1問1答 論文 エンド

冷診と電気診、得意な答えが違う——5つの歯髄検査を同じ土俵に載せた

1問1答 論文 エンド

エンド|歯髄診断・感度と特異度・システマティックレビュー

冷たい刺激には反応するのに、電気診は無反応——そんな日があります。冷診・温熱診・電気診に、血流を直接みるレーザードップラーとパルスオキシメトリーを加えた5つを、28研究のメタ解析で同じ物差しに載せた論文です。血流をみる2つが最も正確。そして日常で使う3つは、当てられる答えの向きが違っていました。

論文
Diagnostic Accuracy of 5 Dental Pulp Tests: A Systematic Review and Meta-analysis
著者
Mainkar A, Kim SG
掲載
Journal of Endodontics 2018;44(5):694–702(コネチカット大学/コロンビア大学)
種類
システマティックレビュー・メタアナリシス(28研究・1964〜2016年)
PMID
29571914

冷たさには反応した。でも電気診は無反応

冷たい刺激には「しみます」と反応するのに、電気歯髄診(EPT)には無反応。あるいはその逆。歯髄診断の現場では、検査どうしで答えが割れる日があります。そのとき僕らは、どちらを重く見ればいいのでしょうか。

この問いに数字で答えるには、それぞれの検査が「何を当てるのが得意なのか」を同じ物差しで比べる必要があります。冷診(CPT)・温熱診(HPT)・電気診(EPT)に、血流を直接みるレーザードップラー血流計(LDF)とパルスオキシメトリー(PO)を加えた5つを、28研究のメタ解析で横並びにしたのがこの論文です。

まず「感度」と「特異度」の向きを揃える

読み違えないために、この論文の定義を先に押さえます。著者らは「検査が陽性=反応がない=壊死(病的)」「陰性=反応がある=生活歯(健全)」と決めたうえで数字を出しています。つまり——

感度:壊死した歯のうち、正しく「無反応」となった割合。高いほど壊死を見逃しにくい
特異度:生きている歯のうち、正しく「反応あり」となった割合。高いほど生活歯を誤って死んだ扱いにしにくい

この向きを掴むと、臨床での読み方が自然に出てきます。感度が高い検査は、反応が返ってきたときに「壊死は考えにくい」と言える特異度が高い検査は、無反応だったときに「生きているとは考えにくい」と言える。同じ検査でも、結果の向きによって発言力が変わるということです。

集めかたも確認しておきます。PubMed・Scopus・Web of Scienceの3データベースを1964年1月から2016年12月まで26のキーワードで検索し、4万件を超えるヒットから全文精査125編、最終的に28研究をランダム効果モデルでまとめています。歯髄の生死の確認は、実際に窩洞を開けて直視したもの17研究、組織学的に確かめたもの7研究、根管充填の存在によるもの8研究(4研究は2つを併用)でした。

5つを並べると、こうなった

まず全体像から。血流を直接みるLDFとPOが、感度・特異度のどちらでも最も高い値を示しました。両者のあいだに統計的な差はありません(P>.05)。

感度(感覚診)
特異度(感覚診)
感度(血流をみる検査)
特異度(血流をみる検査)

0 33.3% 66.7% 100% プール値(%) 86.7% 84.3% 72% 92.8% 77.8% 66.5% 97.5% 95% 97.3% 95.4% 冷診(CPT) 電気診(EPT) 温熱診(HPT) レーザードップラー パルスオキシメトリー 濃い棒=感度(壊死歯を壊死と判定できた割合)、淡い棒=特異度(生活歯を生活歯と判定できた割合)。灰=患者の反応をみる感覚診、ティール=血流を直接みる検査。Mainkar & Kim 2018・28研究のプール値(Table 3)

5つの歯髄検査の感度・特異度(28研究のプール値)。血流をみる2つが両方で最も高く、感覚診3つは得意な向きがそれぞれ違う

面白いのは、患者の反応をみる3つ(感覚診)の内訳です。感度は冷診が86.7%で最も高く、温熱診77.8%、電気診72.0%と続きます。感覚診どうしの比較では、冷診の感度は電気診より統計的に高い(P<.05)。温熱診との差については、原著の本文とTable 3で記述が食い違っています(表の上では差なし。後述)。それでも、壊死を見逃さないという一点で冷診が感覚診の先頭に立つことは変わりません。

ところが特異度では順位が入れ替わり、電気診が92.8%でトップ。冷診84.3%、温熱診66.5%と続きます。しかも電気診の特異度は、血流をみるLDF・POと統計的な差がありませんでした(P>.05)。生きている歯を「生きている」と判定する力に限っては、電気診はドップラーと肩を並べていたわけです。

温熱診は特異度66.5%で最下位。著者らは「感度を除くすべての診断精度の指標で最も低い値だった」として、5つの中で最も精度の低い検査と位置づけています。

「無反応=壊死?」を確率で読む

臨床でほしいのは、じつは感度・特異度そのものではなく、「この結果が出たとき、どれくらいの確率で当たっているのか」です。それがPPV(陽性的中率=無反応だったとき、本当に壊死である確率)とNPV(陰性的中率=反応があったとき、本当に生活歯である確率)。この論文では、全28研究をまとめた有病率42.8%に標準化した「調整値」として計算されています。同じ標準化をかけた「調整精度」(全体としてどれだけ正しく判定できたか)で見ると、LDF 97.1%・PO 97.4%に対して、冷診84.0%・電気診81.7%・温熱診72.3%。血流をみる2つは、3つの感覚診すべてより統計的に高い値でした(P<.05)。

調整PPV(感覚診)
調整NPV(感覚診)
調整PPV(血流をみる検査)
調整NPV(血流をみる検査)

0 33.3% 66.7% 100% その結果が当たっている確率(%) 80.7% 87.1% 88.8% 80.4% 61.9% 78.5% 93.7% 99.7% 94.3% 99% 冷診(CPT) 電気診(EPT) 温熱診(HPT) レーザードップラー パルスオキシメトリー 濃い棒=調整PPV(反応が無かったとき、本当に壊死である確率)、淡い棒=調整NPV(反応があったとき、本当に生活歯である確率)。有病率42.8%に標準化した値。Mainkar & Kim 2018(Table 3)

調整PPV=無反応だったとき本当に壊死である確率/調整NPV=反応があったとき本当に生活歯である確率(有病率42.8%に標準化)

ここで、冷診と電気診の性格の違いがはっきりします。冷診はNPV 87.1%がPPV 80.7%を上回り、「反応があった」という結果のほうが強い。逆に電気診はPPV 88.8%がNPV 80.4%を上回り、「無反応だった」という結果のほうが強い。二つの検査は、得意な答えの向きが逆なのです。

ただし電気診には落とし穴があります。感度72.0%ということは、壊死した歯の28%が電気診に反応してしまう(偽陰性)。著者らはこの高い偽陰性率を指摘したうえで、「電気診は感度が低いため、冷診と併用することが推奨される」と書いています。電気診で反応が返ってきても、それだけで生活歯と決めるのは危うい。

温熱診の調整PPVは61.9%で、5つの中で唯一6割台。無反応だったときの発言力が最も弱い検査でした。血流をみる2つはPPV 93.7%(LDF)・94.3%(PO)、NPV 99.7%(LDF)・99.0%(PO)と、いずれも高水準です。

つまり: 冷たさに反応したら「生きている」側へ、電気診が無反応なら「壊死している」側へ——確率が大きく動く。向きの違う2つを重ねるのが、感覚診でできるいちばん現実的な精度の上げ方。

なぜ血流をみる検査が強いのか

理由はシンプルで、測っているものが違うからです。冷診・温熱診・電気診は、歯髄の神経が刺激に反応するかどうかを、患者の申告を通して見ています。歯髄が生きているかどうかの本体である血流そのものは見ていません。だから患者の解釈や術者の判断が入り込みます。LDFとPOは、その血流を直接とらえる検査です。

では明日から全部これにすればいいのか、というとそう単純ではありません。著者らは先行研究を引きながら、患者の頭の動き・歯髄以外から拾ってしまうノイズ・信号検出の限界・専用プローブが要ることを、この2つに共通する課題として挙げています。さらにLDFについては、手技に左右されることと、歯肉縁より上に歯髄腔があることが前提という制約が加わります(先行のシステマティックレビューからの引用)。実際、この論文でLDFのデータが取れたのは6研究、POは4研究だけでした。

温熱診についても著者らは踏み込んでいます。加熱ガタパーチャやラバーカップでは生死を確実に判定しきれず、研究間のばらつきも大きい。だから「主たる歯髄検査としては推奨されない」。ただし熱への過敏という主訴を再現したり、生活歯ではあるが病的な歯髄の診断のために痛みを誘発したりする目的では有用かもしれない、という位置づけです。診断の主役ではなく、症状を再現する道具として残る、ということですね。

明日の臨床へ——一つで決めず、向きを重ねる

この論文が示した使い分けは、そのまま診療室の手順に落とせます。

第一に、感覚診の主軸は冷診。著者らも「感覚診のなかで冷診は総じて高い診断精度をもち、主たる歯髄検査とみなせる」と結論づけています。反応が返ってきたときの発言力(調整NPV 87.1%)を、まず基準線にします。

第二に、電気診は冷診と組み合わせる。無反応という結果は重い(調整PPV 88.8%)一方で、反応があっても壊死を否定しきれない。冷診で反応あり・電気診でも反応あり、と向きの違う2つが揃ったときに、いちばん自信をもって「生きている」と言える——冒頭の「答えが割れた歯」は、まさに一本では決めきれない歯だったわけです。

第三に、温熱診は診断の主役に置かない。「熱いものでズキンとくる」という主訴を再現したいときの道具として使う。

第四に、LDF・POは可能なら使う価値があると著者らは述べています。ただし機器と専用プローブという条件がつき、LDFではさらに歯肉縁上に歯髄腔があることが前提になるので、外傷歯の経過観察など「感覚診があてにならない場面」から検討するのが現実的でしょう。

つまり: 満点の検査は5つのどれにもない。だから一つで決めず、得意な向きが違う検査を重ねる。それがこのメタ解析のいちばん実用的な読み方。
ここだけ、冷静に補助線
28研究のうち、質が高いと評価されたのは1研究、中等度が1研究で、残りはすべて低品質でした(多くは他の検査結果や症状に対する盲検化が不十分なため)。LDFは6研究・POは4研究と数が少なく、POの感度の95%信頼区間は0.796〜0.997と幅が広いことも押さえておきたいところです。研究間のばらつきもLDF以外では大きく(I²>50)、調整値は有病率42.8%に揃えた数字なので、目の前の患者層が変われば的中率も動きます。原著の中の食い違いも一つ。本文には「冷診の感度は電気診・温熱診より有意に高い」とありますが、Table 3の有意差表記(感度列=冷診a/温熱診ab/電気診b)では冷診と温熱診のあいだに差がありません。本記事は本文の記述を残しつつ、表と食い違う部分では断定を避けています。そして最も大事な補助線は、著者ら自身が明記している一点——これらの数値は「生きているか死んでいるか」を当てる精度であって、炎症の程度や可逆・不可逆を見分ける精度ではありません。検索は2016年12月までですが、5つの検査を同じ物差しに載せた定量的な比較は、いまも診断学の見取り図として役に立ちます。

今日のひとこと

歯髄検査に満点はない。冷たさに反応したら「生きている」側へ、電気診が無反応なら「壊死している」側へ——確率を動かす向きが逆だからこそ、2つを重ねる価値がある。血流を直接みるLDF・パルスオキシメトリーは最も正確だが、機器と条件のつく選択肢。そしてこの数字はすべて「生死」の話で、可逆か不可逆かは別の問いだ。

出典:Mainkar A, Kim SG. Diagnostic Accuracy of 5 Dental Pulp Tests: A Systematic Review and Meta-analysis. J Endod. 2018;44(5):694–702. PMID: 29571914
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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