ペリオ|ヒトの永久歯の生物学的幅径(上皮性付着+結合組織性付着)を測った14研究(1924〜2012年・合計3000部位超)を集め、6研究でメタ分析した系統的レビュー(Schmidt・Walter ほか 2013・Journal of Clinical Periodontology)
生物学的幅径は「約2mm」と習いました。でも、その数字は誰の、どの歯にも当てはまるのか。Schmidt らは2013年、ヒトの生物学的幅径を測った研究を系統的に集めました。2つのメタ分析の平均は2.15mm(歯周病歴の報告がない人・組織標本の研究)と2.30mm(付着の喪失が3mm以上の人・臨床の計測の研究)。ただし組み入れ研究の個々の測定値は0.2〜6.73mmと幅が広く、歯の種類・部位・修復物の有無・歯周病・歯冠長延長術後の期間で値が変わっていました。著者らは「誰にでも当てはまる寸法は無さそうだ」と結論しています。ただし組み入れ研究は古いものを含み、測り方(遺体の組織標本・プロービング・X線)も研究ごとに違います。
①生物学的幅径は「2mm」で決まり?
補綴物のマージンを歯肉縁下に置くとき、「生物学的幅径はおよそ2mm。だから骨頂からこれだけ離す」と習った方は多いと思います。でも、その「2mm」は、目の前の患者さんのその歯にも当てはまる数字なのでしょうか。
この疑問に、1924〜2012年の研究を集めて答えようとしたのが、スイスのバーゼル大学とチューリッヒ大学の Schmidt らが2013年に Journal of Clinical Periodontology に出した系統的レビューです。
・ヒトの永久歯の生物学的幅径を測った14研究(1924〜2012年・合計3000部位超)を集め、そのうち6研究でメタ分析した系統的レビュー
・2つのメタ分析の平均は 2.15mm(歯周病歴の報告がない人・組織標本の研究)と 2.30mm(付着の喪失が3mm以上の人・臨床の計測の研究)。対象も測り方も違う2つの値なので、大小は比べられない
・一方で、組み入れ研究の個々の測定値は 0.2〜6.73mm と幅が広く、歯の種類・部位・修復物の有無・歯周病・歯冠長延長術後の期間で値が変わっていた
・著者らの結論は「誰にでも当てはまる生物学的幅径の寸法は無さそうだ」。治療目標としての「魔法の数字」は勧められない、としている
②なぜこの研究が必要だったか
生物学的幅径は、歯を取り巻く上皮性付着(接合上皮)と、歯槽骨頂より上の結合組織性付着を合わせた幅です(歯肉溝の深さは含めない)。その下の歯根膜と歯槽骨を守る防御の役割があると考えられています。
著者らは序論で、先行研究をもとに次のように書いています。修復物のマージンを歯肉縁下に置くと、プラークがたまりやすくなり、歯肉の炎症が強まり、ポケットの深化・付着の喪失・歯肉退縮につながりうる。その炎症は生物学的幅径を侵すこととつながっているようだ。だから、マージンの位置を考えるには、生物学的幅径の寸法を知りたい。
ところが、生物学的幅径の理想の寸法については見方やデータが分かれていて、臨床の推奨を作りにくい状態でした。古典的な値としては Gargiulo 1961 の 2.04mm(上皮性付着 0.97mm+結合組織性付着 1.07mm。このレビューの表1・表4・表6に収載)があります。そこで、ヒトの生物学的幅径の寸法を、系統的に集め直したのが今回のレビューです。
③何をどう集めたか
・問い:ヒトの永久歯で、生物学的幅径とその構成要素(上皮性付着・結合組織性付着)の寸法はどれくらいか。(a)歯周病歴の報告がない人、(b)歯周病歴のある人、に分けて調べた
・検索:MEDLINE・EMBASE・Cochrane・Web of Science・Biosis の5つのデータベースを2012年9月28日まで(言語・年の制限なし)。歯周病の専門誌4誌(1990年1月〜2012年9月)の手検索と、文献の引用元もたどった
・選別:PRISMA に沿って、615件から最終的に14研究を選んだ。2人が選び、3人目が見直した
・質の評価:コクランのバイアスリスクの評価項目と STROBE 声明の項目を改変して点数化した
・組み入れた研究:1924〜2012年に発表。合計3000部位を超える。1研究あたり5〜88人(1研究だけ123人)で、多くは19〜50歳
・測り方は研究ごとに違う:①解剖遺体の顎から作った組織標本(光学顕微鏡で計測)、②プロービングと、局所麻酔下で歯肉の上から骨まで探るボーンサウンディング(臨床の計測)、③臨床の計測とX線(正面と側面から撮るパラレルプロファイル法)の組み合わせ
・方法と評価項目のばらつき(異質性)が大きく、メタ分析に使えたのは6研究だった
④結果1:平均は2.15〜2.30mm。でも個々の値は0.2〜6.73mm
2つのメタ分析の平均は、2.15mm(95%信頼区間 2.01〜2.29)と2.30mm(同 2.19〜2.41)でした。前者は歯周病歴の報告がない人の前歯・臼歯を測った組織標本の研究、後者は付着の喪失が3mm以上の人を測った臨床の計測の研究をまとめたものです。対象も測り方も違うので、この2つの差から「歯周病があると幅が広がる」とは読めません(筆者の注)。
研究ごとの平均値も、歯周病歴の報告がない人で 1.5〜2.7mm、歯周病歴のある人で 1.25±0.19〜3.95±1.04mm と開きがありました。抄録では、個々の測定値の範囲を 0.2〜6.73mm としています。人の間でも、同じ人の中でも、ばらつきが大きいということです。
構成要素ごとに見ると、研究ごとの平均は、上皮性付着が 0.57〜1.14mm、結合組織性付着が 0.77〜1.10mm でした。
⑤結果2:何が値を動かしていたか
著者らは、歯の種類・部位・修復物の有無・歯冠長延長術後の治癒期間・歯周病(付着の喪失や深いプロービング深さ)を、生物学的幅径に影響しうる要因として挙げています。たとえば、3つの研究では前歯の生物学的幅径が臼歯より小さく、上皮性付着は隣接面で1mmを超え、舌側・口蓋側では0.9mmを下回っていました。
歯周病との関係は一方向ではありません。付着の喪失が大きい部位ほど生物学的幅径が小さかったという報告(Gargiulo 1961・Novak 2008)がある一方で、著者らは、歯周病歴のある人の部位の平均は、歯周病歴の報告がない人より大きいことが多かった、ともまとめています。歯肉に炎症がある部位では平均1.25±0.19mm という報告(Al-Rasheed 2005)もありました。
歯冠長延長術の後は、時間とともに値が大きくなっていきました。Lanning 2003 では術後3か月の平均1.96±0.05mmが6か月で2.19±0.06mmに、Shobha 2010 では1.67±0.62mmが1.87±0.83mmになっていました。著者らは、ほかの2報(Herrero 1995・Brägger 1992)とも合わせて、術後の組織の作り直しが終わるまで少なくとも6か月かかるかもしれないとまとめています。
⑥著者らの結論と考察
著者らの結論は次のとおりです。
・生物学的幅径には、人の間でも同じ人の中でも大きなばらつきがある
・治療目標としての生物学的幅径の「魔法の数字」は勧められない。平均値を使うと、実際の臨床の状況が見えなくなりうる
・2つのメタ分析の平均は2.15〜2.30mm(考察では「統計的に計算した値にすぎない」と書き、臨床で使うなら慎重な目安になりうる、としている)
・プロービングとボーンサウンディングが、上皮性付着と結合組織性付着の寸法を決めるのに役立ちうる
・生物学的幅径は歯周病で変わるようなので、評価する前に歯周組織の健康を確立しておくべきだ
・歯冠長延長術の後の作り直しには、少なくとも6か月かかるかもしれない
考察では、測り方の弱点にも触れています。組織標本は最も精密に測れるとされる一方、標本の作製で人工的な変化が入りうるうえ、臨床では倫理的な理由で使えないことが多い、としています。プロービングは、プローブを押す力や歯周組織の炎症で、プローブの入る深さが変わります。炎症があると、プローブは接合上皮を突き抜けて、炎症の無い結合組織の歯冠側の端で止まることがある、と書いています。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・その部位の生物学的幅径を見積もるなら、炎症を落ち着かせてから、プロービングと局所麻酔下のボーンサウンディングを組み合わせる:プロービングで歯肉溝の深さと付着の位置を、ボーンサウンディングで骨の位置を測る、という著者らが「役立ちうる」とした方法。ただし、プローブの力や炎症で測定値が変わる点は残る
・歯冠長延長術の後は、組織の作り直しに少なくとも6か月はかかるかもしれない前提で見る:著者らの結論のまま。6か月で必ず終わるという意味ではない
・このレビューは寸法を集めたもの:マージンの位置ごとに歯周組織の経過を比べた研究ではない
マージンをどこに置くかは、この寸法の知識に、修復物の種類や審美の要求、歯周組織の状態を重ねて決めることになります。「2mm」を出発点にしつつ、その歯で確かめる、という姿勢を後押ししてくれるレビューです。
(2)1研究あたり5〜88人と規模の小さい研究が多く、メタ分析に使えたのは14研究中6研究でした。
(3)メタ分析の中身(それぞれ何本の研究をまとめたか・異質性の数値)はオンライン付録にあり、本文には書かれていません(筆者は付録を確認していません)。本文の中にも、全文を読んだ件数(34件と39件)や、研究ごとの平均の最小値(結果の節は1.25mm、考察は1.15mm)のように、記載が食い違う所があります。1.15mm は表3にある歯肉切除後3〜6週の値(Ganji 2012)で、考察はこうした術後の値も含めて範囲を書いた可能性がありますが、本文に説明はありません。
(4)寸法を調べたレビューで、マージンの位置ごとに歯周組織の経過を比べたものではありません。
(5)著者らは利益相反なし・外部資金なしと記載しています。
「生物学的幅径=2mm」を一度ほどいて、数字の出どころとばらつきを見せてくれる、手元に置いておきたいレビューです。
今日のひとこと
14研究の系統的レビューで、生物学的幅径のメタ分析の平均は2.15mm(歯周病歴の報告がない人・組織標本)と2.30mm(付着の喪失3mm以上の人・臨床の計測)でしたが、個々の測定値は0.2〜6.73mmと幅が広く、歯の種類・部位・修復物・歯周病・歯冠長延長術後の期間で値が変わっていました。組み入れ研究は古く、測り方も研究ごとに違うので、「『2mm』は平均の目安として持ちつつ、その歯の値は炎症を落ち着かせてから、プロービングと局所麻酔下のボーンサウンディングを組み合わせて見積もる。歯冠長延長術の後は、組織の作り直しに少なくとも6か月はかかるかもしれない前提で見る」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。


