エンド|湾曲のきつい根管で、いつものNiTiファイルをそのまま回していないか。4種のNiTiロータリーファイルを湾曲25°・35°・45°の金属製の人工根管で折れるまで回し、同じ条件をコンピューターの応力解析(有限要素法=FEA)で再現して突き合わせた実験研究(Lee 2011・Journal of Endodontics)
NiTiロータリーファイルの破折は、湾曲根管で誰もが気にするリスクです。これまでの疲労試験は「何回転で折れたか」を数えるだけで、ファイルの中でどこにどれだけ力(応力)がかかっているかは見えませんでした。著者らは、ProTaper Universal F3・HeroShaper・ProFile・Mtwoの4種を、湾曲25°・35°・45°の金属製の人工根管で各10本ずつ折れるまで回し(毎分300回転)、同じ形の根管の中で回したときの応力をFEAで計算しました。結果、湾曲が強いほど、4種すべてで破折までの回転数は減り(例:ProFile 4,681→969→647回転)、とくに25°→35°で大きく落ちました。どの湾曲でも平均の回転数が最も少なかったのはProTaper(HeroShaperとの差は有意でない)で、FEAでも最大応力が最も高かった(1,221〜1,906MPa)。平均で最も長くもったのはMtwo(25°ではProFileとの差は有意でない)でした。さらに、応力が最大になる位置(先端から約3〜6mm)と実際に折れた位置は、おおむね一致していました。
①湾曲のきつい根管、いつものファイルで大丈夫?
大臼歯の近心根、きつく曲がった根管。NiTiロータリーファイルを入れるとき、「このカーブで折れないだろうか」と手が止まった経験は、多くの先生にあると思います。
NiTiファイルは、ステンレスより弾性率が低く、しなやかに曲がることで湾曲根管の形成を変えました。それでも「NiTiは折れやすい」という印象は根強く、破折の研究は数多く行われてきました。
結論を先に言います。湾曲25°・35°・45°の人工根管で4種のファイルを折れるまで回したところ、湾曲が強いほど4種すべてで破折までの回転数が減り、とくに25°→35°で大きく落ちました。コンピューターの応力解析(FEA)でも、湾曲が強く応力が高いほど回転数は少なく、応力が最大になる位置のあたりで折れていました(ただしHeroShaperは例外)。
②なぜ「折れた回転数」だけでは足りなかったのか
ファイルの破折には、曲がった根管の中で繰り返し曲げられて起きる疲労破折(cyclic fatigue)と、先端が食い込んでねじ切れるねじれ破折(torsional failure)があります。疲労の強さは、人工根管の中でファイルを回し、折れるまでの回転数を数えて比べるのが一般的です。
ただ、この方法でわかるのは「その実験条件で何回転もったか」まで。ファイルの中のどこに、どれだけの力(応力)がかかって疲労が進んでいるのかは見えません。一方、有限要素法(FEA)というコンピューターの計算では、形・材料・荷重の条件から応力の分布を計算できます。
③今回の一手:同じ4種×3湾曲を、実験と計算の両方で
・疲労試験:鋼製のブロックに、湾曲25°・35°・45°(Schneider法)の人工根管を作製。各ファイル・各湾曲10本ずつ、X-smartモーターで毎分300回転(最大トルク5.2Ncm)、摩擦を減らす潤滑剤を噴霧して折れるまで回し、時間を回転数に換算。破片の長さも測り、破断面をSEMで観察しました。
・FEA:4種のファイルをマイクロCTで取り込んで3次元模型にし、疲労試験と同じ湾曲の長さ17mmの根管の中で回したときのvon Mises応力(3方向の力を1つにまとめた応力の指標)を計算。応力が最大になる点と、実際に折れた位置の応力を記録しました。
統計はKruskal-Wallis検定とBonferroni法。疲労試験の「回転数」と、FEAの「応力」を、同じファイル・同じ湾曲どうしで並べて見られるのが、この研究の設計の要です。
④結果①:湾曲が強いほど、早く折れる
破折までの平均回転数は、4種すべてで湾曲が強いほど減りました。25°→35°→45°の順に、ProTaper 1,433→418→301回転、HeroShaper 1,451→527→419、ProFile 4,681→969→647、Mtwo 5,228→1,294→865です。
落ち方には特徴があります。25°→35°では、回転数が元の約2〜4割まで落ちました(筆者計算:ProFileは約2割、HeroShaperは約4割)。35°を超えると回転数はさらに減りますが、落ち方はそこまで急ではありませんでした。
参考までに、毎分300回転で換算すると、45°のProTaperの301回転は約1分です(筆者計算)。ただしこれは、同じ湾曲の中で止めずに回し続けた実験条件での数字で、臨床でファイルを何分使えるかを示すものではありません。
⑤結果②:湾曲が強く応力が高いほど、早く折れた
FEAでは、4種すべてで湾曲が強いほど最大応力が上がりました。なかでもProTaperは、どの湾曲でも最大応力が最も高く(25°で1,221MPa、35°で1,588MPa、45°で1,906MPa)、疲労試験で平均の回転数が最も少なかった結果と一致しています(ただし回転数はHeroShaperとの間に有意差なし)。著者らはProTaperを、4種の中で最も硬い(しなりにくい)ファイルと位置づけています(硬さそのものは本研究では測っていません)。
回転数と応力を並べると、応力が下がるほど破折までの回転数が増える関係が見えました。興味深いのは、湾曲に対して応力はほぼ直線的に増えるのに、回転数の減り方は直線ではないこと。著者らは、応力が上がると疲労の進みが加速すると解釈し、金属疲労でよく知られるS-N曲線(応力と破断までの繰り返し数の関係)に似ていると述べています。
例外はHeroShaper。最大応力は4種の中でおおむね低い方だったのに(25°はMtwoに次いで2番目に低く、35°と45°では最も低い)、ProTaperと同じくらい早く折れました。著者らは計算の誤差・材料の違い・表面の状態などを候補に挙げつつ、SEMでは表面の問題ははっきりせず、理由はわからないとしています。
⑥結果③:折れる場所も、計算でおおむね当たった
FEAで応力が最大になった位置は、ファイル先端から3.15〜5.58mm。疲労試験で実際に折れた位置(破片の長さ)は先端から3.28〜5.77mmで、両者はおおむね近いところにありました。
さらに、実際に折れた位置で計算された応力は、多くの条件で最大応力に近い値でした(例:ProFile 35°で1,321MPaと1,331MPa、Mtwo 45°ではどちらも1,640MPa)。著者らはこれを、FEAの模型が現実をよく再現できている裏付けであり、表面の傷を模型に入れていないのに一致したことは、ファイルの製造品質の高さも示すと解釈しています。
なお、破断面は4種・3湾曲とも、亀裂の起点→亀裂の進展→最後に一気に破断した面という疲労破折に共通する像でした。
⑦明日の臨床へ
・湾曲の強さに合わせてファイルを選ぶ。著者らは「湾曲の程度(半径)に応じて器具を選択的に使うべき」と結んでいます。本研究の4種の中では、ProTaperは応力が高く、破折と湾曲の影響を受けやすい可能性、MtwoとProFileは応力が低く、湾曲根管でより安全かもしれない(とくに35°より緩い湾曲では)と述べています。
・応力が集中するのは先端から数mmの範囲(この実験では約3〜6mm)。
なお、ここで比べた4種は2011年当時のファイルです。今では熱処理で柔軟性を高めたファイルが主流になっており、この順位がそのまま今の製品に当てはまるわけではありません。持ち帰りたいのは製品名の順位より、「湾曲が強いほど、かかる応力が上がって寿命は急に縮む」という関係の方です。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
湾曲が強いほど、NiTiファイルは早く折れる。湾曲25°→35°で破折までの回転数は4種とも元の約2〜4割に落ち(筆者計算。例:ProFile 4,681→969回転)、35°→45°の落ち方はそれより緩やかでした。4種の中ではProTaperとHeroShaperが短命の群で、ProTaperはFEAの最大応力も最も高く、平均で最も長くもったのはMtwoでした(25°ではProFileとの差は有意でない)。湾曲が強く応力が高いほど回転数は少なく、応力が最大になる位置と実際に折れた位置もおおむね一致——「応力の計算で、折れやすさと折れる場所をある程度読める」ことを示した研究です。著者らは湾曲の程度に応じてファイルを選ぶべきと結んでいます。ただし金属製の人工根管で各10本の実験で、2011年当時のファイル4種の比較です。HeroShaperだけは応力が低いのに早く折れ、理由はわかっていません。


