1問1答 論文 エンド

根管の中で、細菌はどんな姿でいるのか

1問1答 論文 エンド

エンド|根尖病変をもつヒト抜去歯31本を光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡で観察し、根管内細菌叢の「構造」と、根尖で細菌と宿主がどう向き合っているかを記述した研究(Nair・1987・J Endod)

根管治療の要は感染の除去——そう言うとき、私たちは「何を」除去しているのでしょうか。1987年当時、根尖病変の原因が細菌であることは長く想定されてはいたものの、培養法の限界と抜歯時の汚染の問題から、病変そのものの中に細菌が見つかるのは5〜15%にすぎないという報告が続いていました。そのため壊死歯髄の分解産物や免疫病理といった、細菌以外の原因も持ち出されていた時代です。一方で根管内細菌叢を培養ではなく〈形態〉として見た研究、とりわけ透過型電子顕微鏡による報告は、著者によればわずか2報しかありませんでした。チューリッヒ大学のNairは、根管治療を受けていない、深在性う蝕と失活歯髄・X線透過像をもつヒトの抜去歯から、被膜に包まれ破れておらず根尖に強固に付着した病変31例(肉芽腫30・歯根嚢胞1)を集めます。抜去直後に固定し、EDTAで4〜5か月かけて脱灰し、切片面が根尖部の根管を通るブロックだけを選んで光学顕微鏡で観察。細菌の集塊が見えた9ブロックからさらに超薄切片を作り、電子顕微鏡で見ました。結果、31例すべての根管に、球菌・桿菌・糸状菌・スピロヘータからなる混合細菌叢がありました。多くは根管腔に浮遊していましたが、象牙質壁には単一形態のコロニー(自己凝集)や複数種からなる集塊(共凝集)が張りつき、電顕では壁面に単層から多層の細菌の凝集層が確認されています。ごくまれに光顕で見えるほど厚い場合、それは歯面のプラークと同じ柵状の構造に見えたと記述されました。崩壊し拡大したように見える象牙細管の中にも、細菌の集塊がありました。一方で病変の本体にまで細菌が及んでいたのは31例中5例だけで、多くは根尖孔で好中球の壁、あるいは上皮栓に阻まれていました。貪食された細菌の表面に免疫コーティングが見られたことから、著者はこれらが抜歯時の汚染ではなく本当の組織侵入だと論じています。ただし31例の記述的な観察であり、形態からは菌種を同定できず、著者自身が「細菌が存在することが、それだけで病変の原因であることを意味するわけではない」と釘を刺しています。

論文
Light and Electron Microscopic Studies of Root Canal Flora and Periapical Lesions
著者
P. N. Ramachandran Nair(チューリッヒ大学歯学部 口腔構造生物学部門・スイス)
掲載
Journal of Endodontics 1987;13(1):29-39
種類
ヒト抜去歯の光学顕微鏡・透過型電子顕微鏡による記述的観察研究(対照群・統計解析なし)。対象は根管治療を受けていない、根尖病変をもつヒト抜去歯31本の病変(肉芽腫30・歯根嚢胞1)。全例が深在性う蝕・失活歯髄・X線上の根尖透過像をもつ。5本は疼痛があり急性根尖性炎症と臨床診断され、残りは無症状の慢性肉芽腫。汚染を避けるため、被膜に包まれて破れておらず、根尖に強固に付着したままの病変だけを選択した。処理=抜去直後に改良Karnovsky固定液(2%パラホルムアルデヒド+2.5%グルタルアルデヒド/0.02Mカコジル酸緩衝)へ1週間浸漬固定→病変を根尖側の根とともに切り出し、0.25M EDTAで4〜5か月かけて脱灰→実体顕微鏡下で根の軸方向に0.5〜1 mmの切片に分割→オスミウム酸で後固定・エタノール脱水・Epon包埋。切片面が根尖部の根管を通るブロックだけを採用し、1〜2 µmの準超薄切片をPAS・メチレンブルー-アズールIIで染色して光顕観察。光顕で根管内または病変内に細菌の集塊が確認できた9ブロックから超薄切片を作り、ウラン塩・鉛塩で二重染色して透過型電子顕微鏡で観察した
PMID
3469299

根管の中の「感染」を、見たことがありますか

根管治療でやっているのは拡大形成ではなく感染の除去だ——そう教わります。では、その感染は根管の中でどんな姿でいるのでしょうか。培養検査の結果は菌名のリストとして返ってきますが、そのリストは「どこに、どんな形でいたか」を教えてくれません。

1987年、チューリッヒ大学のNairは、根尖病変をもつ抜去歯を切って、光学顕微鏡と電子顕微鏡で直接のぞきました。結論を先に言うと、31例すべての根管に混合細菌叢があり、その一部は象牙質壁に層状に張りつき(ごくまれに厚い場合は光顕でも歯面のプラークそっくりの柵状構造に見え)、崩壊した象牙細管の中にまで入り込んでいました。一方で、病変の本体にまで細菌が及んでいたのは31例中5例だけでした

「病変の中に細菌はほとんどいない」という時代

根尖病変の一次的な原因が細菌であることは、古くから想定されてはいました。ただし、それを組織の中で証明しようとした試みは、抜歯や手術のときに混入する細菌をどう除外するかという問題と、当時の培養技術の限界に、ことごとく阻まれてきました。

そのため、無傷の病変の中に見つかった細菌だけを本物として数えると、細菌が確認できる根尖病変は全体の5〜15%程度——とりわけ急性炎症を伴うものに多い、という報告が続きます。結果として、根尖病変は必ずしも細菌だけが起こすものではなく、壊死歯髄の分解産物や、免疫病理学的な機序といった別の要因が主役かもしれない、という見方が力を持っていました。

一方で、精度の高い微生物学的手法を用いた研究が進み、偏性・通性嫌気性菌と、培養条件にうるさくないグラム陽性菌の組み合わせが繰り返し報告されるようになります。それらの菌や産物を使った動物実験でも、混合感染の高い病原性が示唆されていました。それでも、根尖に付着したままの無傷の病変を現代的な組織学で見た研究は極めて稀で、根管や根尖の細菌叢を透過型電子顕微鏡で見た報告は、著者によれば2報しかありませんでした。

今回の一手:切って、染めて、電子顕微鏡で見る

著者が採ったのは、培養ではなく形態を見るという道です。汚染の問題を、選択基準そのもので封じにいきました。

設計:根管治療を受けていない、深在性う蝕・失活歯髄・X線上の根尖透過像をもつヒト抜去歯から、被膜に包まれて破れておらず、根尖に強固に付着したままの病変31例(肉芽腫30・歯根嚢胞1)を選択。うち5本は疼痛があり急性根尖性炎症、残りは無症状の慢性肉芽腫と診断されていた。抜去直後に固定液へ1週間浸し、0.25M EDTAで4〜5か月かけて脱灰。根の軸方向に0.5〜1 mmの切片に分けたのち樹脂包埋し、切片面が根尖部の根管を通るブロックだけを採用。1〜2 µmの準超薄切片を染色して光顕で観察し、細菌の集塊が見えた9ブロックからさらに超薄切片を作って透過型電子顕微鏡で見た。

対照群はありません。統計もありません。1例ずつ、どこに何がいたかを記述する研究です。だからこそ、培養では出てこない情報——細菌と象牙質壁の関係、細菌どうしの関係、宿主の細胞との関係——が残りました。

結果:根管は全例が陽性、病変の本体はほとんどが陰性

まず、数として押さえておきたいのが次の3つです。

0 33.3% 66.7% 100% 31病変中の割合(%) 100%(31/31) 16.1%(5/31) 3.2%(1/31) 根管内に細菌 病変の本体にも細菌 根尖孔に壁が無い 原著の結果・結論の記述から計算(n=31病変)。31例すべての根管に混合細菌叢(31/31)。病変の本体にも細菌が観察されたのは肉芽腫4+歯根嚢胞1の5例(5/31)。根尖孔で細菌が好中球の壁にも上皮栓にも遮られていなかったのは1例(1/31)
31病変の内訳。根管内は全例で細菌陽性、病変の本体にまで及んでいたのは5例だった

31例すべての根管に混合細菌叢がありました(31/31)。一方、病変の本体の中にまで細菌が観察されたのは5例(肉芽腫4+歯根嚢胞1)。肉芽腫4例のうち1例は放線菌症で、別の報告に詳しく記載されています。著者は、病変の本体に細菌が及んでいた症例はいずれも症状のあるものだったと述べ、結論でも「そうした病変は例外なく急性で有症状である」としています。本研究で疼痛があり急性と診断されたのも5本で、この5本は、本体に細菌が及んでいた5例そのものです(本研究の有症状歯はこの5本がすべて)。

そして、根尖孔で細菌が好中球の壁にも上皮栓にも遮られていなかったのは1例だけ(1/31)。著者はこの1例を、細菌が根管内でほぼ休止している「静止した肉芽腫(resting granuloma)」として扱っています。

ただ、この論文の本当の中身は割合ではありません。細菌が根管の「どこに」「どんな形で」いたかです。

象牙質壁に張りついた細菌の層(光顕では柵状・plaque様に見える) 根尖孔をふさぐ好中球の壁または上皮栓 根管内細菌叢(球菌・桿菌・糸状菌・スピロヘータ) 崩壊・拡大した象牙細管の中にも細菌の集塊 病変の本体(肉芽腫30・歯根嚢胞1) 本体にまで細菌が見られたのは31例中5例(肉芽腫4・歯根嚢胞1) Nair 1987 の光顕・電顕所見をもとにした模式図(原著に同じ図はない)。n=31病変(肉芽腫30・歯根嚢胞1)位置関係を示すための概念図で、実寸比ではない。本体に描いた淡い輪郭の細胞は単核細胞の浸潤で、細菌ではない
Nairが記述した根尖部の像を1枚にまとめた模式図。浮遊する菌・壁に張りついた層・細管の中の集塊・根尖孔のバリア

観察された姿は、大きく4つに分かれます。

①浮遊している菌。細菌叢の大部分は、湿った根管腔の中にゆるい集まりとして漂っていた。形態は球菌・桿菌・糸状菌で、そこにスピロヘータが加わる。当時、スピロヘータは歯周病原菌としては有名でも、感染根管からの報告はまれでした。暗視野顕微鏡による先行研究では根管内細菌叢の6%とされていましたが、著者は自身の標本ではスピロヘータが目立つ構成要素だったと書いています。
②壁に張りついた菌。象牙質壁には、1種類の形態だけからなる密な塊(自己凝集したコロニーと解釈)が付着していた。菌体と菌体のあいだ、とくに塊の中心部には無定形の物質が見えた。さらに、これとは別に、壁の一部は単層あるいは多層の細菌の凝集層で覆われていた——これは電顕でしか見えない薄さのことが多く、光顕で見えるほど厚い場合は柵状(palisade)の構造、つまり歯面のプラークと同じ見え方になった。糸状菌はしばしば壁に対して垂直に付着し、球菌は同じ方向に連なって並んでいた。
③象牙細管の中の菌。いくつかの標本では、崩壊し拡大したように見える象牙細管の中に、孤立した細菌の集塊が存在した。
④根尖孔のバリア。細菌叢は多くの場合、密な好中球(PMN)の壁によって病変の本体から隔てられていた。頻度は低いものの、病変側から根管の入口へ上皮が入り込んで「栓」をつくっている像もあった。ただしこの上皮栓の中や、上皮と象牙質の境界にも、球状の細菌の集塊や散在する細菌が多数見られた。

細かい所見も、いま読むと面白いところがあります。グラム陰性の桿菌には、3層目の電子密度の高い外層をもつものがありました。著者はこれをBacteroidesの一部の菌種で記載された外層(S-layerなど)と同じものらしいと述べています。また、ごくまれに分岐した菌糸様の構造も見つかり、当時、感染根管から真菌の報告はなかったため、著者は日和見的な侵入者の可能性を示唆しています。

なぜ、こういう姿になるのか

著者はこれらを、細菌の付着(adherence)という現象として読み解いています。

1種類の形態だけの塊は、同じ菌どうしがくっつく(自己凝集)ことでできたコロニー。菌体間の無定形物質は、細菌がつくる菌体外マトリックスの不溶成分かもしれない。一方、複数の形態が混ざった球状の集塊は、種類の違う菌どうしがくっつく共凝集(coaggregation)によるもので、生態学的には互いに助け合う微生物の共同体を形づくっているように見える——そう述べています。

そして象牙質壁の凝集層について、著者はこう書きました。根管内細菌叢が象牙質壁にプラークを形成するという報告はこれまで存在しないが、この凝集層は、歯の表面で記載されているプラーク形成の最初期の菌に相当するのではないか。バイオフィルムという言葉が歯科に定着するよりずっと前の、1987年の記述です。

根尖側の境界についても、見立てははっきりしています。好中球の壁は、根管から漏れ出てくる細菌やその代謝産物・崩壊産物への走化性反応として説明できる。上皮栓は、肉芽腫の中で増殖した上皮が根管の入口まで伸びたもので、象牙質との界面には基底板・ヘミデスモゾームという付着装置まで備わっている。ただし著者は、これを頼れる生物学的な防壁とは数えられないと明言します。理由は2つ。出現が不規則で予測できないこと、そして細胞間隙が広く、細菌やその産物が通り抜けて病変を維持してしまうことです。

では、その均衡が崩れるとどうなるか。細菌が本体へ入り込んでいた肉芽腫4例のうち、放線菌症を除く3例では、根尖孔の象牙質壁に明瞭な細菌のプラークがあり、そこから菌の前線が病変の内部へ向かって伸び、その先で限局的ないし広範な組織壊死と急性の好中球反応が起きていました。著者はこれを、宿主の抵抗力の一時的な低下、あるいは細菌側の病原性の増大によって根尖の均衡が破れたときに生じる二次的な膿瘍(Phoenix abscess)と位置づけています。

最後に、汚染の疑いへの反論があります。歯根嚢胞の1例では、嚢胞腔の好中球の中に細菌を含む貪食胞(ファゴソーム)が多数ありました。その一部では、細菌の表面に電子密度の高いコーティングが見られます。著者はこれを、特異抗体が結合したときに現れると報告されている免疫コーティングと同じものだと考えました。だとすれば、それは抜歯のときに紛れ込んだ菌ではありません。その細菌が根管を通じて長期間、体を刺激し続け、根尖で特異的な免疫応答が成立していたことの像だ、という論の運びです。

明日の臨床へ:なぜ「削って広げる」だけでは終わらないのか

この論文は治療法を比べていません。示したのは所在だけです。それでも、日々の根管治療の前提を1つずつ点検させる力があります。

①相手は「液の中の菌」だけではない。浮遊している菌は洗い流せます。しかし象牙質壁の凝集層と、細管の中の集塊は、面に固定された相手です。器具が触れる面と、根管内面のすべては一致しません。機械的拡大の後にまだ工程が残る理由が、ここに写っています。
②細菌が見つかるのは、ほぼ根管の側。31例すべての根管に細菌がいて、病変の本体はほとんどが陰性でした。細菌の居場所は根管の側です。まず根管から制御する、という順番の根拠になります。
③根尖のバリアは頼れない。好中球の壁も上皮栓も宿主側の働きですが、著者は上皮栓について「出現が不規則で予測できず、細胞間隙から細菌や産物が通る」と書いています。バリアがあるから大丈夫、という読み方はできません。
④急性化は「本体に細菌が入った」像と重なる。本体に細菌が及んでいた5例は、いずれも症状のある病変でした。フェニックス膿瘍を、症状の名前ではなく菌の前線が進んだ状態としてイメージできるようになります。

スピロヘータが目立ったこと、グラム陰性桿菌が重要らしいこと、まれに菌糸様の構造があったこと——このあたりは、今日の根管内細菌叢の理解や難治症例の議論に、そのまま地続きでつながっていきます。

ここだけ、冷静に補助線

31例の記述的な観察研究です。対照群も統計解析もありません。そして形態から菌種は同定できない——これは著者自身が最初に断っています。球菌・桿菌・糸状菌・スピロヘータという分類は、あくまで見た目の分類です。

もっと大事な留保も、著者本人の言葉で置かれています。31例すべてに細菌がいたことは、その細菌が病変を起こしたことの証明ではない。存在と因果は別物だという線引きを、著者は考察の冒頭で引いています。細菌が本体に入り込んでいた5例についても、汚染ではないと論じる根拠は免疫コーティングの形態学的な解釈であって、抗体の同定そのものではありません。加えて、観察されているのは抜去された歯の、ある一断面です。切片が通らなかった場所のことは分かりません。

それでも、この論文が示した像は強いものでした。根管の中を「菌液」ではなく壁に定着し、細管に潜り、共同体をつくる集団として描いたこと。そして根尖に、宿主と細菌がせめぎ合う境界面が実在すると見せたこと。40年近く経っても引かれ続けている理由は、そこにあります。

今日のひとこと

著者の結論:根尖病変をもつ歯の根管には、31例すべてに細菌がいた。しかもその多くは液の中に浮かんでいるだけでなく、象牙質壁に凝集層として張りつき、崩壊した象牙細管の中にまで入り込んでいた。一方で病変の本体にまで細菌が及んでいたのは5例だけで、そうした病変は例外なく急性・有症状だったと著者は述べている。筆者の読みでは、この論文の値打ちは「根管の中身=培養で数えられる浮遊菌の集まり」という像を、壁に貼りつき、細管に潜り込む、構造をもった集団という像へ描き変えた点にあります。器具が触れる面だけを相手にしても終わらない理由が、ここに写っている。ただし31例の記述的な観察研究であり、形態から菌種は同定できず、著者自身が「細菌がいることは、それが病変の原因であることを意味しない」と明言しています。

Nair PNR. Light and electron microscopic studies of root canal flora and periapical lesions. J Endod. 1987;13(1):29-39. PMID: 3469299
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。