エンド|歯髄壊死と根尖性歯周炎があり、初めて根管治療をする下顎第一大臼歯16本の近心根を、根管の形成・洗浄(次亜塩素酸ナトリウム+EDTA)・根管充填までを1回で終えた直後に外科的に切除し、光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡で根尖部の菌を観察したヒトの組織学的研究(Nair・Henry・Cano・Vera 2005・Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod)
根管の形成と洗浄を丁寧に行い、その日のうちに根管充填まで終える。そのとき、根尖部の根管の中はどうなっているのか。Nair らは2005年、歯髄壊死と根尖性歯周炎があり、初めて根管治療をする下顎第一大臼歯16本の近心根で、1回で根管充填した直後に根尖側3分の1を外科的に切除し、顕微鏡で直接確かめました。16本のうち14本で、根尖部の根管系に菌が残っていました。菌がいたのは、器具の届かない主根管のくぼみ、2本の根管をつなぐイスムス、副根管で、多くはバイオフィルムの形でした。2本の主根管には菌を認めず、イスムスなどにだけ菌がいた標本もありました。著者らは、根管の形が複雑なため、1回の治療で菌を完全に除くのは難しいと結論しています。16本の組織観察で、菌の有無を見たもので、菌の量や、残った菌とその後の治りの関係、2回に分けた治療との比較は調べていません。
①1回で終えた根管治療、根尖の奥に菌は残る?
根尖性歯周炎のある歯を、形成・洗浄から根管充填まで1回で終える。きれいに拡大でき、洗浄液もたっぷり使った。では、その日の根尖部の根管の中には、菌はもういないのでしょうか。
この問いに、顕微鏡で直接答えようとしたのが、Nair らが2005年に Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology, Oral Radiology, and Endodontology に出した研究です。根管充填を終えた直後の歯から根尖部を外科的に切り取り、組織標本にして菌を探しました。
・対象は、歯髄壊死と根尖性歯周炎があり、初めて根管治療をする下顎第一大臼歯16本(1人1本)の近心根。形成・洗浄(5.25%次亜塩素酸ナトリウム、最後に17% EDTA)・根管充填までを1回で終え、その直後に根尖側3分の1を切除して、光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡で観察した
・16本のうち14本(88%)で、根尖部の根管系に菌が残っていた
・菌がいたのは、形成した主根管のうち器具の届かないくぼみ、2本の根管をつなぐイスムス、副根管で、多くはバイオフィルムの形だった
・イスムスがあった11本のうち10本で、イスムスに菌がいた。2本の主根管には菌を認めず、イスムスなどにだけ菌がいた標本が5本あった(表IIIから筆者が数えた)
・著者らの結論:根管系の形の複雑さと、菌がバイオフィルムとして守られていることから、当時(2005年)の器具と洗浄だけで1回のうちに菌を除き切るのは難しい
・16本の組織観察で、菌の有無を見たもの。菌の量、残った菌とその後の治りの関係、2回に分けた治療との比較は調べていない
②なぜこの研究が行われたか
根尖性歯周炎は、根管系に菌が住みつくことで続く病気です。治療の目標は、根管の中の菌を除くか大きく減らし、根管を封鎖して再感染を防ぐことにあります。
著者らの序論によると、それまでの研究では、根管からペーパーポイントで試料を取り、培養して菌を数える方法が使われてきました。その研究からは、形成と次亜塩素酸ナトリウム・EDTA による洗浄に加えて、水酸化カルシウムなどの貼薬を来院の間に置いたときに、菌の培養が陰性になりやすいとされていました。貼薬には時間がかかるので、1回の治療(1回法)では行えません。
一方で、主根管・イスムス・副根管・根尖部の枝分かれからなる根管系の複雑さは、エックス線写真では十分に見えず、ペーパーポイントの試料も届かない所があります。そこで著者らは、1回法の直後に根尖部の根管系の菌がどうなっているかを、組織標本で直接確かめることにしました。
③何をどう調べたか
・対象:歯髄壊死があり、根尖部にはっきりした透過像があり、温度診に反応せず、根管治療をしたことのない成熟した下顎第一大臼歯の近心根16本(16人・1人1本。表Iから筆者が読んだ年齢の範囲は13〜48歳)
・治療:2人の歯内療法専門医が、ラバーダム防湿のもとで1回で行った。近心頬側根管はステンレスのKファイルで根尖を25号まで形成し、そこから1 mmずつ短くしながら40号までステップバック(40号は作業長の3 mm手前)。近心舌側根管はNiTiのLightspeedで根尖を40号まで形成。どちらも5.25%次亜塩素酸ナトリウムでたっぷり洗い、最後に17% EDTA 10 mLで洗った。根管充填は、ガッタパーチャと酸化亜鉛ユージノール系のシーラー(Roth 801)による側方加圧
・切除:同じ来院のうちにフラップを開け、近心根の根尖側3分の1を切り取った
・観察:切り取った根尖を0.3〜0.5 mmの厚さの輪切りにし、樹脂に包埋して、光学顕微鏡で菌や好中球のいそうな所を探し、その場所を透過型電子顕微鏡でも見た(光学顕微鏡と電子顕微鏡を対応させて見る方法)
・対照:抜歯予定の壊死歯の遠心根4本(治療していない陽性対照)と、矯正のために抜いた健康な下顎小臼歯3本(陰性対照)
2つの形成方法は別々の根管に使われましたが、著者らは2つの方法を比べることはしていないと書いています。また、比較の群(2回に分けた治療など)は無く、菌の有無を見た研究で、菌の量は数えていません。
④結果1:16本中14本の根尖部に菌が残っていた
まず根管の形です。16本すべてに近心舌側根管と近心頬側根管があり、4本では2本の根管が根尖の方で合流していました。イスムス(2本の根管をつなぐ部分)は16本中11本、副根管や根管の枝分かれは16本中8本に見られました。
そして菌です。16本のうち14本(88%)で、根尖部の根管系のどこかに菌を認めました(図1)。部位ごとに見ると、近心舌側根管8本、近心頬側根管8本(いずれも16本の50%)、イスムス10本(イスムスがあった11本のうち10本)、副根管5本(副根管があった8本のうち5本)でした。
標本ごとに見ると(図2)、菌の居場所は一様ではありません。2本の主根管には菌を認めず、イスムス(1本は副根管も)にだけ菌がいた標本が5本ありました(表IIIから筆者が数えた)。このうち標本5・6のイスムスの菌は、光学顕微鏡では見えず、電子顕微鏡でだけ認めたと表IIIの備考にあります。
原著の中には、3つの食い違いがあります。1つ目は、副根管に菌がいた標本の数で、本文と表IVは5本ですが、標本ごとの表IIIでは副根管の欄の「+」が6つあります(表IIIの+を筆者が数えた)。2つ目は、どちらの根管をどの器具で形成したかで、方法の節と抄録では近心頬側根管がKファイル、近心舌側根管がNiTiですが、結果の節の1か所は逆に書かれています(本記事は方法の節に合わせました)。3つ目は標本15で、表IIIではイスムスの欄が「構造なし」ですが、図9の説明では2本の根管が幅の広いイスムスでつながっていると書かれ、本文にもこの標本のイスムスの菌が出てきます。図1・図2は表の値のまま載せ、どちらが正しいかは決めていません。
⑤結果2:器具の届かない所に、バイオフィルムとして
菌がいたのは、次のような所でした。
・主根管のくぼみ:形成の跡やガッタパーチャ・シーラーが見える主根管でも、器具の届かないくぼみや不規則な枝分かれに、菌・有機物・削りくずが詰まっていた(代表の1例で詳しく図示)
・副根管・枝分かれ:形成されていない副根管が、菌でふさがっていた(代表の1例)
・イスムス:イスムスの壁にはハウシップ窩(吸収窩)が連なった凹凸があり、そこに菌が住みついていた。とても細いイスムスでも、電子顕微鏡では多くの菌と、壊れかけた好中球が見えた
菌は、球菌・桿菌・糸状の菌が混ざった集まりで、細胞外の基質のような物質でまとまり、象牙質の壁に何層にも付いた、バイオフィルムに似た形をしていました(根管の液の中に浮かぶ菌や菌の塊もあった、と著者らは考察で書いています)。分裂している菌の形も多く見られ、著者らは、切除して処理した時点で菌が生きていた証拠と読んでいます。標本1と標本7の2本では、スピロヘータも見られました。また1本では、植物の細胞が根管の中にあり、その中にも菌がいました(治療の前から開いていたう窩に入った食べ物の名残だろう、と著者ら)。
対照では、治療していない陽性対照の4本すべてで、主根管と副根管に菌が見られました(1本には、形から真菌と考えられる大きな細胞もありました)。健康な歯の陰性対照3本では、菌は見られませんでした。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らの結論はこうです。下顎第一大臼歯の近心根の根管系はとても複雑で、菌はその器具の届かない所にバイオフィルムとして守られている。そのため、当時(2005年)の形成・洗浄・根管充填の方法で、特に1回の治療のうちに、菌のまったくいない根管系にするのはとても難しい。だからこそ、抗菌薬以外の化学的・機械的な手段をきちんと重ねて、バイオフィルムを壊し、根管の中の菌をできるだけ少なくすることが、長い目で見た良い予後につながる、としています。
結果の読み方として、著者らは次の点も書いています。
・菌を認めなかった2本:菌がいなかったという意味ではなく、この方法で見つからなかっただけの可能性が高い(著者ら)
・培養が陰性でも:ペーパーポイントの試料は形成した主根管から取るので、培養陰性は根管系全体に菌がいないことを意味しない(著者ら)
・残った菌は封じ込められて死ぬのか:根管充填で閉じ込められた菌は栄養が無く死ぬ、という考えは、まだ科学的に確かめられていない。菌が残っていても治る歯があるのは、菌の量や毒性が炎症を続けるには足りないか、根尖の組織と通じない所にいるためと考える方が自然(著者らの考察)
・1回法について:形成・次亜塩素酸ナトリウムとEDTAによる洗浄・十分な時間の貼薬を、当時の技術で1回のうちに終えることはできない。この結果は、感染した壊死歯を1回で治療する生物学的な裏付けにはならない、と著者らは書いています
最後の点は、著者らが引いた培養の研究と合わせた解釈です。この研究自体には、2回に分けて貼薬した群が無く、2回法なら菌が減るかどうかを比べてはいません。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、「形成と洗浄を丁寧にしても、器具の届かない所には菌が残りうる」という、根管の形の現実です。
・「培養陰性=無菌」ではない:ペーパーポイントの試料は形成した主根管からしか取れないので、培養が陰性でも根管系全体に菌がいないとは言えない(著者ら)
・菌を減らす手順を省かない:抗菌薬以外の化学的・機械的な手段をきちんと重ね、菌をできるだけ少なくする(著者らの結論)
・1回法か2回法かは、この研究だけで決めない:この研究は1回法の直後の菌の有無を見たもので、2回法との比較も、残った菌とその後の治りの関係の評価もしていない(筆者の読み)
どの洗浄の方法や貼薬なら、イスムスや副根管の菌を減らせるのか。それは、この研究では調べていません。
(2)菌の有無を顕微鏡で見た研究で、菌の量や種類(培養や遺伝子での同定)は調べていません。輪切りの標本から見た所見なので、切った面の位置で見え方が変わりえます。象牙細管の中の菌も調べていません。
(3)比較の群がなく、治りとの関係も評価していません。2回に分けて貼薬した治療と比べてはおらず、残った菌がその後の治りにどう響くかも分かりません(菌を見た根尖は切除したので、この歯で確かめることはできない)。原著には、標本15の歯で根尖を切除した8か月後のエックス線写真に骨の再生が見られた、という1例の提示がありますが、治療成績を調べたものではありません。
(4)原著の中の食い違い:副根管に菌がいた標本は本文・表IVで5本、表IIIでは6本(表IIIの+を筆者が数えた)。どちらの根管をどの器具で形成したかの記載も、方法の節と結果の節の1か所で逆です。標本15のイスムスも、表IIIでは「構造なし」、図9の説明では「幅の広いイスムス」です。
(5)資金と利益相反の記載は見当たりませんでした。
今日のひとこと
1回で丁寧に形成・洗浄・充填しても、下顎第一大臼歯の近心根では、イスムスや副根管などの器具の届かない所に菌がバイオフィルムの形で残っていた(16本中14本)。この研究は菌の有無を顕微鏡で見たもので、残った菌がその後の治りにどう響くか、2回に分けた治療なら減るのかは調べていません。著者らは、1回法の生物学的な裏付けにはならないと読み、菌を減らす手順をきちんと重ねることの大切さを強調しています。


