1問1答 論文 保存修復

象牙細管は、歯髄に近いほど多くて太い?——ヒトの抜去歯30本の歯冠の象牙質を割り、脱灰しない面を走査電子顕微鏡で測ると、細管の数の平均は歯髄壁で1mm²あたり45,000本・直径2.5µm、歯髄から3.1〜3.5mmでは19,000本・0.8µmだった(Garberoglio 1976)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|ヒトの抜去歯30本(小臼歯24・大臼歯5・切歯1。8〜25歳16本、40〜60歳14本)の歯冠の象牙質を割り、脱灰しない割断面で、歯髄からの距離ごとに象牙細管の数と直径を走査電子顕微鏡で測った実験室研究(Garberoglio・Brännström 1976・Archives of Oral Biology)

深い窩洞の底の象牙質と、エナメル質に近い浅い所の象牙質。同じ「象牙質」でも、中の象牙細管の数や太さはどれくらい違うのか。Garberoglio と Brännström は1976年、ヒトの抜去歯30本の歯冠の象牙質を割り、脱灰しない面を走査電子顕微鏡で撮って、歯髄からの距離ごとに細管を数え、太さを測りました。細管の数の平均は、歯髄壁で1mm²あたり45,000本・直径2.5µm。歯髄から離れるほど少なく細くなり、3.1〜3.5mmでは19,000本・0.8µmでした。細管が占める体積は、著者らの計算で歯冠の象牙質全体の約10%(歯髄の近くで約28%、エナメル質の近くで約4%)。また、脱灰すると周管象牙質が溶けて細管は太く測られ、著者らは脱灰した標本にもとづく以前の値は妥当でないと書いています。ただし、形を測った実験室研究で、知覚過敏や接着など臨床の結果は調べていません。

論文
Scanning electron microscopic investigation of human dentinal tubules
著者
R. Garberoglio、M. Brännström(イタリア ミラノ大学歯学部、スウェーデン カロリンスカ研究所歯学部)
掲載
Archives of Oral Biology 1976;21(6):355-362
種類
実験室研究(in vitro)・走査電子顕微鏡による形態の計測。健全な(intact)ヒトの永久歯30本(小臼歯24・大臼歯5・切歯1。8〜25歳の16本と40〜60歳の14本)を抜去後すぐ10%ホルマリンで固定(7本は凍結してから割って凍結乾燥)。23本は咬合面側を髄角の先が出る高さで横に割って細管を横断面で見て(うち13本は縦にも割って歯髄からの距離を測った)、残り7本は歯髄の中心を通して縦に割った。脱灰しない割断面を撮影し(横に割った面は3〜5か所ずつ)、写真の上で1mm²あたりの細管の数を数え、直径を測った(600枚超の写真)。9本は同じ場所を5%硝酸で脱灰する前と後で比べた。著者らの見積もった測定誤差は、直径で約20%、数(面積)で約25%
資金・利益相反
研究資金・利益相反の記載は無い(謝辞で統計の助言者に謝意)
PMID
1066114

①象牙細管は、歯髄に近いほど多くて太い?

深い窩洞を形成していくと、歯髄に近づくにつれて象牙質の見た目や手ざわりが変わってくる気がします。では、同じ「象牙質」でも、中を通る象牙細管の数や太さは、深さでどれくらい違うのでしょうか。

これをヒトの抜去歯で、歯髄からの距離を測りながら数えたのが、イタリア ミラノ大学の Garberoglio とスウェーデン カロリンスカ研究所の Brännström が1976年に Archives of Oral Biology に出した研究です。

結論を先に書きます。
・ヒトの抜去歯30本の歯冠の象牙質を割り、脱灰しない割断面を走査電子顕微鏡で撮って、歯髄からの距離ごとに象牙細管の数と直径を測った実験室研究
・細管の数の平均は、歯髄壁で1mm²あたり45,000本、歯髄から3.1〜3.5mmで19,000本。直径の平均は歯髄壁で2.5µm、3.1〜3.5mmで0.8µm。歯髄に近いほど多く、太かった
・細管が占める体積は、著者らの計算で歯冠の象牙質全体の約10%(歯髄の近くで約28%、エナメル質の近くで約4%)
・脱灰すると周管象牙質が溶けて、細管は太く測られた。著者らは、脱灰した標本にもとづく以前の値は妥当でないと書いている

②なぜこの研究が必要だったか

それまでの多くの研究は、象牙細管の数と直径を、脱灰したヒトの象牙質を光学顕微鏡で見て測っていました。そうした研究では、細管の直径はエナメル質の近くで1.0µm、歯髄の近くで4〜5µmと報告されていました。数については、Ketterl(1961)がエナメル質の近くで1mm²あたり9,000〜24,000本、歯髄から1mmで64,000本、歯髄のすぐ近くで70,000本と数えていました(いずれも著者らの序論にある引用)。

ところが、細管の内壁を覆う周管象牙質は、脱灰の途中で大きく溶けるらしいことが分かってきていました。そうなると、脱灰した切片で測った細管の直径は、大きく出すぎている可能性があります。そこで著者らは、脱灰しないまま歯を割った面を走査電子顕微鏡(SEM)で見て、歯髄からの距離を測りながら細管を数え、直径を測りました。

③何をどう測ったか

・歯:健全な(intact)ヒトの永久歯30本。小臼歯24本・大臼歯5本・切歯1本。8〜25歳の16本と、40〜60歳の14本
・準備:抜去後すぐ10%ホルマリンで固定。うち7本は液体窒素かプロパンで凍らせてから鉗子で割り、凍結乾燥した
・割り方:23本は、咬合面側にダイヤモンドホイールで溝を入れ、髄角の先が出る高さで横に割って、細管を横断面で見た(うち13本は縦にも割って、歯髄からの距離を測った)。残りの7本は、歯髄の中心を通して縦に割り、いろいろな高さの細管の直径と、歯髄壁に開く細管の数と直径を測った
・測り方:エナメル質と象牙質の境から髄角の先を通って反対側の境まで、1本の線に沿って3〜5か所を撮影。写真の上で細管に印を付けて数え、1mm²あたりの数を計算した。直径も写真の上で測った(600枚を超える写真)
・脱灰の前と後の比較:9本は、同じ場所を5%硝酸で5日間脱灰する前と後で撮って比べた(脱灰した象牙質は真空で乾かすと約18%縮むので、直径は1.22倍して補正)

著者らは、装置の倍率・試料の傾き・直径の境目の見分けにくさから、測定誤差を直径で約20%、数(面積)で約25%と見積もっています。統計は、歯髄からの距離と細管の数・直径の相関と回帰直線で、測定点どうしが独立だと仮定して計算しています。

④結果1:細管の数は、歯髄に近いほど多かった

0 10 20 30 40 50 細管の数(千本/mm²・平均) 45 43 38 35 30 23 20 19 歯髄壁 0.1〜0.5 0.6〜1.0 1.1〜1.5 1.6〜2.0 2.1〜2.5 2.6〜3.0 3.1〜3.5 横軸=歯髄からの距離(mm)。原著の表1の全8行(抜去歯30本・脱灰しない割断面)
図1:歯髄からの距離ごとの象牙細管の数の平均(1mm²あたりの千本。原著の表1の全8行から筆者が作図)。ヒトの抜去歯30本・脱灰しない割断面を走査電子顕微鏡で計測。

細管の数の平均は、歯髄壁で1mm²あたり45,000本。歯髄から0.6〜1.0mmで38,000本、1.6〜2.0mmで30,000本と少なくなり、3.1〜3.5mmでは19,000本でした。歯髄からの距離と数には負の相関があり(相関係数 −0.68・84試料・p<0.01)、著者らは回帰直線を当てはめています。

ただし、同じ距離でもばらつきは大きく、たとえば0.1〜0.5mmでは1mm²あたり22,000〜59,000本の幅がありました(表)。著者らは、このばらつきには、歯ごとの本当の違いと、歯髄からの距離の測り方の不正確さの両方が関わっているかもしれないと書いています。エナメル質の近くで数が少し増えていた歯もあり、著者らは細管の枝分かれのためかもしれないと考えています。

⑤結果2:細管の直径も、歯髄に近いほど太かった

0 1 2 3 細管の直径(µm・平均) 2.5 1.9 1.6 1.2 1.1 0.9 0.8 0.8 歯髄壁 0.1〜0.5 0.6〜1.0 1.1〜1.5 1.6〜2.0 2.1〜2.5 2.6〜3.0 3.1〜3.5 横軸=歯髄からの距離(mm)。原著の表1の全8行(抜去歯30本・脱灰しない割断面)
図2:歯髄からの距離ごとの象牙細管の直径の平均(µm。原著の表1の全8行から筆者が作図)。ヒトの抜去歯30本・脱灰しない割断面を走査電子顕微鏡で計測。

直径の平均は、歯髄壁で2.5µm、歯髄から0.6〜1.0mmで1.6µm、1.6〜2.0mmで1.1µm、3.1〜3.5mmで0.8µmでした。著者らは、歯髄から約0.5mmのあたりで、周管象牙質ができてくるために直径が急に細くなると書いています。距離と直径の相関は、0〜0.7mm(49点)で −0.75、1.0〜3.5mm(72点。図2の説明の区間で、結果の本文では0.70〜3.5mm)で −0.61(どちらも p<0.001)。全体を1本の直線では表せず、2つの区間に分けて回帰直線を当てはめています。

表 歯髄からの距離ごとの象牙細管の数と直径(原著の表1・全8行) 距離(mm) 数の平均(千本/mm²) 数の範囲 直径の平均(µm) 直径の範囲 歯髄壁 45 30〜52 2.5 2.0〜3.2 0.1〜0.5 43 22〜59 1.9 1.0〜2.3 0.6〜1.0 38 16〜47 1.6 1.0〜1.6 1.1〜1.5 35 21〜47 1.2 0.9〜1.5 1.6〜2.0 30 12〜47 1.1 0.8〜1.6 2.1〜2.5 23 11〜36 0.9 0.6〜1.3 2.6〜3.0 20 7〜40 0.8 0.5〜1.4 3.1〜3.5 19 10〜25 0.8 0.5〜1.2 数の単位は1mm²あたりの千本(45=45,000本)。範囲は原著の表1の range(最小〜最大)。 ヒトの抜去歯30本(8〜25歳16本・40〜60歳14本)の歯冠の象牙質を割り、脱灰しない面を走査電子顕微鏡で計測。 著者らの見積もった測定誤差は直径で約20%、数(面積)で約25%。
表:歯髄からの距離ごとの象牙細管の数と直径の平均と範囲(原著の表1の全8行を筆者が日本語に整理)。

若い歯の歯髄の近くでは、歯どうし・同じ歯の細管どうしでも直径のばらつきが大きく(平均で2.0〜3.2µm)、高齢の歯ではさらに大きいばらつきがありました。一方で、2つの年齢群(8〜25歳と40〜60歳)の間に、細管の数と直径の有意差は無かったと著者らは書いています(どの検定を使ったかと、その値は示されていません)。

細管が占める体積は、既存の方法(Hoppe と Stüben 1965)で計算すると、歯冠の象牙質全体の約10%で、歯髄の近くで約28%、エナメル質の近くで約4%でした(測った数と直径からの著者らの計算)。

⑥結果3:脱灰すると、細管は太く測られた

9本で同じ場所を脱灰の前と後で比べると、脱灰後は周管象牙質が完全に取り除かれ、細管は太く見えました。縮みを補正した直径の平均は、歯髄から1mmで、脱灰しない象牙質1.6µm・脱灰した象牙質2.4µm。外側の象牙質では1.1µmと2.6µmでした(脱灰の前後を比べた歯での値。脱灰しない側の1.1µmは、表1のいちばん外側の行の0.8µmとは一致しません)。脱灰して真空で乾かすと、細管の数も1mm²あたり約22〜25%多く数えられました(象牙質が縮むため)。

著者らは、脱灰した切片にもとづく以前の直径の値は妥当でないと結論しています。また、細管の中の象牙芽細胞突起は、凍結乾燥した歯でだけ、歯髄から約0.5mmまでの細管に見えました。凍結乾燥していない歯の細管は、すべて空でした。

⑦著者らの考察

・歯冠の象牙質の細管の数は、Ketterl の値より少なかった(歯髄から1mmで、Ketterl は64,000本、この研究の計算では30,000〜40,000本)
・周管象牙質が厚くなっていくことが、エナメル質に向かって細管が連続して細くなる一因かもしれない
・細管の体積の割合(10%)が以前の報告(Hoppe と Stüben の21%)と違うのは、以前の研究が脱灰した切片で測ったためかもしれない
いずれも著者らの解釈で、この研究で直接確かめたものではありません。

⑧明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・深い窩洞の底の象牙質は、浅い所とは細管の多さ・太さが違う面だと意識する:この計測では、歯髄壁の細管は3.1〜3.5mmの所より、数で約2.4倍(45,000本と19,000本)、直径で約3.1倍(2.5µmと0.8µm)だった(いずれも原著の表1の平均どうしの比で、筆者の計算:45÷19、2.5÷0.8)
・細管の太さの数字を読む時は、脱灰した標本かどうかを確かめる:脱灰すると周管象牙質が溶けて、細管は太く測られた
・ただし、形を測っただけの研究:知覚過敏・接着・歯髄への影響は調べていない

深い窩洞での処置を考える時の「象牙質の中の地図」として、知っておいて損はない数字です。臨床の結果につなげるには、それを調べた研究と合わせて読むのが無難です。

ここだけ、冷静に補助線(1)抜去歯30本の形を測った実験室研究です。知覚過敏・接着の強さ・歯髄の反応など、臨床の結果は測っていません。
(2)1本の歯から何か所も測り、測定点どうしを独立とみなして相関を計算しています(著者ら自身が明記)。測定誤差も直径で約20%、数で約25%と見積もられています。
(3)歯は小臼歯が24本と中心で、測ったのは歯冠の象牙質の、歯髄から3.5mmまでです。歯根の象牙質や、う蝕の下の象牙質は調べていません。年齢群の比較は、検定の方法と値が示されていません。
(4)抄録には「歯髄の近く45,000本・2.5µm、中ほど29,500本・1.2µm、外側20,000本・0.9µm」とまとめてありますが、中ほどと外側の値は表1のどの行とも一致しません。本記事は表1の値を使いました。
(5)研究資金・利益相反の記載はありません。
1976年の研究ですが、「象牙質は深さで別物」を数字で見せてくれる基礎データです。

今日のひとこと

ヒトの抜去歯30本の歯冠の象牙質を、脱灰しない割断面で測ると、象牙細管の数の平均は歯髄壁で1mm²あたり45,000本・直径2.5µm、歯髄から3.1〜3.5mmで19,000本・0.8µmと、歯髄に近いほど多く太い結果でした。細管が占める体積は、著者らの計算で歯髄の近くで約28%、エナメル質の近くで約4%です。形を測った研究で、知覚過敏・接着・歯髄への影響は調べていないので、「深い窩洞の底の象牙質は、浅い所とは細管の多さ・太さが違う面だと意識する。細管の太さの数字を読む時は、脱灰した標本かどうかを確かめる」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。

Garberoglio R, Brännström M. Scanning electron microscopic investigation of human dentinal tubules. Arch Oral Biol. 1976;21(6):355-362. doi: 10.1016/s0003-9969(76)80003-9. PMID: 1066114
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。