1問1答 論文 虫歯

メーカー指示どおりに使ったグラスアイオノマーの接着強さが、1.7 MPa だった話

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|レジン強化型グラスアイオノマー・象牙質前処理・引張接着強さ(in vitro)

レジン強化型グラスアイオノマー(Fuji II LC)を使うとき、添付文書どおりならデンティンコンディショナーを20秒塗って洗って乾かして、あとは練って詰めるだけです。プライマーもボンディングも要らない——そういう材料として設計されています。1998年、日本大学松戸歯学部のグループが、その手順で得られる引張接着強さを測りました。1.7 MPa でした。そこから、コンポジットレジンと同じ手順を足していったら、どこまで上がるのか。

論文
Effect of the application of dentin primers and a dentin bonding agent on the adhesion between the resin-modified glass-ionomer cement and dentin
著者
Kuniyoshi Nakanuma, Tohru Hayakawa, Takashi Tomita, Muneyoshi Yamazaki(日本大学松戸歯学部 歯内療法学講座/歯科理工学講座)
掲載
Dental Materials 1998;14(4):281-286
種類
in vitro(ウシ象牙質・引張接着強さ・37℃水中24時間保管)
PMID
10379257

「グラスアイオノマーは、そのまま詰めればくっつく」——本当でしょうか

レジン強化型グラスアイオノマー(Fuji II LC)は、扱いやすさが取り柄の材料です。添付文書どおりなら、デンティンコンディショナーを20秒塗って、洗って、乾かして、あとは練って詰めるだけ。プライマーもボンディングも要りません。フッ素も出るし、生体親和性も高い。だから乳歯にも、深い窩洞の裏層にも、支台築造にも使われます。

その手順で、象牙質にどれくらいの力でくっついているのか。1998年、日本大学松戸歯学部のグループがウシ象牙質で測りました。

先に結論: メーカー指示どおりの手順で 1.7±0.8 MPa。そこから前処理をEDTAに替え、プライマーを塗り、ボンディング材を重ねると 9.9±2.0 MPa まで上がり、コンポジットレジン系(10.4±2.1 MPa)と遜色ない値になった。ただしボンディング材が効いたのは、EDTA前処理のときだけだった。

5つの群で、手順を1段ずつ足していく

設計がとてもきれいです。前処理を2種類×ボンディング材の有無2通りの4群、それに比較対象のコンポジットレジン系を加えた5群で、そこへ5種類のプライマーを掛け合わせています。

  • 試料:ウシ下顎前歯(抜去後−70℃保管)。エナメル質を#100の耐水研磨紙で除去し、#1000の砥石で湿式研磨して平坦な象牙質面を作製
  • 前処理①デンティンコンディショナー(10%ポリアクリル酸・GC)を20秒
  • 前処理②中和EDTA 3-2溶液(EDTA・NaとEDTA・Fe・Naをモル比3:2)を60秒
  • プライマー(60秒塗布):なし/35% HEMA水溶液35% GM(グリセリルメタクリレート)水溶液1% QTX+35% HEMA1% QTX+35% GMQTXは水溶性の光重合開始剤で、いずれもこの研究のために作った実験用プライマーである
  • ボンディング材LBボンド(MDP・HEMA・Bis-GMA・マイクロフィラー/クラレ)を20秒光照射
  • セメント:Fuji II LC を直径3.2 mm・高さ2.0 mmのシリコンリング内に填塞し、40秒光照射
  • 比較対象(E群)クリアフィル ライナーボンドII システム+AP-X(コンポジットレジン系)
  • 測定:37℃水中24時間保管後、クロスヘッドスピード2 mm/分で引張接着強さを測定。分散分析とSchefféの多重比較(p=0.05)

1.7 MPa から 9.9 MPa へ

0 4 8 12 引張接着強さ (MPa) 1.7 2.8 4.1 9.9 10.4 メーカー指示どおり EDTA 3-2 のみ EDTA+QTX/GM EDTA+QTX/GM+LBボンド コンポジットレジン系 Fuji II LC をウシ象牙質へ。左端はデンティンコンディショナー20秒のみ(添付文書どおり)。右端は比較対象のライナーボンドII+AP-X。37℃水中24時間後に測定
手順を積み上げたときの引張接着強さ。右端はコンポジットレジン系との比較
  • メーカー指示どおり(デンティンコンディショナーのみ・プライマーもボンディングも無し)1.7±0.8 MPa。著者らも「very low(非常に低い)」と書いています
  • EDTA 3-2のみ2.8±0.6 MPa
  • EDTA+QTX/GMプライマー4.1±0.6 MPa
  • EDTA+QTX/GM+LBボンド9.9±2.0 MPa
  • ライナーボンドII+AP-X10.4±2.1 MPa

破壊のしかたも変わっています。ほとんどの群では界面破壊(接着界面で剥がれる)でしたが、9.9 MPaを出した群では、界面破壊とセメントの凝集破壊が混在していました。接着界面が、セメント自体の強さに追いついたということです。

SEM像では、厚さ約1〜1.5 μmのハイブリッド層が確認されています。グラスアイオノマーでも、コンポジットレジンと同じ構造ができていた。

ボンディング材が効くかどうかは、前処理で決まっていた

0 4 8 12 引張接着強さ (MPa) 2.5 2.9 2.3 4.9 2.1 5.2 3.4 5.9 6 9.9 プライマーなし HEMA GM QTX/HEMA QTX/GM どちらもLBボンドを併用した条件。前処理をEDTA 3-2に替えたときだけ、プライマーとボンディング材の効果が出た。濃い棒=デンティンコンディショナー、淡い棒=EDTA 3-2
どちらもLBボンドを併用した条件での比較(原著が直接検定した組み合わせではなく、記述統計としての並べ方)

ここがこの論文のいちばん面白いところです。同じLBボンドを塗っても、前処理が違うと結果がまるで違いました

  • デンティンコンディショナーの上(A群 対 B群):同じプライマーで比べたとき、ボンディング材の有無に有意差は無かった。HEMAやGMを塗った場合、LBボンドは接着強さに影響しなかった(HEMA 2.6→2.3、GM 2.4→2.1と、むしろ数字は下がっている)
  • EDTA 3-2の上(C群 対 D群)プライマーを塗った条件では、QTX/HEMAを除いてD群のほうが有意に高かった。HEMA 1.6→4.9、GM 2.3→5.2、QTX/GM 4.1→9.9(プライマーなしの条件は 2.8→2.9 で、有意差の表示はありません)

理由はSEM像に出ていました。

デンティンコンディショナー(10%ポリアクリル酸・20秒)では、スメア層が完全には除去されず、管間象牙質も管周象牙質も脱灰されていなかったEDTA 3-2(60秒)ではスメア層が除去された(ただし象牙細管内にはスメアプラグが残っていた)。

スメア層が残っていれば、その上にどんな良い接着材を重ねても、下が土台にならない。順番でいえば、ボンディング材より先に、前処理が効くということになります。

プライマー同士の比較でも、傾向は同じでした。HEMAやGMを単独で塗っても、接着強さは上がりませんでした。上がったのはQTX(水溶性光重合開始剤)を加えた組み合わせのときで、もっとも高かったのはQTX/GMです。プライマー層そのものが重合できることが効いている——著者らの仮説はそうした筋書きです。

明日の臨床へ——ただし、慎重に

この論文の数字を、そのまま診療室に持ち込むことはできません(理由は次項)。それでも、考え方として持ち帰れるものはあります。

  • 「グラスアイオノマーは前処理が要らない材料」ではない。この実験系では、前処理・プライマー・ボンディング材の3つをそろえると接着強さが1.7 → 9.9 MPa(約5.8倍)まで動きました。ただし前処理だけを替えた比較は 1.7 → 2.8 MPa(約1.6倍)で、5.8倍は3工程を足し上げた数字です。それでもデンティンコンディショナーを「省いてもいい工程」と扱うのは、逆の方向でしょう
  • デンティンコンディショナーの塗布時間と量を、雑にしない。この論文の20秒でもスメア層は落ち切っていませんでした。実際の窩洞では、切削で作られたスメア層はもっと厚い場合があります
  • 「ボンディング材を足せば強くなる」わけではない。デンティンコンディショナーの上では効きませんでした。足す前に、下地が整っているか——順番の問題です
  • グラスアイオノマーでもハイブリッド層はできる。1〜1.5 μmという厚さは、コンポジットレジンの一般的な値と大きくは変わりません。「グラスアイオノマーは化学的接着だけ」という理解は、レジン強化型については更新が要るということです
ただし、この論文のQTX/GMプライマーは市販品ではない。研究のために合成された実験用の試薬であり、「これを買ってきて臨床で使う」ことはできない。EDTA 3-2溶液も同様に一般的な市販前処理材ではない。持ち帰れるのは「スメア層の処理が分岐点になる」という原理のほうであって、この手順そのものではない。
ここだけ、冷静に補助線
まずin vitro・ウシ象牙質・平坦面です。実際の窩洞は箱状で、Cファクター(窩洞の構成比)が重合収縮応力を大きくしますし、ヒトの象牙質は部位や年齢で細管密度が変わります。平坦面で測った引張接着強さは、臨床の脱離率とは別の指標です。
保管は37℃水中24時間のみで、熱サイクルも荷重サイクルもかけていません。接着材料の評価では、24時間の初期値と長期の耐久性がしばしば乖離します。この論文は初期接着だけを見ていると読むのが正確です。
標準偏差の大きさも見ておきたいところです。QTX/GM単独(A群)は 4.3±3.1 MPa——平均に対してばらつきが7割を超えています。この条件については、平均値だけを取り出して語れません。
そしてもうひとつ。この論文は「メーカーの推奨手順が悪い」と言っているわけではありません。著者らは「メーカーは、デンティンコンディショナーのみによる前処理を推奨している」と事実として述べたうえで、「では、コンポジットレジンの接着システムと同じ処理をしたら、さらに向上するのではないか」という仮説を検証した、という構成です。Fuji II LCはフッ素徐放・生体親和性・熱膨張係数が歯質に近いという別の利点で選ばれる材料であり、接着強さの絶対値だけで優劣が決まるものでもありません。
それでも、「メーカー指示どおりが1.7 MPa」という数字を、著者らが最初に堂々と出しているのは価値があります。自分たちの介入を目立たせるための演出ではなく、出発点を正直に示したという読み方ができます。

今日のひとこと

メーカー指示どおり(デンティンコンディショナーのみ)のFuji II LCは 1.7±0.8 MPa。前処理をEDTA 3-2に替え、実験用のQTX/GMプライマーを塗り、さらにLBボンドを重ねると 9.9±2.0 MPa まで上がり、コンポジットレジン系(ライナーボンドII、10.4±2.1 MPa)と遜色ない値になった。ハイブリッド層も1〜1.5 μm形成されていた。ただしボンディング材を足すことが効いたのはEDTA前処理のときだけで、デンティンコンディショナーの上ではA群とB群に有意差が無かった。スメア層を落とし切れるかどうかが分岐点である——ウシ象牙質・平坦面・24時間という条件つきで。

Nakanuma K, Hayakawa T, Tomita T, Yamazaki M. Effect of the application of dentin primers and a dentin bonding agent on the adhesion between the resin-modified glass-ionomer cement and dentin. Dent Mater. 1998;14(4):281-286. PMID: 10379257.
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。