エンド|歯冠の壁が残っていない根管治療歯(フェルールの高さ0〜0.5mm)を、グラスファイバーポストか鋳造メタルポストに無作為に割り付け、最長9年追ったランダム化比較試験(Sarkis-Onofre・Pinheiro・Poletto-Neto・Bergoli・Cenci・Pereira-Cenci 2020・Journal of Dentistry)。最終補綴は全て単冠の陶材焼付金属冠。解析は119人の183本、追跡の中央値は62か月、失敗は合わせて23本
歯冠の壁が1つも残っていない根管治療歯にポストを立てるとき、グラスファイバーポストと鋳造メタルポストのどちらを選ぶか。Sarkis-Onofreらは2020年、フェルールの高さが0〜0.5mmの歯を対象にこの2種類を無作為に割り付けた試験の、最長9年までの結果を報告しました。解析できた183本(グラスファイバー111本、鋳造メタル72本)のうち、失敗はグラスファイバー17本、鋳造メタル6本。カプラン・マイヤー法とlog-rank検定で比べると、成功(p=0.26)にも生存(p=0.63)にも有意差は検出されませんでした。著者らの結論は「どちらも良好で、似た臨床成績」です。ただしこの試験は「同等かどうか」を確かめる設計なのに、同等と判定するための解析結果は本文に示されていません。著者ら自身も、似ていることを確かめるにはもっと長い追跡が要る、と書いています。
①フェルールのない歯のポスト、グラスファイバー? 鋳造メタル?
根管治療のあと、歯冠の壁が1つも残っていない歯。フェルールが取れないままポストを立ててクラウンを入れるとき、「硬いメタルコアは歯根破折が心配」「でも壁がないなら、しっかりした鋳造ポストの方が外れにくいのでは」と迷う場面は多いと思います。では、この2つを同じ条件で長く比べると、差は見えてくるのでしょうか。
Sarkis-Onofreらは2020年、フェルールの高さが0〜0.5mmの根管治療歯を、グラスファイバーポストか鋳造メタルポストに無作為に割り付けた試験の、最長9年までの結果を報告しました。一部は、同じグループが2014年に報告した最長3年の途中経過の続きです。
・解析できたのは119人の183本(グラスファイバー111本、鋳造メタル72本)。追跡の中央値は62か月
・失敗は合わせて23本。グラスファイバー111本中17本、鋳造メタル72本中6本
・カプラン・マイヤー法とlog-rank検定では、成功(p=0.26)にも生存(p=0.63)にも有意差は検出されなかった
・5年の時点の年間失敗率は、鋳造メタル1.2%、グラスファイバー1.7%(全体で1.5%)
・歯根破折は10本(グラスファイバー7本、鋳造メタル3本)。失敗23本のうち16本は臼歯
・著者らの結論は「最長9年の追跡で、どちらも良好で似た臨床成績を示した。ただし、時間がたっても似ていることを確かめるには、さらに研究と長い追跡が必要」
・同等性を想定して設計された試験だが、同等と判定するための解析結果は本文に示されていない
②なぜこの試験が必要だったか
著者らは序論で、根管治療歯の修復のなかで、歯冠の壁が残っていない状態はいちばん条件が悪く、歯冠の修復材料を保持するおもな手段としてポストが必要になる、と整理しています。ポストは弾性係数で分けて語られることが多く、金属のポスト(既製・鋳造)は弾性係数が高く、グラスファイバーポストは低い。材質が違えば、修復した歯の力学的なふるまいも違うだろう、と考えられてきました。
ところが、歯冠の壁がない歯で弾性係数の違うポストを比べた、設計のよいランダム化比較試験は少ない、と著者らは書いています。著者らが引いた系統的レビューは、鋳造メタルとグラスファイバーを長く比べた研究が足りないとしたうえで、フェルールのない歯ではメタルポストの方が成績がよいかもしれないと示唆していました。ただ、文献全体としては結論が出ていません。ここまでは、著者らが引いた先行研究にもとづく整理です。
著者らはまた、材料によっては遅れて失敗が出てくることがある(平均すると5年より後)ので、十分な長さの追跡が大事だとしています。そこでこの試験は、フェルールのない歯で、グラスファイバーポストが鋳造メタルポストと似た臨床成績を示すかを、最長9年の追跡で確かめようとしました。
③試験の組み立て:フェルール0〜0.5mmの歯を、2種類のポストに無作為に割り付けた
試験は大学で行われ、処置の期間は2009年7月から2016年10月です。230人(315本)を調べ、基準に合わなかった66人(78本)と参加を辞退した29人(38本)を除いて、135人(199本)が無作為に割り付けられました。
・口腔内の状態がよい(う蝕病変がなく、歯周病がない)
・前歯または臼歯の根管治療歯で、歯冠の壁がない、または象牙質の裏打ちのないエナメル質の壁が1つだけ残る(フェルールの高さ0〜0.5mm)
・ポストと単冠が必要
・左右両側に臼歯部の咬合接触がある
・除外:歯周または咬合に問題のある根管治療歯、対合が大きな補綴(Kennedy I級・II級)の歯
・根管治療はクラウンダウン法で形成し、2.5%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄、側方加圧で根管充填
・グラスファイバーポスト(既製)は、通常のレジンセメントかセルフアドヒーシブレジンセメントで装着し、コアはコンポジットレジンで築造。根管が複数ある臼歯では、太い方の根管に1本だけ入れた
・鋳造メタルポストは、セルフアドヒーシブレジンセメントで装着
・最終補綴は全て単冠の陶材焼付金属冠(セルフアドヒーシブセメントで装着)
・処置を担当したのは、修復の講義12時間とトレーニングを受けた学部生と大学院生
割り付けは、コンピュータで作った乱数表をもとに、歯の種類(前歯・小臼歯・大臼歯)で層別し、6本と8本のブロックで1対1に行ったと書かれています。番号は茶色の封筒に入れ、根管充填材を除去したあとで割り付けました。患者と評価者には、どちらのポストかを伏せています。
再評価は6か月後と、その後は年1回、最長9年までです。組み入れの時期に幅があるので、追跡の長さは歯によって違います。主要な評価項目は「ポストの脱離」ですが、解析にはすべての失敗の理由を含めています。抜歯に至った失敗を「絶対的失敗」、再装着できるポストの脱離を「相対的失敗」と呼び、成功は「どちらの失敗もないこと」、生存は「絶対的失敗がないこと」と定義しました。比較はカプラン・マイヤー法とlog-rank検定で行い、Cox回帰でハザード比を出しています。症例数は同等性の想定で計算され、必要数は64本でした。
④結果(1):成功にも生存にも、有意差は検出されなかった
割り付けられた199本のうち、119人の183本(グラスファイバー111本、鋳造メタル72本)が解析されました。グラスファイバーの方が多いのは、同じ時期に3つの試験が並行して行われていたため、と著者らは説明しています。追跡の中央値は62か月(四分位範囲37〜81か月)、最短は12か月です。
・log-rank検定:成功 p=0.26、生存 p=0.63。どちらも有意差なし
・生存のハザード比(Cox回帰・調整後。鋳造メタルを1としたとき):グラスファイバー 0.84(95%信頼区間 0.2〜3.7、p=0.82)
・5年の時点の年間失敗率:全体1.5%、鋳造メタル1.2%、グラスファイバー1.7%
・失敗の本数:グラスファイバー111本中17本(15.3%)、鋳造メタル72本中6本(8.3%)。割合と、その比 約1.84(95%信頼区間 約0.76〜4.44)は、本文の本数から筆者が計算したもの。追跡の長さの違いを考えに入れない単純な比で、原著が示した値ではない
・追跡の中央値:鋳造メタル67.5か月(四分位範囲41〜81)、グラスファイバー58か月(35〜81)
・5年を超えて追えた歯:183本のうち94本
・抄録に書かれた追跡率:95.3%
・クラウンの評価(FDI基準):全てスコア1か2
数字だけを見ると、失敗の本数はグラスファイバーの方が多くなっています。ただ、群の本数が111本と72本で違い、追跡の長さもそろっていません。時間を考えに入れた検定では、成功でも生存でも有意差は検出されませんでした。
ここで気をつけたいのは、「有意差が検出されなかった」ことと「同じだと確かめられた」ことは別だ、という点です。生存の調整後ハザード比0.84の95%信頼区間は0.2から3.7までと広く、グラスファイバーの方がかなり良い場合も、かなり悪い場合も含んでいます。
⑤結果(2):23本の失敗の中身
・グラスファイバー(17本)
歯根破折:7本
冠の脱離:5本
ポストの脱離:3本(うち1本は冠とポストの脱離)
二次う蝕:1本
根管治療の失敗:1本
・鋳造メタル(6本)
歯根破折:3本
ポストの脱離:2本(うち1本は冠とポストの脱離)
冠の脱離:1本
主要な評価項目であるポストの脱離は、全体で5本だけでした(グラスファイバー3本、鋳造メタル2本)。いちばん多かった失敗は歯根破折の10本で、グラスファイバーが7本、鋳造メタルが3本です。割合にすると111本中7本(6.3%)と72本中3本(4.2%)で、これは筆者の計算です。歯根破折だけを取り出した群の検定結果は、原著に示されていません。
もう1つ目につくのは、歯の位置です。失敗23本のうち16本が臼歯でした。5年の時点の年間失敗率は、前歯0.5%、臼歯2.5%。生存の調整後ハザード比は、前歯を1としたとき臼歯が5.3(95%信頼区間 0.9〜31.0、p=0.06)で、有意ではありません。歯根破折10本のうち7本は小臼歯で起きています。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・材質の違うポストで修復した歯は力学的なふるまいが違うと予想されるが、最長9年の時点で、2つのポストは似た臨床成績だった
・年間失敗率(1.2〜1.7%)が低かったのは、管理された環境で行われ、トレーニングを受けた学生が、経験のある臨床家の直接の指導のもとで処置したからだろう
・歯根破折10本のうち7本がグラスファイバーだったのは、見つけられなかった歯根の欠陥と関係しているかもしれない
・失敗が臼歯、とくに小臼歯に多かったのは、フェルールのない歯だけを組み入れたことと、フェルールの効果が小臼歯でとくに大きいと報告されていることで説明できるかもしれない
著者らは、歯根破折について、メタルポストとファイバーポストで発生に差がなかったとする系統的レビューも引いています。「グラスファイバーなら歯根破折が減る」という期待は、この試験の本数からは読み取れません。
⑦明日の臨床へ
・歯冠の壁が残っていない根管治療歯に対して、レジンセメントで装着したグラスファイバーポストと鋳造メタルポストは、どちらも単冠と組み合わせれば良い選択肢と考えられる
・時間がたっても2つが似ていることを確かめるには、さらに研究と長い追跡が必要
・この試験からは、ポストの材質だけで「こちらが上」と決める根拠は出てきません。同時に、「2つは同じ」と確かめられたわけでもありません
・失敗の形に目を向けたいところです。グラスファイバーでも歯根破折は7本起きています。「ファイバーなら破折しない」とは言えません
・失敗23本のうち16本が臼歯で、歯根破折の7本は小臼歯でした。生存の解析では前歯と臼歯の差は有意ではありませんが(p=0.06)、壁のない小臼歯にポストを立てるときは、患者さんへの説明に幅をもたせておく材料になります
・この試験は、フェルールのある歯と比べてはいません。「フェルールがなくても大丈夫」と読むことはできません
・条件は、ポストをレジンセメントで装着し、単冠の陶材焼付金属冠をかぶせた歯です。ブリッジや義歯の支台歯、ほかの種類のクラウンに当てはまるかは、この試験からは分かりません
・手間と費用について、原著は比べていません。一般に、鋳造メタルポストは印象と技工の工程が要ります。来院回数や費用も含めて選ぶことになります
(1)同等性を想定して設計された試験ですが、本文に載っている群の比較は、差があるかを調べるlog-rank検定とCox回帰です。同等と判定するための幅(症例数の計算では18%)に照らした解析結果は示されていません。「有意差なし」は「同等」と同じではありません。生存のハザード比の95%信頼区間も0.2〜3.7と広いままです。
(2)追跡の中央値は62か月で、5年を超えて追えた歯は183本のうち94本です。「最長9年」は、全部の歯を9年追ったという意味ではありません。著者らも、観察期間が5年に届かない修復があることを限界に挙げています。
(3)成功の生存曲線(原著の図2A)を見ると、グラスファイバーの線は80か月を過ぎてから段階的に下がっています(図からの読み取り)。表3で86か月以降に起きた失敗は5本で、すべてグラスファイバーでした(冠の脱離3本、冠とポストの脱離1本、根管治療の失敗1本)。ただ、この時期まで追えている歯が何本あるかは示されておらず、検定でも有意差は出ていません。
(4)考察には「3.7年より後に失敗は起きなかった」とありますが、表3には46か月から103か月までに9本の失敗が載っています。歯根破折で見ると、最後の1本が46か月です。この記事は表3の方を採りました。
(5)追跡できなかった歯の内訳は、本文と図1で群が入れ替わっています。図1ではグラスファイバー群が7本(参加の辞退)、鋳造メタル群が2本(金属アレルギー、治療計画の変更)。本文では鋳造メタル群が7本、グラスファイバー群が2本です。本数の引き算と合うのは図1の方です。
(6)割り付けは1対1と書かれていますが、割り付けられた本数は119本と80本です。著者らは、同じ時期に3つの試験が並行していたためと説明していますが、詳しい経緯は書かれていません。
(7)考察には「失敗の60%が小臼歯」とあります。表3の歯の番号を筆者が数えると、23本のうち15本(約65%)でした。
(8)失敗23本のうち何本が「絶対的失敗(抜歯)」だったかは、本文に書かれていません。冠の脱離や二次う蝕がどちらに数えられたのかも、はっきりしません。
(9)解析はper-protocol(割り付けどおりに治療を受けて追跡できた歯だけ)です。直近の診査に来なかった人には、最後に確認できた値を使っています。
(10)処置をしたのは大学の学部生と大学院生です。著者らも、年間失敗率が低かった理由として管理された環境を挙げています。ほかの環境にそのまま当てはまるとは限りません。
(11)装着に使ったセメントは、グラスファイバー群(通常のレジンセメントかセルフアドヒーシブ)と鋳造メタル群(セルフアドヒーシブ)で少し違います。鋳造メタルポストの合金の種類は、この論文の中には書かれていません。
(12)5年以上追えた修復だけの追加解析は補足資料にあるとされていますが、入手した原著PDFには含まれていません。
それでも、「フェルールのない歯にはどちらのポストか」という日常の迷いを、同じ条件で最長9年かけて確かめにいった試験は貴重です。少なくとも、どちらかがはっきり劣るという結果は、この試験では出ていません。さらに長い追跡の報告が楽しみな1本です。
今日のひとこと
この試験が示したのは、歯冠の壁が残っていない根管治療歯(フェルール0〜0.5mm)にグラスファイバーポストか鋳造メタルポストを使い、単冠の陶材焼付金属冠で修復した条件では、最長9年(追跡の中央値62か月)までの成功にも生存にも有意差は検出されなかったということです(成功 p=0.26、生存 p=0.63)。失敗はグラスファイバー111本中17本、鋳造メタル72本中6本で、歯根破折は10本(7本と3本)でした。5年の時点の年間失敗率は鋳造メタル1.2%、グラスファイバー1.7%です。著者らの結論は「どちらも良好で、似た臨床成績」。ただし、同等と判定するための解析結果は本文になく、生存のハザード比の信頼区間は0.2〜3.7と広いままです。「2つのポストは同じ」と確かめられたわけではありません。著者ら自身が、似ていることを確かめるにはもっと長い追跡が要る、と書いています。失敗23本のうち16本が臼歯だったことにも目を向けたい1本です。


