カリオロジー|遊離糖・WHOガイドライン・システマティックレビュー
「甘いものを控えましょう」。この言葉には数字がありません。だから伝わらない。WHOがガイドラインを改訂するために依頼した2013年のこのシステマティックレビューは、5,990件の検索結果から55件を選び抜いて、その数字を出しました。遊離糖はエネルギーの10%未満——成人でおよそ1日55g、1〜3歳ならおよそ32g。そして「さらに5%未満へ」という、より厳しい線の根拠になったのは、戦中戦後の日本の3つの調査でした。
①「控えましょう」に、数字が無かった
砂糖がう蝕の最大の食事要因である——これは長く合意されてきました。ところが原著の冒頭にはこうあります。「しかし、推奨はまだ、根拠のシステマティックレビューを経て作られてはいない」。
合意はあった。専門家の報告書もあった。けれど「1日何グラムまで」という数量目標は、系統的な根拠の吟味を通っていなかったのです。WHOがガイドラインを改訂するにあたって、まずその作業をやろう——それがこのレビューでした。
②5,990件から、55件に絞った
検索先はMEDLINE、EMBASE、Cochraneに加えて、中南米(LILACS)、中国(CNKI・万方)、南アフリカ保健省のデータベースまで含まれています。英語圏だけで結論を出さない設計です。
選ばれた55件の内訳は、介入研究3件・コホート8件・集団研究20件・横断研究24件。データの報告形式がばらばらだったため、本格的なメタ解析はできませんでした。それでも方向は揃っています。
- 小児の50件中42件が、少なくとも1つの正の関連を報告
- 成人の5件すべてが、正の関連を報告
- 集団研究20件のうち18件が正、1件が中立、1件が負
統合できた分の効果量は、DMFTの標準化平均差0.82(95%CI 0.67–0.97)。う蝕有病率で見るとリスク比7.15(95%CI 2.82–8.14)でした。
③10%の線で、う蝕は変わった
8件のコホート研究のうち5件で、10%E未満と10%E以上を直接比べることができました。5件すべてで、10%E以上の群のほうがう蝕が多いという一貫した結果です。
そして重要なのは、これら5件すべてがフッ化物の曝露を考慮していたこと。「フッ化物が普及したから砂糖の影響は消えた」という見方に対する、直接の反論になっています。
集団研究のデータも同じ方向を指します。比較が可能だった10件のうち9件で、砂糖の供給量が年15〜20kg/人未満(1日40〜55g=10%E未満)のとき、DMFTが3未満にとどまっていました。
④10%を、グラムに直す
患者さんに渡せる形にすると、こうなります。
- 1〜3歳:約32g
- 4〜6歳:約44g
- 7〜10歳:約50g
- 成人・年長児:約55g
角砂糖1個が約3〜4g。成人で15個前後、幼児なら9個前後が上限ということになります。
⑤5%の線は、日本のデータから出ている
「さらに5%未満へ」——のちにWHOがそう付け加えることになる線の根拠は、実は非常に限られています(このレビュー自体は推奨を出していません)。5%E相当(年10kg/人未満)を検証できたのは、日本の3つの全国調査だけでした。
- Takahashi 1959(東京):戦前の砂糖供給は年15kg/人、1946年には年0.2kg(0.1%E)まで落ちた。0.2kgから5〜7.5kgのあいだで、う蝕増加量と対数直線の関係(r=0.8)
- Koike 1959(京都):年15kgから10kg未満へ減少。下顎第一大臼歯でr=0.8、上顎でr=0.6
- Okuya 1960(東京):第二大臼歯でr=0.7。う蝕は減ったが、ゼロにはならなかった
戦争という、誰も望まない自然実験が残したデータです。GRADEによる根拠の質は「非常に低い」——1人あたりの供給量を使った生態学的研究であることが、そのまま評価に反映されました。方向は見えている。しかし数字の確からしさは、10%の線とは大きく違うということです。
⑥明日の臨床へ
- 成人55g、幼児32gという数字を、手元に置いておく
- 年齢が下がるほど許容量も下がる——体格が小さければエネルギー必要量も小さいので当然ですが、見落とされがちです
- フッ化物を使っていても、糖の量の話は必要であると伝えられる根拠がここにあります
- う蝕は生涯にわたって蓄積する。原著は「生涯を通じてう蝕リスクを最小化することに関連する知見」と結んでいます
今日のひとこと
砂糖とう蝕の関係は、フッ化物の時代になっても消えていなかった。5,990件の検索結果から選ばれた55件のうち、小児の50件中42件、成人の5件すべてが、少なくとも1つの正の関連を報告しています。統合できた分の効果量はDMFTの標準化平均差0.82(95%CI 0.67–0.97)、う蝕有病率で見たリスク比7.15(95%CI 2.82–8.14)。遊離糖を10%E未満に抑えるとう蝕が少ないという根拠はGRADEで「中等度」と判定されました。10%Eを1日のグラム数に直すと——1〜3歳で約32g、4〜6歳で約44g、7〜10歳で約50g、成人で約55g。角砂糖1個が3〜4gですから、成人でも15個前後です。一方5%E未満の線(のちのWHOの条件付き推奨にあたる部分)は有意な関係が見えたものの、根拠となったのは日本の3つの全国調査だけで、質は「非常に低い」と判定されています。比較可能な5つのコホート研究すべてが、フッ化物曝露を考慮したうえで同じ向きの結果を出した——ここがこのレビューのいちばん重い部分です。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


