エンド|再根管治療でファイバーポストを外すとき、音波チップ・ロングシャンクのラウンドバー・専用の除去キットのどれを使うか。ガラス・石英・カーボンの3種類のポストを抜去歯に接着し、除去にかかった時間・削れた象牙質の量・残ったポストとセメントの量・穿孔などの失敗を、CTで比べた抜去歯の実験研究(Haupt 2017・Australian Endodontic Journal)
再根管治療でファイバーポストを外さなければならない場面。音波チップで少しずつ崩すか、長いラウンドバーで削り取るか、専用の除去キットで掘り抜くか——道具の選び方で迷う先生は多いと思います。著者らは、抜去した単根歯153本に根管充填をしたうえでガラス・石英・カーボンの3種類のファイバーポスト(各51本)を10mmの深さに接着し、それぞれをSonicFlex Endo(音波チップ)・ロングシャンクのラウンドバー・DT-Post removal kit(専用キット)で17本ずつ外しました。結果、いちばん速かったのは専用キット(平均4.7〜7.4分)、音波チップとラウンドバーは9.9〜20.8分。一方で穿孔や根の軸からの大きなずれは3方法すべてに起き、計26本(ラウンドバー14本・音波チップ8本・専用キット4本、各51本中)でした。時間・象牙質の削れ方・取り残し・安全性のすべてで良い方法は無く、どの方法でも穿孔のリスクが高い、というのが著者らの結論です。
①ファイバーポスト、どの道具で外す?
再根管治療を決めたのに、根管の入口にファイバーポストが入っている。音波チップで少しずつ崩すか、長いラウンドバーで削り取るか、専用の除去キットで掘り抜くか——手元の道具と経験で決めている先生が多いと思います。
この研究は、抜去歯153本を使って、3種類のファイバーポストを3つの方法で外し、かかった時間・削れた象牙質・取り残し・穿孔などの失敗をまとめて比べたものです。
結論を先に言います。いちばん速かったのは専用キットでしたが、穿孔や根の軸からの大きなずれは3方法すべてで起き、153本中26本。すべての項目で優れた方法は無かった、というのが著者らのまとめです。
②「ポストを外すのは怖い」は本当か
歯質が大きく失われた根管治療歯では、上部構造を保持するためにポストとコアが必要になることがよくあります。そして再根管治療になれば、そのポストを安全に、手早く外せることが前提になります。
著者らが引用する米国の歯内療法専門医への調査では、一般開業医の多くが「ポストを外すと歯根破折や穿孔が起きやすい」と考えているとされ、ポストが入った歯では再根管治療の代わりに歯根端切除術が選ばれることが多いと報告されていました。一方で、外科より非外科の再治療のほうが長期成績は良く、優先すべきだという系統的レビューもあります。
外す道具としては、超音波・音波・ラウンドバー、そしてDT-Post removal kitのような専用キット(パイロットドリルでポストの歯冠側に穴をあけ、続くカーバイドバーでポストを掘り抜く)が提案されてきました。ただ、除去のリスク・時間・確実さを比べた研究はまだ少ない、というのが今回の出発点です。
③今回の一手:3種類のポスト×3つの除去法を、CTで前後比較
そのうえで、ポストの種類で3群(各51本)に分けて、10mmの深さにDyract Cem Plusで接着。
・ガラスファイバー(Easy Post)
・石英ファイバー(DT White Post)
・カーボンファイバー(Cytec HT Post)
さらに、除去の方法で3つに分けました(各17本)。
・音波チップ:SonicFlex Endo(円錐チップ#67)
・ラウンドバー:ロングシャンクのラウンドバー(サイズ12・1500rpm)
・専用キット:DT-Post removal kit(パイロットドリルのあとカーバイドドリル・2000rpm)
どの道具も10mmの深さまで、歯の長軸に平行に軽い力で進めています。
評価は4つ。フラットパネル型のボリュームCT(解像度150μm)で除去の前後を撮影し、①根管壁に残ったポストとセメントの量、②削れた象牙質の量(除去前後の根管の体積の差)を計測。③除去にかかった時間はストップウォッチで、ポストに触れた時点からガッタパーチャが見えるまで。④穿孔・根の軸からの大きなずれ・歯根破折を「重い失敗」として記録しました。
ひとつ大事な条件があります。この研究では、拡大鏡も顕微鏡も使わずにポストを外しています(同じ種類の先行研究に合わせたもの)。
④結果①:穿孔・大きなずれは3方法すべてで起きた
穿孔と根の軸からの大きなずれは、合計26本(153本中・本文の件数から計算すると17%)。内訳はラウンドバー14本、音波チップ8本、専用キット4本で、各51本に対する割合に直すと27%・16%・8%でした。
ポストの種類別では、ガラス9本・石英11本・カーボン6本(各51本中)。側方への穿孔は、ポストの種類にかかわらず主にラウンドバーで起きていました。一方、歯根破折は石英ポストをラウンドバーで外した1本だけです。
⑤結果②:いちばん速いのは専用キット
専用キットはガラス6.2分・石英4.7分・カーボン7.4分。どのポストでも、音波チップとラウンドバーより有意に短い時間で外せました。
音波チップはガラス9.9分・石英12.7分・カーボン20.8分、ラウンドバーは9.9分・10.5分・14.1分。どちらもカーボンポストだけ有意に時間がかかりました。著者らは、カーボンポストは圧縮強さが高く割れにくいという別の研究を引いて、材料の性質の違いが時間の差になった可能性を挙げています。
⑥結果③:象牙質は平均でラウンドバーが多く削れた(有意差はカーボンのみ)
平均値でいちばん多く削れたのはラウンドバーで、とくに石英24.5mm³・カーボン28.9mm³。ただしガラスポストでは、ラウンドバー16.0mm³に対して専用キットが17.8mm³で、ここでは専用キットのほうが多い値でした。
統計で見ると、ラウンドバーが他の2方法より有意に多く削っていたのはカーボンポストだけです。ガラスポストでは3方法に有意差は無く、石英ポストでは専用キットが他の2方法より有意に少なかったという結果でした。著者らは、カーボンポストをラウンドバーで外したときに最も多く削れた理由を、バーを根の長軸に平行に保ちにくいためだろうと推測しています。
いちばん少なかったのは石英ポストを専用キットで外したとき(5.5mm³)。音波チップは10.3〜18.5mm³で、ポストの種類による差が出なかった唯一の方法でした。
なお、取り残しの量は標準偏差(4.0〜11.3mm³)が平均より大きく、1本ごとのばらつきがかなり大きい指標です。
⑦なぜ「これ一択」にならないのか
3つの結果を重ねると、道具ごとの得手不得手が見えてきます。
専用キットは速く、穿孔・ずれも件数では最も少なかった(検定なし)。でもカーボンポストでは取り残しが多い。ラウンドバーは取り残しは少ないものの、カーボンポストでは象牙質を有意に多く削り、穿孔・ずれも件数では最多。音波チップは取り残しが少なく、ポストの種類で削れ方がぶれにくい一方、カーボンポストでは平均20.8分かかりました。
だから著者らは、時間・象牙質の削れ方・確実さ・安全性のすべてで満足できる方法は無かったと結論し、どの方法でも穿孔と根軸のずれは深刻な問題だと強調しています。取り残しについては、治療を進める中で見つけて取り除けば挽回できる、とも述べています。
⑧明日の臨床へ
・ラウンドバーは件数で穿孔・ずれが最多(51本中14本)。カーボンポストでは象牙質を有意に多く削った(平均28.9mm³)。著者らは、バーを根の軸に平行に保ちにくい可能性を挙げている。
・専用キットは速く、穿孔・ずれも件数では少なかった(検定なし)が、カーボンポストでは取り残しが多かった。
・外す前にポストの種類を確かめる。カーボンは時間がかかり、専用キットでは残りやすかった。
・著者らも、臨床では顕微鏡で拡大して外すべきと書いている。この研究の数字は、拡大なしで外したときのもの。
患者さんに再根管治療を説明するときも、「ポストを外す段階に穿孔のリスクがある」ことを最初から共有しておくと、外科か非外科かの相談がしやすくなりそうです。
⑨ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
この研究の3方法では、専用キット(DT-Post removal kit)がいちばん速く(平均4.7〜7.4分)、穿孔・大きな根軸のずれも件数では最も少なかった(51本中4本・検定なし)一方、カーボンポストでは取り残しが有意に多くなりました。ラウンドバーは穿孔・ずれが51本中14本と件数で最多で、カーボンポストでは象牙質を有意に多く削りました。音波チップはポストの種類による象牙質の削れ方の差が小さかったものの、カーボンポストでは平均20.8分かかりました。すべての項目で優れた方法は無く、3方法とも穿孔のリスクが高い——これが著者らの持ち帰りです。ただし拡大鏡・顕微鏡を使わずに、まっすぐな単根の抜去歯で外した実験で、口の中での成績を見た研究ではありません。


