1問1答 論文 エンド

鋳造ポストコアを待つ間の仮のポスト冠、根管の封鎖は保てる?——抜去歯30本の実験室研究で、仮のポスト冠は10本すべてでポストの周りに墨汁が入り(平均7.09mm)、鋳造ポストコア(10本中2本)や既製ポスト+レジンコア(10本中0本)より漏洩が有意に多かった(Fox 1997)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管充填した単根のヒト抜去歯30本を、鋳造ポストコア・既製ポスト+レジンコア・仮のポスト冠の3群(各10本)に分け、墨汁がポストの周りにどこまで入るかを比べた実験室研究(Fox 1997・International Endodontic Journal)

鋳造のポストコアが出来上がるまで、仮のポスト冠で待つ。その間、根管の歯冠側は封鎖できているのでしょうか。Fox らは、根管充填して9mmのポスト孔を作った単根のヒト抜去歯30本を3群に分け、温度サイクルのあと墨汁に7日浸して、ポストの周りに墨汁が入った長さを測りました。仮のポスト冠(酸化亜鉛ユージノール系の仮着材で装着)は10本すべてで墨汁が入り(1.47〜11.53mm、平均7.09mm)、鋳造ポストコア(歯冠側からの漏洩は10本中2本)や既製ポスト+レジンコア(ポストの周りは10本中0本)より漏洩が有意に多い結果でした。抜去歯で墨汁の入った長さを測った実験で、細菌の侵入や治療の成績を測ったものではありません。

論文
An in vitro study of coronal microleakage in root-canal-treated teeth restored by the post and core technique
著者
K. Fox, D. L. Gutteridge(リーズ歯科研究所 修復歯科学部門、英国)
掲載
International Endodontic Journal 1997; 30(6): 361–368
種類
抜去歯を使った実験室研究(in vitro)。単根のヒト抜去歯30本を根管充填し、9mmのポスト孔を形成。鋳造ポストコア(リン酸亜鉛セメント)・既製ポスト+レジンコア(レジンセメント)・仮のポスト冠(酸化亜鉛ユージノール系の仮着材)の3群各10本と、陽性・陰性対照各4本。温度サイクル60回のあと墨汁に37℃で7日浸し、透明化してポストに沿った浸透の長さを測定(Kruskal-Wallis検定と多重比較)
資金・利益相反
資金・利益相反の記載は無い(謝辞は技術協力と統計の助言のみ)。使った製品は方法の記述として挙げたもの(Parapost・HIGH-Q-BOND・TempBond など)
PMID
9588975

①仮のポスト冠で待つ間、根管の封鎖は保てる?

根管充填のあと、ポスト孔を形成して印象。鋳造のポストコアが技工所から届くまでは、仮のポストを付けた仮の冠(仮のポスト冠)を仮着材で付けて待つ。よくある流れです。

では、その「待つ間」に、歯冠側から根管へ物が入り込むことはないのでしょうか。英国リーズの Fox と Gutteridge は、抜去歯を使った実験室研究で、鋳造ポストコア・既製ポスト+レジンコア・仮のポスト冠の3つを比べ、ポストの周りに墨汁がどこまで入り込むかを測りました。

結論を先に書きます。
・単根のヒト抜去歯30本を根管充填して9mmのポスト孔を作り、3群(各10本)に分けた実験室研究。温度サイクルのあと墨汁に37℃で7日浸し、歯を透明にして、ポストに沿って墨汁が入った長さを測った
・仮のポスト冠(酸化亜鉛ユージノール系の仮着材で装着):10本すべてでポストの周りに墨汁が入った(1.47〜11.53mm、平均7.09mm)。4本はポストの先端まで達した。根尖まで達した歯は無かった
・鋳造ポストコア(リン酸亜鉛セメント):歯冠側からの漏洩を認めたのは10本中2本
・既製ポスト+レジンコア(レジンセメント):コアと根面の境目は全10本で染まったが、ポストの周りに墨汁が入った歯は0本
・群どうしの比較:仮のポスト冠の漏洩は、鋳造ポストコアより(P<0.05)、既製ポスト+レジンコアより(P<0.01)有意に多かった。鋳造と既製の2群の間には有意差を検出しなかった(著者の結論)
・注意:墨汁の入った長さを測った実験で、細菌の侵入や根管治療の成績を測ったものではない

②なぜ「歯冠側の封鎖」が問題になるのか

根管治療の失敗の大きな理由として、歯冠側からの漏洩(コロナルリーケージ)が挙げられてきました。著者らが引いた実験では、歯冠側を封鎖していない根管充填歯で、19日以内に根管の全長へ細菌が入りうると報告されています(著者が引用した研究)。そのため、根管充填のあとにどう歯冠側を封鎖するかが、長い目で見た成績に関わると考えられています。

ポストコアには、型を採って作る鋳造のものと、ポスト孔を作ったその場で入れられる既製ポスト+レジンコアがあります。鋳造の場合は、出来上がるまでの間、仮のポスト冠を付けておく必要があります。著者らによると、根管充填材やコアの封鎖を調べた研究は多いものの、ポストの方法ごと、そして仮のポスト冠の封鎖を調べた研究は少なかった、というのが出発点です。

③今回の研究:抜去歯30本で3つの方法を比べた

  • 対象:集めた単根のヒト抜去歯94本から、根管が1本でない歯・根尖が未完成の歯・歯冠側10mmの湾曲が10°を超える歯などを除き、38本を選んだ(3群各10本+陽性対照4本・陰性対照4本)。歯頸部で根の幅を測り、大きさがそろうように群へ振り分けた(分散分析で群間に有意差なし)
  • 根管:歯冠をセメント-エナメル境で切断し、2.2%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄しながら形成。3群の30本は、ガッタパーチャとシーラー(Tubliseal)で側方加圧充填し、9mmの深さでポスト孔(直径1.5mm)を形成
  • A群(10本):鋳造ポストコア(半貴金属)をリン酸亜鉛セメントで装着
  • B群(10本):ステンレスの既製ポスト(Parapost)をレジンセメント(HIGH-Q-BOND)で装着し、コンポジットレジンでコアを築造
  • C群(10本):アルミの仮ポストにポリカーボネートの仮の冠を即時重合レジンで合わせた仮のポスト冠を、酸化亜鉛ユージノール系の仮着材(TempBond)で装着。冠の縁は根面の縁に合わせた
  • 負荷と評価:37℃の水に6日置き、17℃と47℃の温度サイクルを60回。根の表面をワックスで覆い、墨汁に37℃で7日浸した。その後、硝酸で脱灰して歯を透明にし、顕微鏡(30倍)で、セメント-エナメル境からポストに沿って墨汁が入った長さを近心・遠心で測った(同じ人が別の日に3回測った平均)
  • 統計:近心と遠心の浸透の長さに有意差を認めなかった(t検定)ので平均を使い、Kruskal-Wallis検定と多重比較で群を比べた

④結果:仮のポスト冠だけ、10本すべてで墨汁が入った

いちばんはっきりしていたのは仮のポスト冠です。10本すべてで、ポストの周りに墨汁が入り込んでいました。入った長さは1.47〜11.53mm、平均7.09mm。4本では墨汁がポストの先端まで達していました。ただし、ポストの先に残したガッタパーチャが止めたようで、根尖まで墨汁が達した歯はありませんでした。

0 2本 4本 6本 8本 10本 墨汁が入った歯の本数(各群10本) 2本 0本 10本 A 鋳造ポストコア B 既製ポスト+レジンコア C 仮のポスト冠 抜去歯30本の実験室研究(各群10本)。0本は棒なしA=歯冠側からの漏洩を認めた本数 B・C=ポストの周りへの浸透を認めた本数
図1 ポストの周りに歯冠側から墨汁が入った歯の数(各群10本)。単根のヒト抜去歯30本の実験室研究。墨汁に37℃で7日浸したあと、歯を透明にして判定。鋳造ポストコアの2本は結果の本文、既製ポスト+レジンコアの0本は結果と考察の本文、仮のポスト冠の10本は結果の本文による。

鋳造ポストコアでは、歯冠側からの漏洩を認めたのは10本中2本でした。ただし、透明にする途中でリン酸亜鉛セメントが溶け、4本の根が褐色に変わって墨汁を見つけにくくなった、と著者らは書いています。

既製ポスト+レジンコアでは、10本すべてでコアと根面の境目が墨汁で染まりましたが、象牙細管やポストの周りへの浸透は見られず、ポストの周りに墨汁が入った歯は0本でした。

群どうしの比較では、仮のポスト冠の漏洩は、鋳造ポストコアより(P<0.05)、既製ポスト+レジンコアより(P<0.01)有意に多い結果でした。鋳造ポストコアと既製ポスト+レジンコアの間については、著者らは結論で有意差を認めなかったとしています(結果の節にこの比較のP値は示されていません)。対照では、陽性対照4本はすべて歯冠側からの明らかな漏洩を示し、全体をワックスで覆った陰性対照4本では漏洩はありませんでした。

3つの群の結果(各群10本・墨汁に37℃で7日) 群 装着の材料 入った歯 入った長さ A 鋳造ポストコア リン酸亜鉛セメント 10本中2本 原著本文に長さの数値なし B 既製ポスト+レジンコア レジンセメント 10本中0本 ポストの周りへの浸透なし C 仮のポスト冠 酸化亜鉛ユージノール系の仮着材 10本中10本 1.47〜11.53mm(平均7.09mm) 単根のヒト抜去歯30本の実験室研究。9mmのポスト孔。温度サイクル60回のあと墨汁に浸し、歯を透明にして、セメント- エナメル境からポストに沿って入った長さを近心・遠心で測った平均 Aは歯冠側からの漏洩を認めた本数(4本は根が褐色になり墨汁を見つけにくかった)。B・Cはポストの周りへの浸透を認め た本数。Bはコアと根面の境目が全10本で染まったが、ポストの周りには入らなかった。Cは4本でポストの先端まで達し、 根尖まで達した歯は無かった 多重比較:CはAより多い(P<0.05)、Bより多い(P<0.01)。AとBの間は有意差を検出しなかった(著者の結論)
図2 3つの群の結果のまとめ(原典の結果と考察の本文から)。P値はKruskal-Wallis検定のあとの多重比較。

なお、鋳造とレジンコアの各1本では、根尖側で1.05〜1.45mmの小さな漏洩がありました。著者らは、根尖側のワックスが破れて側枝から入ったものと見ており、歯冠側からの漏洩の結果には影響しないとしています。

⑤結果の読み方:仮のポスト冠は「弱い輪」

著者らは、仮のポスト冠を根管充填歯の修復の「弱い輪(weak link)」と呼び、ポスト孔への細菌の侵入を許しうる、と考察しています。結論としては、既製ポスト+レジンコアですぐに修復するほうが、仮のポスト冠を付けてから鋳造ポストコアへ進むより好ましいかもしれない、仮のポスト冠を使うならできるだけ短い期間にとどめるべきだ、としています。

一方で著者らは、口の中では仮着材のユージノールが細菌の侵入を抑えるかもしれない、とも書いています。仮の修復が数週間そのままになることや、時間とともに漏洩が増えるという報告(著者が引用した研究)に触れ、仮のポスト冠が外れたり長く置いたりした時は、根管の再治療も考えてよい、と述べています。

既製ポスト+レジンコアで漏洩が見られなかったことについて、著者らは、今回のレジンセメントがよい封鎖を作ったことを示すと見ています。ただし、別の研究ではレジンコアでも漏洩が出ており、温度サイクルの条件や色素の違いによるのかもしれない、とも書いています。

⑥明日の臨床へ

鋳造のポストコアを選ぶなら、仮のポスト冠で待つ期間は、根管の歯冠側の封鎖が弱くなりうる時間だと意識しておきたいところです。待つ期間を長くしない、外れたら早めに対処する、というのが、この研究から無理なく引き出せる使い方です(筆者の読み)。

ただし、この研究で測ったのは抜去歯で墨汁が入った長さです。細菌が実際に入るか、根尖病変や根管治療の成績に差が出るか、どのポストコアが臨床で長く持つかは調べていません。「既製ポスト+レジンコアのほうが臨床成績がよい」という結論ではない点に注意が要ります(ここまで筆者の読み)。

⑦ここだけ補助線

日々の流れの中の「仮の期間」に目を向けた、わかりやすい実験です。ただし読むときは次の点だけ押さえておきたいところです。
・研究の種類と規模:抜去歯の実験室研究で、各群10本と少ない。口の中の唾液・細菌・かむ力は再現していない
・指標:墨汁の粒子は平均約10μmとされ(著者が引用した報告)、細菌より大きいかもしれない。著者らは、一部の墨汁が象牙細管に入っていたことから、細菌の代わりになりうるとも考察している
・群の条件の違い:仮のポスト冠だけ冠の縁が根面の縁まであり、墨汁は根面を横切ってからポストの周りに入る必要があった。著者らは、そのぶん根面から測った長さは他の群より大きな漏洩を表すとしている
・測りにくさ:鋳造ポストコアの4本は、透明にする途中で根が褐色になり墨汁を見つけにくかった
・時代:1997年の材料と手順での結果
仮の期間の封鎖という、見落としやすいところに光を当てた1本です。口の中での細菌の侵入や臨床成績での確認が続くと、待つ期間の考え方がもっとはっきりしそうです。

今日のひとこと

抜去歯の実験では、仮のポスト冠は10本すべてでポストの周りに墨汁が入り、鋳造ポストコアや既製ポスト+レジンコアより漏洩が有意に多い結果でした。鋳造ポストコアを待つ期間を、歯冠側の封鎖が弱くなりうる時間として意識するための1本です。ただし各群10本の墨汁の実験で、細菌の侵入や臨床の成績は測っていません。

Fox K, Gutteridge DL. An in vitro study of coronal microleakage in root-canal-treated teeth restored by the post and core technique. Int Endod J. 1997;30(6):361-368. doi: 10.1046/j.1365-2591.1997.00093.x. PMID: 9588975
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。