1問1答 論文 エンド

根管治療のラバーダム、歯の残り方に差はある?——台湾の健康保険データで初回の根管治療を受けた517,234歯を追った観察研究で、ラバーダムの請求があった歯は抜歯のハザード比0.81(請求がなかった歯を1とし、年齢・歯種などで調整後)。ただし使った歯科医師の違いも混ざりうる「関連」の結果(Lin 2014)

1問1答 論文 エンド

エンド|台湾の健康保険の請求データ(無作為抽出した100万人分)から、2005〜2011年に初回の根管治療を受けた517,234歯を2011年末まで追い、ラバーダムの請求の有無と、その後の抜歯との関連をCox比例ハザードモデルで調べた後ろ向きの観察研究(Lin 2014・Journal of Endodontics)

ラバーダムは根管治療の標準とされますが、「使うと歯が長く残る」ことを直接示した研究は多くありません。Lin らは台湾の健康保険の請求データから、初回の根管治療を受けた517,234歯を最長7年(平均3.43年)追いました。ラバーダムの請求があった歯は77,489歯(15.0%)。年齢・性別・歯種・病院の種類・治療後のスケーリングの頻度・糖尿病や高血圧などの全身疾患で調整すると、ラバーダムの請求があった歯の抜歯のハザード比は0.81(95%信頼区間 0.79–0.84。請求がなかった歯を1とした値)でした。観察期間中に抜歯された歯は、ラバーダムあり4.85%、なし5.79%でした(観察期間の長さが群で違う、調整前の単純な割合)。ただし無作為に割り付けた試験ではなく、記録から見た「関連」です。著者ら自身も、ラバーダムを使う歯科医師ほど治療全体が丁寧だった可能性を限界に挙げています。

論文
The Effect of Rubber Dam Usage on the Survival Rate of Teeth Receiving Initial Root Canal Treatment: A Nationwide Population-based Study
著者
Po-Yen Lin, Shih-Hao Huang, Hong-Ji Chang, Lin-Yang Chi(台湾・国立陽明大学 歯学部ほか)
掲載
Journal of Endodontics 2014; 40(11): 1733–1737(筆者が読んだのは掲載前の版 Article in Press の全5頁)
種類
健康保険の請求データを使った後ろ向きの観察研究(コホート研究)。台湾の Longitudinal Health Insurance Database 2005(2005年の加入者から無作為に抽出した100万人分)で、2005〜2011年に初回の根管治療を受けた517,234歯。ラバーダムの使用・抜歯・治療の質は請求コードで判定。単変量・多変量のCox比例ハザードモデル
資金・利益相反
Cheng Hsin General Hospital(台北)の研究費による一部支援。著者らは利益相反は無いとしている
PMID
25175849

①根管治療のラバーダム、歯の残り方に差はある?

根管治療ではラバーダムを使う。学校でも学会の指針でもそう習います。けれど、忙しい外来で「この歯は簡易防湿でも同じでは」と迷う場面もあるはずです。

では、ラバーダムを使った根管治療と使わなかった根管治療で、その後の歯の残り方は違うのか。台湾の Lin らは、国の健康保険の記録を使って、この問いに数十万本の歯で答えようとしました。

結論を先に書きます。
・台湾の健康保険の請求データで、2005〜2011年に初回の根管治療を受けた517,234歯を2011年末まで追った観察研究(平均3.43年・最長7年)
・ラバーダムの請求があった歯は77,489歯(15.0%)
・年齢・性別・歯種・病院の種類・治療後のスケーリングの頻度・糖尿病や高血圧などの全身疾患で調整すると、ラバーダムの請求があった歯の抜歯のハザード比は0.81(95%信頼区間 0.79–0.84)(請求がなかった歯を1とした値)。調整前は0.89(0.86–0.92)
・観察期間中に抜歯された歯はラバーダムあり4.85%、なし5.79%(観察期間の長さが群で違う、調整前の単純な割合)
・注意:無作為に割り付けた試験ではなく、記録から見た「関連」。ラバーダムを使う歯科医師ほど治療全体が丁寧だった可能性を、著者ら自身が限界に挙げている

②なぜ「標準なのに根拠が薄い」と言われてきたのか

ラバーダムは1864年に歯科に持ち込まれ、ヨーロッパ歯内療法学会やアメリカ歯内療法学会は根管治療の標準として強く勧めています。著者らは利点を、感染の制御、患者の保護(器具の誤飲・誤嚥の防止)、治療の効率の3つに整理しています。

一方で、ラバーダムが根管治療の成績そのものを良くするかについては、直接の根拠が乏しいと著者らは述べます。ラバーダムを使わない群をわざと作る臨床試験は倫理的に難しいからです。本論文が引用した Van Nieuwenhuysen らの研究(1994年)は、再根管治療612例でラバーダムを使った方が成績が良かったと報告していますが、単変量の解析で、ほかの要因を調整していませんでした。

そして台湾では、ラバーダムの使用率が16.5%(2004年のデータ)と低いことが報告されていました(本論文が引用した Lin HC らの報告)。使う人と使わない人がどちらも大勢いる。この状況を逆手に取り、国の保険記録で歯の残り方を比べたのが今回の研究です。

③今回の研究:国の保険記録で51万歯を追った

  • データ:台湾の全民健康保険(住民の約99%が加入)の研究用データベース。2005年の加入者から無作為に抽出した100万人分の2001〜2011年の記録(Longitudinal Health Insurance Database 2005)
  • 対象:2005〜2011年に初回の根管治療を受けた歯。再根管治療のコードがある歯と、2001〜2004年に根管治療を受けていた歯は除外。歯髄・根尖の診断名(ICD-9-CM 522.0〜522.9)の無い歯も除外
  • 比べたもの:根管治療の来院時にラバーダムの請求コード(90012C)があった歯と、無かった歯。このコードの請求には、エックス線写真か口腔内写真の裏付けが必要とされている
  • アウトカム:根管治療の終了日から2011年末までに、抜歯の請求コードが出たかどうか(歯の「生存」=抜歯されずに残っていること)
  • 解析:Cox比例ハザードモデル。調整した因子は、年齢・性別・歯種・病院の種類(医療センター・地域病院・地区病院・診療所)・根管治療後の年間スケーリング回数・糖尿病や高血圧などの全身疾患(原典の表2に載るのは糖尿病と高血圧)

ハザード比は「ある時点で、まだ残っている歯が次に抜歯される起こりやすさ」の比です。0.81は、ラバーダムの請求があった歯の方が、その起こりやすさが約2割低かったことを表します。一定の期間に抜歯される割合そのものの比(リスク比)とは別の指標です。

④結果:抜歯のハザード比は調整後0.81

表 ラバーダムの請求あり・なしの比較(原典の表1・表2から) 項目 ラバーダムあり ラバーダムなし 歯の数 77,489歯(15.0%) 439,745歯 平均観察期間 39.29か月 41.44か月 観察期間中に抜歯された歯 3,761歯(4.85%) 25,458歯(5.79%) 抜歯のハザード比(調整前) 0.89(0.86–0.92) 基準(1) 抜歯のハザード比(調整後) 0.81(0.79–0.84) 基準(1) 台湾の健康保険データで2005〜2011年に初回の根管治療を受けた517,234歯。ラバーダムの使用と抜歯は請求 コードで判定 抜歯された歯の割合は各群の歯数に占める割合(表1)。観察期間の長さが群で違う、調整前の単純な割合 ハザード比の括弧は95%信頼区間。調整因子は年齢・性別・歯種・病院の種類・治療後のスケーリングの頻度・ 糖尿病や高血圧などの全身疾患。治療の質は調整に入っていない 15.0%は原典の考察に書かれたラバーダムの使用率。原典の結果の節には、なし群を439,475歯と書いた箇所が あるが、表1の439,745歯を載せた
図1 原典の表1(各群の歯数・観察期間・抜歯された歯の数)と表2(ラバーダム使用のハザード比)から、ラバーダムに関する行を抜き出したもの。表2のほかの行(年齢・歯種・病院の種類などのハザード比)は載せていない。群の背景の分布は図2にまとめた。

観察期間中に抜歯された歯は、ラバーダムありが77,489歯中3,761歯(4.85%)、なしが439,745歯中25,458歯(5.79%)でした(表1)。全体では29,219歯が抜歯され、94.4%が残っていました。ただし平均の観察期間は、ありが39.29か月、なしが41.44か月と違うため、この割合は調整前の単純な比較です。

Cox比例ハザードモデルでは、ラバーダムの請求がなかった歯を1としたときのハザード比が、調整前で0.89(95%信頼区間 0.86–0.92)、年齢・性別・歯種・病院の種類・スケーリングの頻度・糖尿病や高血圧などの全身疾患で調整した後で0.81(0.79–0.84)でした。観察が1年未満の歯を除いて(2005〜2010年に治療した447,435歯・平均3.88年)解析し直しても、調整後のハザード比は0.81(0.78–0.84)で、ほぼ同じでした。

もう1つ、原典の読み方に注意が要る数字があります。抄録と結果の本文は「平均観察期間の3.43年の時点の生存確率は、ラバーダムあり90.3%、なし88.8%(log-rank検定 P<.0001)」と書いています。ところが原典の図1の生存曲線では、40か月あたりの値は両群とも0.95前後で、90.3%と88.8%に当たるのは観察の終わり(80か月を過ぎたあたり)の値です(図からの筆者の読み取り)。どの時点の値なのかが原典の中で食い違っているため、この記事ではこの2つの値を主な結果として扱わず、そこから割合の比も計算しません。なお log-rank検定は、ある1時点の差ではなく、生存曲線全体を比べる検定です。

⑤結果の読み方:2つの群は、ラバーダム以外も違っていた

著者らは「ラバーダムの使用は初回の根管治療後の生存率を有意に高めうる」と結論しています。ただし、この研究は記録から見た関連であり、ラバーダムを使ったから歯が残った、という因果まで示したものではありません。

理由の1つは、2つの群の中身がかなり違っていたことです。

表 ラバーダムの請求あり・なしで、群の背景はどう違ったか(原典の表1から4項目の全区分) 項目 区分 あり(77,489歯) なし(439,745歯) 調整に 治療の質 「良好」のコード 13.95% 0.00% 入っていない 平均的 86.05% 100.00% 病院の種類 医療センター 7.72% 0.24% 入っている 地域病院 6.00% 1.40% 地区病院 2.28% 0.72% 診療所 83.99% 97.64% 歯種 前歯 20.02% 30.69% 入っている 小臼歯 31.75% 31.65% 大臼歯 48.23% 37.66% 患者の年齢 20歳以下 8.56% 8.39% 入っている 21〜40歳 38.17% 30.79% 41〜60歳 38.19% 40.49% 60歳を超える 15.09% 20.32% 割合は各群の歯数に占める割合(原典の表1)。表1の項目のうち、治療の質と、調整に入っている病院の種類 ・歯種・年齢の4項目を、区分を省かずに載せた(項目の選択は筆者)。表1では性別を除く全項目で2群の差 が P<.0001 治療の質「良好」=充填の長さが適切で根尖側1/3まで緊密に充填された根管治療の請求コード(90095C〜 90097C) 「調整に」=多変量のCox比例ハザードモデルの調整因子に入っているか(原典の本文・表2)
図2 ラバーダムの請求の有無で、群の背景がどう違ったか(原典の表1。割合は各群の歯数に占める割合)。表1の項目のうち、治療の質と、調整に入っている病院の種類・歯種・年齢の4項目を、区分を省かずに載せた(項目の選択は筆者)。表1では性別を除く全項目で、2群の差は P<.0001。

目を引くのは「治療の質」です。台湾の保険では、充填の長さが適切で根尖側1/3まで緊密に充填された根管治療に「良好」の請求コード(90095C〜90097C)があり、このコードがあった歯はラバーダムあり群に10,806歯(13.95%)、なし群には0歯でした(表1)。治療の質は、多変量の調整に入っていません(本文の調整因子の一覧・表2)。また、医療センターで治療された歯はあり群7.72%・なし群0.24%、大臼歯はあり群48.23%・なし群37.66%と、病院の種類や歯種も偏っていました(こちらは調整に入っている)。

著者らは限界の中で、ラバーダムを日常的に使う歯科医師ほど治療の細部に注意を払っていた可能性があり、ラバーダムの使用は歯科医師の行動や治療の質を映す「中間的な変数」かもしれないと書いています。洗浄液の選択、拡大・形成の方法、根管充填材、1回か複数回かといった情報は、このデータベースにはありません。

もう1つは、アウトカムが「抜歯」だという点です。著者らが引用した研究では、根管治療後の抜歯のうち、歯内療法の失敗によるものは1割前後でした。ほかに歯周病・う蝕・歯の破折なども抜歯の理由になります。抜歯をアウトカムにすると根尖病変の治癒は見えませんが、数十万本という大きさで小さな差まで捉えられる、というのが著者らの説明です。

⑥明日の臨床へ

この研究から言えるのは、「実際の診療記録では、ラバーダムの請求があった根管治療ほど、その後に抜歯されにくい関連があった」ということです。観察期間中に抜歯された割合の差(4.85%と5.79%、調整前)は大きくありませんが、調整後のハザード比は0.81で、観察期間の短い歯を除いても変わりませんでした。

ラバーダムの価値は、もともと感染の制御、視野の確保、器具の誤飲・誤嚥の防止といった理由で支えられています。今回の結果は、ラバーダムの使用が抜歯の少なさと結びついていたという記録上の関連を1つ示したものと読むのが妥当です(ここから筆者の読み)。

ただし、ラバーダムだけを足せば成績が上がる、とまでは言えません。ラバーダムを使う歯科医師ほど治療全体が丁寧だった可能性があり(著者らの限界)、それがどの程度この差に混ざっているかは、この研究では確かめられていません。ラバーダムを張ることを入口に、洗浄・形成・充填まで含めた根管治療の工程全体を見直す。そう使うのが、この研究の数字を誇張しない読み方です(ここまで筆者の読み)。

⑦ここだけ補助線

51万歯という規模で、標準とされながら根拠の薄かった問いに数字を出した点が面白い研究です。ただし読むときは次の点だけ押さえておきたいところです。
・観察研究:ラバーダムを使うかどうかは無作為に決めていない。使う歯科医師ほど治療全体が丁寧だった可能性を、著者ら自身が挙げている
・調整していない違い:「良好」の治療の質のコードは、ラバーダムあり群だけに13.95%あり、なし群は0%。治療の質は調整に入っていない
・請求の記録で判定:ラバーダムの使用も抜歯も、診断名も、保険の請求コードから判断している。著者らも、診断名など一部の情報は信頼性が十分でないと書いている。2001年より前の根管治療の歯が混ざった可能性もある
・アウトカムは抜歯:根尖病変の治癒は測っていない。著者らの引用では、根管治療後の抜歯のうち歯内療法の失敗によるものは1割前後
・保険外の処置:台湾の保険はポスト・コアや補綴を対象としておらず、歯冠補綴の有無は調整できていない(著者らは、補綴の選択はラバーダムの使用とは関係しないと述べている)
・原典の中の食い違い:抄録の「3.43年時点の生存確率 90.3%・88.8%」は、原典の図1では観察の終わりの値に当たる(図からの筆者の読み取り)
使う歯科医師の違いが混ざっている可能性も含めた「現実の世界の傾向」として読むと、ラバーダムを続ける理由を後押ししてくれる1本です。

今日のひとこと

台湾の51万歯あまりの初回の根管治療では、ラバーダムの請求があった歯ほど、その後に抜歯されにくい関連が見られました(請求がなかった歯を1とした、調整後のハザード比0.81)。観察期間中に抜歯された割合の差は大きくなく(4.85%と5.79%・調整前)、無作為化の試験ではないため、ラバーダムそのものの効果と、使う歯科医師の丁寧さの違いは切り分けられていません。それでも、標準とされてきたラバーダムの使用が、実際の診療記録でも抜歯の少なさと結びついていたことは、日々の防湿を見直すきっかけになります。

Lin PY, Huang SH, Chang HJ, Chi LY. The effect of rubber dam usage on the survival rate of teeth receiving initial root canal treatment: a nationwide population-based study. J Endod. 2014;40(11):1733-1737. doi: 10.1016/j.joen.2014.07.007. PMID: 25175849
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。