エンド|1つの軍の歯科診療所で1年間に抜歯された根管治療歯116本を集め、抜歯の理由を補綴・歯周・根管治療に分けて数えた記述的な調査(Vire 1991・J Endod)
根管治療した歯が抜かれると、根管治療の失敗を疑いがちです。Vireは1つの大きな軍の歯科診療所で、1年間に抜歯された根管治療歯116本の理由を調べました。補綴的な理由が59.4%(中心は修復できないほどの歯冠の破折)、歯周的な理由が32%、根管治療の理由は8.6%でした。根管治療の理由による抜歯は、治療の終了から平均20.6か月で、116本全体の57.8か月より早く起きていました。ただし抜歯された歯だけを集めた調査で、根管治療歯のうち何本が抜歯になるか(失敗率)は分かりません。
①根管治療した歯は、なぜ抜歯になるのか
根管治療をした歯が最後に抜歯になると、「根管治療がうまくいかなかったのでは」と考えがちです。では実際に抜かれた根管治療歯を集めてみると、理由はどう分かれるのでしょうか。
米国陸軍の歯内療法の指導医だったVireは、1つの大きな歯科診療所で1年間に抜歯された根管治療歯をすべて集め、抜歯の理由を「補綴的な理由」「歯周的な理由」「根管治療の理由」に分けて数えました。
・調べたもの:1つの軍の歯科診療所(多くの専門科がそろう大きなグループ診療)で、1年間に抜歯された根管治療歯116本の抜歯の理由
・補綴的な理由が59.4%(69本)でいちばん多く、その中心は歯冠の破折(54本・全体の46.5%)。冠を失い、破折の位置やう蝕による崩壊のために修復できないと判断された歯
・歯周的な理由は32%(37本)、根管治療の理由は8.6%(10本)だった
・根管治療の終了から抜歯までの平均は、根管治療の理由では20.6か月で、116本全体の57.8か月より短かった
・補綴的な理由の節では、クラウンが入っていた歯は抜歯まで平均87か月、入っていなかった歯は平均50か月と報告されている(著者は有意な差と書いているが、検定の方法とp値、それぞれの本数は記載なし)
・注意:抜歯された歯だけを集めた記述的な調査で、根管治療をした歯全体のうち何本が抜歯になったか(失敗率)は分からない
②なぜこの調べ方をしたのか
根管治療の成功率は、これまで主にリコール時のX線写真で判定されてきました。著者は序論で、この方法には弱点があると指摘しています。引用された研究では、別々の評価者が成功かどうかで一致したのは半分に満たず、同じ評価者が時間をおいて見直すと自分の判定と食い違うことも多かったといいます。
そこで著者は、X線写真の読み方に左右されない「最終的な失敗」、つまり根管治療のあとに歯が抜かれたことに注目しました。抜歯の理由を細かく分けて数えれば、根管治療歯をより長く残すための手がかりが得られる、という考えです。著者は、成功率全体を求めることはしていないと明記しています。
③どう調べたか
舞台は、認められた歯科の専門科がすべてそろう、大きな軍の歯科診療所です。根管治療を受けたことのある歯が抜歯されるたびに報告用紙が書かれ、次の項目が集められました。
- X線写真、抜歯した歯の種類、患者の年齢
- 根管治療を終えた日、クラウンを装着した日(装着していれば)
- 抜歯の理由
1年間で、これ以上の治療に向かないと判断されて抜歯された根管治療歯は116本でした。根管治療は多くの術者がさまざまな方法で行ったものです。抜歯の理由は大きく3つに分けられ、さらに細かく分けられました(原典の表1)。
- 補綴的な理由:抜歯が必要になった主な原因が、修復物の失敗か、それ以上修復できないことにある歯
- 歯周的な理由:骨の吸収が大きくて歯周治療を続けられない歯、または補綴の予定があっても力を支えられないと判断された歯
- 根管治療の理由:垂直歯根破折、器具操作の失敗(ストリップ・ジップ・不十分な拡大など)、吸収
④結果:抜歯の理由の6割は補綴的な理由だった
いちばん多かったのは補綴的な理由で、69本(59.4%)でした。内訳は次のとおりです(原典の表1)。
- 歯冠の破折 54本(全体の46.5%、補綴的な理由の78.2%):人工の冠か天然の歯冠を失い、破折の位置やう蝕による崩壊のために修復できないと判断された歯
- 歯根の破折 10本(8.6%):ポストの位置で歯根が折れた歯。最近の外傷の既往は無かった
- 外傷による破折 4本(3.5%)
- 病的な修復物 1本(0.8%):根分岐部へ深く入ったピン2本と、大きなアマルガムのオーバーハングで骨が大きく壊れた歯
著者はこの群について、修復できると判断されていれば残せた歯であり、根管治療そのものは成功とみなせても、治療全体としては抜歯に終わった、とまとめています。
歯周的な理由は37本(32%)でした。前歯の占める割合が65%と、116本全体の前歯の割合(37%)より高く、患者の平均年齢は53歳でした。オーバーデンチャーの支台歯だった歯が3本、歯根切断(root amputation)を受けた歯が2本含まれます。
根管治療の理由は10本(8.6%)で、3つの中でいちばん少ない群でした。内訳は垂直歯根破折5本(4.3%)、器具操作の失敗4本(3.5%)、吸収1本(0.8%)。10本のうち8本が大臼歯、2本が上顎側切歯で、下顎と上顎は7対3でした。
⑤結果:根管治療の理由による抜歯は早く起きていた
根管治療を終えてから抜歯されるまでの平均は、116本全体で57.8か月(約5年)でした。理由ごとに見ると、根管治療の理由は20.6か月と短く、補綴的な理由は59.4か月、歯周的な理由は65.0か月でした(原典の表1)。
著者は、根管治療そのものに原因がある失敗は数が少ない一方で、根管治療を終えてから多くは2年以内に表に出る、と考察しています。
もう1つ、補綴的な理由の節には、クラウンが入っていた歯は抜歯まで平均87か月、入っていなかった歯は平均50か月という比較があります。著者は「有意な差」と書いていますが、検定の方法とp値、クラウンの有無それぞれの本数は記載されていません。クラウンが入っていた歯も、多くは冠が外れてさらに病変が進んでから抜かれていた、と考察されています。
⑥この結果をどう読むか
この研究が示しているのは、抜歯された根管治療歯の理由の内訳です。根管治療の理由は全体の8.6%にとどまり、歯冠の破折を中心とする補綴的な理由と、歯周的な理由で9割を占めていました。
ただし、これは「根管治療歯のうち何%が抜歯になるか」を示すものではありません。母数となる根管治療歯の数が分からないため、失敗率は計算できず、著者もそれを求めていません。また、クラウンの有無による87か月と50か月の差は、抜歯された歯の中での平均の比較です。クラウンを入れたから長くもったのか、もともと条件の良い歯にクラウンが入っていたのかは、この調べ方では区別できません。
著者は考察で、歯髄の感覚が無いためにう蝕が進んでも患者が受診しないことが多く、ガッタパーチャがむし歯で崩れた象牙質の中から見えている歯がよくあった、と述べています。
⑦明日の臨床へ
根管治療が終わった時点で、その歯の行く末が決まるわけではない。この調査からは、そうした見方が読み取れます。
- 根管治療のあとの修復まで一続きで考える:抜歯の理由で最も多かったのは、修復できないほど歯冠が壊れたことでした。根管治療の計画を立てる段階で、その後の修復の方法と時期まで患者さんと共有しておくことは、検討する価値があります
- 根管治療後の歯もう蝕と歯周の管理の対象にする:著者は、歯髄の感覚が無いためにう蝕が進んでも受診しない患者が多かったと考察しています。根管治療の理由ではない抜歯が9割を占めたことは、メインテナンスでの確認の大切さを考えさせます
- 根管治療が原因の問題は早めに表れる可能性:根管治療の理由による抜歯は平均20.6か月でした。治療後の早い時期の経過観察を軽く見ないことにつながります
いずれも、この研究が介入で確かめたことではなく、抜歯された歯の内訳から考えられる視点です。
⑧ここだけ、冷静に補助線
・研究の形:1つの軍の歯科診療所で、1年間に抜歯された歯だけを集めた記述的な調査。抜歯されずに残った根管治療歯は含まれないので、失敗率や「クラウンで抜歯が減る」といった効果は示せない
・規模:116本。根管治療の理由は10本だけで、その内訳(5本・4本・1本)は少ない数での観察
・分類:抜歯の理由は報告用紙の記載にもとづく分類で、各区分の定義は書かれているが、誰が判定したか、判定の一致は報告されていない。ポストの位置での歯根破折(10本)は補綴的な理由、垂直歯根破折(5本)は根管治療の理由に分けられている
・統計の示し方:クラウンの有無による差は「有意」と書かれているが、検定の方法・p値・本数は示されていない
・時代と対象:1991年の報告で、軍の診療所の患者が対象。今の材料や術式、一般の診療所にそのまま当てはまるとは限らない
・資金・利益相反:原典に記載は無い
それでも、「根管治療の成否」だけでなく「治療全体として歯が残るか」に目を向けさせた点は、今も読み継がれる理由です。
今日のひとこと
1つの軍の歯科診療所で1年間に抜歯された根管治療歯116本の理由は、補綴的な理由59.4%・歯周的な理由32%・根管治療の理由8.6%で、根管治療の理由による抜歯は治療から平均20.6か月と早く起きていました。抜歯された歯だけを数えた調査なので、失敗率やクラウンの効果までは示せません。それでも、根管治療のあとの修復と管理まで含めて「歯が残るか」を考えさせる1本です。


