1問1答 論文 エンド

根管治療した大臼歯、辺縁隆線が残っていれば咬頭は覆わなくていい?——抜去歯36本の実験では、辺縁隆線が残る側の咬頭も剛性が下がり(基準100→95)、平均値が基準を上回ったのは覆った咬頭だけだった(Linn・Messer 1994)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管治療を模した抜去下顎大臼歯36本で、窩洞形成と6通りの修復が咬頭の剛性(たわみにくさ)をどう変えるかを、ひずみゲージで測った実験(Linn・Messer 1994・Journal of Endodontics)。破折や臨床成績を調べた研究ではない

根管治療した大臼歯で、辺縁隆線が片方残っているとき、その隣の咬頭まで覆うべきか。メルボルン大学のLinnとMesserは、抜去した下顎大臼歯36本で、窩洞形成と修復のたびに咬頭のひずみを測りました。相対剛性(アクセス窩洞と根管拡大を終えた時点=100)は、MO形成で近心81・遠心95、MOD形成で近心60・遠心61。咬頭を覆わないアマルガム充填では基準まで戻らず、平均値が基準を上回ったのは覆った咬頭だけでした(全咬頭を金合金で覆うと近心125・遠心129)。ただし修復法ごとの検定で有意だったのは近心咬頭だけで、測ったのは100Nまでの荷重での剛性です。抜去歯の実験として読む1本です。

論文
Effect of Restorative Procedures on the Strength of Endodontically Treated Molars
著者
Jack Linn, Harold H. Messer(メルボルン大学歯学部・オーストラリア)
掲載
Journal of Endodontics 1994;20(10):479-485. doi:10.1016/S0099-2399(06)80043-9
種類
抜去歯を使った実験室の研究(in vitro)。ヒトの下顎大臼歯36本(6群×6本)。歯を壊さない非破壊試験で、100Nまでの垂直荷重をかけたときの咬頭のひずみから相対剛性を求めた。同じ歯で形成前後・修復後を順に測定。破折強度・繰り返し荷重・臨床成績は調べていない。荷重した咬頭が引張を示した歯は計算から除外(除外数の記載なし)
資金・利益相反
原著に資金提供・利益相反の記載は見当たらない。本文には使用したアマルガムと金合金の製品名が登場する
PMID
7714419

①辺縁隆線が残っていれば、咬頭は覆わなくていい?

根管治療をした下顎の大臼歯。近心には窩洞があるけれど、遠心の辺縁隆線はきれいに残っている。「歯質はなるべく残したい。遠心の咬頭まで削って覆うのは、やりすぎではないか」。そう迷う場面は多いはずです。

メルボルン大学のLinnとMesserは1994年、この疑問を抜去歯で確かめました。同じ歯に窩洞形成と修復を順に行い、そのたびに咬頭のたわみ(ひずみ)を測った実験です。

先に断っておきます。これは抜去した下顎大臼歯36本の実験室の研究です。測ったのは100Nまでの荷重での咬頭の剛性(たわみにくさ)で、歯が割れる力や、口の中での破折・生存率を調べたものではありません。

結論を先に書きます(数字は相対剛性。アクセス窩洞と根管拡大を終えた時点を100とした値)。
・MO形成(近心の辺縁隆線を失う)で、近心咬頭は81、遠心咬頭は95に低下(36本)。遠心の辺縁隆線が残っていても、遠心咬頭のひずみは基準より有意に増えた
・MOD形成(両方の辺縁隆線を失う)では、近心60・遠心61(18本)
・咬頭を覆わないアマルガム充填では、基準まで戻らなかった(MODで近心82・遠心80。有意な変化なし)
・近心咬頭だけを覆うと、平均値が基準を上回ったのは覆った近心咬頭だけ(金合金153・アマルガム125。有意だったのは金合金のみ)
・全咬頭を覆うと、金合金で近心125・遠心129、アマルガムで近心175・遠心102。ただし修復法ごとの検定で有意だったのは近心咬頭だけ
・著者らの結論:根管治療した大臼歯では、歯質(辺縁隆線を含む)を残すことより、咬頭を覆うことのほうが重要だと示唆される

②なぜ迷うのか:覆えば守れる、でも削れば弱くなる

著者らは序文で、当時の考え方をこう整理しています。根管治療歯が割れやすいのは、歯がもろくなるからではなく、歯質を失うからだと考えられる。臼歯は咬頭を覆うと予後が良くなるという報告がある。だから根管治療した臼歯は、咬頭を覆う修復が最低限とされてきた。

一方で、咬頭を覆うには歯を削ります。辺縁隆線を失うことが歯の強さを最も下げる、という先行研究もあります。「覆って守る」と「残して守る」がぶつかるわけです。

大臼歯は咬頭が4つ以上あり、辺縁隆線が片方だけ残ることがよくあります。それなら、残った辺縁隆線のそばの咬頭は覆わなくてもよいのではないか。著者らはここを確かめようとしました。

③今回の一手:同じ歯を、削るたび・詰めるたびに測る

歯を壊さずに、弱い力をかけて咬頭のたわみを測る方法(非破壊試験)を使っています。壊さないので、同じ歯で「形成前 → MO形成 → MOD形成 → 修復後」と順に比べられます。

方法(原著の記載)
・対象:抜去したヒトの下顎大臼歯36本(う蝕のない、4〜5咬頭の歯)。歯冠の大きさ順に並べ、6群に6本ずつ振り分けた
・測り方:4つの咬頭の歯頸部寄りにひずみゲージを貼り、直径6.4mmの鋼球で近心の2咬頭、または遠心の2咬頭に荷重をかけた。最大100N(毎秒20Nで5秒)。条件ごとに5回の平均
・基準(100):アクセス窩洞を開け、ゲーツグリデンドリル(#2・#3)で根管を長さの1/3〜2/3まで拡大した時点。無傷の歯ではない
・相対剛性=基準のひずみ÷その条件のひずみ(%)。ひずみが増えるほど値は下がる。統計は相対剛性ではなく、ひずみの実測値で行われた
・窩洞:全36本に保存的なMO窩洞(咬合面の深さ1.5mm、峡部の幅は咬頭間の約1/3)。うち18本はさらにMOD窩洞へ
・修復は6通り:MOはアマルガム充填/近心咬頭だけアマルガムで被覆/近心咬頭だけ金合金アンレーで被覆。MODはアマルガム充填/全咬頭をアマルガムで被覆/全咬頭を金合金アンレーで被覆
・咬頭の削除量:アマルガム被覆は2mm(バットジョイント)、金合金は1mm(リバースベベル付き)。金合金アンレーはリン酸亜鉛セメントで合着

④結果1:辺縁隆線を1つ残しても、咬頭はたわみやすくなった

0 30 60 90 120 相対剛性(アクセス窩洞+根管拡大後=100) 81 60 61 95 基準=100(アクセス窩洞+根管拡大後) MO形成(36本) MOD形成(18本) 近心咬頭に荷重 遠心咬頭に荷重 原著の本文の値(図3)。抜去した下顎大臼歯に100Nまでの荷重をかけ、咬頭のひずみから求めた相対剛性。 4つの値はすべて基準より有意にひずみが大きい。MO形成では、遠心辺縁隆線が残る遠心咬頭のほうが 近心咬頭より有意にひずみが小さかった(p=0.028)。破折の強さを測ったものではない
窩洞形成と咬頭の相対剛性(原著の本文の値と図3)

MO形成で、近心咬頭の相対剛性は81、遠心咬頭は95になりました。どちらも基準より有意にひずみが増えています(近心 p<0.0001、遠心 p=0.0016)。遠心咬頭は、遠心の辺縁隆線が残っているぶん近心咬頭より低下が小さく(p=0.028)、それでも基準には届きませんでした。

MOD形成では、近心60・遠心61。近心と遠心の差はなくなり、どちらも基準やMO形成後より有意にひずみが増えました(近心はどちらも p<0.0001、遠心は基準と比べて p=0.0009、MO形成後と比べて p=0.0026)。

著者らはここから、どちらの辺縁隆線を失っても、隣の咬頭だけでなく全ての咬頭が弱くなる、と読んでいます。なお、著者らが引く小臼歯の先行研究では、両方の辺縁隆線を失うと剛性は約60%下がっていました。今回の大臼歯では約40%の低下で、著者らは歯質の量が多いためではないかと考えています。

⑤結果2:平均値が基準を上回ったのは、覆った咬頭だけ

MO窩洞の修復(遠心の辺縁隆線を残した3群。原著の本文と図4)
・アマルガム充填(被覆なし):近心・遠心とも、形成後から剛性は増えなかった(本文に数値はなく、図のみ)
・近心咬頭だけアマルガムで被覆:近心125、遠心84(遠心はさらに下がった)。修復法ごとの検定では、近心の増加も有意ではない
・近心咬頭だけ金合金で被覆:近心153(有意、p<0.05。原著は「72%の回復」とも書くが、何に対する72%かの説明はない)。遠心は「増えなかった」とだけ書かれ、本文に数値はない
・3つの修復法の差は、近心咬頭でだけ有意(分散分析 p=0.02)。覆っていない遠心咬頭のひずみは、どの修復でも、形成後とも基準とも有意な差がなかった

次は、両方の辺縁隆線を失ったMOD窩洞です。

0 50 100 150 200 相対剛性(アクセス窩洞+根管拡大後=100) 60 61 82 80 175 102 125 129 基準=100(アクセス窩洞+根管拡大後) MOD形成のみ(18本) アマルガム充填(咬頭被覆なし) アマルガムで全咬頭被覆 金合金で全咬頭被覆 近心咬頭に荷重 遠心咬頭に荷重 原著の本文の値(図5の全4条件)。修復は各6本。荷重した咬頭が引張を示した歯は計算から除外 (除外数の記載なし)。修復法ごとの検定で有意だったのは、アマルガム・金合金の全咬頭被覆の 近心咬頭だけ。遠心咬頭は修復法ごとでは有意に届かず、アマルガム充填(被覆なし)も有意な変化なし。 剛性(たわみにくさ)の値で、破折の強さを測ったものではない
MOD窩洞の修復と咬頭の相対剛性(原著の本文の値と図5の全4条件。修復法ごとの検定で有意だったのは全咬頭被覆の近心咬頭だけ)

咬頭を覆わないアマルガム充填は、近心82・遠心80。形成後(60・61)より少し戻りましたが、基準には届かず、有意な変化でもありませんでした。

全咬頭を覆うと、平均値は基準を上回りました。アマルガムでは近心175・遠心102、金合金では近心125・遠心129です。金合金のほうが近心と遠心でそろっています。

統計の結果は、平均値ほどはっきりしていません。全体の分散分析では、近心咬頭の修復後のひずみは、形成後とも(p=0.024)基準とも(p=0.009)有意な差がありました。遠心咬頭は、形成後とは有意な差があり(p=0.0018)、基準とは有意な差がありませんでした。修復法ごとに見ると、アマルガム充填(被覆なし)は有意な差を示せず、有意だったのはアマルガム被覆と金合金被覆の近心咬頭だけです。著者ら自身も「全ての比較が統計的に有意だったわけではない」と書いています。

⑥なぜ金合金のほうがそろっていたのか(著者らの考察)

・金合金アンレーにはリバースベベルがあり、咬頭を外から抱え込んでつなぎとめる効果(スプリント効果)があった、と著者らは説明している
・アマルガムの被覆にはリバースベベルがなく、厚みを確保するために咬頭を2mm削る必要があった(金合金は1mm)
・アマルガム全咬頭被覆の「近心175・遠心102」という開きは、咬合面の形を元どおりに戻しにくく、荷重のかかり方がわずかに変わったためかもしれない(著者らの推測)
・MODのアマルガム充填で剛性が少し戻った理由は、著者らも「不明」としている。髄室と根管口まで詰めたアマルガムが内側から支えた可能性を挙げる

⑦明日の臨床へ

著者らの主張(原著に書かれていること)
・大臼歯では、辺縁隆線を1つ残しても、隣の咬頭の強さは完全には保たれない
・一部の咬頭だけを覆っても、補強されるのは覆った咬頭だけ
・全咬頭の被覆(金合金またはアマルガム)は全ての咬頭を強くするが、金合金のほうが安定していた
・これらは、根管治療した大臼歯では、歯質(とくに辺縁隆線)を残すことより咬頭を覆うことのほうが重要だと示唆する。著者らは考察で「残った辺縁隆線を犠牲にするほうが安全」とも書いている
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・この実験が比べたのは、アマルガムと、リン酸亜鉛セメントで合着した鋳造の金合金アンレーです。接着性レジンセメントで着けるセラミックやコンポジットレジンの修復は調べられていません。いまの接着修復にそのまま当てはめることはできません
・「全部被覆冠か、アンレーか」も比べていません。調べたのは、咬頭を覆うか覆わないか、どこまで覆うかです
・「遠心は残して近心だけ覆う」設計を考えるとき、著者らが考察で「修復で覆われなかった咬頭は、基準より弱いままだった」と書いていることは判断材料の1つになります(近心だけを覆った2群で本文に数値があるのは、アマルガム被覆の遠心84だけです)
・この実験のMO窩洞は保存的な大きさです(咬合面の深さ1.5mm、峡部は咬頭間の約1/3)。歯質をもっと大きく失った歯でどうなるかは、この実験からは分かりません
・咬頭を覆うには削る量が要ります(この実験では金合金1mm、アマルガム2mm)。残った歯質の厚み、対合歯、咬合力と合わせて決める話で、この論文だけでは決められません
ここだけ、冷静に補助線この論文は、抜去歯36本・各群6本の実験室の研究です。荷重した咬頭が引張のひずみを示した歯は剛性の計算から外されており、一部の群は6本より少なくなっています(何本外れたかは書かれていません)。
測ったのは、100Nまでの垂直の荷重をかけたときの咬頭の剛性です。歯が割れる力、繰り返しの荷重、横からの力、長い期間の経過は調べていません。論文の題は「強さ(strength)」ですが、実際に測ったのは剛性で、「剛性が高いほど割れにくい」は前提として置かれています。
基準は無傷の歯ではなく、アクセス窩洞と根管拡大を終えた歯です。根管充填をしたという記載はありません。「100を超えた」は、無傷の歯より強くなったという意味ではありません。
平均値では全咬頭の被覆で基準を上回りましたが、修復法ごとに有意だったのは近心咬頭だけです。アマルガム被覆の遠心咬頭は102で、著者らも「基準を上回る増加は見られなかった」としています。本文に標準偏差の数値はなく、ばらつきは図の誤差線でしか読めません。
原著の中で数字が食い違う箇所もあります。MO形成後の遠心咬頭は、結果では「基準の95%」、考察では「6%の低下」です。この記事は結果の値(95)で書きました。また、近心咬頭だけを覆った群の遠心咬頭について、考察は「基準より弱いままだった」としますが、本文に数値があるのはアマルガム被覆(84)だけで、金合金被覆は「増えなかった」としか書かれていません(図4では基準の近くに見えます)。
材料は1994年当時のもので、接着修復は含まれていません。資金提供や利益相反の記載は、原著には見当たりません。
それでも、「辺縁隆線が残っていれば大丈夫」という直感を、同じ歯で順に測って確かめた意味は大きい1本です。根管治療した大臼歯の修復設計を考えるときの、出発点の1つになります。

今日のひとこと

この実験が示したのは、辺縁隆線が1つ残っていても、根管治療を模した大臼歯の咬頭はたわみやすくなっていたということです(MO形成で近心81・遠心95、MOD形成で近心60・遠心61。基準=100)。咬頭を覆わない修復では基準まで戻らず、平均値が基準を上回ったのは覆った咬頭だけでした。全咬頭を金合金で覆うと近心125・遠心129。ただし修復法ごとに有意だったのは近心咬頭だけで、抜去歯36本に100Nまでの荷重をかけて剛性を測った実験です。破折や臨床成績を調べたものではありません。著者らは、根管治療した大臼歯では歯質(辺縁隆線を含む)を残すことより咬頭を覆うことのほうが重要だと示唆しています。筆者の読みでは、「残っているから大丈夫」と決める前に、覆わない咬頭がどうなるかを一度立ち止まって考えるための1本です。

Linn J, Messer HH. Effect of restorative procedures on the strength of endodontically treated molars. J Endod. 1994;20(10):479-485. doi:10.1016/S0099-2399(06)80043-9. PMID: 7714419
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。