エンド|歯冠を切り落とした牛の切歯40本を5群(各8本)に分け、ファイバーポストの有無とコアの材料(短繊維強化コンポジット・従来のコア材・CAD/CAMブロック一体型)を変えて、斜め45度から壊れるまで静的に荷重した実験室研究(Lassila・Oksanen・Fráter・Vallittu・Garoushi 2020・Dental Materials Journal)。患者さんで確かめた研究ではない
歯冠がほとんど残っていない前歯の支台築造で、コアを短い繊維入りのコンポジットレジン(SFRC)に替えると強くなるのか。Lassilaらは2020年、牛の切歯40本を使った実験室研究を報告しました。壊れるまでの荷重は、ファイバーポスト+SFRCコアが443 Nでいちばん高く、ポストなしの従来のコア材が153 Nでいちばん低い値でした。ただし、ファイバーポスト+従来のコア材(図から約350 N)との差は有意ではありません。有意だったのは、ポストなしでのコア材の違い(300 N 対 153 N)と、ポストの有無でした。牛の歯に一度だけ力をかけた実験で、臨床での長持ちを示したものではない、という読み方になります。
①歯冠を失った前歯の支台築造、コアの材料を替えると強くなる?
歯冠がほとんど残っていない根管治療後の前歯。ファイバーポストを立てるかどうかに加えて、「コアを何で築造するか」で迷う場面があります。コア用のコンポジットレジンは、大きな力がかかる場所では割れやすい、と言われてきました。そこへ登場したのが、短いガラス繊維を混ぜた短繊維強化コンポジット(SFRC)です。
Lassilaらは2020年、歯冠を切り落とした牛の切歯40本を使い、ポストとコアの組み合わせを5通りに変えて、壊れるまで力をかける実験を報告しました。患者さんの口の中で確かめた研究ではなく、実験室の研究です。
・壊れるまでの荷重がいちばん大きかったのは、ファイバーポスト+SFRCコア(443 N)
・ただし、ファイバーポスト+従来のコア材(図から読むと約350 N)との差は有意ではない
・ポストを使わない場合は、根管の中からSFRCで築造した群(300 N)が、従来のコア材で築造した群(153 N)より有意に高い
・同じコア材どうしで比べると、ファイバーポストを入れた群の方が有意に高い
・牛の歯・1群8本・一度きりの静的な荷重という条件での結果で、臨床での長持ちを示したものではない
・著者らの結論は「ファイバーポストと併用したSFRCコアは、荷重に耐える力と壊れ方の点で有望な成績を示した」
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で次のように整理しています。ファイバーポストは弾性係数が象牙質に近く、金属ポストの代わりとして広まりました。接着とコンポジットレジンを使えば、根管治療歯を従来のクラウンなしで修復できる場合もあります。一方で、コンポジットレジンのコアが割れて失敗した、という報告もあります。いまのコア用コンポジットレジンはもろく、破壊靱性(ひびの進みにくさ)が低いことが、大きな力のかかる築造に使ううえでの壁になっている、というのが著者らの見方です。ここまでは、著者らが引いた先行研究にもとづく話です。
SFRCは、短い繊維でひびの進行を止めることをねらった材料です。この実験で使われたのは、2019年に発売されたフロアブルタイプのSFRC(everX Flow・GC社)でした。著者らの第一の目的は、このSFRCで作ったポスト・コアの荷重に耐える力と壊れ方を調べること。第二の目的は、根管の深いところでどこまで硬化するかを、硬さの測定で調べることです。
③実験の組み立て:牛の切歯40本を5つの群に分けた
・う蝕のない牛の切歯40本。歯冠をセメントエナメル境で切り落とし、歯根の長さを15 mmにそろえた
・歯根はアクリルレジンに植えた(歯頸側の2 mmだけ出している)
・5群に分けた(1群8本)
・ポスト孔の深さは10 mm。コアの高さは切断面から5.5 mm
・クラウンは、D群を除いて、従来のコンポジットレジンを型に詰めて光で固める直接法で作った
・室温の蒸留水に48時間つけたあと、試験機で斜め45度から毎分1 mmの速さで、壊れるまで力をかけた(静的荷重)
・A群(対照):既製のグラスファイバーポスト(直径1.6 mm)+従来のコア材(デュアルキュア型のコア用コンポジットレジン)
・B群:グラスファイバーポスト+SFRCのコア
・C群:ポストなし。根管の中からコアまでをSFRCで築造
・D群:ポスト・コア・クラウンを、CAD/CAM用コンポジットレジンブロックから一体で削り出して接着
・E群:ポストなし。根管の中からコアまでを従来のコア材で築造
統計は一元配置分散分析とテューキーの多重比較で、有意水準は0.05です。壊れ方は2人が目で見て3つの型に分けました。硬さの測定は、C群とE群の修復歯を縦に割り、根管の入口(0 mm)から底(10 mm)まで2 mmおきに行っています(各3本)。
④結果(1):443 Nがいちばん高い。ただし「ポスト+従来のコア材」との差は有意でない
・B群(ファイバーポスト+SFRCコア):443±143 N
・A群(ファイバーポスト+従来のコア材):約350 N(本文に数値の記載がなく、図3から筆者が読み取った値)
・C群(ポストなし・SFRC):300±98 N
・D群(CAD/CAMブロックの一体型):236±89 N
・E群(ポストなし・従来のコア材):153±55 N
・分散分析では、修復の方法が荷重に耐える力に有意に影響した(p<0.05)
・コア材の違い(ポストなし):C群300 N 対 E群153 N → 有意差あり
・コア材の違い(ポストあり):B群443 N 対 A群 約350 N → 有意差なし
・ポストの有無(SFRC):B群443 N 対 C群300 N → 有意差あり
・ポストの有無(従来のコア材):A群 約350 N 対 E群153 N → 有意差あり
・D群(236 N)は、A群・C群・E群のどれとも有意差なし。B群とは有意差あり
平均の数字だけを並べると、B群がいちばん上に来ます。ただ、ファイバーポストを入れた歯で、コアを従来のコア材からSFRCに替えたときの上乗せ(約350 N→443 N)は、この実験では統計的に確かめられていません。ばらつきも大きく、B群の標準偏差は143 Nあります。
はっきり差が出たのは2つです。ポストを使わないなら、SFRCで築造した方が高い。同じコア材なら、ファイバーポストを入れた方が高い。この実験から読めるのはここまでです。
⑤結果(2):壊れ方と、根管の奥での硬化
・歯の破折を伴わないクラウンの脱離がいちばん多く、すべての群で見られた
・歯の破折を伴う脱離は、ファイバーポストを使わなかった群(C・D・E群)だけで見られた
・表層のコンポジットレジンがSFRCのコアからはがれる壊れ方は、B群で見られた
・本文に本数の記載はない。図4の棒から筆者が読むと、歯の破折を伴う脱離はC群とD群で1割強、E群で4分の1ほど、B群のはがれは4分の1ほど
著者らは、どの群も主に「修復しやすい壊れ方(セメントエナメル境より上での破壊)」だった、と書いています。
・どちらの材料も、深くなるにつれて硬さが少しずつ下がった
・深さ6 mmのところでは、SFRCと従来のコア材の硬さに差はなかった
・6 mmより深いところでは、光で固めるSFRCの方が大きく下がった。SFRCは8 mmと10 mmのあいだに有意差があり、従来のコア材(デュアルキュア型)にはなかった
・「表面の硬さの80%以上」を合格の目安にすると、SFRCは深さ8 mmまで、従来のコア材は10 mmまで使える、というのが著者らの読み
この実験のポスト孔は10 mmです。C群では、SFRCを根管の中にまとめて入れて光で固めています。いちばん深いところは、著者らの目安に届いていなかったことになります(後半は筆者の読みです)。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・このSFRCは、先行研究で高い破壊靱性と曲げ強さが報告されている。短い繊維がひびの進行を妨げ、ひびの先端にかかる応力を下げる
・SFRCの層は、表層のコンポジットレジンを支え、ひびを止めたり向きを変えたりする層として働く。先行の実験室研究では、SFRCの上にかぶせるコンポジットレジンの厚みは1〜1.5 mmがよいとされている
・グラスファイバーポストは弾性係数が象牙質に近く、歯根に沿った応力の分布をよくする。ファイバーポストは歯を強くせず、致命的な破折を増やす、とする研究もある
・CAD/CAMブロックの一体型(D群)が低めだったのは、熱も加えてしっかり重合されたブロックの方が、光だけで固めた直接法のコンポジットレジンよりもろいことで、一部は説明できるかもしれない
・SFRCが根管の奥まで比較的よく固まったのは、短いガラス繊維が光を通すことと、材料の透明度が高いことによるのかもしれない
著者らは、文献では前歯の最大咬合力は200 N前後とされることが多く、C群の300 Nはそれを上回る、とも書いています。ただし、歯ぎしりのような異常な力の影響は、この研究では考えていない、と断っています。
⑦明日の臨床へ
・構造的に弱った切歯を、通常のファイバーポストとフロアブルSFRCのコアで修復する方法は、荷重に耐える力と壊れ方の点で有望な成績を示した
・フロアブルSFRCを使うと、大きく崩壊した歯をコンポジットレジンで修復でき、来院回数と治療費を減らせる
・このSFRCについて詳しく知り、この実験室研究の結果を確かめるには、さらなる研究と臨床試験が必要
・同じコア材どうしで比べると、ファイバーポストを入れた群の方が有意に高い値でした。歯冠を失った前歯で、ポストなしのレジン築造だけに頼ることには、慎重でいたいところです
・ファイバーポストを入れたうえで、コアをSFRCに替えると上乗せがあるかどうか。数字は高く出ましたが、有意差はありません。「SFRCにすれば強くなる」と言い切れる段階ではありません
・ポストを使わずSFRCだけで根管の中から築造するなら、光の届く深さが気になります。この実験の硬さの測定から著者らが出した目安は、8 mmまでです
・SFRCを表層に出さず、従来のコンポジットレジンでおおう二層の構造が前提です。B群では、その境目ではがれる壊れ方が出ています
・来院回数や費用が減る、という点は著者らの見込みで、この実験で測ったものではありません
・この実験のクラウンは、直接法のコンポジットレジンです。セラミックや金属のクラウンをかぶせた歯にそのまま当てはまるとは限りません
(1)実験室の研究です。使ったのは牛の切歯で、1群8本と少なく、ばらつきも大きめです。力は壊れるまで一度だけ押す静的な荷重で、くり返しの力(疲労)や温度変化は与えていません。水につけたのは48時間です。
(2)考察と図のあいだに、読み方の差があります。考察には「SFRCのコア(B群・C群)は、従来のコア材(A群・E群)とCAD/CAMの一体型(D群)に比べ、荷重に耐える力と壊れ方が大きく改善した」とあります。しかし図3の文字では、B群とA群に有意差はなく、C群(300 N)はA群(図から約350 N)より低い値です。C群とD群のあいだにも有意差はありません。この記事は図3と結果の本文の方を採りました。
(3)A群の平均値と、壊れ方の割合は、本文に数字がありません。この記事の値は、図3と図4から筆者が読み取った目安です。
(4)原著の中で書き方がそろっていない点があります。ガラス繊維の直径は、材料の表では7 μm、方法と考察では6 μmです。また考察に「2 mmのフェルールのある前歯なら」という一文がありますが、方法にフェルールの形成についての記載は見当たりません。
(5)根管の中の硬化は、各3本の硬さの測定から間接的に推し量ったものです。「前歯の咬合力は200 N前後」との比較も、教科書の値と静的な荷重を並べたもので、口の中で長くもつことを確かめたものではありません。
(6)この研究はStick Tech社(GCグループ)の支援を受けています。著者のうち1人は同社の研究開発と研修のコンサルタントを務め、1人は同社/GC社からコンサルタント料を受けています。試験に使ったSFRC・コア材・ポスト・セメント・CAD/CAMブロック・クラウン用のコンポジットレジンは、どれもGC社の製品です。
それでも、「コアを繊維で強くする」という考え方を、ポストあり・なしの両方で確かめにいった点は、次の研究につながります。著者ら自身が、臨床試験が必要だと書いています。続報が楽しみな1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、歯冠を失った牛の切歯に一度だけ斜めから力をかけたとき、ファイバーポスト+短繊維強化コンポジット(SFRC)のコアが443 Nでいちばん高く、ポストなしの従来のコア材が153 Nでいちばん低かったということです。ただし、ファイバーポスト+従来のコア材(図から約350 N)との差は有意ではありません。有意だったのは、ポストを使わない場合のコア材の違い(SFRC 300 N 対 従来のコア材153 N)と、同じコア材でのファイバーポストの有無でした。牛の歯・1群8本・静的な荷重という条件の実験室研究で、メーカーの支援を受けています。「SFRCのコアは有望な候補。ただし、臨床で長持ちするかどうかは、これからの試験を待つ段階」というのが、ここから言える範囲です。


