カリオロジー|修復物の使用年数・再治療の原因・再修復サイクル
「日本の詰め物は5年でやり直しになります」——患者説明でこの数字を使ったことはないでしょうか。出典としてよく挙がるのが、1995年の口腔衛生学会雑誌に載った、岡山市と名古屋市の10歯科医院・3,120歯を調べたこの論文です。数字は確かにその通りでした。ただし著者らは、同じ論文の考察で「本当の使用年数は、今回の結果よりも当然長くなると考えられる」と書いています。
①「詰め物の寿命は5年です」——その5年は、どこから来た数字か
患者説明の定番の一つだと思います。「日本の修復物は5〜7年でやり直しになる」。だから予防が大事です、と続ける。出典としてよく挙がるのが、この1995年の調査です。
数字は本当にそのとおりでした。レジン5.2年・インレー5.4年・鋳造冠7.1年・アマルガム7.4年。しかし、この論文を最後まで読むと、著者ら自身が考察でこう書いています。
集めたのは「壊れたもの」だけです。いま元気に働いている修復物は、この3,120歯の中に一つも入っていない。だから「5.2年」は平均寿命ではなく、「やり直しになったものは、平均5.2年もっていた」という数字です。
とはいえ、この論文の値打ちは平均年数のほうにはありません。本当に臨床に効くのは、「何が原因で終わったか」と「原因ごとに何年もったか」を掛け合わせた分析のほうです。そこを見にいきます。
②岡山市と名古屋市の10歯科医院、3,120歯
- 調査時期:1988年の9・10月と1989年の3・4月
- 場所:岡山市・名古屋市の10歯科医院
- 対象:すでに修復処置が施されているにもかかわらず、歯科医師の判断で再修復または抜歯が適当と診断された歯。総計3,577歯の情報が得られたが、457歯は使用年数が不明だったため除外し、3,120歯を解析
- 平均年齢:歯単位で算出して38.8歳
- 使用年数の求め方:患者への聞き取り調査
- 再治療が必要かどうかの判断基準は、歯科医師に任せた(統一基準を置いていない)
- 原因の分類:2次齲蝕/隣接面齲蝕/歯髄炎/感染根管/脱落/破折/その他(歯頸部齲蝕・歯周病)
- ここでいう隣接面齲蝕・歯頸部齲蝕とは、既存の修復物とは接していない場所に新たにみられた齲蝕を指す
③終わり方の内訳——3つに1つは2次齲蝕、6つに1つは脱落
- 2次齲蝕 33.1%/脱落 17.0%/その他 15.4%/感染根管 13.4%/歯髄炎 8.5%/隣接面齲蝕 7.1%/破折 5.5%
ただし修復物の種類によって、終わり方はまるで違います。ここが実務的です。
- アマルガム(741歯):2次齲蝕が59.1%——約6割。脱落はわずか2.7%
- レジン(433歯):2次齲蝕 46.7%、隣接面齲蝕 13.4%、脱落 7.9%
- インレー(731歯):2次齲蝕 33.8%だが、脱落が28.6%と際立って多い
- 継続歯(46歯):脱落 50.0%/ジャケット冠(141歯):脱落 39.7%・破折 25.5%/セラミック冠(59歯):脱落 40.7%——前歯部で汎用される補綴物は、脱落が主因。なお英文抄録ではセラミック冠=metal ceramic crowns(メタルボンド冠)、ジャケット冠=resin jacket crowns(レジンジャケット冠)とされており、いまのオールセラミックやジルコニアとは別物です
- バンド冠(187歯):感染根管 44.3%/アンレー(47歯):感染根管 42.6%/鋳造冠(562歯):感染根管 27.6%——これらは感染根管処置を理由とする再治療が最も多い
「詰め物・被せ物の敵は虫歯」ではありません。臼歯部の直接修復では2次齲蝕が主因ですが、インレーと前歯部の補綴物では、外れることのほうが主因で、冠では感染根管のほうが主因でした。診る場所によって、警戒すべき終わり方が変わります。
④そして、何年もったか
- 全修復物の平均は約6.9年
- 最も短いのはレジンの5.2年。次いでインレー5.4年・継続歯5.8年・ジャケット冠5.9年
- 最も長いのはバンド冠の12.7年。次いでアンレー8.6年・ブリッジ8.0年・セラミック冠8.0年・アマルガム7.4年・鋳造冠7.1年
累積曲線から読み取れることも書かれています。
- インレーやレジンの約3割は、3年以内に再治療されていた
- 鋳造冠やブリッジの40%は5年以内に再治療されていたが、バンド冠では僅か13%が5年以内だった
- 前歯部の補綴物では、ジャケット冠の3分の2、セラミック冠の3分の1が5年以内に再治療されていた。セラミック冠は、継続歯やジャケット冠に比べて約2倍の使用年数だった(ただし表2の平均値では8.0年 対 5.8年/5.9年で約1.4倍にとどまり、原著の中で数字が噛み合っていません)
ただしセラミック冠については、著者らが慎重に扱っています。「一般に、セラミック冠は他の補綴物よりも患者自身の経済的負担が大きい。おそらく、治療費の差が、治療内容の差や、患者自身の意識の差などに何等かの影響を及ぼしたと想像できる。そして、それが平均使用年数の差となって現れたと考えられるが、今回の調査からは確認できない」——材料の差ではなく、その材料を選ぶ患者層の差かもしれない。しかも、それすら確認できていないと自ら留保しているわけです。誠実です。
⑤いちばん効くのは「外れないようにすること」だった
ここがこの論文の核心です。著者らは「貢献度数」という指標を独自に作りました。
この値がマイナスなら、その原因は全体の平均使用年数を短くしている。マイナスの絶対値が大きいほど、寄与が大きい。
例:レジンの2次齲蝕は(5.1 − 5.2)× 46.7 = −4.7。出現率は46.7%と最も高いのに、寄与は小さい——2次齲蝕で終わったレジンは、平均とほぼ同じ年数もっていたからだ。
この計算で見ると、順位がひっくり返ります。
- レジン:脱落 −15.0/2次齲蝕 −4.7/隣接面齲蝕 −4.0/破折 −3.9
- インレー:脱落 −37.2/歯髄炎 −1.5(2次齲蝕は+13.5でむしろプラス)
- 継続歯:脱落 −105.0/セラミック冠:脱落 −44.8/ブリッジ:脱落 −43.6/ジャケット冠:脱落 −35.7/鋳造冠:脱落 −15.7
原著が結論に使っている範囲は、「レジン、インレーなどの保存修復物、そしてバンド冠以外の補綴物」です。その範囲では、マイナスの絶対値が最も大きかったのは「脱落」でした。この範囲に入らないものもあります——アマルガムでは脱落は+2.7とプラスで、最大の負値は歯髄炎の−14.6。アンレーでは脱落−2.6に対し、感染根管が−21.3でした。範囲を広げすぎないことが大事です。原因別の平均使用年数を見ても、脱落で終わったものは5.4年と全原因中もっとも短く、感染根管(8.2年)や破折(8.1年)の3分の2しかもっていません。
2次齲蝕について著者らはこう書いています。「出現率が高いにもかかわらず、使用年数が全体の平均使用年数と大きく離れていないためである。もちろん、2次齲蝕で再治療されるまでの期間が延びたならば、全体の使用年数が延びることは当然考えられる」。2次齲蝕が重要でないという話ではなく、「短命化への寄与」という軸では脱落のほうが大きい、ということです。
⑥明日の臨床へ
- インレーは、外れることを主敵として設計する。この調査でインレーの28.6%は脱落で終わり、脱落で終わったインレーは4.1年しかもっていません。窩洞の保持形態と、合着・接着の手技が、そのまま使用年数に効くという読み方ができます
- 前歯部の補綴物も同じ。継続歯の半分、ジャケット冠の4割、セラミック冠の4割が脱落で終わっていました。ジャケット冠はさらに破折25.5%が続きます
- 冠とアンレーでは、根管のほうを見る。バンド冠の44.3%、アンレーの42.6%、鋳造冠の27.6%が感染根管で終わっています。被せ物を長持ちさせたければ、被せる前の根管処置の質という話になります
- 直接修復では、やはり2次齲蝕。アマルガムの59.1%、レジンの46.7%。著者らによれば、1970年代の西欧諸国ではアマルガムの52〜68%が2次齲蝕により再治療されていたのに対し、1989年の調査では約29%、1990年では約38%と半減しているとのことで、今回の日本の結果(59%)は20年前の西欧諸国のデータに近いと述べています。レジンでも1990年のデンマークで32%に対し、日本は47%でした
そして、患者説明の言い方も変わります。「詰め物の寿命は5年です」ではなく、「やり直しになった詰め物は、平均5年でそうなっていました。ただしこの調査には、いま元気に働いている詰め物は入っていません」。長くなりますが、こちらのほうが正確ですし、「どうせ5年で壊れるなら」という諦めを招かないという利点もあります。
まず1988〜89年の調査です。アマルガムがまだ741歯・バンド冠が187歯という時代で、接着材料も窩洞形成の考え方も、いまとはかなり違います。この年数をそのまま2026年の臨床に当てはめることはできません。著者ら自身も「今回の結果から、単純に鋳造冠よりもバンド冠のほうが優れているとか、レジンよりもアマルガムのほうが勧められるとかいう結論には至らない。ただ、現在歯科界で評価されているものが、あらゆる点で過去のものよりも優れているとは思われない。もちろん、齲蝕予防が徹底できたならば、修復物の使用年数を論じること自体、無意味となることはいうまでもない」と書いています。
方法論の弱点も、著者らが明記しています。①使用年数は患者の記憶をもとに算出しており、データの信頼性が乏しい(とくに長期間使用していた修復物では曖昧になる)②10歯科医院の歯科医の診断基準が、必ずしも統一されていなかった可能性がある。「再治療が必要」の線引きが医院ごとに違えば、平均年数もその分ずれます。
そして冒頭に書いたとおり、これは「壊れたもの」だけを集めた調査です。生存時間解析ではありません。母集団の生存率を推定した数字ではないので、「5年生存率」のような読み方はできません。
それでも、この論文が読まれ続けているのには理由があります。日本の実地診療で、3,120歯を集めて終わり方を分類した調査は、いまも多くありません。著者らも「調査方法の問題はあるが、日本の歯科修復物の使用年数に関する現状を、ある程度把握したものと期待できる」と控えめに締めています。数字を控えめに言い、限界を先に書く——引用する側が、その慎重さごと引用できているかが問われる論文です。
今日のひとこと
再治療に至るまでの平均使用年数は、レジン5.2年・インレー5.4年・鋳造冠7.1年・アマルガム7.4年、全体で6.9年。再治療の原因は2次齲蝕が33.1%で最多、次いで脱落17.0%・感染根管13.4%。ただしこの数字は「再治療が必要と判断された修復物だけ」を集めたもので、まだ機能している修復物は分母に入っていない——著者らも「本当の使用年数は当然長くなる」と明記している。臨床に効くのは平均寿命の数字ではなく、原因別の内訳のほうだ。脱落で終わった修復物は平均5.4年と全原因中もっとも短く、著者らは「レジン、インレーなどの保存修復物、そしてバンド冠以外の補綴物では、脱落を可及的に予防することで平均使用年数を効果的にのばす可能性のあることが示唆された」と結んでいる(アマルガムとアンレーはこの範囲に入らない)。


