1問1答 論文 エンド

NiTiロータリーで安全に形成できた。ただし根管壁の約4〜5割には器具が触れていなかった——上顎大臼歯11本をマイクロCTで形成前後に撮って分かったこと(2003年)

1問1答 論文 エンド

エンド|ニッケルチタン製ロータリーファイルは根管形成を予測可能にした。では実際に、根管壁のどれだけを削れているのか。上顎大臼歯を形成前後にマイクロCTで撮影して三次元で比べた研究(Hübscher 2003・International Endodontic Journal/チューリッヒ大学)

ニッケルチタン製ロータリーファイルは、レッジや穿孔を避けながら効率よく形成できる——そう言われてきました。しかしそれまでの評価は透明ブロックや抜去歯の二次元の観察が中心で、根管の立体的な形がどう変わったかは分かっていませんでした。著者らは抜去した上顎3根大臼歯11本を、マイクロCT(分解能34µm)形成の前後にスキャンし、同じ根管を重ね合わせて体積・表面積・直径・トランスポーテーション・器具が触れなかった表面を三次元で比べました。使ったのはFlexMasterで、近心頬側と遠心頬側は#40、口蓋根管は#45まで形成。結果、アピカルジップ・穿孔・レッジといった明らかな手技エラーは検出されずトランスポーテーション(重心シフト)は歯冠側から根尖まで0.008〜0.287mmと小さく、しかも根管の型に左右されませんでした。一方で、形成後も器具が触れていなかった表面は近心頬側47.4%・遠心頬側37.8%・口蓋39.3%。そして「広い」根管では52%、「狭い」根管では32%と、もともと広い根管ほど触れ残しが多い(P<0.05)という結果でした。

論文
Root-canal preparation with FlexMaster: canal shapes analysed by micro-computed tomography
著者
W. Hübscher、F. Barbakow、O. A. Peters(チューリッヒ大学 予防歯科・歯周病学・カリオロジー講座 歯内療法部門・スイス/カリフォルニア大学サンフランシスコ校 歯内療法部門・米国)
掲載
International Endodontic Journal 2003;36(11):740-747
種類
抜去歯を使った実験室研究(in vitro)。マイクロCTによる形成前後の三次元比較で、各根管が自分自身の対照になる設計。対象=ヒト抜去上顎3根大臼歯11本(0.1%チモール保存)。根面を根尖からセメント-エナメル境まで封鎖し、SEM用スタブに固定。根尖の解剖を変えないよう、パテンシーの確認をせずにスキャンした。第二近心頬側根管(MB2)は解剖が多様すぎるとして探索・形成せず(ただしマイクロCTでは11本中9本に第4根管が確認された)。形成はFlexMaster(.06テーパー#30を歯冠側1/3、.06テーパー#25・#20を中央1/3、.06テーパー#20、.04テーパー#30・#25・#20、.02テーパー#25〜#45を根尖1/3)。作業長は#010 K-Flexofileの先端が根尖孔に見えた長さ-1mm。近心頬側・遠心頬側は#40、口蓋は#45まで。洗浄液は水道水(機械的形成の効果だけを見るため。根管口をGates Gliddenで拡大したあと髄腔を5mLで洗浄し、その後は各器具のあとに27Gの注射針で注入)。術者はロータリー経験のある学部学生1名(メーカー教材で十分に訓練)。計測はマイクロCT(µCT-20、分解能34µm)で形成前後にスキャンし、1ボクセルより高い精度で重ね合わせ。体積・表面積・Structure Model Index(SMI)・「厚み」(球を当てはめて求めた直径)・重心シフトによるトランスポーテーション・未形成表面(static voxels)を算出。統計は一元・二元配置分散分析とScheffé検定、必要に応じ反復測定分散分析(P<0.05)
PMID
14641437

「きれいに形成できた」——その根拠は何を見ていたのか

ニッケルチタン製ロータリーファイルは、レッジや穿孔を避けながら効率よく形成できる。透明ブロックや抜去歯を使った研究が、そう示してきました。

けれども、それらの評価は根管の横断面や側面という二次元を見たものでした。根管という立体の、どこが削れてどこが残ったのかは分からないままです。

結論を先に言います。この研究では明らかな手技エラーは一つも検出されませんでした。そのうえで、同じデータから形成後も器具が触れていない表面が、根管によっては半分近く残っていることが見えてきます。

なぜマイクロCTだったのか

2000年前後に、マイクロCT(µCT)が歯内療法の研究に入ってきました。34µm前後という高い分解能で根管の三次元形状を捉えられ、しかも非破壊——つまり同じ根管を形成の前後で撮って重ねられる

この「自分自身を対照にする」設計が効きます。根管の形は1本ずつまるで違うので、別々の歯を比べても、差が器具のせいなのか元の形のせいなのか分かりません。前後で撮れば、その根管で何が起きたかだけを取り出せます。

調べる対象に選ばれたのがFlexMasterです。この器具には2つの新しい設計がありました。断面が多くのロータリーに共通するU字ではなくKファイル型(象牙質をより効率よく切削でき、器具にかかるストレスを減らせるとされる一方、より攻撃的な切削はトランスポーテーションを増やす可能性がある)。そして.02テーパーという細いテーパーの器具がセットに加えられたこと(これにより、大きめのロータリー器具を作業長まで使える)。

今回の一手:同じ根管を、形成の前と後で撮る

対象=ヒト抜去上顎3根大臼歯11本。根面を根尖からセメント-エナメル境まで封鎖して固定しました。根尖の解剖を変えないよう、パテンシーの確認をせずにスキャンしています。
第二近心頬側根管(MB2)は、解剖が多様すぎるとして探索も形成もしていません(ただしマイクロCTでは11本中9本に第4根管が確認されました)。
形成はFlexMasterで段階的に。作業長は#010 K-Flexofileの先端が根尖孔に見えた長さ-1mm近心頬側・遠心頬側は#40、口蓋は#45まで。洗浄液は水道水——薬液の抗菌効果を排し、機械的な形成そのものを見るためです(Gates Gliddenで根管口を拡大したあとに髄腔を水道水5mLで洗浄し、その後は各器具のあとに27Gの注射針で注入して十分な逆流を確保しています)。
術者はロータリー経験のある学部学生1名で、メーカーの教材で十分に訓練を受けています。1本(3根管)を形成するごとに器具一式を新品に交換しました。

解析はマイクロCT(分解能34µm)。形成前後の像を1ボクセルより高い精度で重ね合わせ、体積・表面積・「厚み」(球を当てはめて求めた直径)・重心シフトによるトランスポーテーション・器具が触れなかった表面(static voxels)を算出しています。

結果①:明らかな手技エラーは無く、トランスポーテーションも小さかった

0 0.3mm 0.7mm 1mm 根尖から5mmの位置の根管直径(mm) 0.45mm 0.65mm 0.41mm 0.57mm 0.76mm 0.85mm 近心頬側 遠心頬側 口蓋 形成前 形成後 原著Results。マイクロCT再構成像に球を当てはめて求めた「厚み」。形成後の直径は0.57〜0.85mmで、著者らは根尖から5mmの高さを十分な大きさに形成できたと述べている。形成による「厚み」の増加は全体として有意。なお抄録では遠心頬側の形成後0.56mm・口蓋の形成前0.79mmと、本文と食い違う値が記されている
根尖から5mmの位置の根管直径(原著Results。マイクロCT再構成像に球を当てはめて求めた「厚み」。なお抄録では遠心頬側の形成後0.56mm・口蓋の形成前0.79mmと、本文と食い違う値が記されている)
アピカルジップ・穿孔・レッジといった明らかな手技エラーは検出されなかった(ただし程度の異なる根尖ストップが一部の症例で見られ「厚み」のプロファイル上では0.75〜1mmの間に人工的にできた小さなレッジも示されています)。
トランスポーテーション(重心シフト)は0.008〜0.287mm——これは歯冠側・中央・根尖の3部位すべてを含む範囲です(抄録では0.01〜0.29mmと丸められています)。根管の型(近心頬側・遠心頬側・口蓋)による差は無し
「広い」根管と「狭い」根管でも、根尖1/3のシフトはほぼ同じ(0.115±0.07mm vs 0.119±0.04mm)。
根尖から5mmの直径は、近心頬側0.45→0.65mm、遠心頬側0.41→0.57mm、口蓋0.76→0.85mmへ拡大。
・根管の直線化は近心頬側4.0±16.1%・遠心頬側16.3±16.6%・口蓋8.1±7.1%。根管の型による有意差は無いが、形成による直線化そのものは有意(P<0.01)。

著者らは、根尖を#40・#45という大きなサイズまで形成しているにもかかわらずこの結果だった点を重視しています。大きなサイズを狙ったのは、Shupingらの研究が示した根管の清掃性を高めるためでした。

結果②:それでも、壁の4〜5割には触れていなかった

0 26.7% 53.3% 80% 形成後も器具が触れていなかった表面の割合(%) 47.4% 37.8% 39.3% 近心頬側(10根管) 遠心頬側(9根管) 口蓋(11根管) 原著Table 4。平均±標準偏差は近心頬側47.43±16.9%、遠心頬側37.83±22.9%、口蓋39.29±20.4%。形成後の表面積に対する割合として算出。根管の種類による差は分散分析で有意ではない
形成後も器具が触れていなかった表面の割合(原著Table 4。根管の型による差は有意ではない)

重ね合わせた像で、形成の前後で動かなかったボクセル(static voxels)を数えると、そこは器具が一度も触れていない領域です。

近心頬側47.43±16.9%・遠心頬側37.83±22.9%・口蓋39.29±20.4%。根管の型による差は有意ではありません(解析対象は近心頬側10根管・遠心頬側9根管・口蓋11根管で、原著は脱落の理由を記していません)。
・触れ残しが多かったのは根の中央部の内側壁と、根尖部では湾曲の外側壁
・形成前のスキャンにだけ写り、形成後には消えていた領域もありました。著者らはこれを楕円形根管のフィンが象牙質の削片で部分的に埋まったものと考えています。
0 26.7% 53.3% 80% 形成後も器具が触れていなかった表面の割合(%) 52% 32% 「広い」根管 「狭い」根管 原著Results。形成前の根管体積の中央値2.33mm³で「広い」(平均4.67±1.97mm³)と「狭い」(平均1.17±0.55mm³)に二分した。平均±標準偏差は52±26%と32±22%で、この差は有意(P<0.05)。考察では「広い」根管の未形成域は全表面の41〜61%に及ぶと述べている
形成前の根管の広さ別に見た未形成表面の割合(原著Results。体積の中央値2.33mm³で二分)

そして最も示唆的なのがこの比較です。形成前の体積の中央値(2.33mm³)で根管を二分すると——

「広い」根管では52±26%、「狭い」根管では32±22%が未形成のまま(P<0.05)。考察では「広い」根管の触れ残しは全表面の41〜61%に及ぶと述べられています。

直感に反するかもしれません。広い根管のほうが削り残る。ただし原著はこの理由を説明していません——述べているのは「『広い』と評価された根管は触れられていない面積が有意に大きく、全表面の41〜61%に及んだ」という事実までです。
なお断面の形(Structure Model Index)と体積は、この研究では対応していません。形成前で最もリボン状だったのは近心頬側根管(SMI 2.63±0.43)で、その体積は3.06±2.09mm³。一方最も体積が大きかったのは口蓋根管(4.50±2.52mm³)ですが、SMIは3.57±0.25と最も円筒形に近いのです。「広い=楕円やリボン状」という単純な図式は、このデータからは言えません。

では臨床的にどう受け取るか。著者らは、他の研究でも同様の所見が出ていることを挙げています。Weigerらの報告では、作業長の3mm手前の断面で、平均45%の輪郭がFlexMaster形成後も未形成。しかもその値はLightSpeedやニッケルチタン手用ファイルと統計的に同等でした。

明日の臨床へ

「形成エラーが無い」ことと「壁を削れている」ことは別物。この研究は同じデータで両方を示しました。
もともと体積の大きい根管ほど触れ残しが多い(52% vs 32%)。この研究が調べたのは上顎3根大臼歯だけなので、下顎大臼歯近心根や下顎切歯のような長楕円断面の根管に当てはめるのは外挿になりますが、器具だけに頼らない設計が要るという方向は同じでしょう。
・著者らの提案は「効率のよい洗浄と形成の組み合わせ(irrigation and shaping regime)」です。器具で届かない面は、薬液で補うしかありません。
・ただし根管が小さすぎると超音波の振動が制約されるため、洗浄側にも限界があることを著者らは添えています。
根管の「厚み」は、洗浄針をどこまで安全に入れられるかの目安にもなるという指摘も実務的です。この研究では根尖から5mmの直径が0.57〜0.85mmで、スプレッダーやプラガーの0.5mm径の先端は、小さい根管では5mmの高さに届かないかもしれないと述べています。

ここだけ、冷静に補助線

まず抜去歯11本・上顎大臼歯のみ・術者1名という規模です。洗浄は水道水で、実際の次亜塩素酸ナトリウムを使った臨床とは条件が違います(これは機械的形成だけを取り出すための意図的な設計です)。MB2は探索も形成もされていません——マイクロCTでは11本中9本に第4根管があったので、実際の症例ならそこも形成対象になります。「未形成表面」はマイクロCTの分解能(34µm)の上で定義された量であり、臨床的にどこからが問題なのかを決めた研究ではありません。また著者ら自身が「in vitroで評価した器具の性能と臨床的な有効性の関係は、長期の臨床試験で扱われるべきだ」と明記しています。なお抄録は分解能を36µmと記していますが、方法の本文では34µmと書かれており、原著内で食い違っています。器具は、この研究で使われたFlexMasterの製造元であるV.D.W.社(ミュンヘン)から提供されており、研究はチューリッヒ大学の研究資金によるものです。それでも、「うまく形成できた」の内実を三次元で数値化してみせたこの仕事は、洗浄を軽んじない理由として今も引かれ続けています。

今日のひとこと

著者らの結論:FlexMasterは上顎大臼歯の湾曲した狭い根管を#40・#45まで、大きな形成エラーなく形成できた。数字で言えば、アピカルジップ・穿孔・レッジは検出されずトランスポーテーション(重心シフト)は0.008〜0.287mm「広い」根管と「狭い」根管で根尖のトランスポーテーションはほぼ同じ(0.115mm vs 0.119mm)で、根管の解剖が形成の結果に与える影響はわずかでした。しかし同じデータから、もう一つの数字が出てきます。形成後も器具が触れていなかった表面が、近心頬側で47.4%・遠心頬側で37.8%・口蓋で39.3%とくに「広い」根管では52%(「狭い」根管は32%、P<0.05)。著者らは効率のよい洗浄と形成の組み合わせが必要だと述べています。「うまく形成できた」と「壁を削れた」は別の話——この論文の持ち帰りはそこです。ただし抜去歯11本・術者1名・洗浄は水道水という実験室の条件で、臨床効果は長期の臨床研究で確かめる必要があると著者らも明記しています。

Hübscher W, Barbakow F, Peters OA. Root-canal preparation with FlexMaster: canal shapes analysed by micro-computed tomography. Int Endod J. 2003;36(11):740-747. PMID: 14641437
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。