1問1答 論文 エンド

ポスト形成後に残した根管充填5mm、細菌は何日で通り抜ける?——抜去歯の実験(実験群30本)で、嫌気性菌が根尖側で検出されたのは48日目から84日目、本文の記載では90日時点で80%(Barrieshi 1997・実験室の研究)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管充填のあとポスト孔を形成してガッタパーチャを5mm残した抜去歯に、嫌気性菌3種の混合液を90日間入れ続け、菌が根尖側へ抜けるまでの日数を調べた実験室の研究(Barrieshi ら 1997・Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod)。患者の口の中での成績ではない

ポスト形成のあと、仮封が外れたり築造までに間があいたりしたとき、残した根管充填はどのくらい菌を止められるのか。アイオワ大学のBarrieshiらは1997年、抜去した上顎前歯を側方加圧充填し、ポスト孔を形成してガッタパーチャを5mm残した歯の歯冠側に、嫌気性菌3種(F. nucleatum・P. micros・C. rectus)の混合液を90日間入れ続けました。実験群30本で菌が根尖側の液から見つかり始めたのは48日目、通過は84日目まで続き、本文は90日時点で80%の歯に漏洩があったと書いています。ガッタパーチャ1本だけの陽性対照は9日以内(平均6日)、根面を全て封鎖した陰性対照は90日間検出なし。P. micros は実験群では通過しませんでした。抜去歯を使った実験室の研究で、口の中で何日もつかを示す数字ではありません。

論文
Coronal leakage of mixed anaerobic bacteria after obturation and post space preparation
著者
Kefah M. Barrieshi, Richard E. Walton, William T. Johnson, David R. Drake(アイオワ大学・米国)
掲載
Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology, Oral Radiology, and Endodontics 1997;84(3):310-314. doi:10.1016/s1079-2104(97)90349-8
種類
抜去歯を使った実験室の研究(in vitro)。ヒトの上顎前歯の抜去歯40本(実験群30本・陽性対照5本・陰性対照5本)。統計的な検定の記載はない。ポスト形成をしていない歯との比較はない
資金・利益相反
原著に資金提供・利益相反の記載は見当たらない。本文にはシーラーの製品名(Roth’s sealer)が1か所出てくる
PMID
9377197

①ポスト形成のあと、歯冠側が開いたままだと何日もつ?

根管充填が終わり、ポスト孔を形成した。ところが次の予約までに仮封が外れた。あるいは築造までに間があいてしまった。根尖側にガッタパーチャを残してあるから大丈夫、と考えてよいのでしょうか。

アイオワ大学のBarrieshiらは1997年、抜去歯を使った実験でこの問いに取り組みました。根管充填のあとポスト孔を形成してガッタパーチャを5mmだけ残した歯の歯冠側に、嫌気性菌3種の混合液を入れ続け、菌が根尖側へ抜けるまでの日数を調べています。

先に断っておきます。これは抜去歯を使った実験室の研究(in vitro)です。患者さんの口の中で根管充填が何日もつかを調べた研究ではありません。

結論を先に書きます。
・実験群(30本)で、根尖側の液から菌が見つかり始めたのは48日目。そのあと84日目まで、菌の通過が続いた
・90日時点で、80%の歯に F. nucleatum と C. rectus の漏洩があった(本文の記載)
・ガッタパーチャ1本だけで充填した陽性対照(5本)は、9日以内(平均6日)に3菌種すべてが通過した
・根面全体をワックスで覆った陰性対照(5本)は、90日間、菌が検出されなかった
・3菌種のうち P. micros は、実験群の根尖側の液からは90日間検出されなかった
・電子顕微鏡では、観察した全ての試料で、根管壁に菌が定着していた

②この実験がやったこと

実験のモデル 上の部屋:菌液 1ml 嫌気性菌3種・3日ごとに交換 ポスト孔(空洞) 根面はワックス3層 残したガッタパーチャ 5mm 下の部屋:HBSS 8ml 根尖2mmを浸す・3日ごとに培養 37℃・嫌気条件で90日間 3つの群と、菌が根尖側へ抜けた日数 陽性対照(5本) ガッタパーチャ1本だけで充填 9日以内(平均6日) 3菌種すべてが通過 実験群(30本) 側方加圧充填 → ポスト形成(5mm残す) 48〜84日目 48日目から検出され、84日目まで続いた 90日時点で80%に漏洩(本文の記載) 通過は F. nucleatum と C. rectus 陰性対照(5本) 実験群と同じ処置+根面全体をワックスで封鎖 90日間 検出なし 原著の図1と本文をもとに作図した模式図(寸法や形は正確ではない)。HBSS=ハンクス平衡塩溶液(無菌の液)。P. micros は、実験群の下の部屋からは90日間検出されなかった。抜去歯の実験で、臨床成績ではない
実験モデルの模式図と3つの群の結果(原著の図1と本文をもとに作図。抜去歯の実験で、臨床成績ではない)

使ったのは、う蝕も修復もない上顎前歯の抜去歯40本です。ステップバック法で40号まで形成し(洗浄は2.5%次亜塩素酸ナトリウム)、ガッタパーチャとシーラーで側方加圧充填しました。そのあと熱したプラガーでポスト孔を形成し、ガッタパーチャを5mm残しています。

実験の組み立て
・歯のセメントエナメル境に小さなチューブを接着して「上の部屋」を作り、菌液1mlを入れる
・根の表面は、根尖2mmを除いてスティッキーワックス3層で覆う(根面から菌が入るのを防ぐため)
・根尖2mmを、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)8mlに浸す。これが「下の部屋」
・装置ごとガンマ線で滅菌してから実験を始める
・菌は、感染根管からよく分離される偏性嫌気性菌3種(Fusobacterium nucleatum、Peptostreptococcus micros、Campylobacter rectus)の混合
・37℃の嫌気条件で90日間。上の部屋の菌液は3日ごとに交換し、下の部屋の液は3日ごとに1ml採って培養して、どの菌が何日目に出てくるかを記録した
3つの群(合計40本)
・実験群(30本):上の手順で充填し、ポスト孔を形成した歯
・陰性対照(5本):実験群と同じ処置をしたうえで、根面全体をワックスで覆った歯
・陽性対照(5本):形成は実験群と同じで、ガッタパーチャ1本だけで充填した歯

もう1つの評価として、2週間ごとに実験群から1本を無作為に選び、縦に割って、根管壁を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察しています。

③結果:48日目から漏れ始め、84日目まで続いた

0 10本 20本 30本 漏洩が確認された歯(本) 7本 3本 7本 7本 12本 11本 13本 13本 19本 19本 21本 21本 48日目 54日目 60日目 66日目 72日目 84日目 F. nucleatum C. rectus(図の凡例の表示は P. micros) 原著の図3の全12本の棒から読み取った値(本文に表はない。縦軸の上限30本は実験群の本数)。2本目の系列は、図の説明文と本文では C. rectus、図の凡例では P. micros と書かれている。本文は「90日時点で80%」とするが、84日目の21本は30本に対して70%で、80%の分母は書かれていない。抜去歯の実験で、臨床成績ではない
漏洩が確認された実験群の歯の本数(原著の図3から読み取った値。抜去歯の実験で、臨床成績ではない)

実験群で、下の部屋から菌が見つかり始めたのは48日目でした。そこから84日目まで、菌の通過が続きます。原著の図3を読み取ると、F. nucleatum が検出された歯は48日目に7本、60日目に12本、72日目に19本、84日目に21本でした。本文に表はないので、図の棒の高さから読み取った値です。本数が減らずに増えていくので、累計と読めます(原著に累計との明記はありません)。

本文は、90日時点で80%の歯に F. nucleatum と C. rectus の漏洩があった、と書いています。

対照群はどうだったか
・陽性対照(ガッタパーチャ1本だけ):9日以内(平均6日)に3菌種すべてが通過
・陰性対照(根面全体をワックスで封鎖):90日間、検出なし
・著者らは、上の部屋の菌数は90日間ほぼ一定だったと書いている(原著の図2では、1mlあたりの菌数の対数で、およそ6〜8台の間を上下している)
・著者らは、陽性対照と陰性対照は予想どおりの結果だったと書いている
菌種による違い
・実験群で根尖側まで抜けたのは、F. nucleatum と C. rectus の2種
・P. micros は、上の部屋には常に多く存在していたのに、実験群の下の部屋からは90日間検出されなかった
・著者らは「理由は不明」としたうえで、根管内の栄養条件が合わなかった可能性と、根管壁に強く付着して安定した微小コロニーを作った可能性を挙げている
・陽性対照では、P. micros を含む3菌種すべてが通過している

SEMでは、観察した全ての試料で、根管壁に菌の定着が見られました。根尖部の、主にガッタパーチャに隣り合う根管壁に、球菌と桿菌が混ざったバイオフィルムができていたと報告されています。

④ほかの漏洩実験と比べると(著者らの考察)

著者らは考察で、過去の漏洩実験と日数を比べています。

著者らの対比(いずれも別々の実験で、条件が違う)
・色素や放射性同位元素は、細菌よりずっと速く通り抜ける。放射性同位元素は早いものは1日、色素は3日でかなり漏洩した、という報告を引いている
・今回のモデルのもとになった Gish らの実験(ポスト形成後の歯に、通性嫌気性菌1種の S. anginosus)は平均72日。著者らは今回の結果と近いと書く

著者らは細菌を使ったほかの実験の日数も挙げていますが、方法が違うので直接比べるのは難しい、としています。形成法、充填法、残っている充填材の量、菌の種類と濃度などで日数は変わりうる、という説明です。

⑤明日の臨床へ

著者らが書いていること
・歯冠側の封鎖が失われると、漏洩は起こる(結論)
・歯冠側の封鎖は、治療の予約の間も、根管充填と修復のあとも、保つことが大切(緒言)
・ポスト形成のあとは、菌や刺激物が根尖周囲へ届くまでに通り抜ける充填材が少なくなる(緒言)
・充填材より歯冠側の空洞は、栄養の入った「小さな試験管」のように働き、混合細菌が育ちやすい環境になりうる(緒言)
・漏洩までの時間は臨床的に重要だろうとしつつ、実験室の研究は口の中の動的な環境を再現しきれない、と自ら限界を書いている
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・「何日までなら再根管治療は要らない」という線引きは、この実験からは引けません。48日という数字は、この条件(上顎前歯、側方加圧充填、5mm残し、3菌種の混合液)での値です
・それでも、歯冠側が開いたままなら、残したガッタパーチャ5mmを菌が通り抜けうることは、実験室では示されています
・ポスト形成から築造までの間をあけない、仮封や仮歯が外れたら早めに来院してもらう。こうした日常の説明の、裏づけの1つになります
ここだけ、冷静に補助線この論文は抜去歯を使った実験室の研究で、統計的な検定の記載はありません。患者さんの口の中で起きることを直接調べたものではなく、根尖側の液から菌が検出されることと、根尖病変ができることは別の話です。
入れたのは唾液ではなく、培養した嫌気性菌3種の混合液です。菌液を3日ごとに入れ替え、90日間ずっと嫌気条件で培養しています。著者らは混合培養のほうが臨床に近いと述べていますが、実際の口の中とは条件が違います。
比較の群に「ポスト形成をしていない、根管充填が全長残った歯」はありません。ですから、ポスト形成によって漏洩がどれだけ早まるかは、この実験だけでは分かりません。条件も、上顎前歯・側方加圧充填・シーラー1種類(Roth’s sealer)・5mm残しの1通りです。
数字の読み方にも注意が要ります。本文は「90日時点で80%」と書きますが、図3の最後(84日目)は21本と読め、30本を分母にすると70%です。80%の分母は書かれていません(2週間ごとに1本ずつ電子顕微鏡用に割っているので、分母が30本より少ない可能性はあります)。また図3の凡例は2本目の棒を P. micros と表示していますが、図の説明文と本文では C. rectus です。この記事は本文の記載に合わせました。
資金・利益相反:原著に記載は見当たりません。
それでも、「歯冠側の封鎖を失えば、残した根管充填を菌が通り抜けうる」ことを、感染根管でよく見つかる嫌気性菌の混合で、日数とともに示した実験です。ポスト形成後の封鎖をなぜ急ぐのかを説明するときの、根拠の1つになります。

今日のひとこと

この実験が示したのは、根管充填のあとポスト孔を形成してガッタパーチャを5mm残した抜去歯では、歯冠側を嫌気性菌の混合液にさらし続けると、48日目から根尖側で菌が検出され始めて84日目まで続き、本文の記載では90日時点で80%の歯に漏洩があったということです。ガッタパーチャ1本だけの陽性対照は9日以内(平均6日)でした。これは抜去歯を使った実験室の研究で、口の中で何日もつかを示した数字ではありません。ポスト形成をしていない歯との比較もありません。筆者の読みでは、日数そのものよりも「歯冠側が開いたままなら、残した5mmを菌が通り抜けうる」と知り、ポスト形成後の封鎖を急ぐ理由を確かめるための1本です。

Barrieshi KM, Walton RE, Johnson WT, Drake DR. Coronal leakage of mixed anaerobic bacteria after obturation and post space preparation. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 1997;84(3):310-314. doi:10.1016/s1079-2104(97)90349-8. PMID: 9377197
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。