カリオロジー|う蝕の病因(フッ化物)
「フッ化物入りの歯磨きを使いましょう」——これほど毎日口にする言葉も、そう多くありません。ではどのくらい減るのかを、数字で言えるでしょうか。2003年のコクランレビューは、74試験・のべ4万2,300人以上の子どもを集め、この問いに答えました。予防割合は24%。そして、その数字を動かす要因もはっきり見えています。
①「フッ素入りを使ってください」の、その先を言えるか
診療室でいちばん多く口にする予防の言葉かもしれません。フッ化物入りの歯磨剤を使ってください。
では患者さんに「どのくらい違うんですか」と返されたとき、何と答えますか。「かなり効きます」で止まっていないでしょうか。
2003年、Marinhoらのコクランレビューが、この問いに数字を与えました。1965年以降の文献を言語を問わず探し、条件を満たした74試験——のべ4万2,300人以上の子ども——を集めています。
②「予防割合(PF)」という物差し
このレビューの主要指標は予防割合(prevented fraction, PF)です。定義はこうです。
組入条件も確認しておきます。
- フッ化物配合歯磨剤 対 プラセボ(フッ化物なし)歯磨剤の比較であること
- ランダム化または準ランダム化され、アウトカム評価が盲検であること
- 期間が1年(1学年)以上であること
- 開始時16歳以下の子ども・青年が対象
- シーラント・キシリトール・洗口液など他の予防手段を上乗せした試験は除外
実際に集まった試験は、追跡3年が最も多く(44試験)、フッ化物濃度は1000/1100 ppmが少なくとも56試験を占めました。使われた薬剤は、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)27試験、フッ化第一スズ29試験、フッ化ナトリウム14試験、アミンフッ化物8試験ほか。
③予防割合は24%だった
メタ解析に寄与した70試験を統合した結果です。
- 永久歯の歯面(D(M)FS):PF 24%(95%信頼区間 21〜28%、P<0.0001)
- 永久歯の歯単位(D(M)FT):PF 23%(18〜28%、53試験)
- 標準化平均差(SMD):0.31(0.27〜0.36)
信頼区間はかなり狭く、効果の存在そのものは動きません。著者らも「半世紀を超える研究に支えられ、フッ化物配合歯磨剤の利益は確固として確立されている」と結論しています。
ただし試験間のばらつき(異質性)は明らかに大きい(P<0.0001)。「24%」は平均値であって、どの集団でもこの数字が出るという意味ではありません。
④NNTにすると、集団によって2倍以上ひらく
臨床で効きやすいのは、PFよりもNNT(何人が使えば1つ防げるか)でしょう。著者らはこれも計算しています。
- う蝕増加が年2.6 D(M)FSの集団(含まれた試験の中程度)→ NNT 1.6人(95%信頼区間 1.4〜1.8)
- う蝕増加が年1.14 D(M)FSの集団(最も低い水準)→ NNT 3.7人(3.1〜4.2)
同じ24%でも、う蝕が多い集団では1.6人、少ない集団では3.7人。実際に防げる歯面数は、年0.62 D(M)FSと年0.27 D(M)FSです。
メタ回帰でも、開始時のう蝕が1単位多いごとに予防割合が約1ポイント上がる関係が確認されました。ただし著者らは慎重で、「う蝕が減った地域だからフッ化物の濃度や頻度を下げてよい、ということには必ずしもならない」と釘を刺しています。
⑤効果を動かすのは、製品より「使い方」だった
ここが臨床にいちばん響く部分です。メタ回帰で有意だった要因は次のとおり。
- 使用頻度:1日1回から2回にすると、予防割合が14ポイント上がる(単変量の推定。他の要因で調整すると、背景のフッ化物曝露で調整した場合だけ有意性が消える)
- 監督の有無:監督なしの使用では、予防割合が10ポイント低い(95%信頼区間 −17〜−4%、P=0.001)
- フッ化物濃度:1000ppmあたり8ポイント上がる。ただしすべての共変量で調整するとP=0.051で有意性を失う
- 開始時のう蝕量:多いほど予防割合が高い(P=0.002)
一方で、関連が見つからなかったものもあります。
- 水道水フッ化物添加の有無——著者らは「明確な関係を検出できなかった」と書いています。ただし解析に使えたのは56試験で、うちフッ化物添加地域は11試験。水以外のフッ化物曝露の報告が不完全なため、誤分類の影響を受けた可能性があるとも述べています
- フッ化物の種類(MFP/フッ化第一スズ/フッ化ナトリウム/アミンフッ化物)——主要4剤のあいだに有意差なし
つまり「どの製品を選ぶか」より「1日2回きちんと使えているか」のほうが、数字を大きく動かしているということです。
⑥明日の臨床へ
- 「だいたい4分の1減ります」と数字で言える。感覚ではなく、70試験・4万人以上の統合値である
- 製品選びより頻度の指導。1日1回を2回にする話のほうが、成分表を見るより効く可能性が高い
- 子どもでは「見ていること」が効いていそうだ。監督なしで10ポイント落ちる。ただしこれは事前に決めた解析ではなく事後的な探索(post hoc)であり、著者らも慎重な扱いを求めている
- 水道水フッ化物添加のある地域でも、歯磨剤の上乗せ効果を否定する材料はない。ただし「関連を検出できなかった」であって「同じだと証明された」ではない
- う蝕が少ない患者では、同じ%でも防げる本数は少ない。ハイリスクの人ほど、この介入は効率がよい
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
フッ化物配合歯磨剤の効果を、プラセボ歯磨剤と比べた74試験のコクランレビュー。主要指標は予防割合(PF)=対照群のう蝕増加量に対して、どれだけ減ったかの割合。永久歯の歯面(D(M)FS)で24%(95%信頼区間 21〜28%、P<0.0001/70試験)、歯単位(D(M)FT)で23%(18〜28%/53試験)だった。これをNNTに直すと、う蝕増加が年2.6 D(M)FSの集団では1.6人、年1.14 D(M)FSの集団では3.7人が使えば1歯面のう蝕を防げる計算になる。試験間のばらつきは大きく(P<0.0001)、メタ回帰では使用頻度を1日1回から2回にすると予防割合が14ポイント上がり、監督なしの使用では10ポイント下がる(P=0.001)。フッ化物濃度は1000ppmあたり8ポイント上がるが、他の要因で調整すると有意性を失う(P=0.051)。水道水フッ化物添加の有無とは関連しなかった。一方で乳歯のデータは1試験のみ、歯のフッ素症は74試験のいずれも報告していない。副作用として拾えたのは、旧世代のフッ化第一スズ配合歯磨剤による着色(NNH 4.2)だけである。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


