1問1答 論文 エンド

根管治療した大臼歯のコア、根管の中まで入れる?——抜去下顎大臼歯60本の破折実験。アマルガムを根管内へ延ばして破折荷重が有意に上がったのは髄室の高さ2mmのときだけ、4mm・6mmでは有意差なし(1990年)

1問1答 論文 エンド

エンド・支台築造|根管治療した抜去下顎大臼歯60本で、髄室の壁の高さ(2・4・6mm)と、アマルガムコアを根管内へ延ばすかどうかを組み合わせた6群の破折荷重を比べた実験(in vitro)(Kaneら 1990・Journal of Prosthetic Dentistry)。冠はかぶせていない

髄室の壁が残っている大臼歯で、コアを根管の中まで入れるかどうか。米空軍の歯科医Kaneらは、根管治療した抜去下顎大臼歯60本を、髄室の高さ(2・4・6mm)と、アマルガムを根管内へ延ばすかどうかで6群(各10歯)に分け、頬側から45度の荷重で壊しました。根管内への延長で破折荷重が有意に上がったのは髄室の高さが2mmのときだけ(延長あり1,711N、延長なし1,321N)。4mm(1,151Nと1,303N)と6mm(946Nと1,132N)では有意差がありませんでした。意外なことに、髄室が高い群ほど破折荷重の平均は低く、著者らも正確な理由は分からないとしています。著者らの結論は、根管内への延長は穿孔のリスクと手間を伴うので、髄室の高さが4mmに満たない歯に限るべき、というもの。アマルガムを使った抜去歯の実験で、冠をかぶせず1回の荷重で壊した結果です。

論文
Fracture resistance of amalgam coronal-radicular restorations
著者
James J. Kane, John O. Burgess, James B. Summitt(Wilford Hall USAF Medical Center、米国テキサス州)
掲載
Journal of Prosthetic Dentistry 1990;63(6):607-613. doi:10.1016/0022-3913(90)90314-3
種類
抜去歯を使った実験(in vitro)。根管治療したヒト抜去下顎大臼歯60本を、髄室の高さ(2・4・6mm)×アマルガムの根管内への延長(あり・なし)の6群(各10歯)に分け、頬側から45度の荷重で破折荷重を測定。二元配置分散分析とDuncanの多重比較。冠はかぶせていない。臨床成績を調べた研究ではない
資金・利益相反
原著に記載は見当たらない。著者は米空軍の歯科医で、見解は著者個人のものという断り書きがある
PMID
2194019

①大臼歯のコア、根管の中まで入れる?

根管治療を終えた大臼歯。髄室の壁が残っているとき、コアの材料を根管の中まで入れるか、髄室だけで止めるか。入れれば保持は増えそうですが、根管を広げる手間と、穿孔のリスクがついてきます。

1980年にNayyarらが紹介したのが、アマルガムを髄室と根管の入口2〜4mmに詰めてコアにする方法です(コロナル・ラディキュラー法)。ただ、根管の中まで延ばすことの利点は確かめられていませんでした。米空軍の歯科医Kaneらは、抜去した下顎大臼歯60本で、髄室の壁の高さと根管内への延長の有無を組み合わせて調べました。

先に断っておきます。これは抜去歯を使った実験(in vitro)で、材料はアマルガムです。冠をかぶせず、1方向から1回の荷重で壊しています。臨床成績を調べた研究ではありません。

結論を先に書きます。
・根管内への延長で破折荷重が有意に高くなったのは、髄室の高さが2mmのときだけ(延長あり1,711N、延長なし1,321N)
・髄室の高さが4mm・6mmでは、延長してもしなくても有意差はなかった(4mm:1,151Nと1,303N、6mm:946Nと1,132N)
・髄室の高さそのものは破折荷重に有意に影響した(p<0.001)。向きは意外で、髄室が高い(歯質を多く残した)群ほど、破折荷重の平均は低かった
・60本中41本は歯の破折で終わり、19本は歯の破折を伴わなかった
・著者らの結論:根管内への延長は穿孔のリスクと手間を伴う。髄室の高さが4mmに満たない歯に限るべき

②実験の中身:2×3の6群

対象と方法
・修復のない健全なヒト抜去下顎大臼歯60本。水中で保管した
・根管治療:髄室の天蓋を全て除き、各根管へまっすぐ到達できるようにした。髄室のアンダーカットは除いていない。近心根管は35号、遠心根管は50号まで形成して根管充填
・歯冠を歯軸に垂直に削り、髄室の高さ(髄床底の最も高い点から形成の最上部まで)を2・4・6mmにそろえた
・頬舌径の小さい順に並べて振り分け、6群の頬舌径の平均をそろえた(10.40〜10.45mm、群の間に有意差なし)。各群10歯
・延長ありの3群:ゲーツグリデンドリルで3根管を4mmまで形成し(本文の記載。図1は2mmずつ2段で描かれている。抄録は3mmと記載)、アマルガムを手で填塞した。延長なしの3群:髄床底からアマルガムを填塞した
・銅バンドを巻いてアマルガム(Dispersalloy)を填塞し、セメントエナメル境から7.5mmの高さに整えた。冠はかぶせていない
・填塞から1か月後、頬側咬合面の角に付けた45度の斜面へ、万能試験機で荷重(毎分2mm)。荷重が急に下がった時点を破折とした

6群の組み合わせは次のとおりです。I群:2mm・延長あり、II群:4mm・延長あり、III群:6mm・延長あり、IV群:2mm・延長なし、V群:4mm・延長なし、VI群:6mm・延長なし。

③結果:延長が効いたのは、髄室2mmのときだけ

0 500 1000 1500 2000 破折荷重の平均(N) 1711 1321 1151 1303 946 1132 髄室の高さ 2mm 髄室の高さ 4mm 髄室の高さ 6mm 根管内へ延長あり 延長なし 原著の表IIの平均値(N、各群10歯)。標準偏差は、延長あり 2mm 364・4mm 150・6mm 201、延長なし 2mm 249・4mm357・6mm 415。同じ髄室の高さどうし(延長あり対なし)の3組のうち、有意差があったのは2mmの組だけ(Duncanの多重比較、p<0.05)。4mmどうし、6mmどうしに有意差なし。高さの違う群の間の比較は本文を参照
髄室の高さと根管内への延長の有無ごとの、破折荷重の平均(原著の表II。各群10歯。濃い棒=延長あり、淡い棒=延長なし)
破折荷重の平均±標準偏差(原著の表IIの全6群)
・I群(2mm・延長あり):1,711±364N
・IV群(2mm・延長なし):1,321±249N
・II群(4mm・延長あり):1,151±150N
・V群(4mm・延長なし):1,303±357N
・III群(6mm・延長あり):946±201N
・VI群(6mm・延長なし):1,132±415N
統計(二元配置分散分析と、Duncanの多重比較)
・髄室の高さ:有意(F=12.44、p<0.001)
・根管内への延長:全体としては有意差なし(F=0.05、p=0.83)
・2つの要因の交互作用:有意(F=5.61、p=0.006)。延長の効果が、髄室の高さによって違うことを意味する
・同じ高さどうしの比較:I群とIV群(2mmどうし)の間に有意差(p<0.05)。II群とV群(4mmどうし)、III群とVI群(6mmどうし)の間に有意差なし
・6群全体の括り(原著の図4):I群は他の5群すべてと有意差あり。IV・V・II・VI群は同じ括りで互いに有意差なし。II・VI・III群も同じ括りで有意差なし(IV群・V群とIII群の間には有意差あり)

つまり、「根管内へ延ばすと強くなる」とは一口に言えません。髄室の壁が2mmしかないときには延長した群の破折荷重が高く、壁が4mm以上あるときには、延長しても破折荷重に有意な差はありませんでした。

もう1つ、意外な結果があります。髄室が高い群、つまり歯質を多く残した群ほど、破折荷重の平均が低かったのです。延長ありでは1,711→1,151→946N、延長なしでは1,321→1,303→1,132Nでした。ただし、群どうしの比較で有意差があったのは一部です。延長ありでは2mmの群だけが4mm・6mmの群より有意に高く、延長なしの3群の間に有意差はありませんでした(原著の図4)。

0 2 4 6 8 10 歯の破折で終わった数(10歯中) 7 5 8 5 8 8 髄室の高さ 2mm 髄室の高さ 4mm 髄室の高さ 6mm 根管内へ延長あり 延長なし 原著の表IIの「破折した場所」の欄(歯/アマルガム)から、筆者が群ごとに数えた歯の破折の数(各群10歯)。全体では60本中41本が歯の破折、19本は歯の破折を伴わなかった(原著本文)。群ごとの違いの検定は原著にない
歯の破折で終わった数(原著の表IIの「破折した場所」の欄から筆者が数えたもの。各群10歯)

壊れ方は、60本中41本が歯の破折、19本は歯の破折を伴わないものでした。荷重は頬側からかけたので、歯の破折は舌側の半分を通って起きた、と著者らは書いています。表IIの記載を群ごとに数えると、歯の破折は、延長ありが2mm・4mm・6mmの順に7・8・8本、延長なしが5・5・8本でした。

④なぜそうなるのか(著者らの考察)

・2mmで延長が効いた理由:髄室が2mmと浅いと、アマルガムが横からの力に抵抗する形が足りない。根管内への延長が、その抵抗の形を補ったのだろう、と著者らは説明する
・4mm・6mmで差がなかった理由:原著は「延長の利点はなかった」と書くだけで、理由は述べていない
・髄室が高いほど破折荷重が低かった理由:著者らは「正確な理由は分からない」としたうえで、仮説を挙げる。髄室が高いと舌側の壁が長くなり、アマルガムのコアが押す「てこの腕」が長くなる。そのため、歯質が多く残っているのに、低い荷重で壊れたのではないか
・著者らは、結果は健康な天然歯列の最大かみしめ力の平均として報告された721Nを十分に上回る、と書く(筆者が表IIで確かめると、6群とも平均は721Nを上回るが、721N以下で壊れた歯も60本中4本ある)。あわせて、ブラキサー1人で4,337Nという報告も引き、患者ごとの負担を考えるべきだとしている

⑤明日の臨床へ

著者らの主張(原著に書かれていること)
・根管内への延長は、問題なく行えることもあるが、穿孔のリスクを伴い、器具も増える。髄室の高さが4mm以上あるときは勧めない
・髄室の高さが2mmしか残っていない歯では、根管内への延長で浅さを補うことを考える
・歯冠を削って低くするほど破折荷重は上がったが、歯を低くすると防湿やマトリックスバンドの装着が難しくなる。歯冠を削る前に、その難しさを考えるべき
・支えのない歯質は取り除き、咬合面側に十分な厚みのアマルガムを確保する
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・日本ではアマルガムを使う場面はほぼなくなりました。この実験の数字を、レジンコアにそのまま当てはめることはできません
・持ち帰れるのは、「髄室の壁が十分に残っていれば、根管の中まで入れる利点は小さいかもしれない」という考え方の出発点です。根管を広げる操作にはリスクがある、という著者らの指摘は、材料が変わっても考える価値があります
・著者らの線引きは「4mm」ですが、調べた高さは2・4・6mmの3つだけです。2mmと4mmの間で何が起きるかは、この実験からは分かりません
ここだけ、冷静に補助線髄室の高さと根管内への延長を組み合わせて、条件をそろえて比べた、分かりやすい設計の実験です。そのうえで、読むときの補助線を引いておきます。
抜去歯を使った実験です。アクリルレジンに植えた歯に、1方向から1回の荷重をかけて壊しています。口の中の繰り返しの力や、歯根膜の支えは再現されていません。著者らも、歯を支えるアクリルレジンと試験機の力は臨床を十分に再現しない、と書いています。
冠をかぶせていません。アマルガムを最終修復とした状態での比較で、クラウンで覆った場合に同じ差が出るかは、この実験からは分かりません。
各群10歯で、標準偏差は150〜415Nと大きめです。延長の効果は全体としては有意でなく(p=0.83)、2mmでの差は、群どうしの多重比較で見つかったものです。
「髄室が高いほど弱い」という結果は、著者ら自身が理由を特定できていません。歯質を多く残すことが不利だ、という意味に読むのは早計です。髄室が高い群では、その分、咬合面側のアマルガムが薄くなっています(6mmの群では3.5mm)。
「4mmに満たない歯に限る」という結論は、2mmで差があり4mmで差がなかったことからの線引きです。3mmなどの中間の高さは調べていません。
原著の中で食い違う箇所があります。根管内の形成の深さは、本文では4mm、抄録では3mmです。考察には「2mmの群の修復物はアマルガムの脱離で壊れた」という趣旨の一文がありますが、表IIでは2mmの2群20歯のうち12歯が歯の破折です。この記事は表IIの記載に従いました。
穿孔のリスクは、著者らの見解と引用に基づくものです。この実験で穿孔の数を調べたわけではありません。
資金・利益相反:原著に記載は見当たりません。著者は米空軍の歯科医で、見解は著者個人のものであり空軍の見解ではない、という断り書きがあります。
それでも、「根管の中まで入れるのは、髄室が浅いときだけでよい」という、手数を減らす方向の根拠を示した1本です。

今日のひとこと

この実験が示したのは、アマルガムコアを根管の中まで延ばして破折荷重が有意に上がったのは、髄室の高さが2mmのときだけだったということです。髄室の壁が4mm・6mmあるときは、延ばしても延ばさなくても有意差はありませんでした。著者らは、延長には穿孔のリスクと手間が伴うので、髄室の高さが4mmに満たない歯に限るべきだと結論しています。アマルガムを使った抜去歯の実験で、冠をかぶせず、1回の荷重で壊した結果です。調べた高さは2・4・6mmの3つだけで、数字をいまのレジンコアにそのまま当てはめることはできません(ここは筆者の読みです)。

Kane JJ, Burgess JO, Summitt JB. Fracture resistance of amalgam coronal-radicular restorations. J Prosthet Dent. 1990;63(6):607-613. doi:10.1016/0022-3913(90)90314-3. PMID: 2194019
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。