1問1答 論文 エンド

痛みの救急には順番がある——診断・処置・薬の「3つのD」。薬は最後で、しかも添え物

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エンド|救急対応・炎症と感染・抗菌薬

急患が入る。腫れているのかいないのか、抜髄すべきか、抗菌薬を出すか——判断すべきことが同時に来るので、順番が崩れやすい場面です。西オーストラリア大学のAbbottによるこの総説は、そこに原則を与えます。KaiserとByrneが示した3つのD——Diagnosis(診断)→ Definitive dental treatment(確定的な歯科処置)→ Drugs(薬)——を、しかもこの順番で。原著が引く調査では、感染ではなく炎症である急性不可逆性歯髄炎に、一般歯科医の51%が抗菌薬を使うと答えていました。

論文
Present status and future directions: Managing endodontic emergencies
著者
Abbott PV
掲載
International Endodontic Journal 2022;55(Suppl 3):778–803(西オーストラリア大学)
種類
総説(ナラティブレビュー)
PMID
34958512

痛みの急患に、何から手をつけるか

予約の合間に急患が入る。腫れているのか、腫れていないのか。抜髄すべきか、様子を見るか。抗菌薬を出すか、鎮痛薬だけにするか——判断すべきことが同時に来るので、順番が崩れやすい場面です。

実際、歯内療法の救急は珍しくありません。アテネ歯科大学の救急外来を訪れた553人の調査では、48.8%が可逆性歯髄炎・不可逆性歯髄炎・急性根尖性歯周炎のいずれかでした。オーストラリアの歯内療法専門医院では、紹介患者2,000人のうち24.1%が痛みの管理を目的とした紹介で、さらに5.9%は痛みの診断のために紹介されたものの、痛みが歯髄・根管・根尖部由来ではなかったため根管治療を要しなかったといいます。

西オーストラリア大学のAbbottによるこの総説は、その混乱に順番を与えます。

3つのD——しかも、この順番で

提示される原則は「3つのD」です。Diagnosis(診断)→ Definitive dental treatment(確定的な歯科処置)→ Drugs(薬)。原著はこの枠組み自体はKaiserとByrne(2011)が示したものだと明記したうえで、「加えて、これらの原則は正しい順番で踏まれるべきである」と書き添えています——順番を足したのがAbbottの寄与だ、と読むのが正確です。

1つ目のD=正確な診断。適切な処置を選ぶために不可欠で、救急を起こしうる様々な病態を体系的に理解しておく必要があります。2つ目のD=確定的な歯科処置。診断がそのまま処置を指し示します。根管治療が常に必要とは限らず、保存的に管理できる症例もあるし、再治療が要る症例もある。3つ目のD=。使うかどうかは診断と処置に依存し、薬はあくまで処置に続く補助(adjunct)である、と明記されます。

この順番を守るために、術者は一つの区別を持っていなければなりません。炎症なのか、感染なのか

炎症と感染を見分ける——ここが崩れている

0 33.3% 66.7% 100% 抗菌薬を処方すると答えた割合 51% 25% 35% 35% 62% 67% 62% 29% 95% 97% 急性不可逆性歯髄炎 慢性根尖性歯周炎 急性根尖性歯周炎 慢性根尖膿瘍 急性根尖膿瘍 濃い棒=一般歯科医、薄い棒=歯内療法専門医。左端のオレンジは感染ではなく炎症の病態。原著が引くWhittenらの調査
病態別に「抗菌薬を処方する」と答えた割合。左端の急性不可逆性歯髄炎は感染ではなく炎症の病態

原著が引くWhittenらの調査は、この区別が現場でどれだけ崩れているかを示します。急性不可逆性歯髄炎——これは炎症であって感染ではない——に抗菌薬を使うと答えたのは、一般歯科医の51%、歯内療法専門医の25%。慢性根尖性歯周炎では両群とも35%でした。

目を引くのは急性と慢性の落差です。急性根尖性歯周炎では一般歯科医62%・専門医67%へ、急性根尖膿瘍では95%と97%へ跳ね上がります。一方、慢性根尖膿瘍では62%と29%。著者はこう述べます——急性の病態で処方率が大きく上がるのは、病態の性質や抗菌薬の適応を考えるのではなく、痛みの管理に抗菌薬を使っていることを強く示唆する

抗菌薬が本当に必要なのは、全身症状を伴う感染のときです。必要な場合はβラクタム系ペニシリンで足りることが多く、根尖膿瘍から採取された細菌の85%がフェノキシメチルペニシリンに、91%がアモキシシリンに感受性、アモキシシリンとクラブラン酸の併用では100%でした。

つまり: 急性=抗菌薬、という反射が現場にある。急性不可逆性歯髄炎は炎症であって感染ではない。抗菌薬は鎮痛薬の代わりにならない。

診断の前に、細菌の侵入経路を見つける

0 33.3% 66.7% 100% 所見が見つかった歯の割合 37% 86.1% 23% 60% 39% 99.6% う蝕 クラック 修復物の辺縁破綻 濃い棒=修復物を外す前の臨床診査(透照診を含む)、薄い棒=外して再診査した後。原著が引くAbbott2004bの臨床研究
修復物を外す前と外した後で、見つかる所見がどれだけ変わるか

原著は、原因は必ずあるのだから特定して除去しなければならない、と述べます。細菌が歯に入る経路は主にう蝕・クラック・破折・破綻した修復物の辺縁で、これらは通常の臨床・X線診査では必ずしも明らかにならない。「見えないから無い」ではないのです。

著者自身の臨床研究がこれを数字にしています。う蝕がX線で見えたのは19.2%の歯だったのに、実際にう蝕があったのは86.1%。透照診を含む術前の臨床診査では、う蝕37%・クラック23%・修復物の辺縁破綻39%でした。ところが修復物を外して再診査すると、う蝕86.1%・クラック60%・辺縁破綻99.6%——およそ2.5倍です。93%を超える歯が、複数の侵入経路を同時に持っていました

薬は添え物——コデインの実力を数字で見る

3つ目のDの中身も具体的です。目指すのは非麻薬性鎮痛薬(できればNSAID、使えなければアセトアミノフェン)を最大限に有効な用量で使うこと。それを増強する薬を足すのは、歯科処置のあとも中等度から重度の痛みが残るという稀な状況に限る、というのがKaiserとByrneの柔軟な疼痛管理戦略です。

コデインは歯科で最もよく使われるオピオイドですが、原著の評価は辛口です。60mg単独では、50%以上の除痛を得た患者は15%——プラセボの18%より低い。さらにコデインをモルヒネへ代謝しにくい人が、白人の7〜10%、アジア人の1〜2%、アフリカ系では最大20%いて、効かないからと増量しても鎮痛は改善せず、便秘や眠気といった副作用が増えるだけです。一方、アセトアミノフェン1000mgとコデイン60mgの併用なら57%に届く。単剤ではなく組み合わせで効かせる薬だということです。ただし同じ表からイブプロフェンを見ると400mg単独で55%、600mgで79%、800mgで100%で、原著はイブプロフェンとコデインの合剤に単独を上回る真の治療的利点があるかは疑わしいとまで書きます。先に十分量のNSAIDを使い切ることが本筋だ、という順序がここでも効いています。

もう一つ、抜髄そのもののリスクにも触れられています。炎症した歯髄を除去すると根尖孔で神経血管束が切断され、根尖部の炎症をさらに強めるだけでなく、根尖部の神経の発芽と術後の神経障害性痛につながりうる。根管治療は神経障害性痛症例の41%に関連していたという報告もあり、管理の難しい病態なのでそもそも起こさないほうがよいと述べられます。

明日の臨床へ——順番と、そのあとの3つのR

第一に、薬を決める前に診断を書き切る。3つのDの順番を守るだけで、抗菌薬を反射で出す事故はかなり減ります。

第二に、診断のために修復物を外すことを、診断行為として位置づける。外す前と後で所見が2.5倍変わるなら、外さない診断は診断ではない、という話になります。

第三に、急性可逆性歯髄炎を保存的に扱ったときは、3〜4か月後に歯髄の状態を再評価する。症状が無いことは回復の証拠になりません——壊死した歯髄はしばらく無症状でいられるからで、歯髄診と根尖部X線が要ります。そして経過観察には3つのR=Review(再確認)・Reassess(再評価)・Reconsider(考え直す)。多くは最初のRで済みますが、痛みが続く/再び戻ったなら、診断を改めたうえで管理を考え直せ、というのが締めくくりです。

つまり: ①診断→処置→薬の順を崩さない ②修復物を外して初めて見える経路がある ③急性可逆性歯髄炎を保存的に扱ったときは3〜4か月後に歯髄を再評価する。
ここだけ、冷静に補助線
これはナラティブな総説で、システマティックレビューではありません。引用される数字は年代も国も設計もばらばらで、Whittenらの調査は1996年の自己申告アンケート(実際の処方ではなく「どうするか」の回答)です。著者自身が救急の分類体系を提唱した当事者でもあります。それでも、3つのD・炎症と感染の区別・薬は添え物という骨格は、個々の数字が古びても残る種類の枠組みです。迷ったときに立ち返る順番を1つ持てる——それがこの総説の価値でしょう。

今日のひとこと

歯内療法の救急は「3つのD」の順で管理する——Diagnosis(診断)→ Definitive dental treatment(確定的な歯科処置)→ Drugs(薬)。枠組み自体はKaiserとByrne(2011)のもので、Abbottは「正しい順番で」を足している。薬は処置に続く補助であって主役ではない。鍵になるのは炎症と感染の区別で、炎症でしかない急性不可逆性歯髄炎に抗菌薬を使うと答えたのは一般歯科医51%・歯内療法専門医25%だった。細菌の侵入経路は修復物を外して初めて見えるものが多く、う蝕はX線で19.2%・実際は86.1%、外す前後でう蝕37→86.1%、クラック23→60%、辺縁破綻39→99.6%。コデインは60mg単独では50%以上の除痛が15%でプラセボの18%を下回る。急性可逆性歯髄炎を保存的に扱ったときは3〜4か月後に歯髄を再評価する。

出典:Abbott PV. Present status and future directions: Managing endodontic emergencies. Int Endod J. 2022;55(Suppl 3):778–803. PMID: 34958512
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。