1問1答 論文 エンド

根尖病変のある歯、1回で根管充填まで終えていい?——1回法と、水酸化カルシウムを1週間以上入れる2回法で、52週後のX線の治りに有意差は検出されず(良好の割合は80%と81%)。開始時の状態をそろえて見た改善の割合は64%と74%で2回法が高めだったが、この差を確かめるには1群354人以上が要る計算だった(Trope 1999)

1問1答 論文 エンド

エンド|X線で根尖性歯周炎のある歯を、1回法・水酸化カルシウム貼薬の2回法・何も入れずに約1週間空けた2回法の3群にさいころで割り付け、52週後の根尖の状態を根尖周囲指数(PAI)で比べた前向きの臨床研究(Trope・Delano・Ørstavik 1999・Journal of Endodontics)

根尖病変のある歯は、水酸化カルシウムを入れて2回に分けるべきか、1回で根管充填まで終えてよいか。Trope らは1999年、81人102本(52週の時点)をさいころで3群に分け、52週後のX線写真を、治療群を知らされていない観察者が根尖周囲指数(PAI)で評価しました。52週でPAIが良好(1〜2)だった歯は、1回法80%、水酸化カルシウムの2回法81%、何も入れずに空けた2回法54%で、開始時のPAIを調整した解析でも、治療法の違いに有意差は検出されませんでした。開始時のPAIが不良の範囲だった患者に絞ると、改善した割合は2回法74%(19人中14人)、1回法64%(22人中14人)でした。著者らはこの差(10ポイント)を臨床的に重要と考えましたが、検定の値は示されておらず、有意差を得るには1群354〜571人が要ると計算しています。

論文
Endodontic Treatment of Teeth with Apical Periodontitis: Single vs. Multivisit Treatment
著者
Martin Trope、E. Olutayo Delano、Dag Ørstavik(米国ノースカロライナ大学 歯学部ほか)
掲載
Journal of Endodontics 1999;25(5):345-350
種類
前向きの臨床研究(さいころで3群に割り付け)。X線で根尖性歯周炎のある単根歯、または複根歯のうち1根管の根を、術者1人が同じ手順で治療した(ラバーダム・2.5%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄・ガッタパーチャの側方加圧・Roth 801シーラー)。3群=1回法/器具操作のあと何も入れずに約1週間空けた2回法/水酸化カルシウムを1週間以上入れた2回法。52週まで同じ角度で撮ったX線写真を、治療群と目的を知らされていない観察者がPAI(5段階)で評価した。52週の解析は81人102本(1回法45本・空のまま26本・水酸化カルシウム31本)。登録した人数と脱落の数は書かれていない
資金・利益相反
資金と利益相反の記載は見当たらない
PMID
10530259

①根尖病変のある歯、1回で根管充填まで終えていい?

根尖に透過像のある歯の根管治療。拡大と洗浄が終わったところで、水酸化カルシウムを入れて次回に根管充填するか、その日のうちに根管充填まで終えるか。迷う場面は少なくありません。

この問いに、前向きの比較で答えようとしたのが、Trope・Delano・Ørstavik が1999年に Journal of Endodontics に出した臨床研究です。患者をさいころで3つの治療群に分け、52週後の根尖の状態をX線写真で比べました。

結論を先に書きます。
・X線で根尖性歯周炎のある歯を、1回法・水酸化カルシウムを1週間以上入れる2回法・何も入れずに約1週間空ける2回法の3群に、さいころで割り付けた(52週の解析は81人102本)
・52週で根尖周囲指数(PAI)が良好(1〜2)だった歯は、1回法80%、水酸化カルシウムの2回法81%、空のままの2回法54%
・開始時のPAIを調整した解析で、治療法の違いに有意差は検出されなかった
・開始時のPAIが不良の範囲だった患者に絞ると、改善した割合は2回法74%、1回法64%。著者らはこの差(10ポイント)を臨床的に重要と考えたが、検定の値は示されておらず、有意差を得るには1群354〜571人が要ると計算した
・根管を空のまま置いた群について、著者らは臨床では受け入れられないとした

②なぜこの比較が必要だったか

根尖性歯周炎は主に根管の中の細菌が起こすので、細菌をできるだけ減らすのが治療の目標です。著者らは、当時の標準を次のように整理しています(いずれも引用文献の結果)。器具操作だけでは細菌は100〜1000分の1に減るものの、完全に除けるのは20〜43%。0.5%次亜塩素酸ナトリウムで洗うと40〜60%、その後に水酸化カルシウムを貼薬すると90〜100%で細菌が検出されなくなる。だから「1回目に拡大・洗浄して水酸化カルシウムを1週間以上、根管充填は2回目」が根管消毒の標準とされていました。

一方で、丁寧な拡大と洗浄だけで十分に消毒でき、貼薬は要らないのではないか、という議論も続いていました。著者らは、1回法がうまくいけば、時間が短くなり、診療の合間に感染する心配も減ると考えていました(この研究で測ったものではありません)。1回法のフレアアップが少ないことは報告されていましたが、水酸化カルシウムで消毒してから根管充填する方法と、長期の成績を前向きに比べたよく計画された研究は無かった、と著者らは書いています。

③何をどう比べたか

・対象:X線で根尖性歯周炎が見える単根歯、または複根歯のうち1根管の根。糖尿病・HIV などの免疫不全のある人、16歳未満・80歳超の人、根の根尖側3分の2がすでに器具操作か貼薬をされていた歯は除いた
・割り付け:さいころを振って3群のどれかに決めた
・治療:術者1人(著者の一人)が同じ手順で行った。ラバーダム、2.5%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄、ガッタパーチャの側方加圧とRoth 801シーラーで根管充填
・3群:1回法(その日に根管充填まで)/空のままの2回法(器具操作のあと、根管には何も入れずに封をして約1週間後に根管充填)/水酸化カルシウムの2回法(水酸化カルシウムを1週間以上入れてから根管充填)
・評価:術前・術直後・経過観察のX線写真(表2では0・1・4・12・24・52週)を、患者ごとの咬合採得材で同じ角度に撮り、根尖周囲指数(PAI:1〜5の5段階。1〜2を良好、3〜5を不良とした)で評価。観察者9人は治療群と研究の目的を知らされておらず、較正のあと、基準との相関が低かった2人を除いた7人の点数から「真の点数」を決めた
・規模:52週の解析は81人102本(1回法45本・空のまま26本・水酸化カルシウム31本)。女性54人・男性27人、平均44.6歳(19〜79歳)

著者らは方法の節で、1群55本あれば5%以上の差を見つけられるという計算を示していますが、52週の本数はこれに届きませんでした。そのため、どれだけの症例数があれば差が有意になるかの計算(検出力の分析)も行っています。登録した人数と、途中で来なくなった人数は書かれていません。

④結果1:52週の良好の割合は、1回法80%と水酸化カルシウム81%

全体では、PAIの平均は時間とともに下がり(根尖の状態が良くなり)、開始時と比べた変化は有意でした(p<0.001。12週から差が出た)。時間と治療法の交互作用は有意ではありませんでした。52週では102本中75本(73.5%)がPAI良好で終わっています。

0 25% 50% 75% 100% PAI良好(1〜2)の歯の割合 23% 81% 31% 54% 42% 80% 水酸化カルシウムの2回法(31本) 空のままの2回法(26本) 1回法(45本) 開始時 52週 濃い棒=開始時(原著の表5)、淡い棒=52週(表6)。開始時の差を調整していない割合。さいころで3群に割り付けた臨床研究・81人102本・X線写真の根尖周囲指数(PAI)で評価・追跡52週。開始時のPAIを調整した解析では、治療法の違いに有意差は検出されなかった(1歯ずつ p=0.1166、1人1歯 p=0.4587)
図1:PAIが良好(1〜2)だった歯の割合。開始時(原著の表5)と52週(表6)を治療群ごとに並べた(開始時の差を調整していない割合)。開始時のPAIを調整した解析では、治療法の違いに有意差は検出されなかった。

3群を並べると(図1)、52週の良好の割合は1回法80%(45本中36本)、水酸化カルシウム81%(31本中25本)、空のまま54%(26本中14本)でした。ただし開始時の時点で、良好の歯の割合は1回法42%、水酸化カルシウム23%、空のまま31%と、群によって違っていました。水酸化カルシウムの群は、悪い状態から始まった歯が多かったのです。

そこで著者らは、開始時のPAIを調整して、52週で良好かどうかを治療法ごとに比べました。

・1歯ずつ数えた解析:治療法の違いの検定は p=0.1166 で、有意差は検出されなかった。1回法を基準にしたオッズ比は、水酸化カルシウム 1.15(95%信頼区間 0.31〜4.21)、空のまま 0.33(0.10〜1.10)
・1人1歯だけにした解析:p=0.4587 で、有意差は検出されなかった。オッズ比は水酸化カルシウム 1.39(0.35〜5.50)、空のまま 0.57(0.15〜2.16)

参考までに、開始時の差を調整しない52週の良好の割合の比(粗リスク比)を表6から筆者が計算すると、水酸化カルシウム対1回法は1.01(25/31 ÷ 36/45)、空のまま対1回法は0.67(14/26 ÷ 36/45)です。上の調整済みのオッズ比とは別の比較です。

空のままの群について、著者らは「明らかに劣る」と書き、この群はもともと細菌学的な対照として入れたものだとして、以後の分析を1回法と水酸化カルシウムの2群に絞りました。ただし上のとおり、3群の検定でも、空のまま対1回法のオッズ比の信頼区間でも、有意差は検出されていません。

⑤結果2:開始時の状態をそろえると、2回法の改善が10ポイント高め

次に著者らは、開始時に「不良」の範囲で始まった患者だけに絞り、1人1歯で、52週までに良好へ改善したかどうかを比べました(1回法と水酸化カルシウムの2群)。

0 25% 50% 75% 100% 52週までに改善した人の割合 74% 64% 水酸化カルシウムの2回法(19人中14人) 1回法(22人中14人) 開始時のPAIが不良の範囲で始まった患者だけ・1人1歯・2群(原著の本文)。この差の検定の値は示されていない。差を有意にするのに必要な人数は1群354人(検出力80%)〜571人(95%)と著者らが計算。さいころで3群に割り付けた臨床研究・X線写真のPAIで評価・追跡52週
図2:開始時のPAIが不良の範囲だった患者のうち、52週までに良好へ改善した人の割合(原著の本文。1回法と水酸化カルシウムの2群・1人1歯)。この差の検定の値は示されていない。

改善した割合は、水酸化カルシウム74%(19人中14人)、1回法64%(22人中14人)でした(図2)。この差について、検定の値は示されていません。同じような差が続くとすると、有意水準0.05で差を示すのに必要な人数は1群あたり354人(検出力80%)、401人(85%)、466人(90%)、571人(95%)だと著者らは計算しています。1人1歯にした一般線形モデルでの差をもとにした計算では、1群67本(検出力95%。80%なら約41本)で有意になるとしています。

なお、この「改善」の範囲の書き方は、原著の中でそろっていません。抄録では「3・4・5から1・2へ」、結果では「開始時のPAIが3を超える」、考察では「3を超えて始まり2未満で終わった」と書かれています。

⑥著者らの結論と、結果の読み方

著者らは、次のように考察しています。

・水酸化カルシウムの上乗せ:根管充填の前に水酸化カルシウムで消毒を加えると、治る割合が10%上がった(開始時のPAIが不良の範囲だった患者での74%対64%で、割合の差は10ポイント)。この差は臨床的に重要と考えるべき(著者ら)
・空のまま:根管を空のまま置く方法は、一貫して最も悪かった。引用した研究では、空けた根管の中で細菌が治療開始時に近い量まで再び増えており、感染していた根管を診療の合間に空のままにするのは臨床では受け入れられない(著者ら)
・研究の難しさ:開始時の根尖の状態を調整しないと、治療法の効果を見誤る。また、劣る方法でも約60%は良くなるので、差を有意にするには数百人規模の症例が要る(著者ら)

読み方として大事なのは、「2回法の方が良い」と「差は無い」のどちらも、この研究では言い切れないことです。調整した解析では有意差を検出しておらず、オッズ比の信頼区間は 0.31〜4.21 と広く、1回法の方が良い可能性から2回法の方がかなり良い可能性までを含んでいます。74%と64%の差(10ポイント)は、著者らが重要と考えた見方であって、検定で示された差ではありません。

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・1回か2回かは、この1本で決めない:52週のX線では、1回法と水酸化カルシウムの2回法に有意差は検出されなかった。どちらが優れるかの決着はついていない
・2回に分けるなら、根管を空のままにしない:何も入れずに空けた群は良好の割合が最も低く、著者らは受け入れられないとした(ただし空のままの群を含む3群の検定でも、有意差は検出されていない)。2回法にするなら貼薬をする、というのが著者らの立場
・開始時の根尖の状態(PAI)をそろえて比べる:開始時にPAIが不良の歯が多い群は、終わりの割合だけでは不利に見える。自院の成績を振り返る時も、術前の根尖の状態ごとに見る
・1回法の利点は治りとは別に考える:著者らは1回法の利点として、費用が安いこと、患者に受け入れられやすいこと、フレアアップが少ないという報告を挙げている(フレアアップはこの研究では測っていない)

なお、この研究の術式は、2.5%次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄と側方加圧の根管充填で、術者は1人です。評価はX線写真のPAIだけで、症状や歯の残り具合は比べていません。

ここだけ、冷静に補助線(1)症例が少ないのが最大の限界です。著者らが方法の節で示した1群55本に届かず、1回法と2回法の差を確かめるには1群354〜571人が要る計算でした。有意差が出なかったことは「同じ」の証明ではありません。
(2)追跡は52週で、評価はX線写真のPAIだけです。PAIは観察者でぶれる主観的な評価で、著者らは較正と一致で補っています。症状や長期の歯の残り具合は見ていません。
(3)さいころの割り付けで群の大きさがそろわず(45本・26本・31本)、開始時の状態にも差が出ました。術者は1人で、登録人数と脱落の数は書かれていません。
(4)原著の中の数の食い違い:本文は81人102本としていますが、表2の症例数は103で、患者ごとの内訳(1本61人・2本18人・3本2人)を足しても103本になります。表2では52週に点数が付いた数が86と書かれており、52週の解析102本との関係は説明されていません。「改善」の範囲の書き方も、抄録・結果・考察で違います。
(5)空のままの群は細菌学的な対照として入れたと書かれていますが、細菌の検査の結果はこの論文には載っていません。
(6)資金と利益相反の記載は見当たりませんでした。

今日のひとこと

1回法と水酸化カルシウムの2回法。この研究では、52週後のX線の治りに有意差は検出されませんでした。開始時のPAIが不良の範囲だった患者では2回法の改善が10ポイント高めでしたが、症例が少なく、どちらが優れるかの決着はついていません。一方、2回に分けるのに根管を空のまま置いた群は良好の割合が54%と最も低く(検定では有意差は検出されていません)、著者らは臨床では受け入れられないとしています。2回に分けるなら貼薬をする。1回か2回かは、この1本だけで決めない。そう読むのが、この論文に合った使い方です。

Trope M, Delano EO, Ørstavik D. Endodontic treatment of teeth with apical periodontitis: single vs. multivisit treatment. J Endod. 1999;25(5):345-350. doi: 10.1016/S0099-2399(06)81169-6. PMID: 10530259
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。