エンド|根尖に透過像のある無症状の失活歯の患者さん70人に、治療の1時間前にアモキシシリン3gかプラセボを1回飲んでもらい、術後5日半のフレアアップを比べた無作為化二重盲検試験(Pickenpaugh 2001・Journal of Endodontics)
症状のない失活歯の根管治療の前に、「念のため」抗菌薬を飲んでもらうことがあります。Pickenpaughらは、その効果をプラセボと比べる二重盲検試験で確かめました。70人中7人(10%)にフレアアップが起き、アモキシシリン群4人・プラセボ群3人で、群の差は有意ではありませんでした。ただし、フレアアップは7人だけで、小さな効果を否定できる規模ではありません。「差を検出しなかった」ことは「効果がないと証明された」こととは違います。
①無症状の失活歯、治療の前に抗菌薬を飲んでもらうとフレアアップは減る?
根尖に透過像のある失活歯。今は痛みも腫れもないのに、根管治療の翌日から急に痛んで腫れる――いわゆるフレアアップです。「念のため、治療の前に抗菌薬を飲んでもらおうか」と迷ったことはないでしょうか。
オハイオ州立大学のPickenpaughらは、この「予防のための1回の抗菌薬」を、プラセボと比べる無作為化二重盲検試験で確かめました(Journal of Endodontics 2001)。
・対象と比較:症状のない失活歯(根尖に3×3mm以上の透過像あり)の成人70人。治療の1時間前に、アモキシシリン3gか、見た目の同じプラセボを1回飲んでもらった
・フレアアップは70人中7人(10%):アモキシシリン群4人、プラセボ群3人。群ごとの割合は11.8%(4/34人)と8.3%(3/36人)(人数は原典の表1から筆者が合計し、割合も筆者が計算)
・群の差は有意ではなかった(原典の表2 p=0.706、抄録の記載は p=0.80)。年齢・性別などをそろえた多変量の解析でも、有意な影響は検出されなかった
・注意:フレアアップは7人だけで、小さな効果を見つけられる規模ではない。「差を検出しなかった」は「効果がないと証明された」とは違う。著者らは「効果はなかった」と結論している
②なぜ調べる必要があったのか
症状のない失活歯の根管治療は日常的な処置ですが、一部の患者さんでは治療後に中等度〜重度の痛みや腫れが急に出ます。それまでの報告では、フレアアップは治療の1〜24%で起きるとされていました。
予防の抗菌薬については、報告が割れていました。Morseらは予防の抗菌薬でフレアアップが有意に減ったと結論し、Torabinejadらは来院の間の急患を減らす効果は鎮痛薬より抗菌薬のほうが小さいと報告し、Walton & Chiappinelliは予防のペニシリンで術後の症状は変わらなかったとしていました。著者らは、フレアアップの原因が細菌なら、予防の抗菌薬で防げるのではないかと考え、この試験を組みました。
③どんな研究か
対象は、健康な成人70人です。30日以内に抗菌薬を飲んでいないことを条件にしました。治療する歯は症状のない失活歯で、電気診と冷刺激にどちらも反応せず、根尖に3×3mm以上の透過像があるものです。
治療の1時間前に、アモキシシリン3g(500mgのカプセル6個)か、見た目の同じプラセボのカプセル6個を無作為に1回飲んでもらいました。薬の割り付けと包装は大学病院の薬剤部が行い、患者さんにも術者にも分からない二重盲検です。
治療は大学院生か教員が行いました。作業長はX線上の根尖から約1mm手前で、Kファイルのステップバック法で形成し、2.62%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄して、全根管の拡大形成を終え、根管を乾燥して綿球とCavitで仮封しました。咬合の調整はしていません。根管充填は次の予約で行い、その時に日誌と残った鎮痛薬を回収しています。
術後はイブプロフェン(200mgを2錠、4〜6時間ごと・必要時)を先に飲み、効かなければコデイン入りアセトアミノフェンを飲むよう指示しました。患者さんは5日半の日誌に、痛み・打診の痛み・腫れ(それぞれ0〜3の4段階)と鎮痛薬の数を書きました。
フレアアップの定義は、治療の12〜48時間後に始まり、48時間以上続いた中等度〜重度の痛み、または中等度〜重度の腫れです。
④結果:フレアアップは7人。アモキシシリン群4人、プラセボ群3人
70人中7人(10%)にフレアアップが起きました。アモキシシリン群が4人、プラセボ群が3人です。
アモキシシリンを飲んだかどうかで、フレアアップの起きた人と起きなかった人に有意な差は認められませんでした(原典の表2、Fisherの正確検定で p=0.706)。なお抄録には p=0.80 と書かれており、表2の値と食い違っています。どちらも有意ではありません。年齢・病変の大きさ・瘻孔・性別・アレルギー・以前の根管治療を同時に入れたロジスティック回帰でも、アモキシシリンを含め、有意な影響を示した項目は認められませんでした。
フレアアップは治療の約30時間後(15〜48時間)に始まり、平均74時間(48〜120時間)続きました。中等度〜重度の腫れが出たのは、フレアアップの7人のうち3人です。
フレアアップに至らなかった63人も、原典は3つに分けています(図2)。症状が全く出ず鎮痛薬も飲まなかった人が15人、軽い〜中等度の症状が48時間以内に消えた人が35人、軽い〜中等度の症状が治療当日に始まって48時間を超えて続いたものの重度にはならなかった人が13人です。全70人に対する割合では、それぞれ21%・50%・19%でした(原典の値)。
⑤結果の読み方
この試験では、治療前の1回のアモキシシリンでフレアアップが減るという結果は出ませんでした。ただし、起きたフレアアップは7人だけです。この人数では、小さな差があっても見つけられない可能性があります。「差を検出しなかった」ことは、「効果がないと証明された」こととは違います。著者らは「効果はなかった」と結論していますが、これは著者らの言い方です。
著者らは考察で、もし予防の抗菌薬が効いたとしても、10人のフレアアップを防ぐために100人に抗菌薬を飲ませることになり、むやみな抗菌薬の副作用を考えると全員に使うほどの理由にはならない、と述べています(フレアアップが10%という頻度からの著者らの試算)。
また著者らは、抗菌薬の予防は細菌が入る時に薬が体内にあることが前提で、今回の用量はその条件を満たすとしたうえで、根尖病変は以前からある慢性の病変なので、免疫の働きもフレアアップに関わっているのかもしれない、と考察しています。これは著者らの仮説で、この試験で確かめたことではありません。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。症状のない失活歯の根管治療で、フレアアップを防ぐ目的で治療前に抗菌薬をルーチンに出すことを支える結果は、この試験からは得られませんでした。著者らが挙げる抗菌薬の副作用も考えると、「念のため」の1回を見直す材料になります。
一方で、この試験が調べたのは「症状がない」「根尖に透過像がある」失活歯への、治療1時間前のアモキシシリン3g・1回だけです。すでに痛みや腫れのある歯、全身状態の理由で抗菌薬が必要な患者さん、別の薬や飲み方については何も言っていません。治療後の鎮痛薬の飲み方を伝えておく点は、この試験の設計(全員に鎮痛薬を渡し、飲む順番を説明した)とも重なります。
・規模:70人で、フレアアップは7人だけ。必要な人数の見積もり(検出力の計算)は原典に書かれておらず、小さな効果を否定できる規模ではない
・数値の食い違い:アモキシシリンの有無とフレアアップの関係の p 値は、抄録が0.80、表2が0.706。群ごとの人数も本文には無く、表1から足して34人・36人になる
・条件:1つの大学で、大学院生と教員が拡大形成まで終えて仮封し、根管充填は次の来院とした治療。症状の評価は患者さんが書く日誌
・資金:大学内の研究費(大学院の学生研究費とGoldberg記念基金)。修士論文がもとになった研究
とはいえ、無作為化・二重盲検・プラセボ対照で「念のための抗菌薬」を正面から確かめた点は貴重です。より大きな試験と合わせて読みたい1本です。
今日のひとこと
無症状の失活歯70人の無作為化二重盲検試験で、治療1時間前のアモキシシリン3gは、プラセボと比べてフレアアップを有意に減らしませんでした(4/34人と3/36人。群の人数は表1から筆者が合計)。ただしフレアアップは7人だけで、効果がないと証明した規模ではありません。「念のための1回」を見直す材料になる1本です。


