エンド|歯内療法専門医ら15人が、同じ20症例を「病歴とデンタル」「病歴とCBCT」で2回判断した前後比較研究(Wanzeler 2020・Journal of Endodontics)。変わったあとの診断や治療方針が正しいかどうかは調べていない
「デンタルで決めた方針は、CBCTを見たら変わるのか」。Wanzelerらは、歯内療法専門医ら15人に、同じ20症例(中等度10・複雑10)を2回判断してもらいました。1回目は病歴とデンタル、30日後の2回目は同じ病歴とCBCTです。治療方針が変わった回答は中等度で54%、複雑で56%。1回目に「経過観察」を選んだ回答の大半は、2回目に何らかの介入へ移りました。自信の変化が統計的に有意だったのは複雑な症例だけです(診断 P=.010、治療計画 P=.043)。ただし、変わったあとの判断が正しいかどうかは調べておらず、順番も必ずデンタルが先でした。
①デンタルで決めた治療方針、CBCTを見たら変わりますか?
病歴と診査の所見、それにデンタルX線写真(以下、デンタル)を見て、「この歯は経過観察でいい」「根管治療から始めよう」と方針を決める。歯内療法では日常の場面です。では、同じ症例でCBCTを見たら、その方針はどのくらい変わるのでしょうか。
ブラジルのリオグランデ・ド・スル連邦大学のWanzelerらは、歯内療法専門医ら15人に、同じ20症例を2回判断してもらいました。1回目は病歴とデンタル、30日後の2回目は同じ病歴とCBCTです。調べたのは、診断と治療計画への自信と、選ぶ治療方針がどう変わるかです。
・CBCTを見たあと、治療方針が変わった回答は、中等度の症例で54%、複雑な症例で56%(原著の本文)
・1回目に「経過観察」を選んだ回答は、中等度・複雑とも150回答中63。そのうち2回目も経過観察のままだったのは、中等度で8、複雑で5だけ(原著の図2)
・自信の変化が統計的に有意だったのは複雑な症例だけ(診断 P=.010、治療計画 P=.043)。中等度の症例では有意でない(診断 P=.413、治療計画 P=.827)
・どの条件でも、いちばん多かった回答は「自信の点数は変わらない」(150回答中70〜78)
・この研究は、変わったあとの診断や方針が正しかったかどうかは調べていない
②同じ20症例を、デンタルとCBCTで2回判断した
著者らは、画像検査の有効性を6段階で考えるFrybackとThornburyの枠組みを引いています。画質や診断精度を調べるのがレベル1と2、画像で診断の考え方が変わるかがレベル3、治療方針が変わるかがレベル4、患者の転帰が変わるかがレベル5です。歯内療法のCBCTでは、レベル3以上の研究が少ないと著者らは書いています。この研究が扱ったのはレベル3と4で、患者の転帰(レベル5)は調べていません。
・デザイン:単一施設の前後比較研究
・回答者:歯内療法専門医と、専門課程(レジデンシー)の最終学年の大学院生。20人を招き、2回とも答えた15人を解析した(専門医と大学院生の内訳は書かれていない)
・症例:民間の歯科放射線クリニックの記録から、歯内療法領域の病変があり、デンタルと小照射野CBCTの両方がそろう20症例。AAE(米国歯内療法学会)の難易度評価表で、中等度10・複雑10に分類した。難易度の低い症例は、CBCTの適応でないとして含めていない
・画像:デンタルは平行法。CBCTは照射野5×5cm、ボクセル0.08mm
・病歴:年齢、性別、症状、プロービング値、歯髄の感受性試験の結果などを、架空の病歴として症例に添えた。回答者は実際の診察をしていない
・手順:1回目は病歴とデンタルで回答。30日後の2回目は、同じ病歴とCBCT(多断面再構成像)で回答
・質問:診断への自信(5段階)、選ぶ治療方針、治療計画への自信(5段階)
・解析:自信の前後比較はWilcoxon検定。表は中等度・複雑それぞれ150回答(10症例×15人)
③治療方針は半分以上の回答で変わり、経過観察が減った
CBCTを見たあとに治療方針が変わった回答は、中等度の症例で54%、複雑な症例で56%でした。変わり方を、原著の図2から見ていきます。
1回目(デンタル)では、中等度・複雑とも42%(150回答中63)が「経過観察」でした。この63回答のうち、2回目(CBCT)も経過観察のままだったのは、中等度で8(12.7%)、複雑で5(7.9%)です。残りは、非外科的治療(中等度35・複雑40)、外科的治療(6・6)、抜歯(14・12)へ移りました。
2回目の回答を図2から足し合わせると、経過観察は中等度で15(10.0%)、複雑で8(5.3%)まで減ります。抜歯を選ぶ回答は、中等度で3から29へ(2.0%→19.3%)、複雑で14から33へ(9.3%→22.0%)増えました(2回目の件数は筆者の集計)。
著者らは、方針が変わるときは、より侵襲の大きい選択へ向かっていたと書いています。図2で数えると、変わった回答のうち侵襲が大きい方向へ動いたのは、中等度で80中73、複雑で83中74でした(経過観察<非外科的治療<外科的治療<抜歯の順で、筆者が集計)。
逆向きの変更もあります。複雑な症例で1回目に抜歯を選んだ14回答のうち、5回答は2回目に非外科的治療へ移りました(原著の本文)。1回目に非外科的治療を選んだ回答は、中等度で71.1%(83中59)、複雑で73.9%(73中54)が2回目も同じ選択でした(図2の表記)。
・1回目の選択肢は7つ。「非外科的処置を始めず、CBCTを依頼する」「非外科的処置を始めず、臨床とX線で経過を追う」「非外科的処置を始める」などに分かれている
・2回目の選択肢は4つ(経過観察/非外科的治療/外科的治療/抜歯)
・図2は1回目の回答も4区分で示しているが、7つをどうまとめたかは原著に書かれていない
・もし「CBCTを依頼するので処置を始めない」という回答が1回目の「経過観察」に入っているなら、42%の一部は「様子を見る」ではなく「判断を保留する」回答だったことになる(ここは筆者の推測)
・1回目の最後に「CBCTを追加で依頼するか」を尋ねると、中等度で45.2%、複雑で55.3%が「依頼する」と答えた。難易度による差は有意でない(χ²検定 P=.409)
④自信の変化が有意だったのは、複雑な症例だけ
自信は5段階(1=自信がない〜5=とても自信がある)で答えます。原著の表2と表3は、CBCT前の点数とCBCT後の点数のクロス集計です。
診断への自信は、点数が変わらなかった回答が中等度・複雑とも150回答中70でした。点数が上がった回答は、中等度で44、複雑で47(31.3%)です。前後の差は、中等度では有意でなく(P=.413)、複雑では有意でした(P=.010)。
治療計画への自信も同じ形です。変わらなかった回答が中等度78・複雑76と最も多く、前後の差が有意だったのは複雑な症例だけでした(中等度 P=.827、複雑 P=.043)。
・点数が下がった回答もある。診断では中等度36・複雑33、治療計画では中等度34・複雑32で、どの条件でも150回答の2割強
・下がった理由は、原著に書かれていない
・デンタルだけの時点で、診断への自信が4点以上だった回答は、中等度で116(77.3%)、複雑で112(74.7%)。CBCT後は、中等度120(80.0%)、複雑127(84.7%)
・つまり、複雑な症例でも、デンタルの時点で4分の3ほどの回答は「自信あり」の側にあった
著者らは、この点について過去の報告が割れていることも紹介しています。CBCTが使えると専門家の自信が高まるとした報告(Mota de Almeidaら)がある一方で、根拠は決め手に欠けるとした報告(Al-SalehiとHorner)もあります。
⑤明日の臨床へ
・CBCTは、歯内療法専門医の診断と治療計画への自信を高めた。とくに複雑な症例で
・デンタルにCBCTを加えると、歯内療法専門医は介入を勧める傾向があった
・理由として著者らが挙げるのは、CBCTがデンタルより解剖学的な構造を詳しく示せること
・CBCTは1枚のデンタルより被曝が大きい。それでも、複雑な症例で判断への自信を高めるので、CBCTの依頼はALADA(診断に必要な範囲で、できるだけ低く)の原則に沿って正当化される
・AAEと米国口腔顎顔面放射線学会(AAOMR)は、歯内療法の診断やスクリーニングにCBCTを日常的に使うことを勧めていない。難易度の低い症例ではとくにそうである(著者らによる指針の紹介)
・CBCTを足したときに方針が動きやすいのは、デンタルで「経過観察」や「保留」を選んだ症例でした。動いた先は多くが介入側です。CBCTを撮る前に「何が見えたら、方針をどちらへ変えるか」を決めておくと、画像に引っ張られにくくなります
・自信が上がることと、判断が正しくなることは別です。この研究が示したのは前者までです
・中等度の症例では、方針は半分以上の回答で変わったのに、自信の変化は有意ではありませんでした。方針が動くことと、自信がつくことも、同じではないようです
・抜歯を選ぶ回答が増えた点は、元に戻せない方向の変化です。CBCTの所見だけで抜歯へ進まず、症状や診査の所見と合うかを確かめる、という選択肢が見えてきます
まず、正解との照合がありません。診断や方針の当否を決める参照基準は置かれていません。CBCTで自信や方針が変わったことは示せても、変わったあとの判断が正しいかどうかは、この研究からは分かりません。
次に、順番が固定されています。必ずデンタルが先で、30日後にCBCTです。同じ病歴を読むのは2回目になります。順番を入れ替えた群や、同じデンタルを2回見せる対照はないので、画像の違いによる変化と、2回目であることによる変化を分けられません。
三つ目に、場面の作り方です。病歴は架空で、回答者は実際の診察をしていません。回答者には最終学年の大学院生が含まれますが、抄録は「15人の歯内療法専門医」と書いており、内訳は分かりません。症例は、すでにCBCTが撮影されていた記録から選ばれています。デンタルだけでは判断しにくかった症例が多く含まれている可能性があります(筆者の推測)。
四つ目に、統計です。150回答は15人×10症例で、同じ人・同じ症例の回答が繰り返し含まれます。この重なりを考慮した解析かどうかは書かれていません。
五つ目に、原著の中で数字が食い違う箇所があります。解析した回答数は、統計の節が「合計240回答」、表が中等度150+複雑150です。中等度の症例で診断への自信が上がった割合は、本文が27.5%、表2から数えると150中44(29.3%)です。表3の複雑な症例では、CBCT前が5点の行の内訳を足すと63ですが、合計欄は57です。方針が変わった割合は、本文が54%と56%、図2から数えると150中80(53.3%)と150中83(55.3%)です。本文は「経過観察から非外科的治療へ変わった回答が87.3%と92%」と書きますが、図2では、この値は経過観察から別の選択へ移った割合(63中55、63中58)にあたり、非外科的治療へ移ったのは55.6%と63.4%です。考察は、経過観察がCBCT前の42%からCBCT後に12.7%と7.9%へ減ったと書きますが、前者は150回答、後者は63回答が分母です。この記事では、件数は表と図、P値と「54%・56%」は本文の記載を使いました。
資金・利益相反:ブラジルの研究助成機関CAPESの資金。著者らは利益相反なしと申告しています。
それでも、CBCTを足したときに専門医の判断が「どちらへ、どのくらい」動くかを、回答の移り変わりまで図にして示した点に、この論文の価値があります。CBCTを依頼する前に、いちど立ち止まる材料になる1本です。
今日のひとこと
デンタルにCBCTを足すと、歯内療法専門医らの治療方針は半分以上の回答で変わりました(中等度54%、複雑56%)。1回目に経過観察を選んだ63回答のうち、2回目も経過観察だったのは8と5だけで、多くは介入へ移っています。自信の変化が有意だったのは複雑な症例だけで(診断 P=.010、治療計画 P=.043)、どの条件でも最も多かったのは「自信は変わらない」回答でした。この研究は、変わったあとの判断が正しいかどうかを調べていません。筆者の読みでは、CBCTを依頼する前に「何が見えたら方針を変えるか」を決めておくための1本です。


