エンド|根管が広がって歯根の壁が薄くなった上顎中切歯を、コンピュータ上の模型で再現した3次元有限要素解析(Santos-Filho・Veríssimo・Raposo・Noritomi・Martins 2014・Journal of Endodontics)。フェルール(2mmあり/なし)×ポスト(鋳造ポストコア/レジンで裏打ちしたグラスファイバーポスト)×ポストの長さ(12mm/7mm)の8通りに100Nの斜めの力をかけ、応力の分布を見比べた。計算上の結果で、破折や予後を実測したものではない
根管がラッパ状に広がり、歯根の壁が薄くなった前歯にポストを立てるとき、鋳造ポストコアとファイバーポストのどちらを選ぶか。Santos-Filhoらは2014年、この問いをコンピュータ上の模型(3次元有限要素解析)で計算しました。鋳造ポストコアの模型は、フェルールの有無によらず根管の中に高い応力が集まり、レジンで裏打ちしたグラスファイバーポストの模型は、応力が象牙質の外表面へ均一に広がって、健全歯の模型に近い分布でした。フェルールが無いと、どちらのポストでも薄い歯根への応力集中が強まっています。ただし、これは計算上の応力の分布です。歯が割れるかどうか、何年もつかを実測した研究ではなく、模型ごとの応力の数値も本文には示されていません。
①歯根の壁が薄くなった歯に、鋳造ポストコア? ファイバーポスト?
う蝕が進んで根管がラッパ状に広がり、歯根の壁が薄くなった前歯。ここにポストを立てるとき、根管の形にぴったり合わせて作れる鋳造ポストコアにするか、レジンで裏打ちしたファイバーポストにするか。迷う場面だと思います。
Santos-Filhoらは2014年、この問いをコンピュータ上の模型(3次元有限要素解析)で計算しました。フェルールの有無、ポストの種類、ポストの長さを組み合わせた8通りの模型に同じ力をかけ、応力がどこに集まるかを見比べた研究です。
・鋳造ポストコアの模型は、フェルールの有無によらず、根管の中に高い応力が集まった。引張応力も根管の中で高かった
・レジンで裏打ちしたグラスファイバーポストの模型は、応力が象牙質の外表面へ均一に広がり、健全歯の模型に近い分布だった
・フェルールが無いと、どちらのポストでも薄い歯根への応力集中が強まった
・ポストを12mmから7mmに短くした影響は、鋳造ポストコアで目立った(より狭い範囲に応力が集中)
・歯が割れるかどうか、何年もつかを実測した研究ではない。模型ごとの応力の数値は本文に示されておらず、結果は色の分布図の見比べ
②なぜこの計算が必要だったか
著者らは序論で、根管治療歯は健全歯に比べて力学的に壊れやすい、と整理しています。なかでも、う蝕の進行に根管へのアクセスや形成のしすぎが重なると、根管が広がって歯根の象牙質の壁が薄くなります。著者らはこれを「弱くなった歯根(weakened root)」と呼び、修復がむずかしい歯として扱っています。
こうした歯は、従来は鋳造のメタルポストコアで修復されてきました。一方で著者らは、合金のような硬い材料は垂直性歯根破折のリスクを高めるかもしれない、という先行研究を引いています。
グラスファイバーポストは、力学的な性質が象牙質に近い材料です。ただし既製品は形が決まっていて、広がった根管には合いません。すき間をセメントで埋めるとセメントの層が厚くなり、接着の強さや破折への抵抗に響く、と著者らは説明しています。そこで、ポストのまわりをコンポジットレジンで裏打ち(リライン)して根管に合わせる方法が使われるようになりました。
フェルール・ポストの種類・ポストの長さ。この3つが組み合わさったとき、薄い歯根の中で力がどう伝わるのかは、はっきりしていませんでした。
③何をどう計算したか:健全歯1つと、条件を変えた8つの模型
もとにしたのは、抜去した健全な上顎中切歯1本です。外形を接触式のスキャナで読み取り、設計ソフトで3次元の模型にしました。歯根膜に見立てた層とレジンの円柱で支えた形で、実験室の試験片を模しています。
・根管を広げ、歯頸部の象牙質の壁を厚さ0.5mmだけ残した
・ポスト孔を形成したあとの根尖側の直径は2.5mm
・歯冠はすべてオールセラミッククラウンで修復
・フェルール:2.0mmあり/なし
・ポスト:鋳造ポストコア(Ni-Cr合金)/コンポジットレジンで裏打ちしたグラスファイバーポスト
・ポストの長さ:12.0mm/7.0mm
力のかけ方は1通りです。口蓋側の面に、歯の長軸に対して135度の向きで100Nの斜めの力をかけました。計算は線形の静的解析で、グラスファイバーポスト以外の材料は「どの向きにも同じ硬さの均質な材料」として扱っています。計算に入れた弾性係数は、象牙質18.0GPa、コンポジットレジン15.8GPa、Ni-Cr合金205GPaです。
見たのは2つの指標です。1つはフォン・ミーゼス応力(力のエネルギーがどこに集まるかを示す値)。もう1つは最大主応力で、引張(引っぱられる力)と圧縮を分けて見ることができます。著者らは、歯の材料は圧縮には強いが引張にはもろいので、最大主応力は壊れやすい場所を探すのに向いている、と説明しています。
④結果:鋳造ポストコアは根管の中に、ファイバーポストは外表面へ均一に
・鋳造ポストコア:フェルールの有無によらず、根管の中の応力が高かった。最大主応力で見ても、根管の中に高い引張応力があった
・裏打ちしたグラスファイバーポスト:応力は象牙質の外表面へ均一に分布し、健全歯の模型と似たふるまいだった
・ポストの長さ:フォン・ミーゼス応力の図では、グラスファイバーポストの応力の分布は、フェルールの有無によらず、長さの影響を受けなかった。鋳造ポストコアは短い方が不利で、弱くなった根管の中のより狭い範囲に応力が集中した
・フェルール:どちらのポストでも重要だった。フェルールなし・12mmの鋳造ポストコアでは、薄い根管の内面に、ポストの全長にわたって高い応力集中が出た。この模型は、引張応力の集中もほかの模型より多かった
抄録は、いちばん不利だった組み合わせをこう書いています。フェルールが無い条件では、鋳造ポストコアは7mmでも12mmでも、根管の中に高い引張応力を生じた。
細かいところでは、最大主応力の図について、短いポストでは歯根象牙質の引張応力が増えた、という記述もあります。原著が示している図は、フェルールなし・7mmの2つの模型(鋳造ポストコアとグラスファイバーポスト)です。
⑤なぜこうなるのか(著者らの考察)
・鋳造ポストコアの合金は硬く、修復物全体の剛性が上がる。その硬さが、薄い象牙質の壁への高い応力集中につながる
・修復物が疲労で壊れると、応力が象牙質に移り、垂直性歯根破折を起こす(著者らが引いた先行研究にもとづく説明)
・グラスファイバーポストは弾性係数が低い。セラミッククラウン・レジンコア・レジンセメントの接着による一体化と合わさって、健全歯に近い力学的性質の、しなやかな修復物になる
・フェルールは破折への抵抗を高め、応力を減らすことで歯を守る働きをする
フェルールなしで短いグラスファイバーポストを使った模型では、コンポジットレジンとポストの境目に応力が集中していました。著者らは、これが接着の界面に響いて、ポストの脱離やレジンコアの破折につながるかもしれない、と述べています。ここも計算からの推測で、脱離を観察したわけではありません。
⑥明日の臨床へ
・フェルールは、弱くなった歯の応力の分布を左右する要因である
・観察された応力の分布からみて、レジンで裏打ちしたグラスファイバーポストは、鋳造ポストコアより保存的な選択肢になる
・鋳造ポストコアは根管の中に高い引張応力を示したので、弱くなった歯根の修復には避けた方がよい(抄録では「とくにフェルールが無い場合」)
・裏打ちしたグラスファイバーポストは長さの影響を受けにくかったが、ポストはできるだけ長くした方がよい
・この研究が見せてくれるのは「力がどこに集まりやすいか」の地図です。「鋳造ポストコアだと割れる」「ファイバーポストなら割れない」という結果ではありません
・地図として読むと、順番が見えてきます。まずフェルールを残せるか。次に、薄い歯根の中へ硬い材料を入れるかどうか。ポストの材料だけを切り出して考えるより、この並びで考える材料になります
・模型の条件はかなり絞られています。上顎中切歯1本の形、歯頸部の壁0.5mm、オールセラミッククラウン、Ni-Cr合金の鋳造ポストコア。臼歯、金銀パラジウム合金や金合金、ほかの冠では計算していません
・レジンでの裏打ちには、ひと手間かかります。実際の根管の中で、計算の模型どおりにすき間なく一体化できるかどうかは、この研究の外の話です
(1)コンピュータ上の計算です。歯が割れた本数や、口の中で何年もったかを測った研究ではありません。著者ら自身が、計算だけで行った研究なので限界があり、破折試験やひずみの測定、温度と力を繰り返しかける実験が今後必要だ、と書いています。
(2)結果は色の分布図の見比べです。模型ごとの応力の値は本文に示されておらず、統計の検定もありません。「高い」「均一」は、図を読んだ著者らの言葉です。
(3)力は100Nの斜めの力を1回かけただけです。噛むたびに繰り返しかかる力や、疲労、接着の劣化は計算に入っていません。
(4)もとの歯は1本、歯根の形は1種類です。材料は、グラスファイバーポスト以外は均質な材料として扱われています。ポスト・レジン・象牙質の境目を計算の上でどう扱ったか(完全に接着している前提かどうか)は、原著の本文に書かれていません(オンラインの補足資料は確認していません)。
(5)結果の本文には、いちばん不利な条件を「鋳造ポストコア・フェルールあり」と読める一文があります。ただし、その文が指す図はフェルールなしの模型で、抄録も「フェルールが無い条件で」と書いています。この記事は、図と抄録に合わせて「フェルールなし」と読みました。
資金はブラジルの公的な研究助成機関(CNPq)で、著者らは利益相反はないと述べています。特定のポスト製品の名前は、原著に出てきません。
それでも、薄くなった歯根の中で力がどこに集まるのかを、条件ごとに並べて見せてくれる1本です。実験や臨床の研究を読むときの、下敷きになる地図として持っておきたい論文です。
今日のひとこと
この研究が示したのは、歯根の壁が薄くなった上顎中切歯のコンピュータ上の模型では、鋳造ポストコアはフェルールの有無によらず根管の中に高い応力が集まり、レジンで裏打ちしたグラスファイバーポストは健全歯の模型に近い、均一な応力の分布になったということです。フェルールが無いと、どちらのポストでも応力集中は強まりました。著者らは、弱くなった歯根には鋳造ポストコアを避けた方がよい(とくにフェルールが無い場合)と述べています。ただし、これは100Nの力を1回かけた計算上の応力の分布で、歯が割れた本数や予後を測った結果ではありません。筆者の読みでは、「まずフェルールを残せるか、次に薄い歯根へ硬い材料を入れるか」を考えるときの、力の地図になる1本です。


