カリオロジー|フッ化物・すすぎ方・スラリーリンス・隣接面プラーク
「歯磨き粉のフッ素を残すために、うがいは少なめに」。そう伝えている先生は多いと思います。では、どのくらい少なめなら、どこに、どれだけ残るのか。1996年、イエテボリ大学のSjögrenらが、フッ素がいちばん届いてほしい場所——隣接面のプラークと歯間の液を、実際に採って測りました。
①「うがいは少なめに」——では、どのくらい?
フッ化物配合歯磨剤を活かすために、「歯磨きのあとのうがいは少なめに」。私たちはそう伝えます。では、どのくらい少なめなら、どこに、どれだけ残るのか。
1990年代前半、歯磨剤のフッ化物濃度をどう上げるかではなく、「どう使うか」に目を向ける研究が出はじめていました。同じグループは前年、この使い方でエナメル質と象牙質の脱灰速度が下がること(Sjögren ら 1995a)、さらに就学前児童で3年間の隣接面う蝕増加が26%減ったこと(Sjögren ら 1995b)を報告しています。
ただ、隣接面プラークのフッ素を実際に測った報告は1件しかなく(Sidi & Wilson 1991)、すすぎ方の違いで比べたものはありませんでした。
②3つのすすぎ方を、同じ人で順番に試す
健常成人20名(平均33歳、イエテボリ大学カリオロジー科の職員と学生)が、3つの方法を無作為な順で7日ずつ試しました。組み入れ条件は天然歯24歯以上・DMFS平均21・刺激唾液1mL/分以上。フロスをきちんと使えることが前提です。
- A:スラリーリンス——0.32%フッ化ナトリウム歯磨剤約1.5gで2分ブラッシング。泡を口の中に残したまま水5mLを口に含み、頬と舌を動かして1分間ぶくぶくして吐き出す。その後は水ですすがない
- B:3回すすぎ——同じ2分ブラッシングのあと、泡を吐き出し、15mLの水で3回、素早くすすぐ
- C:フッ化物洗口液——歯磨剤を使わずに2分ブラッシングし、0.05%フッ化ナトリウム洗口液10mLで2分間洗口。その後は水ですすがない
いずれも朝(朝食後)と夜(就寝直前)の1日2回。ブラッシング後2時間は飲食禁止、7日間は隣接面清掃をしない(フロスもつまようじも使わない)。各期の前1週間はフッ化物無配合の歯磨剤+1日1回のフロスで口の中をリセットし、直前にフッ化物無配合の歯磨剤とフロスで丁寧に清掃してから始めます。フッ化物無配合の歯磨剤だけで7日間過ごす対照期も設けられました。
測ったものは2つです。
- 蓄積:最終のブラッシングから5時間後、ワックス付きフロスで隣接面プラークを採取(歯石や無機イオンの混入を避けるため下顎前歯部は除外)。イオン電極でフッ素濃度を測る
- クリアランス:別の機会に1回だけ各方法を行い、三角形のペーパーポイントを歯間に10秒入れて液を吸わせ、3時間まで(5・30・60・120・180分)フッ素濃度を追う
③7日後、隣接面のプラークに残っていたフッ素
- A スラリーリンス:8.60 ± 9.76 ng F/mg(プラーク湿重量あたり)
- C フッ化物洗口液:6.46 ± 10.17
- B 3回すすぎ:2.21 ± 3.23
- 対照(フッ化物なし):0.18 ± 0.20
A対B、B対Cはいずれも p<0.001。AとCの間には有意差なし。3条件とも対照より有意に高い値でした(p<0.001)。
つまり「歯磨剤を使って3回すすぐ」より、「歯磨剤を使わず洗口液で洗口する」ほうが、隣接面のプラークにはフッ素が残っていたということです。せっかくの歯磨剤が、すすぎで流れている。
なお著者らは、AとBの比を本文で 3.89(8.60/2.21)と記す一方、抄録では「平均2.7倍」と書いており、数字が揃っていません(3.89は平均どうしの比、2.7は個人ごとの比の平均、というように算出法が違う可能性があります)。ここでは実測値そのものを見るのが確かです。個人差も大きく(標準偏差が平均を上回る条件もあります)、集団としての傾向として読むべき数字です。
唾液中のフッ素も同時に測られていますが(A 0.014/C 0.012/B 0.006/対照 0.001 mM)、3条件のあいだで統計的な有意差はつきませんでした。傾向はプラークと同じ向きです。採取したプラークの重量は平均42.3mgで、条件間に差はありません。
④3時間の追跡——差は「最初」と「最後」に出る
- 5分後:A 0.87±0.38/C 0.87±0.41/B 0.26±0.22 mM。AとCはBより高い(p<0.001)
- 120分後まで:AとCは同等で、どちらもBを上回っていた(60分まで p<0.001、120分で p<0.05)
- 180分後(最終):A 0.11±0.09/B 0.08±0.03/C 0.08±0.04 mM(A対B p<0.01、A対C p<0.05)
- 3時間の曲線下面積(AUC):A > B(p<0.001)、A > C(p<0.01)、C > B(p<0.001)。AとBの比は2.2
- 180分後にベースラインより有意に高い値を保っていたのはAだけ(p<0.05)
面白いのは順位が途中で入れ替わることです。立ち上がり(5分後)はAとCが同じ。120分の時点でもまだAとCは同等です。ところが最後の180分でAだけが上に残る。著者らはこの違いの理由を「不明」と明言したうえで、歯磨剤に含まれる研磨剤など処方の違いが停滞に関わっている可能性を挙げ、さらなる検証が必要だと結んでいます。洗口液は立ち上がりは良いが、抜けるのも早い。
⑤明日の臨床へ
- 「うがいは少なめに」を、具体的な動作にする。泡を捨てずに、水を少量(5mL=小さじ1)足して1分ぶくぶく——ここまで言えると患者さんは再現できます。「少なめ」だけでは伝わりません
- 15mLで3回すすぐと、隣接面に残るフッ素はスラリーリンスの4分の1程度まで落ちる(それでも対照の約12倍ではあります)。まずここを見直す価値があります
- 洗口液に置き換えるより、歯磨剤の使い方を変えるほうが安上がりで届く可能性がある。この研究では、隣接面プラークのフッ素でAとCに有意差はなく、歯間の液のAUCではAがCを上回りました
- 狙う場所は隣接面。フッ化物が届きにくく、う蝕が生じやすい場所です(同じ研究グループは就学前児童でこの方法により3年間の隣接面う蝕増加が26%減ったと報告しています)
- 1分は長い。実際にやってみると分かりますが、体感ではかなり長い。タイマーか、歯磨きの締めの習慣として組み込む工夫が要ります
今日のひとこと
歯磨剤の泡を口に残し、水を5mL足して1分間ぶくぶくする——このひと手間で、7日後の隣接面プラークのフッ素は 8.60 ng F/mg。15mLの水で3回さっとすすぐと 2.21 まで落ちた。歯間の液の面積(AUC)でも、スラリーリンスは3回すすぎの2.2倍。180分の時点で残っていたのもスラリーリンスだけだった。すすぎ方は、フッ素をどこに置いてくるかを決めている。


