カリオロジー|CPP-ACP・再石灰化・ホワイトスポット
MIペーストを勧めるとき、心のどこかに引っかかりがあります。「フッ化物入り歯磨剤をきちんと使っている人に、これを足す意味はあるのだろうか」。2014年のこのシステマティックレビューは、3か月以上のヒト試験8件・のべ2,367人を集めて、その問いに答えました。結論は歯切れがよくありません。プラセボと比べれば確かに効く。しかしフッ化物より優れているとは言えず、フッ化物に足す価値は不明である——ただし、この「不明」は「効かない」とは違います。
①問いは「効くか」ではなく「足す価値があるか」
CPP-ACPが再石灰化を促すこと自体は、実験室のデータで繰り返し示されてきました。牛乳のカゼイン由来のペプチドが、非晶質リン酸カルシウムを安定な形で歯面に運ぶ——理屈も通っています。
ですが臨床の問いは、そこから一歩先にあります。フッ化物入り歯磨剤を毎日使っている人に、これを追加する意味はあるのか。フッ化物の再石灰化は唾液由来のカルシウムとリン酸に依存する——だからそこを補ってやれば上乗せになるはずだ、という仮説が正しいのかどうか。
②3か月以上のヒト試験だけを集めた
このレビューの設計で重要なのは、3か月を超えるin vivo(ヒト)の試験に限定したことです。実験室の研究も、短期の試験も、あえて除きました。
- 738件をスクリーニング → 83件を精読 → 8件を採用
- 内訳:無作為化比較試験6件・比較臨床試験2件
- 参加者:のべ2,367人。多くは11.5〜18歳(1試験のみ3.5〜4.5歳の就学前児)
- 追跡:3〜24か月。臨床診査で評価した試験は1年超、蛍光測定など機器で評価した試験は6か月未満という傾向
製品は「GCムース」「MIペースト」「MIペーストプラス」「Topacal C-5」。CPP-ACP濃度は5〜10% w/wで、MIペーストプラスは900ppmのフッ化ナトリウムを含む組み合わせ製品です。
③プラセボが相手なら、はっきり効いた
数字が最も分かりやすいのが、この試験です。12〜15歳を24か月追い、2% w/w のCPP-ACPペーストを1日2回使った群、0.76% w/w のモノフルオロリン酸ナトリウム(SMFP)歯磨剤の群、プラセボの群を比べました。
- CPP-ACP:34人(72.3%)が新しいう蝕なし
- SMFP:25人(53.2%)
- プラセボ:14人(31.1%)
ただし、この試験の主要アウトカムである平均DDS(新生う蝕面数)は CPP-ACP 0.22±0.44/SMFP 0.24±1.03/プラセボ 0.62±1.92——CPP-ACPとフッ化物歯磨剤のあいだにはほとんど差がありません。差がついているのはプラセボとのあいだです。原著自身も考察で、陽性所見を報告したこの試験について「プラセボという陰性対照とだけ比較しており、フッ化物歯磨剤のような陽性対照とは比べていない」と指摘しています。
もう1つ、2年間のガム試験(Morgan 2008、892人 vs 857人)も見ておきます。こちらは両群ともフッ化物入り歯磨剤を使っており、厳密には次章の「上乗せ」の話です。3% w/w のCPP-ACPガムを1日3回+フッ化物入り歯磨剤と、対照ガム+フッ化物入り歯磨剤を比べたところ、レビューの表には面単位でオッズ比0.82(95%CI 0.74–0.91)、個人単位で0.80(95%CI 0.65–0.97)と記載され、本文は「プラセボガムと比べて隣接面う蝕の回復(regression)が有意に促進された」と述べています。
④フッ化物に足すと、結果が割れる
ところが、話はここから変わります。矯正治療にともなうホワイトスポットを見た5つの試験のうち、3つで、フッ化物入り歯磨剤にCPP-ACPを上乗せする臨床的な利益は見出されませんでした。
最も印象的なのが就学前児の試験です(これは矯正の5試験には含まれず、自然発生のう蝕を見た別枠の試験です)。GCムース+フッ化物入り歯磨剤とプラセボペースト+フッ化物入り歯磨剤を12か月比べたところ、オッズ比1.002(95%CI 0.86–1.17)。差が「ほぼ無い」ではなく、ほぼ完全に1.0でした。
矯正後の白斑を見た別の試験でも、すべての白斑でオッズ比1.67(95%CI 0.81–3.45)——信頼区間が1をまたいでいます。ただし重症度2〜3の白斑に限ると2.33(95%CI 1.06–5.14)で、信頼区間が1をまたがず有意でした。
そして利益ありとした2試験は、対照群の歯磨剤にフッ化物が含まれていたかどうかが明記されていませんでした。ここを著者らは見逃していません。フッ化物のない対照と比べたのなら、それは「CPP-ACP vs 何もなし」の比較であって、「上乗せの価値」の証明にはならないからです。
⑤明日の臨床へ
- フッ化物が使えない場面の代替として位置づけるのが、いまのところ最も無理がない
- 矯正装置周囲の白斑には、まずフッ化物の徹底が先。上乗せはその後の選択肢
- 試験で使われたCPP-ACP濃度は2〜10% w/wと幅がある(製品としてはTopacal C-5が5%、GCムース/MIペースト/MIペーストプラスが10%)。同じ「CPP-ACP配合」でも中身は違います
- 副作用を評価した4試験では、重篤な副作用の報告はありません(悪心・頭痛・下痢の頻度に対照群との差なし。乳歯への歯石沈着の増加も確認されず)。ただし残る4試験は副作用の情報を報告していません
- 患者さんの自己負担と手間に見合うか——ここは一緒に考えるところです
「上乗せの価値が不明である」ことは、「効かない」ことと同じではありません。質の高い試験がまだ足りない、というのが著者らの結論です。
今日のひとこと
CPP-ACPは効く。ただし「フッ化物の上に足す価値」はまだ証明されていない。738件をふるいにかけ、8件(無作為化比較試験6件+比較臨床試験2件)・のべ2,367人が採用されました。追跡は3〜24か月。プラセボとの比較では明確です——12〜15歳を2年追った試験で、新しいう蝕ができなかった子の割合はCPP-ACP 72.3%、フッ化物入り歯磨剤53.2%、プラセボ31.1%——ただし同じ試験の主要アウトカムである平均DDSは0.22±0.44/0.24±1.03/0.62±1.92で、CPP-ACPとフッ化物歯磨剤はほぼ同値です。2年間のガム試験(両群ともフッ化物入り歯磨剤を使用=上乗せ試験)でも、原著本文はプラセボガムと比べて隣接面う蝕の回復(regression)が有意に促進されたと述べています(原著の表は「進行なし・面単位」にオッズ比0.82、95%CI 0.74–0.91、「進行・個人単位」に0.80、95%CI 0.65–0.97を載せています)。ところがフッ化物に上乗せしたときの結果は割れます。矯正治療後の白斑を見た5試験のうち3試験で上乗せの利益なし。就学前児ではオッズ比1.002(95%CI 0.86–1.17)——ほぼ完全に差がありませんでした。利益ありとした2試験は、対照群の歯磨剤にフッ化物が入っていたかどうかが不明です。副作用を評価した4試験では重篤な報告はなく、残る4試験は副作用の情報を報告していません。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


