1問1答 論文 エンド

電気診・温度診は「炎症の程度」を測れない——当てられたのは「壊死があるか」だけ

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エンド|歯髄診断・検査と組織像・古典

温度診・電気診・打診・X線。僕らはこの束で、見えない歯髄の状態を推測しています。抜歯予定の166本で、抜く前の検査と抜いた後の組織像を突き合わせた研究があります。痛みの性質も、刺激後に残る痛みも、電気診の値のズレも、組織像と有意な相関を示しませんでした。それでも「反応が無い」ことは、壊死をよく言い当てていました。

論文
The dynamics of pulp inflammation: correlations between diagnostic data and actual histologic findings in the pulp(第I報)
著者
Seltzer S, Bender IB, Ziontz M
掲載
Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology 1963;16(7):846–871(ペンシルベニア大学歯学部)
種類
臨床研究(抜歯予定166本の症状・検査と組織像の突合)
PMID
13987830

「反応が返ってきた」を、どこまで信じますか

深いう蝕。冷たいものにしみて、打診にもわずかに響く。電気歯髄診をあてると、対照歯とほぼ同じ値で反応が返ってくる。——この歯髄は、まだ助かる側でしょうか。

僕らは温度診・電気診・打診・X線を束ねて、見えない歯髄の状態を推測しています。その推測がどれだけ当たるのかを、抜いて顕微鏡で確かめた研究があります。1963年、ペンシルベニア大学のSeltzerら。166本の歯を、抜く前に一通り検査し、抜いた後に切片で答え合わせしました。

先に結論を言います。検査は「炎症がどの程度か」を測れませんでした。言い当てられたのは「壊死があるかどうか」。しかもいちばん強く効いたのは、反応が「無い」ときの推論——反応が返ってきても、それは健全の証明になりませんでした。

診断名の根拠は、25年前の少数例だった

当時、歯髄の病名は臨床所見の組み合わせで決められていました。自発痛か誘発痛か、何秒続くか、電気診の値が対照歯とどう違うか。その束ね方で「急性漿液性歯髄炎」「急性化膿性歯髄炎」といった診断名を当てる。いま僕らが使う可逆性/不可逆性の判定も、発想はそのままです。

著者らは冒頭で、その対応表の出所を疑います。歯髄疾患の分類と症状の対応は「25年以上前にさかのぼる古い研究」に基づき、しかも少数の歯を調べたものだと。だから166本で、正面から検証しました。

抜く前に測り、抜いた後に覗いた166本

対象は、歯痛・矯正・歯周・補綴の理由で抜歯が決まっていた166本(全顎抜歯の一括分を含む)。抜歯前に、痛みの有無と性質、増悪因子、持続時間、挺出感、腫脹、瘻孔、変色、打診痛、動揺、根尖部の触診痛を記録し、電気歯髄診(対照歯と比較)・温度診・X線を行いました。

温度診の「異常反応」の定義が大事です。冷は氷か塩化エチル、温は加熱ガタパーチャかボールバニッシャーを歯頸部1/3にあて、刺激を除いても痛みが残るものを異常、刺激と同時に消えるものを正常としました。いま僕らが使う「lingering pain」とほぼ同じ物差しです。

抜去後は根尖1/3を切り離して固定・脱灰・薄切・H-E染色。臨床データを見ないで組織像を判定しています。

ここで著者らは壁にぶつかります。数千枚の連続切片を見た結果、従来の「充血」「急性漿液性歯髄炎」といった分類では、どうしても分けられなかった。急性歯髄炎「だけ」の像は一例も見つからず、急性はつねに既存の慢性炎症の上に重なっていたからです。そこで6つの分類(無傷・無炎症/萎縮/散在する慢性炎症細胞=移行期/慢性部分性歯髄炎/慢性全部性歯髄炎/総壊死)を作り直しました。これは組織像の区分であって、いま僕らが使う可逆性/不可逆性という臨床分類とは別物です(後の組織学的検証、たとえばDummer 1980 もこの分類を使っています)。

結果:電気診も温度診も、程度は測れなかった

まず電気歯髄診(記録できたのは129本)。対照歯と同じ反応を返した歯の割合は、無傷・無炎症で61%、萎縮で59%、移行期で50%。進んだ側では、部分壊死を伴う慢性部分性歯髄炎40%、慢性全部性歯髄炎20%、総壊死6%。大きくは下り坂ですが、壊死を伴わない慢性部分性歯髄炎が28%と谷になっていて、値から炎症の段階を読むことはできません。著者らの評価は「炎症の可能性を示唆する程度の価値はあるが、決定的にはほど遠い」。

対照歯と同じ反応
無反応

0 33.3% 66.7% 100% 電気歯髄診の反応(歯の割合 %) 61% 6% 50% 6% 59% 0% 28% 0% 40% 20% 20% 33% 6% 72% 無傷・無炎症 移行期 萎縮 慢性部分性 部分性+壊死 全部性+壊死 総壊死 電気歯髄診を記録できた129本(左から18/16/34/18/10/15/18本)。Seltzer 1963 表IVより

図1 電気歯髄診。「同じ反応」は段階を追わず、「無反応」は壊死の側でだけ立ち上がる

もう一方の「無反応」を見ると、様子が変わります。総壊死18本のうち13本(72%)が無反応。逆に、無傷・無炎症+移行期+萎縮+壊死を伴わない慢性部分性歯髄炎の4群では、無反応はわずか2.3%でした。この差は統計的に有意で(P<0.001)、つまり反応が無ければ、どこかに壊死があると考えてよい

ところが逆は成り立ちません。部分壊死・総壊死を含む群のうち、53%は電気診に何らかの反応を返していました。さらに部分壊死のあった25本の内訳は、対照より高い8本(32%)、同じ7本(28%)、低い3本(12%)、無反応7本(28%)と四つに割れ、著者らは「電気歯髄診で部分壊死を判定する方法は無かった」と書いています。

温度診(記録できたのは139本)も、形は同じでした。

正常な反応
無反応

0 33.3% 66.7% 100% 温度診の反応(歯の割合 %) 74% 5% 56% 17% 53% 3% 50% 9% 33% 25% 21% 50% 11% 78% 無傷・無炎症 移行期 萎縮 慢性部分性 部分性+壊死 全部性+壊死 総壊死 温度診を記録できた139本(左から19/18/36/22/12/14/18本)。Seltzer 1963 表Vより

図2 温度診。刺激とともに消える「正常な反応」は減り、「無反応」は壊死の側で立ち上がる

刺激とともに痛みが消える正常な反応は、無傷・無炎症の19本中14本(74%)から、総壊死の11%まで下がります。無反応は総壊死18本中14本(78%)。どちらもP<0.001でした。

問題は「異常反応」、つまり刺激を除いても残る痛みのほうです。熱への異常反応を示した歯の割合は、萎縮(=炎症のない歯髄)で39%、壊死を伴わない慢性部分性歯髄炎で36%、そして総壊死では6%。むしろ炎症のない側で高く出ていました。冷への異常反応も、全カテゴリにほぼ均等に散らばっています。著者らは「熱への異常反応と組織診断のあいだに相関は見られなかった」と書いています。

つまり: 壊死の有無と連動したのは「無反応」(温度診では「正常な反応」の減り方も)。一方、値のズレや刺激後に残る痛みは、炎症の程度を語らなかった。

当たった所見・当たらなかった所見

痛みの性質は当たらない。 鋭い、鈍い、拍動性、限局性、放散性、間欠性、持続性。どれも組織診断と有意な相関を示しませんでした。壊死を伴う慢性部分性歯髄炎・慢性全部性歯髄炎の群では、どの型の痛みも自覚される頻度が上がる傾向はありましたが、著者らの結論は、さまざまな組織病理学的状態に対する特徴的な(それと分かる)徴候は無かった、というものです。

痛みの有無と既往は当たる。 炎症のある3群(慢性部分性歯髄炎±部分壊死・慢性全部性歯髄炎)計60本では60%(36本)に痛みがあり、炎症のない3群(無傷・無炎症・萎縮・移行期)計82本では18%(15本)でした(P<0.001)。総壊死24本では54%(13本)と少し下がります(無炎症群との差はP<0.01)。排膿路ができるためではないか、というのが著者らの推測です。さらに、痛みのあった64本のうち59本(92%)に痛みの既往があり、そのうち47本(80%)で中等度〜重度の炎症か壊死が見つかりました。著者らは痛みの既往を「破壊的な歯髄病変の存在を示す重要な手がかり」と位置づけています。

打診痛は当たる。 壊死(部分・総)を伴う3群(慢性部分性歯髄炎+部分壊死・慢性全部性歯髄炎・総壊死)計60本では38%(23本)、壊死のない4群計106本では8%(9本)(P<0.001)。「打診は部分的または全部的な歯髄壊死を検出する重要な検査」という評価です。

露髄は痛みとよく結びつく。 166本中52本(31%)に露髄があり、そのうち75%(39本)が有痛(95%信頼区間 61〜88%)。逆に、痛みのあった64本のうち61%(39本)で露髄が見つかりました(同 46〜74%)。

X線は取りこぼす。 組織学的に根尖部の肉芽腫が付着していた53本のうち、歯根膜腔の拡大や透過像としてX線で読めたのは31本(58%)。う蝕も、切片で確認された106本のうちX線で検出できたのは72本(68%)で、修復物辺縁の脱灰は臨床でもX線でも見えないまま切片で見つかることがありました。根管内壁や根側面の吸収に至っては、切片では見えてもX線では捉えられていません。

そもそも対照歯が当てにならない。 電気診は対照歯との比較で読みますが、その対照歯がしばしば異常な値を返した、と著者らは書いています。同じ患者からまとめて抜いた歯を調べると、萎縮歯髄の歯と慢性歯髄炎の歯が混じっていました。つまり、対照に選んだ歯が健全とは限らない。無う蝕・無修復の歯でも萎縮歯髄のことがあり、口の中を見るだけでは見分けられません。著者らは、これが報告ごとに電気診の精度がばらつく理由ではないか、と述べています。

なぜ検査は「程度」を測れないのか

ひとつは、歯髄の炎症が連続体だからです。著者らは同じ歯でも切片の高さで診断名が変わると書いています。病変の周辺は線維とわずかなリンパ球で「修復」に見え、内側は慢性歯髄炎、中心は融解壊死=歯髄膿瘍、さらに外側は正常組織。ひとつの歯髄が、同時にいくつもの顔を持っている。

もうひとつは、炎症の広がりをコラーゲン線維が堰き止めることです。歯冠部が慢性歯髄炎でも、根管内の歯髄は拡張した血管を除けば正常に見え、それでいて根尖を越えて歯根膜に慢性炎症が及んでいた症例がありました。冠部・根尖部・歯根膜で状態がばらばらなら、一点をつつく検査がその分布を代表できるはずがありません。

明日の臨床へ——「反応の有無」を片道で使う

「反応あり=助かる」と読まない。 壊死を含む群の53%は、電気診に反応を返していました。反応が返ることは健全な歯髄の証明ではなく、確率をわずかに動かす情報です。

「無反応」は片道で使う。 反応が無ければ「少なくともどこかに壊死がある」と考えてよい。壊死のない4群で無反応は2.3%しかありませんでした。ただし逆——「反応があるから壊死は無い」——は言えません。

値のズレを程度に翻訳しない。 対照より高い/低いという読みは、組織診断と有意な相関を示しませんでした。目盛の差を炎症の深さに置き換えないことです。

刺激後に残る痛みを、単独の決め手にしない。 熱への異常反応は、炎症のない萎縮歯髄でむしろ高頻度でした。他の所見と重ねて読む材料にとどめます。

打診と痛みの既往に重みを置く。 この2つは、壊死の有無と有意に連動した数少ない所見でした。器械も追加コストも要りません。

X線の陰性を否定の根拠にしない。 肉芽腫は58%しか写らず、切片で確認されたう蝕も68%しか写りませんでした。

つまり: 検査は炎症の程度を測る道具ではなく、壊死の有無に光を当てる道具。反応の「無さ」ははっきり壊死を指す。反応が「有る」ことは確率を少し動かすだけで、健全の証明にはならない。
ここだけ、冷静に補助線
抜歯が決まっていた166本=進行例に偏ったサンプルで、1963年の組織学的手法によるものです。著者ら自身、露髄からの予測に付けた脚注で「これらは何らかの理由で抜歯せざるを得なかった特別な歯だ」と断っています。全顎抜歯の一括分を含むため同じ患者の複数の歯が混ざっていますが、原著は歯数をそのまま「患者数」と呼び、歯と人を区別せずに検定しています。統計も所見ごとの単独比較で、複数の所見を重ねたときの精度は評価されていません。また今回読んだのは第I報(Oral Surg 1963;16(7):846–871)で、考察と文献は次号の続報に載ります。従来の定説に疑いを投げたのはMitchellとTarpleeが先だと著者ら自身が書いており、この研究はそこに166本ぶんの数字を足した一本です。

今日のひとこと

電気診・温度診が測れるのは炎症の「程度」ではなく、壊死の「有無」。とくに強く読めるのは「反応が無い=どこかに壊死がある」という一方通行で、反応が返ってきても健全の証明にはならない。打診痛と痛みの既往を足して、確率として読む。

出典:Seltzer S, Bender IB, Ziontz M. The dynamics of pulp inflammation: correlations between diagnostic data and actual histologic findings in the pulp. Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 1963;16(7):846–871(第I報). PMID: 13987830
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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