カリオロジー|レジン強化型グラスアイオノマー・象牙質前処理・引張接着強さ(in vitro)
レジン強化型グラスアイオノマー(Fuji II LC)を使うとき、添付文書どおりならデンティンコンディショナーを20秒塗って洗って乾かして、あとは練って詰めるだけです。プライマーもボンディングも要らない——そういう材料として設計されています。1998年、日本大学松戸歯学部のグループが、その手順で得られる引張接着強さを測りました。1.7 MPa でした。そこから、コンポジットレジンと同じ手順を足していったら、どこまで上がるのか。
①「グラスアイオノマーは、そのまま詰めればくっつく」——本当でしょうか
レジン強化型グラスアイオノマー(Fuji II LC)は、扱いやすさが取り柄の材料です。添付文書どおりなら、デンティンコンディショナーを20秒塗って、洗って、乾かして、あとは練って詰めるだけ。プライマーもボンディングも要りません。フッ素も出るし、生体親和性も高い。だから乳歯にも、深い窩洞の裏層にも、支台築造にも使われます。
その手順で、象牙質にどれくらいの力でくっついているのか。1998年、日本大学松戸歯学部のグループがウシ象牙質で測りました。
②5つの群で、手順を1段ずつ足していく
設計がとてもきれいです。前処理を2種類×ボンディング材の有無2通りの4群、それに比較対象のコンポジットレジン系を加えた5群で、そこへ5種類のプライマーを掛け合わせています。
- 試料:ウシ下顎前歯(抜去後−70℃保管)。エナメル質を#100の耐水研磨紙で除去し、#1000の砥石で湿式研磨して平坦な象牙質面を作製
- 前処理①:デンティンコンディショナー(10%ポリアクリル酸・GC)を20秒
- 前処理②:中和EDTA 3-2溶液(EDTA・NaとEDTA・Fe・Naをモル比3:2)を60秒
- プライマー(60秒塗布):なし/35% HEMA水溶液/35% GM(グリセリルメタクリレート)水溶液/1% QTX+35% HEMA/1% QTX+35% GM。QTXは水溶性の光重合開始剤で、いずれもこの研究のために作った実験用プライマーである
- ボンディング材:LBボンド(MDP・HEMA・Bis-GMA・マイクロフィラー/クラレ)を20秒光照射
- セメント:Fuji II LC を直径3.2 mm・高さ2.0 mmのシリコンリング内に填塞し、40秒光照射
- 比較対象(E群):クリアフィル ライナーボンドII システム+AP-X(コンポジットレジン系)
- 測定:37℃水中24時間保管後、クロスヘッドスピード2 mm/分で引張接着強さを測定。分散分析とSchefféの多重比較(p=0.05)
③1.7 MPa から 9.9 MPa へ
- メーカー指示どおり(デンティンコンディショナーのみ・プライマーもボンディングも無し):1.7±0.8 MPa。著者らも「very low(非常に低い)」と書いています
- EDTA 3-2のみ:2.8±0.6 MPa
- EDTA+QTX/GMプライマー:4.1±0.6 MPa
- EDTA+QTX/GM+LBボンド:9.9±2.0 MPa
- ライナーボンドII+AP-X:10.4±2.1 MPa
破壊のしかたも変わっています。ほとんどの群では界面破壊(接着界面で剥がれる)でしたが、9.9 MPaを出した群では、界面破壊とセメントの凝集破壊が混在していました。接着界面が、セメント自体の強さに追いついたということです。
SEM像では、厚さ約1〜1.5 μmのハイブリッド層が確認されています。グラスアイオノマーでも、コンポジットレジンと同じ構造ができていた。
④ボンディング材が効くかどうかは、前処理で決まっていた
ここがこの論文のいちばん面白いところです。同じLBボンドを塗っても、前処理が違うと結果がまるで違いました。
- デンティンコンディショナーの上(A群 対 B群):同じプライマーで比べたとき、ボンディング材の有無に有意差は無かった。HEMAやGMを塗った場合、LBボンドは接着強さに影響しなかった(HEMA 2.6→2.3、GM 2.4→2.1と、むしろ数字は下がっている)
- EDTA 3-2の上(C群 対 D群):プライマーを塗った条件では、QTX/HEMAを除いてD群のほうが有意に高かった。HEMA 1.6→4.9、GM 2.3→5.2、QTX/GM 4.1→9.9(プライマーなしの条件は 2.8→2.9 で、有意差の表示はありません)
理由はSEM像に出ていました。
スメア層が残っていれば、その上にどんな良い接着材を重ねても、下が土台にならない。順番でいえば、ボンディング材より先に、前処理が効くということになります。
プライマー同士の比較でも、傾向は同じでした。HEMAやGMを単独で塗っても、接着強さは上がりませんでした。上がったのはQTX(水溶性光重合開始剤)を加えた組み合わせのときで、もっとも高かったのはQTX/GMです。プライマー層そのものが重合できることが効いている——著者らの仮説はそうした筋書きです。
⑤明日の臨床へ——ただし、慎重に
この論文の数字を、そのまま診療室に持ち込むことはできません(理由は次項)。それでも、考え方として持ち帰れるものはあります。
- 「グラスアイオノマーは前処理が要らない材料」ではない。この実験系では、前処理・プライマー・ボンディング材の3つをそろえると接着強さが1.7 → 9.9 MPa(約5.8倍)まで動きました。ただし前処理だけを替えた比較は 1.7 → 2.8 MPa(約1.6倍)で、5.8倍は3工程を足し上げた数字です。それでもデンティンコンディショナーを「省いてもいい工程」と扱うのは、逆の方向でしょう
- デンティンコンディショナーの塗布時間と量を、雑にしない。この論文の20秒でもスメア層は落ち切っていませんでした。実際の窩洞では、切削で作られたスメア層はもっと厚い場合があります
- 「ボンディング材を足せば強くなる」わけではない。デンティンコンディショナーの上では効きませんでした。足す前に、下地が整っているか——順番の問題です
- グラスアイオノマーでもハイブリッド層はできる。1〜1.5 μmという厚さは、コンポジットレジンの一般的な値と大きくは変わりません。「グラスアイオノマーは化学的接着だけ」という理解は、レジン強化型については更新が要るということです
まずin vitro・ウシ象牙質・平坦面です。実際の窩洞は箱状で、Cファクター(窩洞の構成比)が重合収縮応力を大きくしますし、ヒトの象牙質は部位や年齢で細管密度が変わります。平坦面で測った引張接着強さは、臨床の脱離率とは別の指標です。
保管は37℃水中24時間のみで、熱サイクルも荷重サイクルもかけていません。接着材料の評価では、24時間の初期値と長期の耐久性がしばしば乖離します。この論文は初期接着だけを見ていると読むのが正確です。
標準偏差の大きさも見ておきたいところです。QTX/GM単独(A群)は 4.3±3.1 MPa——平均に対してばらつきが7割を超えています。この条件については、平均値だけを取り出して語れません。
そしてもうひとつ。この論文は「メーカーの推奨手順が悪い」と言っているわけではありません。著者らは「メーカーは、デンティンコンディショナーのみによる前処理を推奨している」と事実として述べたうえで、「では、コンポジットレジンの接着システムと同じ処理をしたら、さらに向上するのではないか」という仮説を検証した、という構成です。Fuji II LCはフッ素徐放・生体親和性・熱膨張係数が歯質に近いという別の利点で選ばれる材料であり、接着強さの絶対値だけで優劣が決まるものでもありません。
それでも、「メーカー指示どおりが1.7 MPa」という数字を、著者らが最初に堂々と出しているのは価値があります。自分たちの介入を目立たせるための演出ではなく、出発点を正直に示したという読み方ができます。
今日のひとこと
メーカー指示どおり(デンティンコンディショナーのみ)のFuji II LCは 1.7±0.8 MPa。前処理をEDTA 3-2に替え、実験用のQTX/GMプライマーを塗り、さらにLBボンドを重ねると 9.9±2.0 MPa まで上がり、コンポジットレジン系(ライナーボンドII、10.4±2.1 MPa)と遜色ない値になった。ハイブリッド層も1〜1.5 μm形成されていた。ただしボンディング材を足すことが効いたのはEDTA前処理のときだけで、デンティンコンディショナーの上ではA群とB群に有意差が無かった。スメア層を落とし切れるかどうかが分岐点である——ウシ象牙質・平坦面・24時間という条件つきで。


