1問1答 論文 保存修復

口の中で、象牙質への接着は弱っていく?——乳臼歯に Scotchbond Multi-Purpose で充填し、口の中で1〜3年たってから抜去した歯の微小引張接着強さの平均は、口の外で接着して24時間の対照28.3 MPaに対し、1〜2年15.2 MPa・2〜3年9.1 MPaだった(Hashimoto 2000)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|虫歯を治療してコンポジットレジンを充填した乳臼歯を、後継永久歯の萌出時に抜去し、口の中で1〜3年たった接着の強さと破断面を、口の外で接着して24時間の対照と比べた研究(Hashimoto ら 2000・Journal of Dental Research)

接着強さのデータの多くは、接着して24時間ほどで測った値です。では口の中で何年か過ごした接着は、同じ強さを保っているのか。Hashimoto らは2000年、乳臼歯で確かめました。虫歯を治療して Scotchbond Multi-Purpose とコンポジットレジンで充填し、口の中で1〜3年たってから抜去した乳臼歯(原著の表から筆者が数えると22本、各期間11試料)の微小引張接着強さの平均は、1〜2年で15.2 MPa、2〜3年で9.1 MPaでした。口の外で虫歯の無い乳臼歯に接着して24時間の対照(13本・26試料)は28.3 MPaで、3群の間に有意差がありました。口の中の試料の破断面では、レジンが入っていない脱灰象牙質の層で壊れた割合が対照より大きく見えました。ただし時期ごとに別の歯を測った研究で、対照とは虫歯の有無や接着した場所(口の外か中か)も違い、接着材も1種類だけです。

論文
In vivo degradation of resin-dentin bonds in humans over 1 to 3 years
著者
M. Hashimoto、H. Ohno、M. Kaga、K. Endo、H. Sano、H. Oguchi(北海道大学歯学部 小児歯科・保存修復、北海道医療大学歯学部 歯科理工学)
掲載
Journal of Dental Research 2000;79(6):1385-1391
種類
ヒトの口の中で時間がたった修復の接着を、抜去後に実験室で測った研究(微小引張試験と走査型電子顕微鏡による破断面の観察)。北海道大学の小児歯科の外来患者の、象牙質まで達した虫歯のある乳臼歯にII級窩洞を作り、Scotchbond Multi-Purpose(3M)とコンポジットレジン Z100 で充填(術者1人)。1〜3年後、後継永久歯の萌出時に抜去し、虫歯や辺縁の着色が無い歯を試料にした(原著の表から筆者が数えると22本。試料は1〜2年・2〜3年とも11)。対照は、矯正のために抜去した虫歯の無い乳臼歯13本に口の外で同じ処置をし、37℃の水に24時間置いたもの(26試料)。期間ごとに別の歯を測っており、同じ歯を追跡したものではない
資金・利益相反
文部省(当時)の科学研究費補助金(No. 11470401)の一部助成。利益相反の記載は無い
PMID
10890717

①口の中で、象牙質への接着は弱っていく?

接着材のカタログや論文でよく見る「象牙質への接着強さ ◯◯MPa」。その多くは、接着して24時間ほどで測った値です。では、実際に口の中で何年か過ごした接着は、同じ強さを保っているのでしょうか。

これを、乳臼歯で確かめたのが、北海道大学の Hashimoto らが2000年に Journal of Dental Research に出した研究です。虫歯を治療してコンポジットレジンで充填した乳臼歯を、後継の永久歯が生えてくる時期に抜去し、接着強さを実験室で測りました。

結論を先に書きます。
・乳臼歯のII級窩洞に Scotchbond Multi-Purpose で接着してコンポジットレジンを充填し、口の中で1〜3年たってから抜去した乳臼歯(原著の表から筆者が数えると22本)の微小引張接着強さを、口の外で接着して24時間おいた対照(虫歯の無い乳臼歯13本・26試料)と比べた
・接着強さの平均は、対照 28.3 MPa、口の中1〜2年 15.2 MPa、2〜3年 9.1 MPa。3群の間に有意差があった(p<0.05)
・口の中で時間がたった試料の破断面では、レジンが入っていない脱灰象牙質の層で壊れた面積の割合が、対照より大きく見えた。コラーゲン線維が失われたと著者らが推測する像や、コンポジットレジンのフィラーが抜けた像もあった
・ただし、時期ごとに別の歯を測った研究で、対照は虫歯の無い歯・口の外、口の中の群は虫歯を治療した歯。接着材も1種類だけです

②なぜこの研究が必要だったか

著者らの序論によれば、当時の接着の研究の多くは、24時間ほどの短い期間で接着強さを測っていました。水中に長く置く実験では、接着強さが下がる報告が出ていました(All-Bond 2 と Amalgambond が水中6か月で低下、Photo Bond が水中3年で低下)。

その理由として考えられていたのが、ハイブリッド層の下に残る「レジンが入りきらずに、脱灰されたコラーゲン線維がむき出しのまま残る層」です。この層のコラーゲンが、長い時間のうちに加水分解で壊れて、接着強さが落ちるのではないか、という推測でした。

一方、サルの口の中で1年たった接着を調べた研究(Sano 1999)では、接着強さの低下は見られませんでしたが、破断面の形の変化は観察されていました。そして、ヒトの口の中で長く過ごした接着の強さと構造を調べた報告は、まだありませんでした。そこで、ヒトの口の中で1〜3年たった乳臼歯の接着を、微小引張試験と破断面の観察で調べたのが今回の研究です。

③何をどう比べたか

・口の中の群:北海道大学の小児歯科の外来患者の、象牙質まで達した虫歯のある乳臼歯。局所麻酔・ラバーダム防湿のもと、ダイヤモンドポイントで窩洞を形成し、う蝕検知液を目安に虫歯を除去して、咬合面の近心側・遠心側に、隣接面を含むII級窩洞(近遠心4〜5mm×頬舌2〜3mm×深さ2mm)を作った
・接着と充填:Scotchbond Multi-Purpose(3M)。10%マレイン酸のエッチャント15秒→水洗し、表面がしっとり見える程度に残す→プライマー10秒→ボンディング材を塗り10秒光照射。コンポジットレジン Z100 を2層に分けて各60秒光照射。すべて1人の術者が行った
・抜去と測定:1〜3年後、後継永久歯の萌出に合わせて同意を得て抜去(4℃の蒸留水に最長2週間保管)。実体顕微鏡で虫歯や辺縁の着色が無い歯を選んだ。接着面に垂直に切り、1本から1〜2切片を作って、窩底が平らで整った歯を試料にした。接着面積 1.0mm²の砂時計形に整え、毎分1.0mmで引っ張った(微小引張試験)
・口の中にあった期間:原著の表には1年0か月〜3年0か月の22本が並んでいる(本数は表から筆者が数えた)。1年0か月〜1年11か月の11本が「1〜2年」、2年0か月〜3年0か月の11本が「2〜3年」の群で、原著の図3aの試料数(各11)と合う
・対照:矯正のために同意を得て抜去した虫歯の無い乳臼歯13本に、口の外で同じ窩洞・同じ接着と充填をし、37℃の蒸留水に24時間置いて、1本から2切片(計26試料)を作って同じ試験をした
・破断面の観察:象牙質側の破断面を走査型電子顕微鏡で見て、壊れた場所を「レジン・ボンディング材」「ハイブリッド層」「脱灰象牙質の層(ハイブリッド層の下の、レジンが入っていない層)」「象牙質」の4つに分け、それぞれの面積の割合を測った

接着強さは一元配置分散分析と Fisher の PLSD 法で比べ、p<0.05 を有意としました。同じ歯を年ごとに測ったのではなく、期間ごとに別の歯を測った研究です。

④結果1:接着強さは、口の中で時間がたった群ほど低かった

0 10 20 30 微小引張接着強さの平均 (MPa) 28.3 15.2 9.1 対照 24時間(26試料) 口の中 1〜2年(11試料) 口の中 2〜3年(11試料) 乳臼歯の象牙質への接着(Scotchbond Multi-Purpose)。対照=虫歯の無い乳臼歯13本に口の外で充填し37℃の水に24時間(1本から2試料)。口の中=虫歯を治療した乳臼歯を後継永久歯の萌出時に抜去(原著の表から筆者が数えて22本・各期間11本、試料は各期間11)。標準偏差は順に11.3・4.4・5.1。原著の表と図3aから筆者が作図。3群の間に有意差(p<0.05)
図1:乳臼歯の象牙質への微小引張接着強さの平均(原著の本文・抄録の値と図3aから筆者が作図。括弧内は試料数)。対照は口の外で接着して37℃の水に24時間、口の中の2群は虫歯を治療した乳臼歯を1〜3年後に抜去したもの。接着材は Scotchbond Multi-Purpose の1種。

接着強さの平均±標準偏差は、対照(24時間)28.3±11.3 MPa、口の中1〜2年 15.2±4.4 MPa、2〜3年 9.1±5.1 MPaでした。著者らは、3群の間に有意差がある(p<0.05)と報告し、考察では「対照の接着強さは、ほかの2群より有意に高かった」と書いています。

2〜3年の群の平均は、対照の平均の約3分の1でした(筆者の計算:9.1÷28.3≒0.32)。ただし、これは別々の歯どうしの平均の比で、同じ歯の接着が3分の1に落ちたことを示す値ではありません。破断面から測った接着面積は平均0.94±0.17mm²(48試料)でした。

⑤結果2:破断面には、脱灰象牙質の層での破壊が多く見えた

表 対照と口の中で1〜3年たった試料の比較(乳臼歯・Scotchbond Multi-Purpose・微小引張試験) 対照(口の外・24時間) 口の中で1〜3年 歯の数 虫歯の無い乳臼歯13本 乳臼歯22本(原著の表から筆者が数えた) 試料の数 26試料(1本から2試料) 1〜2年 11試料・2〜3年 11試料 接着強さ 平均±SD 28.3±11.3 MPa 1〜2年 15.2±4.4・2〜3年 9.1±5.1 MPa 脱灰象牙質の層の割合 小さい 対照より大きく見えた(検定の記載なし) 露出したコラーゲン線維 線維がむき出しの像 線維が失われたと推測される像も(数試料) コンポジットレジン フィラーの脱落なし(図4bの1試料) フィラーが抜け、すき間ができた像(図2f) 脱灰象牙質の層の割合=破断面のうち、ハイブリッド層の下の、酸で脱灰されたのにレジンが入っていない層で壊れた面積 の割合。SD=標準偏差。破断面は走査型電子顕微鏡で観察。 接着強さは一元配置分散分析と Fisher の PLSD 法で3群の間に有意差(p<0.05)。破断面の割合は原著の図3aの描画と 本文の記述で、群の間の検定の記載は無い。 口の中の歯は虫歯を除去して充填し、後継永久歯の萌出時に抜去。対照は矯正のために抜去した虫歯の無い乳臼歯。原著の 本文・表・図2〜4から筆者が整理。
表:対照と口の中で1〜3年たった試料の比較(原著の本文・表・図2〜4から筆者が整理)。乳臼歯・Scotchbond Multi-Purpose・微小引張試験。破断面の割合は図の描画と本文の記述で、群の間の検定の記載は無い。

壊れた場所の面積の割合(原著の図3a)を見ると、口の中で時間がたった2群では、脱灰象牙質の層で壊れた割合が対照より大きく見えました。著者らは本文で「対照では、脱灰象牙質の層が破断面に占める割合が小さかった」と書いています。この割合の群の間の差について、検定の結果は示されていません。

例として示された1年1か月の試料(接着強さ 11.3 MPa)の破断面では、壊れた場所の割合はレジン・ボンディング材 8.2%、ハイブリッド層 20.7%、象牙質 37.0%、脱灰象牙質の層 34.1%でした(この1試料の値です)。

電子顕微鏡の像では、脱灰象牙質の層にレジンが入っていない、むき出しのコラーゲン線維が見えました。対照の脱灰象牙質の層も、これと似た像でした。さらに口の中の数試料では、象牙細管の側枝の穴が目立つ像があり、著者らはコラーゲン線維が失われた跡と推測しています。この像は、象牙質を次亜塩素酸ナトリウムで処理してコラーゲンを溶かした面(対照の歯で作った比較用の面)とよく似ていました。コンポジットレジンの破断面では、フィラーが抜け落ち、フィラーとマトリックスの間にすき間ができた像も見られました(図4bに示された対照の1試料には無かった)。

原著の図3bでは、対照のうち接着強さが高い試料ほど、レジンや象牙質の中で壊れた割合が大きく、10〜20 MPaの試料と30 MPaを超えた試料ではっきり違ったこと、また同じ10〜20 MPaの試料どうしで比べると、口の中の試料ではレジンで壊れた割合が対照より大きかったことが示されています。

⑥著者らの結論と考察

著者らは、ヒトの口の中で時間がたつと、レジンと象牙質の接着構造の劣化が起こると結論しています。

考察では、次の点を述べています。いずれも破断面の像と引用文献からの著者らの解釈で、分解そのものを直接測ったわけではありません。

・側枝の穴が目立つ像から、むき出しのコラーゲン線維は、白血球・唾液腺・プラークの細菌が出すタンパク分解酵素で分解された、と著者らは考え、「むき出しのコラーゲンは加水分解で壊れやすい」という仮説が確かめられたと書いています
・フィラーが抜けた像は、コンポジットレジンが吸水などで口の中で劣化したことを示す、と著者らは解釈しています
・口の中の群は虫歯を除去した歯で、対照は虫歯の無い歯です。著者らは、Scotchbond Multi-Purpose では正常な象牙質と虫歯に侵された象牙質の内側で接着強さが同程度だったという別の研究(Nakajima 1995)を引いて、象牙質の状態の違いは結果に影響していないと考察しています
・乳歯は永久歯よりハイブリッド層が厚く、脱灰象牙質の層ができやすいという別の研究があり、永久歯でも同じかどうかは、ヒトの口の中でさらに調べる必要がある
・そのうえで、脱灰象牙質の層をなくすことが、レジン修復を長持ちさせるために欠かせないと締めくくっています

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・接着して24時間の接着強さが、口の中で数年たった後の強さをそのまま表すとは限らない:この乳臼歯の研究では、口の中の2群の平均は対照より低かった
・虫歯や辺縁の着色が無い充填でも、接着強さは低いことがある:口の中の群は、そうした歯を選んで測った試料だった
・エッチングで脱灰した深さまで、レジンをしっかり染み込ませる:著者らは、レジンが入っていない脱灰象牙質の層をなくすことが長持ちに欠かせないと考えている(この研究は、手技の違いで成績が変わるかは比べていない)

ただし、この研究は乳臼歯・接着材1種(エッチャント・プライマー・ボンディング材を別々に塗る Scotchbond Multi-Purpose)での結果で、充填の脱落や二次う蝕などの臨床の成績は測っていません。いま使っている接着材や、永久歯の修復にそのまま当てはまるとは限らないので、ほかの長期の研究と合わせて判断するのが無難です。

ここだけ、冷静に補助線(1)時期ごとに別の歯を測った研究で、同じ歯の接着を追いかけたものではありません。試料の数も各期間11と少なめです。
(2)対照と口の中の群は、条件がいくつも違います。対照は虫歯の無い歯に口の外で接着して水中24時間、口の中の群は虫歯を除去した歯で、抜去後の保管(4℃の水に最長2週間)もあります。差のすべてを「口の中で過ごした時間」のせいとは言い切れません。
(3)口の中の歯は、虫歯や辺縁の着色が無いものを選んで測っています。何本の中から選んだかは書かれていません。
(4)乳臼歯・接着材は Scotchbond Multi-Purpose の1種・術者1人での結果です。永久歯やほかの接着材、充填の脱落率などの臨床の成績には、そのまま広げられません。
(5)破断面の割合の群の差には検定の記載が無く、コラーゲンの分解は像からの解釈です。
(6)研究費は文部省(当時)の科学研究費補助金の一部助成で、利益相反の記載はありません。
「口の中で接着は本当に弱るのか」を、それまで報告の無かったヒトの歯で数字にした研究として面白い一本です。いまの接着材での長期の研究と並べて読みたいところです。

今日のひとこと

乳臼歯の研究で、口の中で1〜3年たった接着の微小引張接着強さの平均(1〜2年 15.2 MPa・2〜3年 9.1 MPa)は、口の外で接着して24時間の対照(28.3 MPa)より低く、破断面ではレジンが入っていない脱灰象牙質の層で壊れた割合が大きく見えました。ただし期間ごとに別の歯を測った研究で、対照とは虫歯の有無なども違い、接着材は1種類、臨床の脱落率は測っていません。「接着して24時間の接着強さだけで、口の中での長持ちを判断しない。乳歯の結果を、そのまま永久歯やいまの接着材に広げない」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。

Hashimoto M, Ohno H, Kaga M, Endo K, Sano H, Oguchi H. In vivo degradation of resin-dentin bonds in humans over 1 to 3 years. J Dent Res. 2000;79(6):1385-1391. doi: 10.1177/00220345000790060601. PMID: 10890717
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。