エンド|外科的歯内療法が、顕微鏡・超音波チップ・MTAを使うマイクロサージェリーへどう変わったかを、従来法との違いの表とともに解説した総説(Kim・Kratchman 2006・Journal of Endodontics)。著者らの見解を含む解説的な総説で、系統的レビューではない
歯根端切除術は「最後の手段」と見られがちでした。ペンシルベニア大学のKimとKratchmanは2006年の総説で、従来法とマイクロサージェリーの違いを表にまとめています。骨窩洞は約8〜10mm → 3〜4mm、ベベル角は45〜65度 → 0〜10度、切断面の観察は「なし → 常に」、逆根管形成は「バー → 超音波チップ」、充填材は「アマルガム → MTA(SuperEBAなども使われる)」。根尖は3mmの切除を勧め、著者らの解剖学的研究では3mmで根尖分岐の98%・側枝の93%を取り除けたとしています。治癒の成功(1年以上)は表では従来法40〜90%、マイクロサージェリー85〜96.8%ですが、これは総説が引用した別々の研究の値の幅で、両者を直接比べたランダム化試験は、この総説(2006年時点)には示されていません。著者らの見解を含む2006年時点の総説として読む1本です。
①歯根端切除、裸眼とバーのままでいい?
歯根端切除術は「最後の手段」「うまくいかない手術」という印象を持たれがちでした。大きく骨を削り、根を斜めに切り、バーで窩洞を掘ってアマルガムを詰める。学生時代にそう習った方も多いはずです。
ペンシルベニア大学のKimとKratchmanは、2006年の総説で、この手術が顕微鏡・超音波チップ・MTAを使う「マイクロサージェリー」に変わったと述べ、従来法との違いを1枚の表にまとめました。この記事は、その表を軸に整理します。
先に断っておきます。この論文は著者らの見解を含む解説的な総説で、系統的レビューではありません。文献の探し方や選び方は書かれておらず、内容は2006年時点のものです。成功率の数字は、総説が引用している個別の研究の値です。
・骨窩洞(骨の窓)は約8〜10mm → 3〜4mm、ベベル角は45〜65度 → 0〜10度(原著の表1)
・根尖は3mm切除を推奨。著者らの解剖学的研究では、3mmで根尖分岐の98%・側枝の93%を取り除けた
・切断面をメチレンブルーで染めて高倍率で観察し、イスムスを見つけて処置する。著者らはこれを最も重要なステップと位置づける
・逆根管形成は超音波チップで根管の軸に沿って3mm、充填材はMTA(SuperEBAなども使われる)
・治癒の成功(1年以上)は、表1では従来法40〜90%、マイクロサージェリー85〜96.8%。ただし別々の研究の値の幅で、両者を直接比べたランダム化試験は、この総説(2006年時点)には示されていない
②従来法と何が違うのか:表1の10項目
著者らは、従来法の失敗の理由を「複雑な根尖の分岐を、確実に見つけて、清掃し、封鎖することができなかったから」と説明しています。顕微鏡の拡大と照明、それに合う細い器具がそろって、ようやくそれができるようになった、というのがこの総説の筋です。
・マイクロサージェリーの骨窩洞は直径3〜4mm。長さ3mmの超音波チップが中で動かせる、ぎりぎりの大きさ
・著者らが引用するRubinsteinとKim(1999)のX線での治癒の観察では、病変が5mm未満なら平均6.4か月、6〜10mmなら7.25か月、10mmを超えると11か月かかった
・骨窩洞を歯冠側へ広げすぎると、歯頸部の健康な骨を失い、エンドとペリオの交通ができやすい。著者らは「できるだけ小さく、ただし目的を果たせる大きさで」と書く
・従来法の45〜60度の急なベベルは、根尖を見やすく、形成しやすくするための術者の都合だった
・斜めに切ると、頬側の骨と根を余分に失い、象牙細管が多く露出し、舌側の根尖を取り残しやすい
・マイクロサージェリーでは、歯軸に垂直に(ベベルなし、または10度未満で)切る
③なぜ3mm切るのか、切ったあと何を見るのか
どれだけ切るかについて、完全な合意はないと著者らは書いています。Gilheanyら(1994)は、細菌の漏洩を減らすには少なくとも2mmと提案しました。著者らは自分たちの解剖学的研究をもとに3mmを勧めています。4mmでも割合はほぼ変わらず、3mmなら根が平均7〜9mm残って強度と安定を保てる、というのが理由です。
・切断面をメチレンブルーで染める。歯根膜と歯髄組織が選択的に染まる
・45度に当てたマイクロミラーで、高倍率(表2では14〜26倍)で観察する
・見るものは、イスムス、フィン、マイクロフラクチャー、側枝、取り残した舌側の根尖
・表1では、従来法はこの観察が「なし」、イスムスの発見と処置は「不可能」とされている
・上顎第一大臼歯の近心頬側根:90%
・下顎第一大臼歯の近心根:80%を超える
・上下顎の小臼歯:30%
・著者らは、大臼歯の近心根で従来法が失敗する主な原因を「イスムスを処置できなかったこと」と見ている
そのあとの逆根管形成は、超音波チップで行います。目標は、根管の軸に沿った、深さ3mm以上の1級窩洞です。超音波チップによるクラックを心配する報告は抜去歯の実験にあります。一方、著者らは、献体での実験や患者25人の調査(クラックが見つかったのは1根)では有意なクラックは見られなかった、という報告を引いています。
充填材について、著者らは慎重です。動物実験や細胞の実験から、MTAは他の材料より治癒を導く力と生体親和性が高いと評価しつつ、「MTAが理想の材料だと言うのはまだ早いかもしれない」「MTAを使うだけでは臨床的な成功は保証されない」と書いています。
④成功率の数字は、どの研究の値か
この総説に出てくる成功率は、著者らが新しく集計したものではなく、引用された個別研究の値です。研究ごとに、対象の歯・追跡期間・判定基準・材料が違います。
・BaderとLejeune(1998):前向きのランダム化試験、80歯を4群に。充填材は全てIRM。治癒の成功は超音波95%、従来法65%
・Testoriら(1999):後ろ向き研究、選択基準の記載なし。従来法68%、超音波85%(本文は4.5年、表6は平均4.6年)。充填材が超音波はSuperEBA、従来法はアマルガムと違うため、差のどこまでが器具によるものかは不明と著者らも書く
・著者らのまとめ:超音波による逆根管形成は、バーより成功率が17〜30ポイントほど高い(Testori 85−68、Bader 95−65 の差。原著の表記は「17〜30%」)
・RubinsteinとKim(1999):歯内由来の病変だけを選び、3mm垂直切除・骨窩洞はおおむね4mm・メチレンブルー染色・超音波で3mm形成・SuperEBA。1年で96.8%が治癒。同じ症例の5〜7年後は91%(表6では91.5%)。Kimはこの総説の筆頭著者
・ChongとPitt Ford(2003):同じマイクロサージェリーの手技で材料だけを比べたランダム化試験。24か月でMTA 92%、IRM 87%。著者らは、MTAのほうが良いが有意な差ではないと説明する
表6を読む前に1つ。成績の低い研究はアマルガムを使ったものが多く、後ろ向き研究も混ざっています。著者らも、Wangら(2004)の74%という低めの値について、アマルガムの使用とベベルのためかもしれないと書いています。
・Wangら 2004/155歯/4〜8年/前向き/拡大なし/超音波/アマルガム・コンポジット・SuperEBA・IRMまたはMTA/74%
・MaddaloneとGagliani 2003/120歯/3年/前向き/ルーペ/超音波/SuperEBA/92.4%
・Chongら 2003/108歯/1年と2年/前向き/顕微鏡/超音波/IRMとMTAの比較/IRM 87%・MTA 92%
・Schwartz-Aradら 2003/122歯/平均11.2か月/後ろ向き/拡大なし/バー/アマルガムとIRM/44.3%
・von Arxら 2003/大臼歯25歯の39根/1年/前向き/拡大なし/超音波/SuperEBA/88%
・WessonとGale 2003/1,007歯(全て大臼歯)/5年/前向き/拡大なし/バー/アマルガム/57%
・RubinsteinとKim 2002/59根/5〜7年/前向き/顕微鏡/超音波/SuperEBA/91.5%
・Rahbaranら 2001/176歯/4年/後ろ向き/拡大なし/超音波とバー/SuperEBAとアマルガム/歯内療法科37.4%・口腔外科19.4%
・Rudら 2001/大臼歯520歯の834根/1年/後ろ向き/顕微鏡/形成の欄は該当なし/象牙質接着性レジン/92%
・Zuoloら 2000/114歯/1〜4年/前向き/拡大なし/超音波/IRM/91.2%
・Testoriら 1999/181歯の302根/平均4.6年/後ろ向き/拡大なし/超音波とバーの比較/SuperEBAとアマルガムの比較/バー68%・超音波85%
・RubinsteinとKim 1999/91根/1年/前向き/顕微鏡/超音波/SuperEBA/96.8%
・Halseら 1991/474歯/1年/後ろ向き/拡大なし/バー/アマルガム/68.7%
従来法の成功率について、本文は「44〜90%」と書き、表1は「40〜90%」としています。著者らは、この幅の広さを、研究デザイン・症例数・追跡期間・判定基準の違いで説明しています。表1の「85〜96.8%」も、上のような別々の研究の値の幅です。
⑤明日の臨床へ
・拡大なしで歯根端切除を行うことは、もはや適切とは言えない。3〜4倍のルーペは裸眼からの前進だが、切断面の細部を見るには顕微鏡が要る
・顕微鏡は術野への到達を良くするわけではない。見え方を良くする道具である
・全ての工程を高倍率で行う必要はない。骨窩洞の形成は低倍率(4〜8倍)、切断面の観察は高倍率(14〜26倍)。30倍を超える倍率はほとんど役に立たない
・成績は術前の状態で変わる。歯周ポケットや動揺のない症例(著者らの分類でA〜C)は成績が良く、深いポケットやエンドとペリオの交通がある症例(D〜F)は骨移植や膜の併用も要る難症例
・歯根端切除を紹介する側としては、紹介先が顕微鏡・超音波チップ・生体親和性のある充填材で手術しているかが、説明の材料になります
・自院で行うなら、顕微鏡、超音波の逆根管形成チップ、マイクロミラー、染色液、細い縫合糸がひとそろい必要です。設備と訓練のコストは小さくありません
・再根管治療か外科かの判断は、この総説の数字だけでは決められません。著者らも、まず非外科的な再治療を試みるのが基本としています(利益が外科を上回る場合)
従来法とマイクロサージェリーを直接比べたランダム化試験は、この総説(2006年時点)には示されていません。著者らは、従来法の失敗が多いと分かっている以上、そうした試験は倫理的に行えないと述べています。表1の「40〜90% 対 85〜96.8%」は、対象も追跡期間も判定基準も違う研究を並べた幅で、差の大きさをそのまま読むことはできません。超音波とバーの比較も、材料が違う研究を含みます。
高い成績の柱である96.8%は、筆頭著者Kim自身が共著の研究で、歯内由来の病変だけを厳しく選んだ症例の1年後の値です。3mm切除の根拠となる98%・93%も著者ら自身の解剖学的研究で、出典は著者らのアトラスです。
原著の中で数字が食い違う箇所もあります(ベベル角は表1が45〜65度、本文と表4が45〜60度。従来法の成功率は表1が40〜90%、本文が44〜90%。Testoriの追跡は本文4.5年、表6は平均4.6年。表6と本文で歯数などが異なる研究もある)。この記事は、どちらの記載かを添えて書きました。
資金・利益相反:原著に、資金提供や利益相反の記載は見当たりません。本文には特定の超音波チップやMTAの製品名が出てきます。
2006年の総説なので、その後の材料や画像診断の進歩、新しい臨床研究は反映されていません。
それでも、「骨を小さく開け、垂直に3mm切り、切断面を染めて見て、根管の軸に沿って形成し、封鎖する」という手順と、その一つひとつの理由を1本で見渡せる総説です。歯根端切除を「最後の手段」と考えてきた人が、考え方を更新する入口になります。
今日のひとこと
この総説が整理したのは、歯根端切除術が「骨を小さく開け(3〜4mm)、垂直に3mm切り、切断面を染めて高倍率で見て、超音波チップで根管の軸に沿って形成し、封鎖する」手術に変わったということです。著者らは切断面の観察とイスムスの処置を最も重要なステップと位置づけ、MTAについては「使うだけでは成功は保証されない」と書いています。成功率(従来法40〜90%、マイクロサージェリー85〜96.8%)は引用された別々の研究の値の幅で、直接比べたランダム化試験は、この総説(2006年時点)には示されていません。著者らの見解を含む2006年時点の総説であり、筆者の読みでは、数字の差よりも「手順の一つひとつに理由がある」ことを確かめるための1本です。


