説明書を読み直し、エアーの強さや時間の指示を、医院の中で同じ言葉で確認し合う。そんな小さな工夫から始めるのが無難です。

ここだけ、冷静に補助線(1)牛の歯の象牙質を平らに研磨した面の実験です。窩洞の隅や、防湿が必要な口の中の条件とは違い、著者らも個人差が出にくい条件だったと書いています。
(2)術者は5人だけで、経験年数ごとに1〜2人です。経験年数との相関について、相関係数や検定の結果は示されていません。
(3)差の原因として挙げられたエアーのかけ方やボンド層の厚さは、測っていない推測です。
(4)要旨の発表が1999年と2004年なので、使われたのはその頃の製品と考えられます(筆者の推定)。製品名は記号だけです。今のユニバーサル接着材にそのまま当てはまるとは限りません。
(5)測ったのは剪断接着強さで、多重比較の方法や資金・利益相反の記載はありません。
それでも、「誰が塗っても同じ」という前提を、数字で揺さぶってくれる面白い研究です。今の製品や、もっと多くの術者での続報と合わせて読みたいところです。

今日のひとこと

牛の歯の象牙質を使ったこの実験では、臨床経験2〜7年の歯科医師5人が同じ手順書で接着しても、6種中4種(筆者が数えた)のボンディングシステムで術者の間に有意差があり、有意に低い値が出たのはいずれも5年目の術者でした。著者らは、経験年数の長さとの相関は認められなかったとし、差の原因としてプライマー後やボンド塗布後のエアーのかけ方・ボンド層の厚さを推測しています(この研究では測っていない仮説です)。術者5人・平らな牛の歯の面・要旨の発表が1999年と2004年の研究で、今の製品とは違う可能性もある(筆者の推定)ので、「経験年数より、エアーやボンド層など一つひとつの操作をそろえることが大事かもしれない」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。

岡田英俊, 石田喜紀, 野口博志, 福井和徳, 長山克也. 各種ボンディングシステムの接着性評価(1)象牙質について. 奥羽大学歯学誌. 2005;32(2):57-66. 奥羽大学学術機関リポジトリ https://ohu-lib.repo.nii.ac.jp/records/2393(PMID・DOIなし)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。