1問1答 論文 エンド

根管充填が不十分に見えても、症状が無ければすぐ再治療?——1人の歯科医師の1,032根管を振り返った後ろ向き研究で、症状が無く根管充填が不十分に見えた420根管を再治療せずX線写真で見たところ、追跡の中央値6年で94.8%が状態を保ち、失敗は著者らの報告で2.8%(表17の悪化は1.4%で記載が食い違う)だった(Van Nieuwenhuysen 1994)

1問1答 論文 エンド

エンド|1人の歯科医師が扱った1,032根管(再治療612・経過観察420)を後ろ向きに評価し、再治療の成績と、症状の無い不十分な根管充填をX線写真で経過観察した結果をまとめた研究(Van Nieuwenhuysen 1994・Int Endod J)

X線写真で根管充填が短い・すき間がある。でも症状は無い。Van Nieuwenhuysenらは、1人の歯科医師が扱った1,032根管を後ろ向きに振り返り、症状が無く根管充填が不十分に見えた420根管を再治療せずに経過観察した結果を報告しました。追跡の中央値6年で94.8%が状態を保ちました。失敗は著者らの本文と結論で2.8%ですが、表17では悪化1.4%・根尖の状態が不明1.4%で、記載が食い違います。この420根管は、始めた時点で83.1%に根尖病変が無かった集団です。再治療と同じ条件で比べた研究ではなく、著者らは、歯冠側の封鎖が不十分・失われた時は、歯を残すなら再治療が適応と考察しています。

論文
Retreatment or radiographic monitoring in endodontics(再治療か、X線写真での経過観察か)
著者
J.-P. Van Nieuwenhuysen, M. Aouar, W. D’Hoore(ルーヴァン・カトリック大学、ベルギー)
掲載
International Endodontic Journal 1994; 27(2): 75–81
種類
後ろ向きの臨床研究。1人の歯科医師が扱った1,032根管。612根管は再治療(6か月以上のリコールがあったものを評価)、症状が無くX線写真で根管充填が不十分に見えた420根管は再治療せずX線写真で経過観察(最初と最後の診査の間隔の中央値6年)
資金・利益相反
原典に記載は無い
DOI
10.1111/j.1365-2591.1994.tb00234.x
PMID
8034368

①根管充填が短い。でも症状は無い。すぐ再治療?

補綴のやり直しや定期検診で撮ったデンタルX線写真に、根管充填が短い、すき間が見える、といった歯が写ることがあります。患者さんは痛くも何ともない。根尖にもはっきりした透過像は無い。この歯を今すぐ再根管治療するか、経過を見るか、迷った経験のある人は多いはずです。

ベルギー・ルーヴァン・カトリック大学のVan Nieuwenhuysenらは1994年、1人の歯科医師が扱った1,032根管を振り返り、「再治療した根管」と「再治療せずにX線写真で経過を見た根管」の両方の経過をまとめました。

結論を先に書きます。
・後ろ向きの研究:1人の歯科医師が扱った1,032根管。612根管は再治療、420根管は再治療せずにX線写真で経過観察
・経過観察した420根管は、症状が無く、X線写真で根管充填が不十分に見えた根管(短い・長すぎる・すき間がある)。始めた時点で83.1%は根尖病変が無く、透過像があっても1〜3mmだった
・追跡の中央値6年で、94.8%は状態を保ち、2.4%は治った。失敗は、著者らの本文と結論では2.8%。ただし表17では悪化1.4%(6根管)・根尖の状態が不明1.4%(6根管)で、記載が食い違い、理由は書かれていない
・別の集団として、X線所見や症状があって再治療した根管では、71.8%が成功、18.9%が治りかけ、9.3%が失敗と報告されている
・著者らの条件:経過観察が現実的なのは歯冠側の修復をやり直す必要が無い場合かもしれない、とし、歯冠側の封鎖が不十分・失われた時は、歯を残すなら再治療が適応と考察している
・注意:2つの群は無作為に分けたものではなく、対象の根管の状態が違う。どちらの対応が良いかを比べた研究ではない

②なぜ「経過観察」が問われたのか

根管治療の成功率は90%に近いと報告され、失敗した時は抜歯より再治療が選ばれることが多い一方、再治療の成功率は初回より低いとされてきました(著者らが序論で引用した報告)。

根管治療の結果は、X線写真で根尖の透過像が出てくるか、残るかで判断されることが多いものです。では、透過像が無い(または小さい)のに、根管充填の見た目だけが不十分な歯はどうするか。著者らは、再治療とX線写真での経過観察という2つの対応のそれぞれの経過を調べ、「症状が無く、根尖病変が無いか小さい歯で、経過観察だけでよいか」を問いの1つに置きました。

③どんな研究か

1人の歯科医師が根管治療を行った1,032根管を、後ろ向きに評価した研究です。612根管は再治療を行い、6か月以上のリコールがあったものを評価しました。420根管は、症状が無く、X線写真で根管充填が不十分(短い・長すぎる・すき間がある)に見えたもので、再治療をせずにX線写真で経過を見ました。

根尖の状態は、症状・臨床所見とX線写真で「完全に治った」「改善した」「変化なし」「悪化」に分けました。X線写真は2人の評価者が1か月あけて2回ずつ読み、評価者間の一致はカッパ係数で0.74でした。統計はWilcoxon検定・Kruskal-Wallis検定とSpearmanの順位相関です。

④結果:経過観察した根管の94.8%は状態を保った

経過観察の対象になった420根管は、始めた時点で83.1%(349根管)に根尖病変が無く、9.0%(38根管)は歯根膜腔の拡大、7.9%(33根管)は1〜3mmの透過像でした。根管充填は98.6%が「不良」か「疑わしい」と判定され、「良好」か「まずまず」は1.4%だけでした。

0 30% 60% 90% 420根管に対する割合 % 83.1% 9.0% 7.9% 根尖病変なし 歯根膜腔の拡大 透過像 1〜3mm 原典の表15 349・38・33根管 根管充填は98.6%が不良か疑わしいと判定されていた
図1 再治療せずに経過観察した420根管の、始めた時点の根尖の状態。原典の表15の根管数と割合を写した。全例とも症状や臨床所見は無かった。

最初と最後の診査の間隔の中央値は6年でした。最後の評価では、透過像が無いまま状態を保った根管が81.7%(343根管)、透過像はあるが症状の無いまま状態を保った根管が13.1%(55根管)で、合わせて94.8%が状態を保っていました。完全に治ったのは1.9%(8根管)、改善したが途中が0.5%(2根管)。悪化は1.4%(6根管)、根尖の状態が不明は1.4%(6根管)でした。一方、著者らの本文と結論は、透過像の出現・拡大(失敗)を2.8%と書いており、表17と記載が食い違います。理由は書かれていません。

0 30% 60% 90% 420根管に対する割合 % 81.7% 13.1% 1.9% 0.5% 1.4% 1.4% 状態を保った透過像なし 状態を保った透過像あり 完全に治った 改善したが途中 悪化 根尖の状態が不明 原典の表17 343・55・8・2・6・6根管 本文と結論の失敗2.8%とは記載が食い違う(理由の記載なし)
図2 経過観察した420根管の最後の評価(追跡の中央値6年)。原典の表17の根管数と割合を写した。原典の本文と結論は失敗(透過像の出現・拡大)を2.8%としているが、表17の悪化は6根管(1.4%)、根尖の状態が不明も6根管(1.4%)で、両者の記載は一致せず、理由は書かれていない。

経過観察の群では、始めた時点のX線写真に根尖の透過像が無い方が、結果は有意に良好でした(Wilcoxon検定、P=0.0001)。性別や年齢では有意な差は認められませんでした。根管充填の質や長さの影響は、きちんと充填された根管が少なすぎて調べられなかったと著者らは書いています。

一方、再治療した612根管のうち、X線所見や臨床症状があった根管では、71.8%が成功、18.9%が治りかけ、9.3%が失敗と報告されています(6か月以上のリコールがあったもの。分母の根管数は書かれていない)。再治療の結果には、最初の病変の大きさ、ラバーダムの使用、根管充填の方法、根尖から1mm以内まで充填できたかが統計学的に有意に関係していました。こちらは対象の違う別の集団の数字で、経過観察した群とそのまま比べるものではありません。

⑤結果の読み方

著者らは結論で、根尖病変が無いか小さく、臨床症状が無い場合には、根管充填が理想的に見えなくても、治療しないことによる問題は少ない割合にとどまったとしています。一方で、根尖の透過像に症状を伴う時は再治療がはっきり適応になる、とも書いています。

ただし著者らは、経過観察を選ぶ条件として、「より深刻な病気を疑う所見が無いこと」を挙げています。考察では、経過観察が現実的なのは歯冠側の修復をやり直す必要が無い場合かもしれない、としたうえで、歯冠側の封鎖が失われると根管が短期間で再び汚染されうるという報告(Torabinejadら 1992の学会抄録)を引いています。歯冠側の修復が不十分・脱離している時は、その歯を残すなら封鎖の不十分な根管の再治療が適応になる、修復をやり直す時は根管の歯冠側の封鎖を確実にすることが欠かせない、というのが著者らの考えです。

この研究は、経過観察と再治療を同じ条件の歯で比べたものではありません。経過観察した根管は、症状が無く、多くは根尖病変も無い根管でした。「経過観察の方が良い」と読むのではなく、「この条件の根管では、追跡の中央値6年で94.8%が状態を保った」と読むのが原典の範囲です。

⑥明日の臨床へ

ここから筆者の読みです。X線写真で根管充填が不十分に見えても、症状が無く、根尖に透過像が無い(または小さい)なら、その所見だけで急いで再治療を決めず、経過観察も選択肢として患者さんと話し合える、というのがこの研究から引き出せる範囲です。

判断を分けるのは歯冠側です。歯冠側の修復が壊れている・外れている場合は、著者らの考察でも、歯を残すなら再治療が適応とされる場面です。冠やコアをやり直す場合について著者らが求めているのは、根管の歯冠側の封鎖を確実にすることで、その時に再治療するかどうかをこの研究は比べていません。経過観察を選ぶ時は、撮影の間隔を決め、透過像の出現や拡大、症状の出現があれば対応を見直す、という段取りまで患者さんと共有しておくと安心です。

ただし、どの撮影間隔が良いか、CTで見たらどうかは、この研究では調べていません(ここまで筆者の読み)。

⑦ここだけ補助線

「症状の無い不十分な根管充填」を数百根管の単位で追った、古典的な1本です。読むときは次の点だけ押さえておきたいところです。
・デザイン:1人の歯科医師の症例を後ろ向きに振り返った研究。再治療か経過観察かは無作為に分けていない
・群の違い:経過観察の群は症状が無く、83.1%は根尖病変も無かった。病変や症状のある根管を多く含む再治療の群と、成績を比べることはできない
・評価:結果は臨床所見とデンタルX線写真による判定(評価者間のカッパ係数0.74)。CTは使っていない。数えた単位は根管で、患者や歯の単位ではない
・追跡:経過観察の期間は中央値6年だけが示され、最短・最長は書かれていない
・原典の中の食い違い:本文と結論の失敗2.8%に対し、表17は悪化1.4%・根尖の状態が不明1.4%で、理由は書かれていない。再治療の成功71.8%の分母は書かれていない
・材料:治療の時期は書かれていない。再治療した612根管のうち487根管(79.6%)の貼薬はパラホルムアルデヒド系、シーラーは酸化亜鉛ユージノール。今の診療に当てはめる時は注意が要る
・資金・利益相反:原典に記載は無い
それでも、「見た目が不十分な根管充填=即再治療」ではないことを、数字で考えるきっかけをくれる1本です。

今日のひとこと

症状が無く、根尖病変が無いか小さい根管では、X線写真で根管充填が不十分に見えても、再治療せずに経過を見た420根管の94.8%が、中央値6年で状態を保っていました。失敗は著者らの報告で2.8%です(表17の悪化は1.4%で、記載が食い違う)。ただし1人の歯科医師の症例を振り返った研究で、再治療と同じ条件で比べたものではありません。著者らは、歯冠側の封鎖が不十分・失われた時は再治療が適応と考えています。歯冠側の状態まで含めて、経過観察も選択肢として話し合えることを示す1本です。

Van Nieuwenhuysen JP, Aouar M, D’Hoore W. Retreatment or radiographic monitoring in endodontics. Int Endod J. 1994;27(2):75-81. doi: 10.1111/j.1365-2591.1994.tb00234.x. PMID: 8034368
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。