1問1答 論文 エンド

深いう蝕の歯髄は、残せるのか——「1時間を超える痛み」「対照歯は反応するのに温度刺激に反応しない」は戻れない側を、「痛みがないか1分未満」「根尖の歯根膜腔が正常」は残せる側を指していた

1問1答 論文 エンド

未処置う蝕をもつ永久歯171本について、抜歯直前の問診・歯髄診断検査・デンタルX線の所見と、抜歯後の病理組織学的な歯髄の可逆性(壊死の有無)を盲検で照合し、各所見の予測値を算出した研究(Anderson, Langeland, Clark, Galich 1981・米海軍歯科研究所 研究報告)

深いう蝕の歯を前にして、覆髄で残すか、抜髄するか。頼れるのは問診と検査とデンタルだけで、歯髄の中は見えません。「臨床所見から歯髄の病理組織を診断するのは危険だ」と言われながらも、判断はしなければならない。1981年、米海軍歯科研究所のグループが、抜歯予定の歯171本で臨床所見と組織像を1本ずつ突き合わせ、「どの所見が、どれだけ当たるのか」を数字にしました。

論文
Diagnostic Criteria for the Treatment of Caries-Induced Pulpitis
著者
Anderson DM, Langeland K, Clark GE, Galich JW(Naval Dental Research Institute, Great Lakes/University of Connecticut)
掲載
Naval Dental Research Institute Research Progress Report NDRI-PR 81-03, March 1981(米国防技術情報センター登録番号 AD-A099 216)
種類
臨床病理相関研究(未処置う蝕をもつ永久歯176本〔前歯18・小臼歯36・大臼歯122〕、うち組織が不十分な5本を除く171本を解析。提供者は全員17〜26歳〔中央値19歳〕の男性海軍新兵で、主に補綴治療計画で保存不能と判定された歯。瘻孔・腫脹・根分岐部に及ぶ歯周炎・1 mm超の動揺のある歯は除外。抜歯直前〔最長2週間前〕に3名の較正された検査者が問診・電気歯髄診・冷・温・打診・デンタルX線を記録し、組織評価はコネチカット大学で1名〔Langeland〕が臨床データを見ずに実施。歯髄を可逆〔105本〕・可逆性に疑問〔16本〕・不可逆〔50本〕に分類。χ²検定でp≤0.05の所見についてのみ予測値を算出)
PMID
なし(研究機関の報告書。査読誌の原著論文ではない)

歯髄の中は見えない。それでも決めなければならない

深いう蝕の歯を削っていく。露髄するか、しないか。覆髄で残すか、抜髄するか。頼れるのは問診と検査とデンタルだけで、歯髄の中は見えません。

序文では、先人たちの言葉が引かれています。Baumeは「臨床的な手段で病理組織学的診断を確定しようとするのは、まったく危険である。ただし症状と所見は、適切な治療を選ぶ妥当な手がかりを与える」と書き、SeltzerとBenderは「歯科医師は一般に、臨床的手段で歯髄の病理学的状態を正確に診断することはできない」とし、診断は「臨床判断にもとづく予測」「歯髄を治療して残せるかどうかの、経験にもとづく推測」だと述べました。

だからこの論文は、複雑な病理分類と照合することをやめます。問いを「その歯髄は治療で残せる(可逆)か、残せない(不可逆)か」という1点に絞り、ひとつひとつの臨床所見が、その答えをどれだけ当てるのかを数字にしました。

抜歯直前に診て、抜歯後に組織で答え合わせをする

研究の骨格: 未処置のう蝕をもつ永久歯176本(前歯18・小臼歯36・大臼歯122〔うち第三大臼歯10〕)。う蝕はエナメル質に限局したものから、う蝕による露髄まで幅がある。提供者は全員17〜26歳(中央値19歳)の男性海軍新兵で、多くは補綴の治療計画で保存不能と判定された歯だった。瘻孔・腫脹・根分岐部に及ぶ歯周炎・1 mm超の動揺・修復に必要な歯質が不足している歯は除外
臨床側(Great Lakes)… 抜歯の直前、遅くとも2週間以内に、較正された3名の検査者が、痛みの既往(持続時間・強さ・性質・頻度・誘因・緩和法)、電気歯髄診・冷刺激(氷)・温刺激・打診、デンタルX線(根尖の歯根膜腔の拡大・歯槽硬線の消失・骨硬化像・う蝕の深さ)を記録。検査はすべて同じ患者の対照歯と比較した。
組織側(コネチカット大学)… 5 μmの連続切片をHE・トリクローム・Brown-Brenn染色で観察し、1名(Langeland)が臨床データを見ずに分類。不可逆=歯冠部歯髄の少なくとも一部に液化壊死か凝固壊死がある、疑問=強い慢性炎症で正常構造がほぼ失われるが壊死は見つからない、可逆=炎症のない歯髄・萎縮歯髄・歯冠部に限局した中等度の慢性炎症。細菌の侵入深さも顕微鏡で実測した。

組織が不十分だった5本を除いた171本の内訳は、可逆105本・疑問16本・不可逆50本でした。χ²検定で分布に偶然でない差(p≤0.05)が出た所見についてだけ、予測値——その所見を示した歯のうち、実際にその群だった歯の割合——を計算しています。

読むときの基準線も置いておきます。所見を何も問わなくても、171本のうち可逆は105本=61.4%、不可逆は50本=29.2%でした。可逆の予測値70%前後は、この61.4%と比べると上乗せは大きくありません。

結果その一——「戻れない側」を指していた所見

0 33.3% 66.7% 100% 不可逆を当てた予測値(%) 78.9% 76.5% 74.1% 72.2% 71.4% 69.7% 66.7% 根尖周囲の骨硬化像 1時間を超える痛みの既往 冷刺激に無反応 温刺激に無反応 自発痛 歯根膜腔の拡大 電気歯髄診に無反応 原著 Table 6(不可逆を最もよく予測した臨床所見)より上位7項目。予測値=その所見を示した歯のうち、組織学的に不可逆(歯髄壊死あり)だった割合。該当した不可逆の歯の数は順に15・13・20・13・5・46・24本。温冷・電気の「無反応」は対照歯が反応した場合に限る。組み合わせでは「電気歯髄診と冷刺激の両方に無反応」が94.1%(17例)、「1時間を超える痛み+歯根膜腔の拡大」が85.7%(14例)。予測値は対象集団(不可逆50本/171本)の構成に左右されるため、別の集団では同じ値にならない。参考:所見を問わない不可逆の割合は29.2%(50/171)
組織学的に不可逆(歯髄壊死あり)を予測した所見。予測値=その所見を示した歯のうち、実際に不可逆だった割合

不可逆を最もよく当てたのはデンタルでの根尖周囲の骨硬化像(予測値78.9%)でした。ただし著者は、不可逆の歯のうち骨硬化像があったのは31%だけで、「骨硬化像がない」ことを可逆の根拠に使える範囲は限られると注意しています。

問診では1時間を超える痛みの既往(76.5%)自発痛(71.4%)、日常生活や睡眠を妨げるほどの強い痛み(62.5%)圧で痛む既往(63.6%)。検査では、対照歯が反応するのに冷刺激に無反応(74.1%)、温刺激に無反応(72.2%)、電気歯髄診に無反応(66.7%)が並びます。

そして一番はっきりしていたのが、刺激を取り除いたあとも痛みが続いた4本は、すべて不可逆だったことです(冷・温・電気・打診のいずれか)。

著者は、将来の多変量解析の可能性を示すために、少数の所見を手で突き合わせた予備的な集計も載せています。対照歯が両方に反応するのに、電気歯髄診と冷刺激の両方に無反応だった場合、94.1%が不可逆でした(該当17例)。1時間を超える痛み+根尖の歯根膜腔の拡大では85.7%(14例、うち2例は組織で「疑問」かつ強い炎症)でした。該当例が少なく、著者も将来の解析に期待を示すにとどめています。

結果その二——「残せる側」を指していた所見

0 33.3% 66.7% 100% 可逆を当てた予測値(%) 100% 89.9% 76.7% 73.1% 70.8% 70.1% う蝕が象牙質の4分の3未満 歯根膜腔の拡大なし 痛みの既往なし 痛みなしまたは軽度 痛みなしまたは1分未満 温刺激に反応する 原著 Table 5(可逆を最もよく予測した臨床所見)より上位6項目。予測値=その所見を示した歯のうち、組織学的に可逆だった割合。該当した可逆の歯の数は順に20・89・56・79・85・82本。「う蝕が象牙質の4分の3未満」の20本はすべて可逆で、著者の結論6は「この深さの歯では不可逆の歯髄疾患は1例も観察されなかった」。温刺激の「反応する」は対照歯も反応した場合。参考:所見を問わない可逆の割合は61.4%(105/171)
組織学的に可逆を予測した所見。いちばん確かなのは「う蝕が象牙質の4分の3に達していない」と「根尖の歯根膜腔が正常」

最も確かだったのはデンタルでう蝕が象牙質の厚みの4分の3未満だった20本で、すべてが可逆(予測値100%)。著者の結論6は「う蝕が象牙質の厚みの4分の3未満にとどまる歯では、不可逆の歯髄疾患は1例も観察されなかった」です。次いで根尖の歯根膜腔の拡大なし(89.9%)——不可逆の歯で歯根膜腔の拡大が見られなかったのは4本だけでした。

問診では痛みの既往なし(76.7%)痛みがないか軽度(73.1%)痛みがないか1分未満(70.8%)。検査では対照歯とともに温刺激に反応する(70.1%)、電気歯髄診に反応(67.0%)、冷刺激に反応(66.9%)(いずれも対照歯も反応した場合)、打診で正常(68.0%)でした。

痛みの「性質」については、興味深い整理がされています。可逆の群で最もよくみられたのは、冷刺激による短く鋭い一過性の痛み(twinge)だった。ただし痛みの性質の分布そのものは、どの組み合わせで比べても有意差がなく、鋭い一過性の痛み(twinge)という性質自体は、痛みの既往がある不可逆37本のうち14本(38%)にもみられました。また可逆の群で長く続いた痛みの多くは甘いものによるもので、うがいや歯みがきですぐに消えていた(結論5)。ただし考察では、「うがいや歯みがきで痛みが治まるか」自体は、歯髄の状態の診断に寄与しなかったと書かれています。一方、昔から歯髄炎の典型とされる「ズキズキする(throbbing)痛み」は、痛みの既往があった不可逆の患者のうち24%でしか確認されませんでした

そして、症状は必ずしも出てこない

この論文には、所見の強さと同じくらい重い「弱さ」の記録があります。

①自発痛は当たるが、めったに出ない。不可逆50本のうち、刺激なしの痛みを訴えたのは5本だけだった。
②歯髄壊死があっても、痛みを覚えていない人がいる。歯髄壊死の13人は、その歯で一度も不快感を経験したことがないと答えた(結論8「歯髄壊死はしばしば痛みの症状なしに起こる」)。
③打診痛は壊死の証拠にならない。打診痛は可逆と不可逆で同数(18本ずつ)見られた。ただし割合は不可逆の群のほうが高かった(可逆105本中18本=17%、不可逆50本中18本=36%)。歯髄が壊死する前から、う蝕の毒素や歯髄炎の分解産物で根尖組織に炎症が起こりうるため、と説明されている(結論9)。
④歯根膜腔の拡大も絶対ではない。歯髄感染も壊死もない10本で、組織評価の前に歯根膜腔の拡大と判定されていた(結論10)。予測値は69.7%。

そしてもうひとつ。デンタルで露髄と判定された歯の44%は、実際には細菌が歯髄に達していませんでした。X線上のう蝕の深さは、測定された細菌の侵入より深く見積もられる傾向があったのです。ただし逆向きのずれもありました。X線で象牙質の4分の3を超えると判定された90本のうち14本では、細菌が歯髄まで達していました。また、組織で細菌の歯髄への到達が確認されなかったのに壊死していた歯が6本(不可逆の12%)あり、そのうち3本では細菌のいない象牙質が1.0 mmを超えて残っていました。組織では、細菌が歯髄まで達した47本はすべて不可逆か疑問に分類され、細菌が歯髄の手前でとどまっていた歯の85%は可逆、細菌から歯髄まで0.5 mm以上残っていた歯では89%が可逆でした。結論7は「限局性の歯髄壊死は、細菌が歯髄に達すると同時に起こった」。——ただし、その「達したかどうか」は、デンタルからは正確に見積もれない、というのが著者の結びです。

明日の臨床へ

①「1時間を超えて続く」「刺激を除いても続く」は、戻れない側を指す所見。この研究では、刺激を除いたあとも続いた痛みは4本すべてが不可逆だった。
②「冷たいものでキーンとして、すぐ消える」だけで、残せると決めない。可逆の群でよくみられた痛みだが、痛みの性質の分布に有意差はなく、不可逆の歯でもみられた。「うがい・歯みがきで治まるか」も、可逆と不可逆を分ける手がかりにならなかった(原著の考察)。
③1つの所見だけで決めない。対照歯は反応するのに電気歯髄診と冷刺激の両方に無反応だった17例中16例(94.1%)が不可逆だった。ただし少数例を手で集計した予備的な結果である。
④痛みがないことは、歯髄が健康だという証拠ではない。歯髄壊死の13人は痛みの記憶がなかった。問診で「痛くない」と言われても、検査とデンタルで確認する。
⑤デンタルの見た目だけで、どちらとも決めつけない。露髄に見えた歯の44%は細菌が歯髄に達していなかった一方、4分の3を超えると見えた90本のうち14本では細菌が歯髄まで達していた。原著の結びは「X線からは細菌の侵入を正確に見積もれない」。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、これは米海軍歯科研究所の研究報告書(Research Progress Report)であり、査読誌に掲載された原著論文ではありません。第二に、対象は全員が17〜26歳の男性海軍新兵で、多くは補綴計画で保存不能と判定された歯です。著者自身が「予測値は、評価した標本と同様に選ばれた歯の集団にのみ当てはまる。すべての歯内療法の診断に一般化すべきではなく、深いう蝕歯の治療計画に限定して使うべき」と明記しています。予測値はその集団の有病率(ここでは不可逆が約3割)に強く左右されるので、別の集団では同じ数字になりません。第三に、組織評価は1名の評価者によるもので、評価者間の一致は検討されていません。第四に、温刺激は独自に製作した装置、電気歯髄診も1機種で、著者自身が「過敏・鈍麻といった反応の微妙な差を強調しすぎないほうがよい」と書いています。第五に、「可逆」の判定は組織像にもとづく推定であり、実際に覆髄して治癒したかどうかを追ったものではありません——著者は将来の歯髄保存療法の研究で、この予測値の高い所見を症例選択の基準に使うことを提案しています。それでも、「どの所見がどれだけ当たるのか」を1本ずつ組織で答え合わせした臨床病理相関の研究は多くなく、45年たった今も、深いう蝕の前で迷ったときの物差しとして読む価値があります。

今日のひとこと

組織学的に不可逆(歯髄壊死あり)を最もよく当てたのは、根尖周囲の骨硬化像(予測値78.9%)・1時間を超える痛みの既往(76.5%)・冷刺激に無反応(74.1%)・温刺激に無反応(72.2%)〔無反応はいずれも対照歯が反応した場合〕・自発痛(71.4%)だった。逆に可逆を当てたのは、う蝕が象牙質の4分の3未満(20本すべてが可逆=100%)・根尖の歯根膜腔の拡大なし(89.9%)・痛みの既往なし(76.7%)。刺激を除いたあとも痛みが続いた4本はすべて不可逆で、冷たいものでの短く鋭い一過性の痛みは可逆の群でよくみられたが、痛みの性質の分布に有意差はなく、不可逆の歯でもみられた。少数例を手で突き合わせた予備的な集計では、対照歯は反応するのに電気歯髄診と冷刺激の両方に無反応だった17例中16例(94.1%)が不可逆だった。一方で、不可逆50本のうち自発痛を訴えたのは5本だけで、歯髄壊死の13人は一度も痛みを感じたことがないと答えた。そしてX線で露髄と見えた歯の44%は、実際には細菌が歯髄に達していなかった。逆に、X線で象牙質の4分の3を超えると判定された90本のうち14本では細菌が歯髄まで達しており、X線からは細菌の侵入を正確に見積もれない。

Anderson DM, Langeland K, Clark GE, Galich JW. Diagnostic Criteria for the Treatment of Caries-Induced Pulpitis. Naval Dental Research Institute, Research Progress Report NDRI-PR 81-03. Great Lakes, IL; March 1981. DTIC AD-A099 216.
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。