エンド|歯冠の残存壁が2壁以下の根管治療歯に、既製のグラスファイバーポストかチタンポストを無作為に割り付け、最長84か月追ったランダム化比較試験(Sterzenbach・Franke・Naumann 2012・Journal of Endodontics)。全周2mmのフェルールを確保する手順で、セルフアドヒーシブレジンセメントで装着した条件での比較。事前の症例数計算をしていないパイロット試験で、資金はセメントとポストのメーカー2社
歯冠の壁がほとんど残っていない根管治療歯にポストを立てるとき、象牙質に近いしなやかさのファイバーポストと、硬い金属のポストのどちらを選ぶか。Sterzenbachらは2012年、歯冠の残存壁が2壁以下の歯を対象に、既製のグラスファイバーポストとチタンポストを無作為に割り付けた試験の7年目の結果を報告しました。著者らが主な結果とした87本の解析で、修復物を失ったのはグラスファイバー41本中4本(9.8%)、チタン46本中3本(6.5%)。生存率は90.2%と93.5%で、有意差は検出されませんでした(P=.642)。割り付けた91本すべてで数える解析でも有意差は検出されていません(P=.17)。事前に症例数を計算していないパイロット試験で、失敗の数が少なく、中くらいの差を見つける力は足りない可能性がある、と著者ら自身が書いています。
①歯質が大きく失われた歯のポスト、しなやかなファイバー? 硬いチタン?
根管治療のあと、歯冠の壁がほとんど残っていない歯にポストを立てる。そのとき、象牙質に近いしなやかさのファイバーポストを選ぶか、硬い金属のポストを選ぶか。「ファイバーの方が歯根破折を起こしにくい」と習った人も多いと思います。
Sterzenbachらは2012年、この問いを患者さんの口の中で確かめたランダム化比較試験の、7年目の結果を報告しました。対象は、歯冠の残存壁が2壁以下の根管治療歯です。
・修復物を失ったのは、グラスファイバー41本中4本(9.8%)、チタン46本中3本(6.5%)
・生存率はグラスファイバー90.2%、チタン93.5%。有意差は検出されなかった(P=.642)
・割り付けた91本すべてで数える解析でも、有意差は検出されなかった(P=.17)。こちらの失敗はグラスファイバー7本、チタン3本
・失敗の中身は違った。グラスファイバーは歯根破折・動揺の増加・コアの破折、チタンは3本ともエンドの失敗
・事前に症例数を計算していないパイロット試験。失敗の数が少なく、中くらいの差を見つける力は足りない可能性がある、と著者ら自身が書いている
②なぜこの試験が必要だったか
著者らは序論で、根管治療歯を支台にした補綴は、生活歯よりも合併症が多く、その多くが歯の喪失につながる、と整理しています。ポストとコアで修復した歯では、残った歯質の中に応力が集中する場所ができます。そこで問題になるのが、ポストの硬さ(剛性)の選び方です。
著者らが引いている、実験室の研究をまとめた系統的レビューは、しなやかなファイバーポストは歯根破折のリスクを減らす、と結論しています。ファイバーポストの力学的なふるまいは、金属ポストより象牙質に近いからです。
ところが、臨床試験をまとめた系統的レビューでは、どの材料を使うべきかは示されておらず、結論も割れていました。フェルールの有無、残っている歯質の量、セメントの種類が、試験ごとにそろっていなかったためです。ファイバーポストと既製の金属ポストのどちらが優れるかを確かめられる、並行群の長期の生存率データもありませんでした。そこで著者らは、主な条件をそろえてこの2種類を比べました。
③試験の組み立て:フェルール2mmとセメントをそろえて、2種類のポストを比べた
場所はドイツのシャリテ・ベルリン医科大学の補綴科です。2003年1月から2004年4月に、支台築造が予定された18歳超の患者さんから募集しました。対象は1人につき1本です。
・歯冠の残存壁が2壁以下
・根管口の位置で、残っている歯根の厚みが1mmを超える
・症状がなく、根管充填がされていて、X線で根尖病変が見えない
・歯周炎がないか治療済み(プロービング深さ4mm以下、プロービング時の出血なし)
・動揺度はIIまで
・最終補綴は、ポストを立ててから3か月以内に装着する
98人が同意し、5人が基準に合わず、2人が参加を取りやめ、91人が無作為に割り付けられました(グラスファイバー45人、チタン46人)。割り付けはコンピュータで作った乱数表(4人ずつのブロック)にもとづき、連番を付けた封筒を、ポストを立てる直前に歯科助手が開けています。
・ポストは同じメーカーの既製品(テーパー型・頭部の直径1.4mm)。根管内の長さは9mm、根尖側に根管充填を4mm以上残す
・装着はセルフアドヒーシブレジンセメント(RelyX Unicem)
・コアはコンポジットレジンの直接法
・クラウンのマージンを、コアより2mm以上根尖側の象牙質に置く(全周2mmのフェルール)
・最終補綴は陶材焼付金属冠
ポストの表面処理は少し違います。チタンポストにだけ、シリカコーティングの処理が加えられています。
根管治療は歯学部の学生が行い、ポストの植立からコアの築造、支台歯形成までは、経験のある術者1人が1回の来院で行いました。最終補綴は学生の担当です。
追跡は3・6・12か月、そのあとは年1回で、84か月(7年)まで。臨床の診査は、どちらのポストかを知らされていない歯科医師1人が行いました。X線写真は12か月と60か月に撮影しています。第一評価項目は「理由を問わず修復物を失うこと」で、群の比較にはlog-rank検定を使っています(有意水準5%)。
④結果(1):生存率は90.2%と93.5%、有意差は検出されなかった
割り付けられた91人のうち、グラスファイバー群の4人が主な解析から外されました。1人は修復の直後から来院せず、1本は補綴の計画が変わって抜歯され、2本は3か月以内に最終補綴が入らなかった歯です(この2本は9か月で二次う蝕、10か月で歯肉縁の高さの水平破折により失敗)。著者らは、残る87人を「修正した解析」と呼び、主な結果にしています。
追跡期間の平均は71.2か月(標準偏差21.7か月)でした。84か月まで追えなかった人は18人(20.7%)で、グラスファイバー群7人(17.1%)、チタン群11人(23.9%)です。
・修正した解析(87本):失敗はグラスファイバー4/41(9.8%)、チタン3/46(6.5%)。生存率は90.2%と93.5%、全体で92%。P=.642
・失敗のリスク比(グラスファイバー/チタン)は1.496(95%信頼区間 0.356〜6.292)
・「失敗しない確率」のリスク比は0.965(95%信頼区間 0.851〜1.095)
・割付どおりの解析(91本):全体の生存率は89%。P=.17。失敗はグラスファイバー7本、チタン3本(割合にすると7/45=15.6%、3/46=6.5%。筆者の計算)
失敗のリスク比の信頼区間は、0.356から6.292までと広い幅です。グラスファイバーの方が失敗がかなり少ない場合も、かなり多い場合も、どちらも否定できません。「有意差が検出されなかった」は、「差がないと確かめられた」とは別のことです。
⑤結果(2):失敗の中身は、2つの群で違っていた
・グラスファイバー(4本)
歯頸部の歯根破折:1本(上顎小臼歯)
歯根中央部の破折:1本(上顎側切歯)
動揺の増加(動揺度III):1本(上顎犬歯)
コアの破折:1本(下顎小臼歯。再修復できた)
・チタン(3本)
エンドの失敗:3本(上顎側切歯2本、下顎大臼歯1本)
表3では、コアが破折した1本だけが「再修復」とされ、ほかの6本は「抜歯」の欄に載っています。再修復できた歯は、グラスファイバーポストと単冠でやり直されました。
著者らは考察で「失敗の形はポストの材料によって有意に異なった」と書いています。ただし、この点についての検定の結果やP値は、原著に示されていません。数にすると、それぞれ4本と3本の話です。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・生存率が高かったのは、全周2mmのフェルールを厳密に確保したことと、セルフアドヒーシブレジンセメントで接着したことによる、と著者らは考えている
・コアと歯の接着が保たれている間は、ポストの材料は力の伝わり方にかかわらない。材料の違いが効いてくるのは、コアの接着が壊れたあとである(著者らが引いた実験研究にもとづく説明)
・チタン群でエンドの失敗だけが起きたのは、硬いポストとセメントに応力が集中し、界面に小さなすき間ができて、細菌が再び入ったためではないか(有限要素解析の先行研究にもとづく仮説)
著者らの結論は、「残存壁が2壁以下の支台歯でも、セルフアドヒーシブレジンセメントで装着した既製ポストと2mmのフェルールがあれば、ポストの材料と剛性にかかわらず、高い長期生存率が得られた」です。
⑦明日の臨床へ
・2種類のポストの生存率の差は、無視できる程度だった
・最低2mmのフェルールを確保すれば、根管治療した支台歯の長期の生存はとても良い
・失敗の数が少ないので、中くらいの相対リスクを見つける力は足りない可能性がある
・グラスファイバーポストで失敗した歯を再修復できた例が1本あったが、この結果から一般化できる範囲は強く限られる
・この試験は、全周2mmのフェルールを確保する手順で行われました。歯冠長延長術をした歯も計13本あります(表2の2本と11本から筆者が計算)。「フェルールが取れない歯にどのポストを使うか」には、この試験は答えていません
・材料を選ぶ前に、フェルールを確保できるか、3か月以内に最終補綴まで進められるかを確かめる。試験の組み立てからは、そちらが先に見えます。最終補綴が遅れて主な解析から外された2本は、どちらも1年以内に失敗していました
・比べたのは既製のテーパー型ポスト2種類です。鋳造のメタルポストコアや、スクリュー型のポストは調べていません
・「ファイバーなら歯根破折しない」とは読めません。歯根破折はグラスファイバー群で起きています。ただし4本の内訳の話で、ポストの材料が原因だと示されたわけでもありません
(1)事前の症例数計算をしていないパイロット試験で、主な解析(87本)での失敗は7本だけです。失敗のリスク比の95%信頼区間は0.356〜6.292と広く、「2つのポストは同じ」と確かめられたわけではありません。
(2)主な結果は、割り付け後に4人を外した解析です。外されたのは4人ともグラスファイバー群で、うち3本は失敗でした。割付どおりの91本で数えると、失敗はグラスファイバー7本、チタン3本です(P=.17で、こちらも有意差は検出されていません)。著者らは、外した3本の失敗はポストの材料ではなく、最終補綴の遅れや補綴計画の変更によるものだ、と説明しています。
(3)表3の生存率(90.2%、93.5%)は、解析した本数から失敗の本数を引いて割った値と一致します(37/41、43/46。筆者の計算)。途中で追えなくなった18人(20.7%)は、分母に残ったままです。
(4)抄録はグラスファイバー群の失敗を「歯根破折3本、コアの破折1本」と書いていますが、表3では歯根の破折は2本で、もう1本は動揺の増加(動揺度III)です。
(5)割り付け時点で、歯冠長延長術をした歯はグラスファイバー2本、チタン11本と偏っています。残存壁は、0壁がグラスファイバー24本(53.3%)とチタン22本(47.8%)、1壁が8本(17.8%)と15本(32.6%)、2壁が13本(28.9%)と9本(19.6%)でした。
(6)X線写真は12か月と60か月の2回で、読影したのは術者側の1人です。読影者が群を知らされていなかったかどうかは、書かれていません。
資金は3M Espe社とSchütz Dental Group社の支援で、試験に使ったセメントとポストは、この2社の製品です。著者らは利益相反はないと述べています。
それでも、歯質が大きく失われた歯を集め、フェルールとセメントの条件をそろえて、2種類のポストを7年追った試験は貴重です。ポストの材料の前に、残った歯質をどう確保するか。その問いを、はっきり見せてくれる1本です。
今日のひとこと
この試験が示したのは、歯冠の残存壁が2壁以下の根管治療歯でも、全周2mmのフェルールを確保する手順で、既製ポストをセルフアドヒーシブレジンセメントで装着した条件では、7年目の修復物の生存率がグラスファイバー90.2%、チタン93.5%で、有意差は検出されなかったということです(P=.642)。ただし、この主な解析(87本)での失敗は合わせて7本だけで、事前の症例数計算もしていません。失敗のリスク比は1.496、95%信頼区間は0.356〜6.292と広く、「2つのポストは同じ」と確かめられたわけではありません。失敗の中身は、グラスファイバーが歯根破折・動揺の増加・コアの破折、チタンが3本ともエンドの失敗でしたが、それぞれ3〜4本の話です。筆者の読みでは、ポストの材料を選ぶ前に「フェルールを全周2mm確保できるか」を考える材料になる1本です。


