1問1答 論文 保存修復

口の中で、脱灰した象牙質のコラーゲンは分解される?——完全に脱灰した牛の象牙質を17人の部分床義歯に4週間付けたin situ研究で、コラーゲンは試料により0〜40.3%(平均14.5%)減ったが、唾液・象牙質のMMPや唾液のカテプシンBの測定値とは相関しなかった(van Strijp 2003)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|実験室で完全に脱灰した牛の象牙質の薄片を、部分床義歯を使う17人の義歯に4週間付け(試料23個・ガーゼで覆ってプラークを溜めた)、コラーゲンの減り方と、唾液・象牙質の抽出液の MMP-1・MMP-2・MMP-9、唾液のカテプシンBとの関係を調べた in situ 研究(van Strijp・Jansen・DeGroot・ten Cate・Everts 2003・Caries Research)

根面う蝕では、脱灰した象牙質のコラーゲンが分解されて病変が進みます。その分解は、唾液などに含まれるヒト由来の酵素(MMP やカテプシン)の量で説明できるのか。van Strijp らは2003年、完全に脱灰した牛の象牙質を17人の部分床義歯に4週間付けて調べました。コラーゲンは試料によって0〜40.3%(平均14.5%・中央値13%)減り、口に入れなかった対照より有意に少なくなりました。唾液と象牙質には MMP の活性があり、唾液にはカテプシンBの活性もありましたが、これらの測定値とコラーゲンの減り方の間に相関は認められませんでした。ただし試料は牛の歯を実験室で脱灰したもので、17人・試料23個・4週間の研究です。

論文
Host-Derived Proteinases and Degradation of Dentine Collagen in situ
著者
A.J.P. van Strijp、D.C. Jansen、J. DeGroot、J.M. ten Cate、V. Everts(オランダ・ACTA〈アムステルダム〉、アムステルダム大学 Academic Medical Centre、TNO Gaubius Laboratory〈ライデン〉)
掲載
Caries Research 2003;37(1):58-65
種類
in situ 研究(ヒトの口の中に装置で試料を置く研究)。部分床義歯を昼夜使う17人(女性11人・男性6人、46.3〜79.8歳・中央値61歳)の義歯に、実験室で完全に脱灰した牛の中切歯の象牙質薄片(厚さ400µm)を付けた(6人は2個、計23個)。試料はテフロンの円盤に入れダクロンのガーゼで覆い(プラークを溜め、咀嚼の力から守るため)、磨かないよう指示し、フッ化物の入っていない歯磨剤を使用。4週後にコラーゲン量をヒドロキシプロリンから求め、口に入れなかった対照10個と比べた(対応のないt検定)。唾液(開始時・2週・4週)と象牙質の抽出液の MMP をザイモグラフィと蛍光基質で、唾液のカテプシンBを蛍光法で測り、コラーゲンの減り方との相関をスピアマンの順位相関で調べた
資金・利益相反
研究資金・利益相反の記載は無い
PMID
12566641

①口の中で、脱灰した象牙質のコラーゲンはどれくらい分解される?

根面う蝕は、象牙質の無機質が酸で溶けたあと、残った有機質(主にI型コラーゲン)が分解されて進みます。この分解を担う酵素として、細菌が出す酵素のほかに、唾液や歯肉溝滲出液(GCF)に含まれるヒト由来の酵素――MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)やカテプシン――が考えられてきました。

では、口の中に置いた脱灰象牙質のコラーゲンは実際にどれくらい減るのか。そして、その減り方は唾液や象牙質に含まれる酵素の量で説明できるのか。これを、ヒトの口の中に装置で試料を置く in situ(イン・サイチュ)研究で調べたのが、オランダ・アムステルダムの ACTA の van Strijp らが2003年に Caries Research に出した論文です。

結論を先に書きます。
・実験室で完全に脱灰した牛の象牙質を、17人の部分床義歯に4週間付けた(試料23個。プラークが付くようガーゼで覆った)
・コラーゲンの減り方は試料によって0〜40.3%(平均14.5%・中央値13%)とばらつき、5個は減っていなかった。口に入れた試料のコラーゲン量の平均は、口に入れなかった対照より有意に少なかった(2.49 mg 対 2.87 mg/試料、p=0.003)
・唾液と象牙質の抽出液には MMP-1・MMP-2・MMP-9 の活性があり、唾液にはカテプシンBの活性もあった
・しかし、これらの酵素の測定値と、コラーゲンの減り方との間に相関は認められなかった

②なぜこの研究が必要だったか

著者らは序論で、高齢になっても歯が残るようになり、根面う蝕はこれから増える問題だと書いています。根面う蝕は、脱灰に続いてコラーゲンの基質が分解されて進み、この分解が窩洞ができる前提になります。

細菌の酵素については、う蝕象牙質から分解酵素を出す菌は見つかるものの、象牙質のコラーゲンを直接分解しているかははっきりしない、と著者らは自分たちの過去の研究を引いています。一方、ヒト由来の MMP は歯垢・GCF・唾液に存在し、う蝕象牙質からも見つかっていました。システインプロテアーゼのカテプシンは、弱い酸性(pH 5.0〜6.5)でも働き、I型コラーゲンを分解できるとされます。

そこで著者らは「ヒト由来の MMP とカテプシンが、象牙質の基質の分解に関わっている」という仮説を立て、口の中に置いた脱灰象牙質で、酵素の存在・活性とコラーゲンの減り方の関係を調べました。

③何をどう調べたか

・参加者:部分床義歯を昼も夜も使っている17人(女性11人・男性6人、46.3〜79.8歳・中央値61歳)。6人は義歯に試料を2個付けられたので、試料は計23個
・試料:屠畜場で集めた牛(4歳以上)の中切歯から、唇側の象牙質を厚さ400µm(表面積28.2mm²)の薄片に切り出し、0.1mol/Lの酢酸(pH 4.5)で9日間かけて完全に脱灰した
・付け方:試料をテフロンの円盤に入れ、ダクロンのガーゼで覆って義歯に付けた(プラークが溜まりやすくし、咀嚼の力から守るため)。試料は磨かないよう指示し、開始1週間前から期間中はフッ化物の入っていない歯磨剤を使ってもらった
・唾液:開始時・2週・4週に、刺激しない唾液を集めた(計51検体)
・4週後:試料を外して酵素を抽出し、コラーゲン量をヒドロキシプロリンの量から求めた(7.98倍してコラーゲン量に換算)。口に入れなかった対照の試料10個も同じように測った
・酵素:ゼラチンを分解する酵素をザイモグラフィ(電気泳動で酵素のバンドを見る方法)で検出し、MMP用の蛍光基質で MMP-1 の活性と、主に MMP-2・MMP-9 による活性(MMP-2/MMP-9)を測った。唾液ではカテプシンBの活性も測った
・統計:コラーゲン量は対照と対応のないt検定で比べ、酵素とコラーゲンの減り方の関係はスピアマンの順位相関で調べた。唾液の解析では、試料を2個付けた人はその平均の減り方を使った

④結果1:コラーゲンは平均14.5%減ったが、試料によって0〜40.3%とばらついた

0 1 mg 2 mg 3 mg コラーゲン量の平均(mg/試料) 2.87 mg 2.49 mg 口に入れなかった対照(10個) 義歯に4週間付けた試料(23個) 平均(標準偏差 0.25・0.39)。対応のないt検定 p=0.003。完全に脱灰した牛の象牙質
図1:試料1個あたりのコラーゲン量の平均(原著の結果の本文の値から筆者が作図)。口に入れなかった対照10個と、部分床義歯に4週間付けた試料23個。いずれも実験室で完全に脱灰した牛の象牙質。

口に入れなかった対照の試料(10個)のコラーゲン量は平均2.87 mg(標準偏差0.25)でした。4週間口の中に置いた試料(23個)は1.71〜3.20 mgで、平均2.49 mg(標準偏差0.39)。対照より統計的に有意に少なくなっていました(対応のないt検定、p=0.003)。

図2 義歯に4週間付けた試料23個のコラーゲンの減り方(重量%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 最小 0% (5個は減っていない) 中央値 13% 平均 14.5% 最大 40.3% 原著の結果の本文の値(範囲0〜40.3%・平均14.5%・中央値13%・減らなかった試料5個)。個々の試料の値の一覧は本文に無い。 部分床義歯の17人・試料23個・完全に脱灰した牛の象牙質。
図2:試料23個のコラーゲンの減り方(重量%)の範囲・平均・中央値(原著の結果の本文の値から筆者が作図)。個々の試料の値は本文に一覧が無いため、範囲と代表値だけを示した。

ただし、減り方は試料によって大きく違いました。0〜40.3%の幅があり、平均14.5%・中央値13%。5個の試料は減っていませんでした。同じ4週間・同じ付け方でも、人や試料によって分解の進み方がかなり違った、ということです。

⑤結果2:酵素は見つかったが、減り方とは相関しなかった

唾液では、ザイモグラフィで全検体にゼラチン分解活性が見られ、不活性な前駆体の pro-MMP-2 は51検体中50、pro-MMP-9 は42で見られました。蛍光基質で測った活性は、MMP-1 が48検体(1.5〜101.1 RFU/s)、MMP-2/MMP-9 が48検体(1.7〜141.1 RFU/s)で検出されました。カテプシンBの活性は、参加者ごとの平均で4.8〜42.2(任意単位/分)でした。

象牙質の抽出液では、23個中1個を除いてザイモグラフィでゼラチン分解酵素が見られ(pro-MMP-2 は7個、pro-MMP-9 は8個)、MMP-1 の活性は全23個(3.5〜295.0 RFU/s)、MMP-2/MMP-9 の活性は15個(0.2〜13.7 RFU/s)で検出されました。

表 酵素の測定値とコラーゲンの減り方のスピアマンの順位相関(原著の本文で rs と p が書かれた11項目。 筆者が数えた) 試料 測ったもの rs p 唾液 ザイモグラフィのバンドの濃さ(全体) 0.12 0.646 唾液 同 MMP-2 のバンド 0.007 0.978 唾液 同 MMP-9 のバンド 0.130 0.619 唾液 MMP-1 の活性(蛍光基質) −0.312 0.223 唾液 MMP-2/MMP-9 の活性(蛍光基質) −0.10 0.718 唾液 カテプシンBの活性 0.093 0.18 象牙質の抽出液 ザイモグラフィのバンドの濃さ(全体) 0.104 0.636 象牙質の抽出液 同 MMP-2 のバンド 0.229 0.292 象牙質の抽出液 同 MMP-9 のバンド 0.204 0.351 象牙質の抽出液 MMP-1 の活性(蛍光基質) 0.09 0.0683 象牙質の抽出液 MMP-2/MMP-9 の活性(蛍光基質) 0.095 0.223 rs=スピアマンの順位相関係数。原著は p<0.05 を有意とし、どの項目も相関を認めなかった。値は原著の表記のまま。 象牙質では、分解の程度で量を補正したザイモグラフィでも相関なし(数値の記載なし)。 唾液の解析では、試料を2個付けた人はその平均の減り方を使い、象牙質の抽出液は試料ごとの減り方を使った。 部分床義歯の17人・試料23個・4週間・完全に脱灰した牛の象牙質。相関を検出しなかったことは関係が無いことの証明で はない。
表:酵素の測定値と、コラーゲンの減り方とのスピアマンの順位相関(原著の結果の本文で rs と p が書かれた11項目。筆者が数えた)。どれも相関は認められなかった。

そして、唾液でも象牙質の抽出液でも、酵素のバンドの濃さ・活性と、コラーゲンの減り方の間に相関は認められませんでした(表)。象牙質の抽出液では、試料の分解の程度に合わせて泳動する量を補正したザイモグラフィも追加で行いましたが、やはり相関は認められなかったと書かれています(数値の記載なし)。唾液の量と、MMP-2・MMP-9 の有無やコラーゲンの減り方の間にも相関は無かったと書かれています。

一方、唾液の中では、参加者ごとの平均でカテプシンBの活性と MMP-1(rs=0.740、p=0.001)・MMP-2/MMP-9(rs=0.798、p=0.0001)の活性が有意に相関していました。酵素どうしは連れ立って多かったり少なかったりしたが、それがコラーゲンの減り方には結びついていなかった、という形です。

⑥著者らの結論と考察

著者らは、MMP-1・MMP-2/MMP-9・カテプシンBの活性と、口の中での象牙質コラーゲンの分解との間に、直接の相関は無かったと結論しています。そして、唾液の MMP の活性を、う蝕の過程での象牙質コラーゲン分解の目安(マーカー)に使うのは適さない、と述べています。

相関が出なかった理由として、考察では次の可能性を挙げています。いずれも著者らの解釈で、この研究で確かめたものではありません。

・プラークの細菌の酵素や、酸・毒素などが分解に関わった可能性は否定できない(細菌は調べていない)
・酵素の活性は時間とともに変わるので、測った時点の値が4週間の分解を表していないかもしれない
・ザイモグラフィには、コラーゲンを分解できない前駆体や、阻害因子(TIMP)と結びついた酵素も写る
・象牙質から抽出した MMP が、象牙質にもともとあったものか、唾液から吸着したものかは区別できなかった
・口腔清掃の状態は期間中に記録していない(開始時、全員にプロービング時の出血と歯石があったが、歯周ポケットは無かった)

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・脱灰した象牙質のコラーゲンは、口の中で数週間のうちに減り得る:プラークが溜まる条件の4週間で、平均14.5%(試料により0〜40.3%)減った
・唾液の酵素(MMP・カテプシンB)の値から、象牙質がどれだけ分解されるかは読めなかった:この研究では相関が認められず、著者らも目安には適さないとしている
・何が分解を起こしたのか(細菌か、ヒト由来の酵素か)は、この研究では決められていない

「唾液の酵素を測れば根面う蝕の進み方が分かる」という段階ではない、と受け取るのが無難です。修復や接着の成績を調べた研究ではないので、そちらへ話を広げずに読みたい一本です。

ここだけ、冷静に補助線(1)試料は実験室で完全に脱灰した牛の象牙質です。ヒトの根面う蝕の病変そのものではありません。
(2)17人・試料23個・4週間で、ガーゼで覆ってプラークを溜めた条件です。口腔清掃の状態は期間中に記録していません。
(3)相関を検出しなかったことは、「関係が無い」ことの証明ではありません。例数が少なく、酵素の活性は時間で変わり得ます。
(4)象牙質の中の MMP が象牙質由来か唾液由来かは区別できず、細菌の関与も調べていません。
(5)研究資金・利益相反の記載はありません。
「口の中で、脱灰象牙質のコラーゲンは数週間で減り得る。でも唾液の酵素ではその量を読めない」という、根面う蝕の仕組みを考えるうえで面白い結果です。分解の担い手を突き止める続報と合わせて読みたいところです。

今日のひとこと

完全に脱灰した牛の象牙質を17人の部分床義歯に4週間付けると、コラーゲンは試料により0〜40.3%(平均14.5%)減りましたが、唾液・象牙質の MMP や唾液のカテプシンBの測定値とは相関しませんでした。著者らは、唾液の MMP の活性は象牙質コラーゲン分解の目安に適さないとしています。分解の担い手(細菌かヒト由来の酵素か)はこの研究では決められていないので、「脱灰象牙質のコラーゲンは口の中で数週間で減り得る。ただし唾液の酵素の値からその量は読めない」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。

van Strijp AJP, Jansen DC, DeGroot J, ten Cate JM, Everts V. Host-derived proteinases and degradation of dentine collagen in situ. Caries Res. 2003;37(1):58-65. doi: 10.1159/000068223. PMID: 12566641
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。