1問1答 論文 エンド

ファイバーポスト、真ん中に1本でいい?——歯を使わずレジンの円柱で調べた実験。引張り側に置いた条件だけが初期破折強さでレジン単体を有意に上回り、1.6mmを引張り側に置いた条件が最大破折強さで最も高かった(2010年)

1問1答 論文 エンド

エンド・支台築造|支台築造用コンポジットレジンとファイバーポストだけで作った直径3mmの円柱を、ポストの太さ・位置・本数を変えた9条件で折った材料実験(in vitro)。静荷重と繰り返し荷重で、引張り側に置く効果を調べた(時庭 2010・日本補綴歯科学会誌)。歯は使っていない

太い根管に、既製のファイバーポストを中央に1本。それでいいのかを考える材料になる実験です。鶴見大学の時庭は、歯を使わず、支台築造用レジンとファイバーポストだけの円柱を作り、ポストの太さ・位置・本数を変えた9条件(各8試料)を45度の方向から荷重して折りました。初期破折強さでレジン単体を有意に上回ったのは、ポストを引張り側に置いた2条件だけ。最大破折強さは、1.6mmを引張り側に置いた条件が最も高い結果でした。中央に1本置いた条件は、初期破折強さではレジン単体と有意差がなく、最大破折強さは引張り側より有意に低い結果です。繰り返し荷重(50N・1万回。レジン単体、1.6mmの3条件、4本使用の計5条件)では、レジン単体は8試料すべてが1回目で破折し、1.6mmを圧縮側に置いた条件は8試料中2試料が破折。変位量の平均は、1.6mmの引張り側0.588mm、4本使用0.527mm(この2つに有意差なし)、中央0.815mm、圧縮側0.972mm(破折した2試料を除く6試料)でした。歯質も接着も含まない材料実験で、臨床での置き方は著者の提案にとどまります。

論文
支台築造用コンポジットレジンに対するファイバーポストの配置に関する研究(Influences of Disposition of Fiber Posts in Composite Resin Core Materials)
著者
時庭由美子(鶴見大学大学院歯学研究科 補綴学専攻)
掲載
日本補綴歯科学会誌 2010;2(3):167-176. doi:10.2186/ajps.2.167
種類
材料実験(in vitro)。歯は使っていない。支台築造用コンポジットレジンとグラスファイバーポストで直径3mmの円柱を作り、静荷重試験(9条件・各8試料)と繰り返し荷重試験(5条件・各8試料、50N・1万回)で破折強さ・変位量・破折様相を調べた。臨床成績を調べた研究ではない
資金・利益相反
原著に記載は見当たらない。使用した材料は全てジーシー製
PMID
なし(和文誌。J-STAGE:https://doi.org/10.2186/ajps.2.167)

①ファイバーポスト、真ん中に1本でいい?

漏斗状に広がった根管に、既製のファイバーポストを中央に1本。まわりは厚いレジンで埋まります。それでいいのか、と迷う場面です。太いポストに合わせて根管を削れば、健全な歯質を余分に失います。かといって、すき間のどこを重点的に補強すべきかは、著者によれば、これまで検討されてきませんでした。

鶴見大学の時庭は、歯を使わず、支台築造用コンポジットレジンとファイバーポストだけの円柱を作り、ポストの太さ・位置・本数を変えて折る実験を行いました。

先に断っておきます。これは歯を使わない材料実験(in vitro)です。歯質も、接着も、フェルールも含まれていません。臨床成績を調べた研究ではありません。

結論を先に書きます。
・初期破折強さ(最初のマイクロクラックが入る荷重):レジン単体より有意に高かったのは、ポストを引張り側に置いた2条件(直径1.0mmと1.6mm)だけ
・最大破折強さ:1.6mmのポストを引張り側に置いた条件が最も高い。1.0mmを圧縮側に置いた条件は、レジン単体と有意差がなかった
・中央に1本置いた条件:初期破折強さはレジン単体と有意差なし。最大破折強さはレジン単体より有意に高いが、引張り側に置いた条件より有意に低かった
・繰り返し荷重(50N・1万回):レジン単体は8試料すべてが1回目の荷重で破折。1.6mmを圧縮側に置いた条件は8試料中2試料が破折。引張り側・中央・4本使用の条件に破折はなかった
・繰り返し荷重後の変位量は、1.6mmを引張り側に置いた条件(平均0.588mm)と4本使用の条件(0.527mm)が有意に小さかった
・著者の結論:ポストの配置の違いで補強効果に差があり、引張り側に置くことの有効性が示された。引張り側に含まれるファイバーポストの割合が、最大破折強さに影響している可能性が示唆された

②実験の中身:歯を使わず、円柱を折る

材料と試験体
・支台築造用コンポジットレジン(UniFil Core)、グラスファイバーポスト(GC Fiber Post、直径0.8・1.0・1.6mm)、シラン処理剤(GC セラミックプライマー)。いずれもジーシー製
・ガラス管の中でレジンとシラン処理したポストを条件どおりに配置して硬化させ、直径3mm・長さ20mmの円柱にした。半分の10mmを埋めて、10mmが突き出た状態で試験した
・荷重は、試験体の長軸に対して45度の方向から、片持ち梁の形でかけた。荷重を受ける側(断面図の上)が伸びる引張り側、反対側が縮む圧縮側になる
2つの試験
・静荷重試験:9条件(A〜I)、各8試料。荷重と時間の曲線を記録し、曲線の最大値を「最大破折強さ」、そこに至るまでの最初のはっきりした屈曲を「初期破折強さ」とした
・繰り返し荷重試験:5条件(A・E・F・G・H)、各8試料。37℃の水中で50N・1万回。破折までの回数、破折しなかった試料の変位量(荷重点が試験前から動いた距離)、破折様相(破折も亀裂もなし/亀裂のみ/破折)を記録した
荷重は断面図の上から。上=引張り側、下=圧縮側 条件 断面 ポスト FP含有率 初期破折強さ 最大破折強さ 繰り返し荷重で破折した数 A なし 0.0% 7位 9位 8/8 B 1.0mm引張り側 12.1% 2位* 3位 — C 1.0mm中央 12.1% 8位 7位 — D 1.0mm圧縮側 12.1% 6位 8位 — E 1.6mm引張り側 30.3% 1位* 1位 0/8 F 1.6mm中央 30.3% 9位 5位 0/8 G 1.6mm圧縮側 30.3% 5位 6位 2/8 H 1.0mm 中央0.8mm上1下2 34.8% 4位 4位 0/8 I 1.0mm 中央0.8mm上2下1 34.8% 3位 2位 — 原著の表2・図3・図4・表3をもとに作図した模式図(断面は直径3mmの円柱)。各条件8試料。 順位は原著本文が書いた「値の高い順」(箱ひげ図のみで、数値の表はない)。初期破折強さは、*だけがレジン単体Aと有意差あり。 最大破折強さは、AとD、BとHの間だけ有意差がなく、ほかは全ての条件の間で有意差あり。 繰り返し荷重(50N・1万回)はA・E・F・G・Hの5条件だけで行った(—は行っていない条件)。 Aは8試料すべてが1回目の荷重で破折。Gの2試料は1回目と1,176回目に破折。 HとIはどちらも中央に1.0mmを1本と、まわりに0.8mmを3本。Hは引張り側に1本・圧縮側に2本、Iは引張り側に2本・圧縮側に1本。
9つの実験条件と結果の一覧(原著の表2・図3・図4・表3をもとに作図した模式図。順位は原著本文の記載による)

試料の断面に占めるファイバーポストの面積の割合を、著者は「FP含有率」と呼んでいます。1.0mm1本で12.1%、1.6mm1本で30.3%、1.0mm1本と0.8mm3本の計4本で34.8%です。

③結果:同じポストでも、置く場所で変わる

静荷重試験の値は、原著では箱ひげ図で示されていて、数値の表はありません。この記事では、原著本文が書いている順位と有意差だけを紹介します。

静荷重試験(9条件・各8試料)
・初期破折強さの高い順:E、B、I、H、G、D、A、C、F。レジン単体(A)と有意差があったのは、EとBだけ(p<0.001)。E・B・I・Hの間に有意差はない。4本使用のHとIは、どの条件とも有意差がなかった
・1.0mmでも1.6mmでも、初期破折強さは「引張り側 > 圧縮側 > 中央」の順だった
・最大破折強さの高い順:E、I、B、H、F、G、C、D、A。AとD、BとHの間だけ有意差がなく、ほかは全ての条件の間で有意差があった(p<0.001)
・1.0mmでも1.6mmでも、最大破折強さは「引張り側 > 中央 > 圧縮側」の順だった
・FP含有率が同じ条件どうし(B・C・D、E・F・G、HとI)でも、最大破折強さは互いに有意に違った

つまり、同じ太さのポストを同じ量だけ入れても、置く場所で強さが変わりました。1.0mmのポストを圧縮側に入れた条件(D)は、ポストを入れたのに、最大破折強さにレジン単体との有意差がありませんでした。

0 0.3 0.6 0.9 1.2 繰り返し荷重後の変位量(mm) 0.588 0.815 0.972 0.527 E:1.6mm引張り側 F:1.6mm中央 G:1.6mm圧縮側 H:1.0mm 1本+0.8mm 3本 原著の表4の平均値(mm。各8試料、Gは破折した2試料を除く6試料)。50N・0.5Hz・1万回、37℃の水中。EとHの間に有意差なし。FとGは、それぞれ他の全ての条件と有意差あり(Tukeyの多重比較、p<0.05)。レジン単体のAは8試料すべてが1回目の荷重で破折したため、変位量の値はない
繰り返し荷重試験後の変位量(原著の表4の平均値。小さいほど変形が少ない)
繰り返し荷重試験(5条件・各8試料。50N・1万回)
・破折までの回数(原著の表3):レジン単体(A)は8試料すべてが1回目の荷重で破折。G(1.6mm・圧縮側)は2試料が破折(1回目と1,176回目)。E・F・Hは8試料とも1万回まで破折しなかった
・変位量の平均(原著の表4):H 0.527mm、E 0.588mm、F 0.815mm、G 0.972mm(Gは破折しなかった6試料)。HとEの間に有意差はなく、FとGはそれぞれ他の全ての条件と有意差があった(p<0.05)
・破折様相(原著の表5。破折も亀裂もなし/亀裂のみ/破折の順に試料数):A 0/0/8、E 6/2/0、F 0/8/0、G 0/6/2、H 3/5/0
・破折様相の分布は、Aが他の全ての条件と有意に異なり、EはF・Gとも有意に異なった(p<0.05)

繰り返し荷重では、レジン単体は全て1回目で破折し、ポストを入れた4条件では大半の試料が1万回に耐えました。ただし、圧縮側に置いたGは2試料が破折し、変位量も最も大きく、著者は「補強効果は有効であるとは言い難かった」と書いています。破折も亀裂もない試料があったのは、E(1.6mm・引張り側)の6試料と、H(4本使用)の3試料だけでした。

④なぜ引張り側なのか(著者の考察)

著者の説明は、材料の性質に基づいています。以下は著者の考察です。

・支台築造用コンポジットレジンのような脆い材料は、圧縮には強いが、引張りには弱い。破折は、引張り側に入る亀裂から始まると考えられる
・ファイバーポストは、繊維の方向の引張りに強く、曲げ強さもレジンよりはるかに大きい
・補強効果が出なかった条件では、最も強く引張りの力がかかる場所がレジンの層だった。ポストが効く前に、レジンに亀裂が入ったと考えられる
・ポストが1本の条件では、圧縮側・中央・引張り側の順に最大破折強さが上がった。著者はこれを、断面を上下に二分したときの引張り側のFP含有率が高いほど強い、という意味だと解釈している
・同じ位置なら、太いポストのほうが最大破折強さは大きかった。これも引張り側のFP含有率で説明できる、と著者は書く

⑤明日の臨床へ

著者の提案(原著の考察に書かれていること。歯で確かめたものではありません)
・根管孔が歯根の中央まで漏斗状に広がった症例では、太いポストを引張り側に寄せて置く
・上顎前歯:力は口蓋側から加わると考えられるので、築造体の引張り側である口蓋側に、太いポストを寄せる
・下顎前歯:唇側からも舌側からも力が加わると考えられるので、唇側と舌側の両方をポストで補強する
・臼歯:根管の中央や近遠心ではなく、頬側と口蓋側(または舌側)に、できるだけ太いポストを寄せる
・漏斗状の部分が比較的浅い症例:本来の根管を十分な長さに拡大し、中央にできるだけ太いポストを1本立て、引張り側の空いたスペースに細いポストを足す
・直接法でも間接法でも適用できる、と著者は述べる
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・「中央に1本」をいつもの手順にしている人にとって、力がどちらから来るかを考えてポストの位置を決める、という視点が持ち帰れます
・複数本のポストを使えば、材料費と操作の手間は増えます
・ポストを寄せることが実際の歯の破折を減らすかどうかは、この研究からは分かりません
ここだけ、冷静に補助線「ポストをどこに置くか」という、ありそうでなかった問いを、条件を整理して調べた実験です。そのうえで、読むときの補助線を引いておきます。
歯を使っていません。直径3mmのレジンの円柱そのものを折った実験で、象牙質への接着、フェルール、歯根の形は含まれません。著者自身が「得られた結果が臨床に直結する示唆を提供するとは限らない」と断っています。
材料は1社のレジン1種類とポスト1種類、各条件8試料です。ほかの製品で同じ結果になるかは分かりません。
静荷重試験の強さは箱ひげ図だけで示され、数値の表がありません。条件E(1.6mm・引張り側)の初期破折強さは、ばらつきが大きかったと著者は書いています(8試料中3試料は、マイクロクラックが確認されないまま最終的な破折に至った)。
荷重は45度の1方向だけです。口の中では力の向きが変わります。繰り返し荷重は50N・1万回で、9条件のうち5条件だけで行われました。
臨床での置き方の提案は、この円柱の結果と、力の向きについての著者の考えから導かれたものです。
資金・利益相反:原著に記載は見当たりません。使われた材料は全てジーシー製です。
それでも、同じ量のポストでも置く場所で強さが変わる、という結果ははっきりしています。太い根管でポストの位置を決めるときの、考え方の手がかりになります。

今日のひとこと

この実験が示したのは、レジンの円柱に同じファイバーポストを入れても、置く場所で強さが変わるということです。初期破折強さでレジン単体を有意に上回ったのは引張り側に置いた2条件だけで、最大破折強さは1.6mmを引張り側に置いた条件が最も高く、圧縮側に置いた1.0mmはレジン単体と有意差がありませんでした。著者は、引張り側に含まれるファイバーポストの割合が最大破折強さに影響している可能性を示唆しています。歯質も接着も含まない材料実験で、臨床での置き方は著者の提案です。持ち帰れるのは、力がどちらから来るかを考えてポストの位置を決める、という視点です(ここは筆者の読みです)。

時庭由美子. 支台築造用コンポジットレジンに対するファイバーポストの配置に関する研究. 日本補綴歯科学会誌. 2010;2(3):167-176. doi:10.2186/ajps.2.167
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。