エンド|歯質を残す「小さいアクセス窩洞(CEC)」は、湾曲した近心頬側根管の形成を難しくしないのか。下顎第一大臼歯の抜去歯30本をマイクロCTで形成前後に撮り、従来の窩洞(TEC)と「元の根管形態がどれだけ保たれるか」を比べた実験研究(Alovisi 2018・Journal of Endodontics)
天蓋や歯頸部の象牙質を残す小さいアクセス窩洞(contracted endodontic cavity:CEC)は、歯を強く保つ考え方として広まってきました。では、その窩洞からファイルを入れたとき、根管の形成はうまくいくのか。著者らは下顎第一大臼歯の抜去歯30本を従来の窩洞(TEC)とCECに15本ずつ無作為に分け、湾曲した近心頬側(MB)根管をProGliderとWaveOne Gold Primaryで形成して、マイクロCTで形成前後の根管を重ね合わせました。CECは削った歯質が23.01mm³(TECは53.2mm³)と半分以下で済んだ一方、ファイルの進入角度は37.6°(TECは28.1°)と大きく、WaveOne Goldで作業長に届くまでのペッキング回数は13.5回(TECは8.2回)に増えました。そして根尖から1mm・3mmの断面で、根管の中心の移動(トランスポーテーション)がCECで有意に大きかった(1mm:0.62 vs 0.42、3mm:0.64 vs 0.39)。根管の体積・表面積の増え方には差がありませんでした。歯質を残す代わりに、根尖部で元の形を保ちにくくなるというトレードオフを示した抜去歯の研究です。
①アクセス窩洞を絞ったら、根管形成はどうなる?
天蓋を少し残し、歯頸部の象牙質(pericervical dentin)を削らない——小さいアクセス窩洞(contracted endodontic cavity:CEC)は、「歯を残して強く保つ」考え方として広まってきました。
でも、実際に小さい窩洞からファイルを入れると、窩洞の壁にファイルが当たって、まっすぐ入らない感覚があります。その「当たり」は、根尖部の形成にどう響くのか。今回は、そこだけを確かめた研究です。
結論を先に言います。下顎第一大臼歯の湾曲した近心頬側根管では、小さい窩洞は削る歯質を半分以下に抑えた一方、根尖から1mm・3mmで根管の中心の移動(トランスポーテーション)が有意に大きかった。根管の体積・表面積の増え方には差がありませんでした。
②なぜ「窩洞の壁」が根尖に響くと考えられたのか
アクセス窩洞は、根管治療の土台です。天蓋を取り切れば歯髄の取り残しを防げ、窩洞の形を整えれば根管口が見つけやすく、ファイルが歯冠部で邪魔されずに入る——これが従来の窩洞(traditional endodontic cavity:TEC)の考え方でした。
一方でCECは、低侵襲歯科(MI)の流れから生まれ、歯の力学的な強さを保つことを狙っています。著者らも考察で、CECは歯質を多く残し、歯の抵抗性を高めるとする先行研究に触れています。
・小さい窩洞では、歯冠部の壁(coronal interference)にファイルが当たり、ファイルが根管の内壁ばかりを削る形になりうる
・その結果、根管が本来の位置からずれる(トランスポーテーション)おそれがある
・トランスポーテーションは、象牙質の削りすぎや湾曲の直線化を通じて長期予後に悪く響くと報告されている
・それなのに、CECが根管の形そのものにどう影響するかのデータは無かった
③今回の一手:同じ条件で窩洞だけを変え、マイクロCTで形成前後を重ねる
・根管口から根尖孔まで12±2mm
・湾曲10〜30°(Schneider法・2方向で確認)、曲率半径2〜6mm、最大湾曲点は根の中央1/3
・根管の合流や目立つイスムスがない
これを従来の窩洞(TEC)15本・小さい窩洞(CEC)15本に無作為に割り付けました。
・CEC:中心窩から開け、根管口に届く分だけ広げる。歯頸部の象牙質と天蓋の一部を残す
・TEC:すべての根管口が1つの視野に入り、根管口までまっすぐ入れるまで外形と歯頸部を整える
形成の手順は両群とも同じです。#10のKファイルで穿通して作業長を決め、ProGliderでグライドパス、WaveOne Gold Primary(25/.07・レシプロケーション)で作業長まで形成。経験のある1人の術者が行い、3回ペッキングするごとにファイルを抜いて清掃し、作業長までにかかったペッキング回数を記録しています。洗浄は5%次亜塩素酸ナトリウムと10%EDTAを各10mL。ファイルは1本ごとに新品です。
形成の前後で高解像度のマイクロCTを撮り、画像を重ね合わせて、根管の体積・表面積の増え方と、根尖から1mm・3mmの断面で根管の中心(重心)がどれだけ動いたか(centroid shift)を、割り付けを知らない評価者が計測しました。この「中心の移動」が、トランスポーテーションの指標です。
④結果①:小さい窩洞は、削る量が半分以下。ただしファイルは斜めに入る
窩洞を開けるときに削った歯質は、TECで平均53.2mm³、CECで23.01mm³。窩洞の咬合面の面積も93.7mm²と63.61mm²で、CECはたしかに歯質を大きく残していました。
その代わり、近心根管へのファイルの進入角度はTECで28.1°、CECで37.6°と大きくなりました。CECでは、実際の進入角度が「天蓋と歯冠部の邪魔を取り切った場合のまっすぐな進入」から平均9.8°ずれていました。これらはすべて両群で有意な差です(P<.05)。
⑤結果②:作業長に届くまでのペッキング回数が増えた
グライドパス(ProGlider)で作業長に届くまでのペッキング回数はTEC 3.6回・CEC 5.1回、WaveOne Goldでの形成はTEC 8.2回・CEC 13.5回。どちらもCECで有意に多くなりました(P=.02)。
同じファイル・同じ術者でも、窩洞が小さいと根尖まで行き着くのに手間がかかるということです。なお、どちらの群でもファイルの破折はありませんでした。
⑥結果③:根尖1mm・3mmで、根管の中心の移動が大きかった
根管の中心の移動は、根尖から1mmでTEC 0.42・CEC 0.62、3mmでTEC 0.39・CEC 0.64(論文の表記ではmm)。どちらの位置でもCECで有意に大きく(1mm P=.02、3mm P=.01)、元の根管の位置から外れやすかったことになります。
一方で、根管の体積の増え方(TEC 1.71・CEC 1.53mm³、P=.64)や表面積の増え方(0.41・0.60mm²、P=.16)には差がありませんでした。削った「量」は同じくらいでも、削った「場所」が違った、という読み方ができます。
⑦なぜ小さい窩洞で根尖がずれるのか
著者らの見立ては次のとおりです(この研究で直接確かめたものではなく、考察での推測です)。
小さい窩洞では、歯冠部の壁がファイルを押し、ファイルが湾曲の外側の壁へ強く押し当てられる。さらに作業長まで届くのにペッキングが増えるので、その押し当てが繰り返される。湾曲が直線化され、根尖部で根管の中心が動く——という流れです。狭い窩洞では削りくずが出にくく、ファイルの切れ味が落ちた可能性にも触れています。
著者らは、WaveOne Goldは柔軟でテーパーが歯冠側へ向かって細くなる設計のため、もともと中心を保ちやすいファイルだと述べています。そのうえで、下顎大臼歯の近心根では、さらにテーパーの小さいファイルのほうがトランスポーテーションの面では有利かもしれないとしています(これも今回は試していません)。
⑧明日の臨床へ
・特に湾曲した近心根管では、ファイルがどの角度で入っているかを意識する。窩洞の壁に当たって曲がって入っているなら、それが根尖部のずれにつながりうる。
・作業長になかなか届かず、ペッキングが増えるときは、歯冠部の壁が邪魔をしているサインかもしれない(この研究でCECはペッキングが多かった)。
・歯質をどこまで残すかと、根管口までのまっすぐな進入をどこまで確保するかは、歯ごとの湾曲や根管の難しさを見て決める。この研究は「CECをやめるべき」とは言っていない。窩洞の大きさは、歯ごとの湾曲を見て決めるのが、この結果からの筆者の読み方です。
・数字はWaveOne Gold Primaryで形成した下顎第一大臼歯の近心頬側根管の結果。別のファイル・別の根管にそのまま当てはめない。
根尖部のずれが、実際の治癒や歯の寿命にどれだけ響くかは、この研究では調べていません。「歯を強く保つ」と「根管をきれいに形成する」の両方を天秤にかける材料として読むのがよさそうです。
⑨ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
下顎第一大臼歯の湾曲した近心頬側根管で、小さいアクセス窩洞(CEC)は削る歯質を半分以下(23.01 vs 53.2mm³)に抑えた一方、ファイルの進入角度が大きくなり(37.6° vs 28.1°)、作業長までのペッキング回数が増え(13.5 vs 8.2回)、根尖1mm・3mmで根管の中心の移動が有意に大きかった。根管の体積・表面積の増え方には差がありませんでした。窩洞を絞るなら、歯質の保存と引き換えに「根尖部で元の形を保ちにくくなる」可能性がある——これが著者らの持ち帰りです。ただし抜去歯15本ずつ・1種類のファイル・近心頬側根管だけの実験で、治療の成績(治癒や歯の寿命)を見た研究ではありません。


