エンド|同じNiTiファイルでも、モーターの動かし方(キネマティクス)を変えると繰り返し疲労による破折までの時間は変わるのか。TriAuto ZX2の連続回転・OTR・OGPを、90°に曲がった金属の人工根管で比べた実験室の研究(Gambarini 2018・Australian Endodontic Journal)
NiTiファイルの破折は、根管治療でいまも大きな心配ごとです。原因の1つが、曲がった根管の中で曲げ伸ばしが繰り返されて起こる繰り返し疲労(サイクリックファティーグ)。そして疲労への強さは、ファイルの材質や形だけでなく動かし方でも変わると言われてきました。著者らはVortex Blue 35.06を40本用意し、TriAuto ZX2(モリタ)の4つの動かし方——連続回転(CR)・OTR 180°・OGP 90°・OGP 240°——に10本ずつ割り付け、90°・半径2mmに曲がったステンレスの人工根管の中で折れるまで回しました。破折までの平均時間はCR 8.5秒、OGP 240° 45.7秒、OTR 180° 122.5秒、OGP 90° 209.4秒で、4群すべての組み合わせに有意差がありました。ただし、OGPなら何でも強いわけではなく、OGP 240°はOTR 180°より短かったこと、そして人工根管での実験で、患者さんでの破折率を比べた研究ではないことを押さえておきます。
①同じファイルでも、モーターの設定で折れにくさは変わる?
強く湾曲した根管で、NiTiファイルを回しているとき。「ここで折れたらどうしよう」と手に力が入る場面は、誰にでもあると思います。
ファイルの破折を減らす手段として、材質や熱処理の話はよく聞きます。ではもう1つの変数、モーターの「動かし方」を変えたら、同じファイルの折れにくさはどれだけ変わるのか。この研究は、TriAuto ZX2(モリタ)に入っている動かし方を、同じファイル・同じ人工根管でそろえて比べました。
結論を先に言います。折れるまでの平均時間は、連続回転 8.5秒に対し、OGP 90°は209.4秒。4つの動かし方は、すべての組み合わせで有意に違いました。ただし同じOGPでも240°の設定は45.7秒で、OTR 180°(122.5秒)より短かった。効いていたのは「OGPという名前」ではなく、設定した角度です。
②なぜ「動かし方」が折れにくさに関わるのか
NiTiファイルが根管内で折れる大きな原因の1つが繰り返し疲労です。曲がった根管の中でファイルが1回転するたびに、湾曲部の金属は引っぱられたり押されたりを繰り返し、やがて折れます。疲労への強さは断面・刃の形・太さ・合金・熱処理で変わりますが、動かし方も重要な要因だと著者らは緒言でまとめています。
著者らは、市販の動かし方を次のように整理しました(この論文の提案する分類です)。
・交互の往復(AR):時計回りと反時計回りが同じ角度。ファイルは1回転しない
・回転する往復(RR):片方の角度が大きく、往復しながら少しずつ回っていく(Reciproc・WaveOneの動き)
・組み合わせの動き:上の2つをモーターが自動で組み合わせるもの。CR+RRがTFA AdaptiveとOTR、AR+RRがOGP
TriAuto ZX2には2つの動かし方が入っています。OTR(Optimum Torque Reverse)は、ふだんは時計回りに回り、設定したトルクを超えると往復運動に切り替わるもの。OGP(Optimum Glide Path)は、バランスドフォース法をまねた動きで、同じ角度の往復と、反時計回りの方が大きい往復を交互に繰り返します。著者らによれば、OGPを調べた研究はこれまで無く、OTRの情報も少ない状態でした。
③今回の一手:同じファイル・同じ人工根管で、動かし方だけを変える
・連続回転(CR):300rpm
・OGP 240°:300rpm、往復の角度を240°に設定
・OTR 180°:300rpm、角度180°。途中で連続回転に戻らないよう、切り替えのトルクをごく低く設定した
・OGP 90°:300rpm、角度90°
・人工根管:ステンレス製、先端から5mmの位置で90°・半径2mmに曲がった、テーパーの無い管。ファイルを18mm入れ、オイルで潤滑しながら折れるまで動かした
記録したのは、破折までの時間(秒)と折れた先端の長さです。疲労試験では「何回転で折れたか(NCF)」を使うことが多いのですが、往復運動では「1サイクル」の意味が回転と違うため、動かし方どうしを比べるには向かないとして、時間で比べています。
④結果:折れるまでの時間は、動かし方で25倍近く違った
破折までの平均時間は、連続回転 8.5秒、OGP 240° 45.7秒、OTR 180° 122.5秒、OGP 90° 209.4秒。分散分析と多重比較で、4群すべての組み合わせに有意差がありました(P<0.0001)。
3つの組み合わせの動きは、どれも連続回転より長くもちました。いちばん長いOGP 90°は、連続回転の約25倍(平均時間どうしの比較)です。一方で、OGP 240°はOTR 180°の半分にも届きません。
・Weibull解析(寿命のばらつき方を見る方法)では、連続回転がいちばん短く、ばらつきも最も小さい。OGP 90°は最も長く、幅も広かった
⑤なぜ差が出たのか——「1サイクルで進む角度」
連続回転では、ファイルの周の同じ点が毎回転、湾曲部で最大の曲げ伸ばしを受けます。これに対して往復運動では、負担がかかる点が周のあちこちに分散します。
著者らの説明では、1サイクルで進む角度はOTR 180°とOGP 240°が90°(4サイクルで1回転)、OGP 90°は30°(12サイクルで1回転)。進む角度がいちばん小さいOGP 90°が最も長くもった、という結果は、この見方と合っています。
では、同じ90°ずつ進むOTR 180°とOGP 240°で差が出たのはなぜか。OGP 240°は時計回り240°・反時計回り330°と1回の振れ幅がほぼ1回転に近いためだろう、と著者らは考察しています。金属疲労は振れ幅に対して直線的でなく、少しの差が寿命を大きく変えうるからです。ここは著者らの解釈で、この実験で直接確かめたわけではありません。
⑥明日の臨床へ
・ただしOGPなら安全、ではない。OGP 240°はOTR 180°より短く、角度の設定が結果を分けていた。
・著者らは、OGP 90°は強い湾曲やS字の根管など破折リスクの高い症例で安全性を高めうると述べている(あくまで示唆)。
・今回のOTRは、連続回転に戻らないように設定した状態での値。ふだんの設定で使うOTRとは条件が違う。
・35.06という太いファイルを90°の湾曲で使うのは、臨床では勧められないかもしれない、と著者ら自身が書いている。数字は「動かし方どうしの比べ方」として読む。
湾曲が強そうな根管で「動かし方を切り替える」という選択肢があること、そしてその時は角度の設定まで意識すること。このくらいの距離感で持ち帰るのがちょうどよさそうです。
⑦ここだけ、冷静に補助線
ここからは筆者の読みです。使ったファイルはVortex Blue 35.06の1種類だけで、各群10本です。OGPはもともとグライドパス用ファイル向けの動きですが、今回は太い形成用ファイルで試しています(著者らもこの点に触れています)。方法には上下に出し入れする動作の記載がなく、ファイルを止めた位置のまま回したと読めます。OGPの180°設定とOTRの240°設定は試していません。また、抄録と本文の表で平均値が少し違います(抄録ではOGP 90° 213.39秒・OTR 180° 121.24秒・OGP 240° 45.24秒・CR 8.43秒、Table 2では209.4・122.5・45.7・8.5秒)。本記事は本文のTable 2の値を使いました。順番や結論は変わりません。それでも、同じファイル・同じ根管で動かし方だけを変え、角度の違いまで含めて比べた点は、モーターの設定を考える材料になります。著者らは利益相反は無く、記事中の企業から資金提供は受けていないと記載しています。
今日のひとこと
90°に曲がった人工根管の疲労試験で、同じVortex Blue 35.06でも、動かし方を変えるだけで破折までの時間が大きく変わりました。平均は連続回転 8.5秒 < OGP 240° 45.7秒 < OTR 180° 122.5秒 < OGP 90° 209.4秒で、4群すべての組み合わせに有意差。いちばん長くもったOGP 90°は連続回転の約25倍です。一方で同じOGPでも240°はOTR 180°より短く、「OGPなら安全」ではなく設定の角度しだいというのがこの論文の本当の中身です。そしてこれは金属の人工根管で折れるまで回した実験で、患者さんでの破折率を比べた研究ではありません。持ち帰るのは「1サイクルで進む角度が小さい動かし方ほど、疲労には強かった」という仕組みの見方です。


