エンド|歯冠の壁が2つ以下の根管治療歯に、2種類のグラスファイバーポストまたはチタンポストをセルフアドヒーシブレジンセメントで装着し、最長178か月追った前向き臨床観察研究(Bruhnke・Wierichs・von Stein-Lausnitz・Meyer-Lückel・Beuer・Naumann・Sterzenbach 2022・Journal of Endodontics)。対象は128人(1人1本)。全ての歯で2mm以上のフェルールを確保。失敗は合わせて26人
歯冠の壁がほとんど残っていない根管治療歯にポストを立てるとき、しなやかなグラスファイバーと硬い金属のどちらを選ぶか。Bruhnkeらは2022年、先行するランダム化比較試験の2群(グラスファイバーとチタン)に、別のグラスファイバーポストの群を足して、合わせて128人を最長178か月(約15年)追った結果を報告しました。累積生存確率はグラスファイバーの2群で57.1%と56.5%、チタンで71.8%。log-rank検定は p=0.496 で、有意差は検出されませんでした。著者らの結論は「ポストの種類は歯の生存に有意な影響を与えなかった」です。ただし各群41〜46人の小さな研究で、128人のうち53人(原著の表1の人数を筆者が合計)は追跡できていません。著者ら自身も、材質の影響を見きわめるにはもっと大きな研究が要る、と書いています。
①ポストの材質で、歯の寿命は変わる?
根管治療のあと、歯冠の壁がほとんど残っていない歯。ポストを立てるとき、「象牙質に近いしなやかさのグラスファイバーの方が歯にやさしいはず」「いや、硬い金属の方がしっかり支えてくれるのでは」と迷う場面は多いと思います。では、材質の違うポストを同じ手順で使って長く追うと、歯の残り方に差は出てくるのでしょうか。
Bruhnkeらは2022年、歯冠の壁が2つ以下しか残っていない根管治療歯に、2種類のグラスファイバーポストとチタンポストのいずれかを接着性のレジンセメントで装着した128人を、最長178か月(約15年)追った結果を報告しました。この記事では、原著の3つの群を次のように呼びます。ファイバーA(原著のGFP I)、ファイバーB(GFP II)、チタン(TP)。
・対象は128人(ファイバーA 41人、ファイバーB 41人、チタン 46人)。1人につき1本
・累積生存確率は、ファイバーA 57.1%、ファイバーB 56.5%、チタン 71.8%。log-rank検定は p=0.496 で、有意差は検出されなかった
・失敗は合わせて26人(10人・9人・7人)。追跡できなかった人が53人いる(13人・20人・20人。53人は表1の人数を筆者が合計)
・Cox回帰でも、ポストの種類は失敗と有意に関連していなかった。多変量解析では、調べた因子のどれも有意ではなかった
・著者らの結論は「最長15年で、ポストの種類は歯の生存に有意な影響を与えなかった。材質の影響を見きわめるには、もっと大きな集団での研究が必要」
・各群41〜46人の小さな研究で、ファイバーBは後から加えた群。「差がない」と確かめられたわけではない
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、根管治療歯の修復の成績は、根尖病変の有無、最終補綴、残っている歯質の量など多くの要因に左右される、と整理しています。1.5〜2mmの全周のフェルールは長期の成功に欠かせないと考えられている、とも書いています。ポストの材料は、金合金の鋳造、ステンレス、チタン、ジルコニア、グラスファイバーと、さまざまに研究されてきました。
グラスファイバーポストは弾性係数が象牙質に近く、実験室の研究では壊れ方が有利だとされています。一方で、臨床研究が報告する失敗の形はさまざまです。長期の臨床データは足りず、とくに材質を比べた研究は少ない。統一された治療指針もなく、歯科医師が使う材料はまちまちだ、と著者らは述べています。ここまでは、著者らが引いた先行研究にもとづく整理です。
そこでこの研究は、グラスファイバーポストで修復した歯の長期の生存を調べ、先に行われたランダム化比較のパイロット試験(グラスファイバー対チタン)の2つの群と比べることを主な目的にしました。
③研究の組み立て:先行試験の2群に、3つめの群を足した
研究の形は前向きの臨床観察研究です。場所はドイツのシャリテ・ベルリン医科大学。ファイバーAとチタンの2群は、著者らのグループが先に報告したランダム化比較試験の集団で、2003年1月〜2004年4月に組み入れられました。ファイバーBは、2006年11月〜2008年4月に新しく組み入れた3つめの群です。ファイバーBは無作為に割り付けられたのではなく、先の2群を「過去の対照」として比べています。治療の手順は変えていない、と書かれています。
・18歳以上。最終補綴は単冠、ブリッジ、部分床義歯(組み合わせを含む)
・2mm以上のフェルールがある形成
・歯冠の壁が2つ以下(壁=頬側・舌側・近心・遠心のそれぞれで、歯冠の高さの50%を超えて残っているもの)
・症状がなく、根尖部の透過像がない、十分な根管充填。根尖側にガッタパーチャを4mm残す
・歯周炎がない、または治療済み(プロービング深さ4mmまで、出血なし)
・除外:残っている象牙質の壁の厚みが1mmに満たない歯、ブラキシズムの徴候がある患者、歯周に問題のある歯、根管治療のあとに症状のある歯
・1人につき、ポストで修復する歯は1本だけ
・う蝕の処置と根管治療は歯学部の学生が担当。ポストと支台築造は2人の術者が全て行った
・ポスト孔を形成し、根管内をエアアブレージョンで清掃、エタノールで洗って乾燥
・ポストはセルフアドヒーシブレジンセメントで装着。コアはコンポジットレジンで築造
・2mmのフェルールを得るために、一部の患者には外科的な歯冠長延長術を行った
・最終補綴は学生が担当し、すべてセルフアドヒーシブレジンセメントで装着
起点はポストを入れた日です。主要な評価項目は「修復の生存」で、再評価のときに十分な修復が口の中に残っていること、と定義されています。再評価は12か月、24か月、60か月と、最長178か月まで。評価は、術者ではない歯科医師が行いました。群の比較にはカプラン・マイヤー法とlog-rank検定を使い、Cox回帰でハザード比を出しています。症例数は事前に計算していません。
④結果(1):3つの群の生存に、有意差は検出されなかった
対象は128人で、開始時の平均年齢は52.9歳(標準偏差14.9)でした。歯の種類は小臼歯46%、切歯24%、犬歯16%、大臼歯13%。平均の観察期間は、ファイバーA 101か月、ファイバーB 82か月、チタン 95か月です。
・累積生存確率:ファイバーA 57.1%、ファイバーB 56.5%、チタン 71.8%
・log-rank検定:p=0.496(表1)。有意差なし
・年間失敗率(生命表から計算。原著に単位の記載はない):ファイバーB 3.6、ファイバーA 3.0、チタン 2.0
・ポストの種類のハザード比(Cox回帰・二変量。ファイバーAを1としたとき):チタン 0.6(95%信頼区間 0.234〜1.621、p=0.326)、ファイバーB 1.1(95%信頼区間 0.425〜2.652、p=0.898)
・多変量のCox回帰:調べた因子のどれも、失敗と有意に関連していなかった
数字だけを並べると、チタンの生存確率がいちばん高く見えます。ただ、検定では差は検出されていません。チタンのハザード比0.6の95%信頼区間は0.234から1.621までと広く、チタンの方がかなり良い場合も、ファイバーAより悪い場合も含んでいます。
著者ら自身も、全体として生存率はどの群でもやや低かった、と書いています。対象が、歯冠の壁が2つ以下という大きく壊れた歯だったことは、数字を読むときに頭に置いておきたい条件です。
⑤結果(2):128人のうち53人は追跡できていない
・ファイバーA(41人):修復が残っていた 18人(44%)、失敗 10人(24%)、追跡できなかった 13人(32%)
・ファイバーB(41人):修復が残っていた 12人(29%)、失敗 9人(22%)、追跡できなかった 20人(49%)
・チタン(46人):修復が残っていた 19人(41%)、失敗 7人(15%)、追跡できなかった 20人(44%)
・追跡できなかった理由(表1の3群の人数を筆者が合計):連絡先が分からない 31人、参加を続ける意思がない 11人、死亡 8人、治療計画の変更で歯を失った 2人、病気 1人
失敗の理由は表4にまとめられています。「破折」はファイバーA 6、ファイバーB 3、チタン 1。「根管治療の失敗」は2、1、4。「二次う蝕」は1、1、0。「歯内・歯周の合併病変」は0、1、1。ほかに「動揺による抜歯」(ファイバーAで1)、「治療計画の変更による再修復」(ファイバーAで2)、「そのほかの理由の抜歯」(ファイバーBで3、チタンで1)が挙がっています。「破折」が歯根・ポスト・コアのどこで起きたかは、表には書かれていません。
著者らは、失敗の形は群によってまちまちで、一貫した傾向はなかった、としています。破折の数だけを見るとグラスファイバーの方が多く見えますが、群ごとの検定は行われておらず、本数も小さいので、ここから材質の優劣を読むことはできません。
⑥ポスト以外の因子はどうだったか
・歯の種類(切歯を1としたとき):犬歯のハザード比 0.3(95%信頼区間 0.07〜1.624、p=0.175)
・咬耗の程度(咬耗なしを1としたとき):グレードIIIのハザード比 2.5(95%信頼区間 0.534〜11.404、p=0.247)
・前歯と臼歯(まとめて比べたとき):ハザード比 1.0(p=0.971)
・残っている壁の数(0を1としたとき):1壁 0.8(p=0.629)、2壁 1.0(p=0.948)
・歯冠長延長術(なしを1としたとき):ハザード比 1.0(p=0.966)
抄録と本文には、歯の種類と咬耗の程度が失敗と「有意に関連していた」と書かれています。ただ、表3のp値は0.175と0.247で、95%信頼区間はどちらも1をまたいでいます。原著は二変量の段階で p<0.25 を目安にしており、ふつうの有意水準(0.05)で差が示されたわけではありません。多変量解析では、どの因子も有意ではありませんでした。「犬歯は強い」「咬耗があると危ない」とこの研究から言い切ることはできません。
・犬歯の失敗が少なく見えたのは、ほかの歯より歯根が長く、表面積が大きいことで説明できるかもしれない
・咬耗の強い歯で失敗が多く見えたのは、より大きな機能力を受けているからだろう
・失敗の理由はさまざまで、う蝕や、ほかの歯の問題による治療計画の変更など、ポストの種類や修復そのもの以外の要因に左右される
⑦明日の臨床へ
・症例数が比較的少ないという限界のなかで、2種類のグラスファイバーポストと、より硬いチタンポストを比べると、ポストの種類は修復した歯の生存に有意な影響を与えなかった
・最長15年で、グラスファイバーまたはチタンのポストを使った歯の生存率は約57%と72%だった
・既製のポストを接着で装着する場合、ポストの種類の選択は、一般に考えられているほど重要ではないのかもしれない
・ポストの材質の影響を見きわめるには、もっと大きな集団での研究が必要
・この研究からは、材質だけで「こちらが上」と決める根拠は出てきません。同時に、「どれも同じ」と確かめられたわけでもありません
・条件をそろえている点に目を向けたいところです。全ての歯で2mm以上のフェルールを確保し(必要なら歯冠長延長術を行い)、ポストは接着で装着しています。材質より前に、この土台をどう作るかが問われている、と読むこともできます
・壁が2つ以下の歯では、累積生存確率は群によって6割弱から7割ほどでした。こうした歯にポストを立てるときは、材質によらず、長期の見通しを患者さんに幅をもって伝える材料になります
・この研究は、ポストを使わない修復とは比べていません。著者らも、ポストを入れること自体の根拠を示すのはこの研究の範囲ではない、と書いています
・ブラキシズムの徴候がある患者は除かれています。そうした患者に当てはまるかは、この研究からは分かりません
・手間と費用について、原著は比べていません。どちらも既製ポストを同じ手順で装着しているので、来院回数などの差は、この研究の条件では生じにくいと考えられます
(1)3つの群を無作為に割り付けた試験ではありません。ファイバーAとチタンは先行するランダム化比較試験の2群ですが、ファイバーBは時期の違う集団を後から足した群で、先の2群を「過去の対照」として比べています。
(2)群の背景はそろっていません。著者らは「歯の特徴は群の間で均等に分布している」と書いていますが、表2では、壁が1つも残っていない歯はファイバーA 49%、チタン 48%に対して、ファイバーBは83%です。歯冠長延長術を受けた人も2人・11人・15人(ファイバーA・チタン・ファイバーB)と違います。
(3)各群41〜46人の小さな研究です。著者ら自身が、生存率60%と70%の差を検出するには1,094人(各群547人)が要ると書いています。「有意差が検出されなかった」ことは、「差がない」ことと同じではありません。
(4)追跡できなかった人が128人のうち53人(表1から筆者が計算して41%)います。考察には脱落率48.8%とありますが、これは表1のファイバーBの値(49%)に近く、全体の値とは合いません。追跡できなかった人の歯がその後どうなったかは分かりません。
(5)失敗の数が表によって違います。抄録と表1ではファイバーAの失敗は10ですが、表4の合計は12です(全体で26と28)。表4には「治療計画の変更による再修復」がファイバーAに2あり、表1ではこれと同じ数が「追跡できなかった理由」の側に載っています。数え方の違いが理由かもしれませんが、原著に説明はありません。
(6)歯冠長延長術を受けた割合は、方法では「全患者の38%」、考察と表3では20%(26人)、表2を足すと28人です。
(7)抄録と本文は、歯の種類と咬耗の程度が失敗と「有意に関連」と書いていますが、表3のp値は0.175と0.247です。この記事では「有意差は示されていない」と読みました。
(8)累積生存確率(57.1%・56.5%・71.8%)が何か月の時点の推定値かは、書かれていません。結論の「最長15年で約57%と72%」は、全員を15年追った結果という意味ではありません。最長の観察期間は、ファイバーA 148か月、チタン 154か月、ファイバーB 178か月です。年間失敗率の単位も原著に書かれていません。
(9)再評価の時期は、抄録では6・12・24か月、方法では12・24・60か月と書かれています。本文の細かな割合にも、表と少し違うものがあります(壁のない歯の割合が本文53%・表2では49%など)。この記事は表の値を採りました。
(10)評価したのは「修復が残っているか」だけです。生物学的・技術的な合併症は記録していない、と著者らは書いています。
(11)研究は3M Espe社から資金の提供を受けています。ファイバーBのポスト(RelyX Fiber Post)と、全ての群で使われたレジンセメント(RelyX Unicem)は同社の製品です。著者らは利益相反を否定しています。
(12)処置は大学で、経験のある2人の術者が行っています。ほかの環境にそのまま当てはまるとは限りません。
(13)この記事が読んだ原著PDFは、採択後・校正前の版(Journal Pre-proof)です。表題は「Long-term survival of adhesively post-endodontically restored teeth」で、PubMedに載っている最終版の表題とは少し違います(DOIと著者は同じ)。最終版で数字や表現が直されている可能性があります。
それでも、「ポストの材質で歯の寿命は変わるのか」という日常の迷いを、同じ手順で15年近く追って確かめにいった研究は貴重です。少なくとも、フェルールを確保して接着で装着した条件では、どれかの材質がはっきり劣るという結果は出ていません。もっと大きな集団での続報が楽しみな1本です。
今日のひとこと
この研究が示したのは、歯冠の壁が2つ以下の根管治療歯に、2mm以上のフェルールを確保したうえで、グラスファイバーポストかチタンポストを接着で装着した条件では、最長178か月(約15年)までの修復の生存に、ポストの種類による有意差は検出されなかったということです(log-rank検定 p=0.496)。累積生存確率はグラスファイバーの2群で57.1%と56.5%、チタンで71.8%。失敗は26人(10人・9人・7人)でした。著者らの結論は「ポストの種類は歯の生存に有意な影響を与えなかった」。ただし、各群41〜46人と小さく、128人のうち53人(表1の人数を筆者が合計)は追跡できておらず、グラスファイバーの2つめの群は後から加えた群です。「材質による差はない」と確かめられたわけではありません。著者ら自身が、材質の影響を見きわめるにはもっと大きな研究が要る、と書いています。材質を選ぶ前に、フェルールと接着という土台に目を向けたい1本です。


