エンド|露髄した生活歯の永久歯に行った直接覆髄の成功率と、成功を左右する因子を、観察研究と無作為化比較試験から整理したシステマティックレビューとメタ分析(Prasertsuksom 2024・European Endodontic Journal)
形成中やう蝕の除去中に露髄した。症状はない。直接覆髄で歯髄を残すか、それとも——という場面です。Prasertsuksom らは、永久歯の直接覆髄の成功を臨床とX線の両方で評価した33研究を集め、質の低い7研究を除いた26研究をまとめました。統合した成功率は83%(95%CI 79〜87%)。年齢・覆髄材・止血・拡大視野など多くの因子を調べた中で、95%信頼区間が1をまたがなかったのは「全工程でラバーダム防湿」だけで、リスク比 1.44(95%CI 1.06〜2.16)でした。ただし26研究のうち16研究は観察研究で、予後因子は研究ごとの値を使った単変量のメタ回帰であり、研究間のばらつきも大きい結果です。
①永久歯の直接覆髄、何割成功する?
形成中やう蝕の除去中に露髄した。症状はない。直接覆髄で歯髄を残すか、抜髄に進むか——迷う場面です。
直接覆髄はどのくらい成功するのか。そして、何が成功を左右するのか。タイの Prasertsuksom らは、永久歯の直接覆髄の結果を報告した研究を集め、全体の成功率と、成功に関わる因子をメタ分析で調べました。
・観察研究と無作為化比較試験のシステマティックレビューとメタ分析。露髄した生活歯の永久歯の直接覆髄を、臨床とX線の両方で6か月以上評価した33研究。質の低い7研究を除いた26研究をまとめた
・全体の成功率:統合した成功率は83%(95%CI 79〜87%)。成功=症状がなく、X線で根尖の組織が正常な歯。研究間のばらつきは大きかった(I² 87.93%)
・成功を左右する因子:原典の表3の27の比較(基準以外の行を筆者が数えた)のうち、95%信頼区間が1をまたがなかったのは「全工程でラバーダム防湿」だけ(それ以外と比べたリスク比 1.44、95%CI 1.06〜2.16)。覆髄材・止血・拡大視野・年齢・症状などは有意差を検出しなかった
・著者の結論:直接覆髄は成功率の高い治療で、十分な防湿が有意な予後因子。症状がなく根尖が正常な生活歯で行うことを勧めている
②なぜ予後因子がはっきりしなかったのか
直接覆髄は、露出した生活歯髄に材料を置き、歯髄の治癒と保存を図る処置です。著者らの整理では、うまくいく条件として、歯髄が健康であること・出血が止まること・毒性の無い覆髄材・細菌を通さない封鎖、さらに正確な診断と症例の選び方が挙げられてきました。
一方で、直接覆髄の成績は良好という報告がありながら、結果を左右する因子は研究ごとに食い違い、議論が続いていた、と著者らは書いています。そこで、直接覆髄の研究をまとめて、全体の成功率と予後因子を同時に調べたのが今回のレビューです。
③今回の方法:33研究を集め、26研究をまとめた
- 検索:2022年1月より前に出版された論文を、MEDLINE・EMBASE・PubMed・Cochrane Library で検索。歯内療法の教科書5冊と専門誌7誌の文献も手で探した。英語の論文に限った
- 組み入れ:永久歯の直接覆髄で、成功を臨床とX線の両方で評価し、本数と成功率(または計算できるデータ)があり、6か月以上追ったもの。症例報告・症例集積、動物、乳歯は除いた
- 成功の定義:症状がなく、X線で根尖の組織が正常な歯
- 質の評価:観察研究は Downs and Black のチェックリスト、無作為化比較試験は Cochrane の RoB 2 で評価し、「質が低い」「バイアスのリスクが高い」と判定した研究はメタ分析から外した
- 解析:成功率をランダム効果モデルで重み付けしてまとめ、年齢・歯種・露髄の原因・防湿・止血・覆髄材・拡大視野・術者・経過期間などの因子ごとに、単変量のメタ回帰で関係を調べた
5,898件の記録から重複を除いた1,012件をふるい、70件の全文を読んで33研究を含めました。内訳は前向きコホート研究11、後ろ向きコホート研究9、無作為化比較試験13。1985〜2019年に出版された研究です。質の評価で7研究(観察研究4・無作為化比較試験3)を外し、26研究(観察研究16・無作為化比較試験10)をメタ分析に入れました。
④結果1:統合した成功率は83%
33研究が報告した成功率は、5.9%から100%まで大きくばらついていました。メタ分析に入れた26研究をまとめると、統合した成功率は83%(95%CI 79〜87%)。追跡は、著者の要約では6か月から10年(表1と図4には平均13.7年の研究も1つある)で、多くは5年未満でした。
固定効果モデルに替えても、観察研究だけ・無作為化比較試験だけに絞っても、成功率は79〜86%の範囲に収まりました。著者らは、どのまとめ方でも変化が5%未満だったので、結果は頑健と判断しています。
ただし研究間のばらつきは大きく(I² 87.93%)、著者らは歯種・露髄の原因・防湿・止血の薬剤と方法・覆髄材・拡大視野の違いが、ばらつきの原因になりうると考察しています。
⑤結果2:有意だったのは「全工程でラバーダム防湿」だけ
因子ごとの単変量メタ回帰で、95%信頼区間が1をまたがなかったのは1つだけでした。全工程をラバーダム防湿のもとで行った研究は、そうでない研究と比べて、成功のリスク比が1.44(95%CI 1.06〜2.16、p=0.046)。研究ごとにまとめた成功率は、全工程でラバーダム防湿の16研究で88%(83〜92%)、それ以外の10研究で74%(64〜82%)でした(原典の表2)。リスク比1.44はメタ回帰の値で、この2つの統合成功率とは別の解析なので、互いに換算できません。回帰の詳しい設定は本文に書かれていません。
そのほかの因子は、どれも有意差を検出しませんでした。たとえば覆髄材は、ケイ酸カルシウム系(MTA・Biodentine など)が水酸化カルシウムと比べてリスク比 1.30(95%CI 0.92〜1.82)。まとめた成功率はケイ酸カルシウム系 86%、水酸化カルシウム 76%でしたが、メタ回帰では有意差を検出していません。拡大視野も 1.14(95%CI 0.99〜1.31、p=0.068)でした。
年齢、歯種、症状の有無、根尖の状態、歯根の完成度、露髄の原因・位置・大きさ、止血の時間・方法・薬剤、ライナーの有無、修復の材料と時期、術者、経過期間も、有意差は検出されませんでした。
⑥結果の読み方
このレビューの中心は2つです。永久歯の直接覆髄は、26研究をまとめると83%で成功していたこと。そして、調べた多くの因子の中で、全工程でラバーダム防湿だけが有意だったこと。
ラバーダムについて著者らは、ガーゼや綿花で防湿したり、う蝕の除去や露髄の後からラバーダムを掛けたりすると、歯髄が細菌に汚染される機会が増え、感染と炎症の進行で失敗につながりうる、と考察しています。これは著者らの説明で、このレビューが汚染を測って確かめたわけではありません。
また、このメタ回帰は研究ごとの値を使った単変量の解析です。ラバーダムを全工程で使った研究は、覆髄材や術者、対象の歯など、ほかの条件も違っていた可能性があり、その影響は分けられていません。27の比較(筆者が表3から数えた)を検定した中で1つだけ p=0.046 だった、という点も含めて読む必要があります(著者らも、多くのサブグループ解析では偶然に有意な結果が出やすいと書いています)。
反対に、覆髄材や拡大視野で有意差を検出しなかったことは、「差が無い」と証明されたことではありません。研究の数が少ない因子も多く、著者らも、データが限られているため群の差が出なかった因子があると書いています。
⑦明日の臨床へ
露髄した生活歯の直接覆髄は、まとめると8割を超える成功率が報告されている処置です。ただしこの83%は、多くが症状のない歯を対象にした研究から出た数字です。原典で「症状あり」に分類された研究は2つだけでした(「症状なし」には、短時間の温度刺激への反応だけの歯も含む)。著者らも、症状がなく根尖が正常な生活歯で直接覆髄を行うことを勧めています。
手技の面では、このレビューで唯一有意だったのは、う蝕の除去から覆髄・封鎖まで全工程でラバーダム防湿を行った研究と、それ以外の研究を比べた関連でした(研究ごとの値の単変量メタ回帰)。露髄してから慌てて掛けるのではなく、露髄しうる深さの処置では最初から掛けておく、というのがこの結果の素直な読み方です(筆者の読み)。
覆髄材は、ケイ酸カルシウム系の成功率が高い傾向でしたが、このレビューでは有意差を検出しませんでした。著者らは、材料どうしを直接比べた研究をまとめる別の解析が必要だとしています。
止血については、5分未満で止まった研究のほうが成功率が高い傾向でしたが、これも有意差は検出されていません。著者らは、出血が多く止まりにくいのは残った歯髄の強い炎症の表れでありうる、と考察しています。
⑧ここだけ補助線
・研究デザイン:メタ分析の26研究のうち16研究は観察研究(後ろ向きを含む)で、治療の手順は研究ごとに違う。検索は英語の論文に限った
・解析の形:予後因子は研究ごとの値を使った単変量のメタ回帰で、因子どうしの影響を分けていない。多くの比較を検定した中で、ラバーダムの p は 0.046
・ばらつき:研究間のばらつきが大きい(I² 87.93%)。追跡は研究ごとに違い(著者の要約で6か月〜10年、表1には平均13.7年の研究も)、メタ分析に入れた研究の再来率は40.8〜100%(原典の表1から筆者が数えた)
・原典の表の読み方:表3のケイ酸カルシウム系の p(0.513)は、信頼区間から通常の近似で計算した値(約0.13、筆者の確認)と合わない。表4の介入研究と無作為化比較試験の行は同じ10研究だが信頼区間が異なる。原典の計算設定は確認できない
・本記事の読んだ範囲:原著の本文13頁(表1〜4・図1〜5を含む)を読んだ。検索式と各研究の質の点数を載せた付録は確認していない
「ラバーダムは面倒だけれど、やはり大事」という手応えを、数字で確かめられる1本です。因子どうしを分けて調べた研究の続報が楽しみです。
今日のひとこと
永久歯の直接覆髄は、26研究をまとめると成功率83%(95%CI 79〜87%)。調べた多くの因子の中で、有意だったのは「全工程でラバーダム防湿」だけ(リスク比 1.44)でした。ただし26研究のうち16研究は観察研究で、研究ごとの値を使った単変量の解析です。覆髄材や拡大視野などは有意差を検出しなかった段階で、差が無いと証明されたわけではありません。


