1問1答 論文 虫歯

砂糖は1日何グラムまでか——WHOの「10%」はここから出た

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カリオロジー|遊離糖・WHOガイドライン・システマティックレビュー

「甘いものを控えましょう」。この言葉には数字がありません。だから伝わらない。WHOがガイドラインを改訂するために依頼した2013年のこのシステマティックレビューは、5,990件の検索結果から55件を選び抜いて、その数字を出しました。遊離糖はエネルギーの10%未満——成人でおよそ1日55g1〜3歳ならおよそ32g。そして「さらに5%未満へ」という、より厳しい線の根拠になったのは、戦中戦後の日本の3つの調査でした。

論文
Effect on Caries of Restricting Sugars Intake: Systematic Review to Inform WHO Guidelines
著者
Moynihan PJ, Kelly SAM(ニューカッスル大学 WHO協力センター/ケンブリッジ大学)
掲載
Journal of Dental Research 2014;93(1):8-18(2013年12月オンライン公開)
種類
システマティックレビュー。PRISMA声明に準拠し、GRADEで根拠の質を評価
主題
遊離糖の摂取量とう蝕の関連、および10%E・5%Eへの制限がう蝕に及ぼす影響

「控えましょう」に、数字が無かった

砂糖がう蝕の最大の食事要因である——これは長く合意されてきました。ところが原著の冒頭にはこうあります。「しかし、推奨はまだ、根拠のシステマティックレビューを経て作られてはいない」

合意はあった。専門家の報告書もあった。けれど「1日何グラムまで」という数量目標は、系統的な根拠の吟味を通っていなかったのです。WHOがガイドラインを改訂するにあたって、まずその作業をやろう——それがこのレビューでした。

先に結論: 答えは「遊離糖はエネルギーの10%未満」成人で1日およそ55g1〜3歳ならおよそ32gです。ここでいう遊離糖とは、製造や調理で加えられた糖に、蜂蜜・シロップ・果汁の糖を加えたものを指します。

5,990件から、55件に絞った

検索先はMEDLINE、EMBASE、Cochraneに加えて、中南米(LILACS)、中国(CNKI・万方)、南アフリカ保健省のデータベースまで含まれています。英語圏だけで結論を出さない設計です。

選ばれた55件の内訳は、介入研究3件・コホート8件・集団研究20件・横断研究24件。データの報告形式がばらばらだったため、本格的なメタ解析はできませんでした。それでも方向は揃っています。

  • 小児の50件中42件が、少なくとも1つの正の関連を報告
  • 成人の5件すべてが、正の関連を報告
  • 集団研究20件のうち18件が正、1件が中立、1件が負

統合できた分の効果量は、DMFTの標準化平均差0.82(95%CI 0.67–0.97)。う蝕有病率で見るとリスク比7.15(95%CI 2.82–8.14)でした。

10%の線で、う蝕は変わった

0 1.5 3 4.5 う蝕経験歯数(dmft/DMFT) 0.5 1.4 1.9 3.9 1.1 2.7 DMFT(永久歯) dmft/DMFT(原著表記) dmft(乳歯) Ruottinen et al. 2004(フィンランド・生後7か月〜10歳)の同一コホートを3つの指標で見たもの。原著の曝露指標はショ糖。濃い棒=10%E未満/淡い棒=10%E以上
Ruottinen et al. 2004(フィンランド・生後7か月〜10歳)で、遊離糖10%E未満と10%E以上を比べたう蝕経験歯数(同一コホートを3つの指標で見たもの。原著の曝露指標はショ糖)

8件のコホート研究のうち5件で、10%E未満と10%E以上を直接比べることができました。5件すべてで、10%E以上の群のほうがう蝕が多いという一貫した結果です。

そして重要なのは、これら5件すべてがフッ化物の曝露を考慮していたこと。「フッ化物が普及したから砂糖の影響は消えた」という見方に対する、直接の反論になっています。

集団研究のデータも同じ方向を指します。比較が可能だった10件のうち9件で、砂糖の供給量が年15〜20kg/人未満(1日40〜55g=10%E未満)のとき、DMFTが3未満にとどまっていました。

10%を、グラムに直す

0 20g 40g 60g 1日あたりの遊離糖(g) 32g 44g 50g 55g 1〜3歳 4〜6歳 7〜10歳 成人・年長児 英国の推定平均必要量(1991年)をもとにした概算。角砂糖1個は約3〜4g
年齢別・10%Eに相当する1日あたりの遊離糖量(英国の推定平均必要量にもとづく概算)

患者さんに渡せる形にすると、こうなります。

  • 1〜3歳:約32g
  • 4〜6歳:約44g
  • 7〜10歳:約50g
  • 成人・年長児:約55g

角砂糖1個が約3〜4g。成人で15個前後、幼児なら9個前後が上限ということになります。

伝え方のコツ: 「減らしましょう」ではなく「いま何グラム摂っているか、一緒に数えてみましょう」から入る。数字が出てはじめて、この目安が意味を持ちます。

5%の線は、日本のデータから出ている

「さらに5%未満へ」——のちにWHOがそう付け加えることになる線の根拠は、実は非常に限られています(このレビュー自体は推奨を出していません)。5%E相当(年10kg/人未満)を検証できたのは、日本の3つの全国調査だけでした。

  • Takahashi 1959(東京):戦前の砂糖供給は年15kg/人、1946年には年0.2kg(0.1%E)まで落ちた。0.2kgから5〜7.5kgのあいだで、う蝕増加量と対数直線の関係(r=0.8)
  • Koike 1959(京都):年15kgから10kg未満へ減少。下顎第一大臼歯でr=0.8、上顎でr=0.6
  • Okuya 1960(東京):第二大臼歯でr=0.7。う蝕は減ったが、ゼロにはならなかった

戦争という、誰も望まない自然実験が残したデータです。GRADEによる根拠の質は「非常に低い」——1人あたりの供給量を使った生態学的研究であることが、そのまま評価に反映されました。方向は見えている。しかし数字の確からしさは、10%の線とは大きく違うということです。

明日の臨床へ

  • 成人55g、幼児32gという数字を、手元に置いておく
  • 年齢が下がるほど許容量も下がる——体格が小さければエネルギー必要量も小さいので当然ですが、見落とされがちです
  • フッ化物を使っていても、糖の量の話は必要であると伝えられる根拠がここにあります
  • う蝕は生涯にわたって蓄積する。原著は「生涯を通じてう蝕リスクを最小化することに関連する知見」と結んでいます
ここだけ、冷静に補助線データのばらつきが大きく、本格的なメタ解析はできませんでした。10%Eの根拠はGRADEで「中等度」、5%Eは「非常に低い」——著者ら自身がその差を明示しています。5%の根拠となった3件はいずれも1人あたり供給量を用いた生態学的研究で、個人の摂取量を測ったものではありません。原著は別に、年10kg未満と10〜20kgを比較できた世界規模の生態学的研究が3件あり、そのうち低糖側でDMFTが低かったのは1件だけだったとも報告しています。また高フッ化物環境の現代へそのまま外挿するときは、原著も慎重です。それでも「10%未満」という線が、世界のガイドラインを動かした——数字を出すという仕事の重さを感じる1本です。

今日のひとこと

砂糖とう蝕の関係は、フッ化物の時代になっても消えていなかった。5,990件の検索結果から選ばれた55件のうち、小児の50件中42件、成人の5件すべてが、少なくとも1つの正の関連を報告しています。統合できた分の効果量はDMFTの標準化平均差0.82(95%CI 0.67–0.97)、う蝕有病率で見たリスク比7.15(95%CI 2.82–8.14)遊離糖を10%E未満に抑えるとう蝕が少ないという根拠はGRADEで「中等度」と判定されました。10%Eを1日のグラム数に直すと——1〜3歳で約32g、4〜6歳で約44g、7〜10歳で約50g、成人で約55g。角砂糖1個が3〜4gですから、成人でも15個前後です。一方5%E未満の線(のちのWHOの条件付き推奨にあたる部分)は有意な関係が見えたものの、根拠となったのは日本の3つの全国調査だけで、質は「非常に低い」と判定されています。比較可能な5つのコホート研究すべてが、フッ化物曝露を考慮したうえで同じ向きの結果を出した——ここがこのレビューのいちばん重い部分です。

出典:Moynihan PJ, Kelly SAM. Effect on caries of restricting sugars intake: systematic review to inform WHO guidelines. J Dent Res 2014;93(1):8-18. PMID: 24323509
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。