エンド|最終洗浄液を4通りに変え、根管壁のスメア層の残り方と象牙質の侵食を歯冠側・中央・根尖側の3か所で走査型電子顕微鏡で比べた抜去歯の実験室研究(Torabinejad ほか 2003・J Endod)
ロータリーで形成すると、根管壁は削りかすの膜(スメア層)で覆われます。これが残ると、貼薬は根管の凹凸や象牙細管に届かず、充填材も根管壁にぴたりと適合しません。米国ロマリンダ大学を中心とする研究グループは、抜去した単根歯48本を4群に分け、形成中の洗浄と最終洗浄の組み合わせを変えて、根管壁のスメア層と象牙質の侵食を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察しました。比べたのは、滅菌蒸留水、5.25%次亜塩素酸ナトリウム、17%EDTA、そして著者らが新しく作ったMTAD(ドキシサイクリン+クエン酸+界面活性剤)の4つです。水と次亜塩素酸ナトリウムだけでは全長にわたって厚いスメア層が残り、EDTAとMTADはどちらも3つの高さすべてで有意に清掃され、MTAD群は根尖側でも表面・細管ともに残渣がありませんでした。侵食は歯冠側と中央でEDTAのほうが有意に強いという結果でした。なお、この技術については特許が出願されていると原著に明記されています。
①最後のすすぎ、根尖側まで効いていますか
ロータリーで形成すると、根管壁は削りかすの膜で覆われます。スメア層です。これが残っていると、貼薬は根管の凹凸や象牙細管に届かず、充填材も壁にぴたりと適合しません。だから多くの術式で、最後にEDTAで1回すすぐ手順が入っています。
結論を先に言うと、この抜去歯のSEM研究では、水や次亜塩素酸ナトリウムだけでは全長にわたってスメア層が残り、EDTAと新しい洗浄液MTADはどちらも壁をきれいにしました。両者の差がはっきり出たのはスメア層ではなく、歯質の侵食のほうでした。
②スメア層は何でできていて、なぜ落ちにくいのか
スメア層は、象牙芽細胞の突起の断片、微生物、壊死物質などを含む有機成分と無機成分の混ざりものです。だから両方を溶かせる洗浄が要る、というのが原著の説明です。実際この研究でも、水と次亜塩素酸ナトリウムだけではスメア層は落ちませんでした。
著者らは、EDTAを5.25%次亜塩素酸ナトリウムと交互に使うと歯冠側と中央ではスメア層が完全に除去できるが、根尖側では効きが落ちるという先行研究を引いています。理由として挙げられているのは、根尖側まで液が十分な量で届いていないこと、あるいは浸透していないことです。
そこで著者らが作ったのがMTAD——テトラサイクリン系のドキシサイクリン、クエン酸、界面活性剤(Tween-80)の混合液です。テトラサイクリンはpHが低くカルシウムのキレート作用をもち、象牙質やセメント質に取り込まれてゆっくり放出される性質(サブスタンティビティ)が知られている、と説明しています。界面活性剤は表面張力を下げて浸透を助ける狙いです。
③今回の実験:洗浄の組み合わせを4通りに変えた
形成:パッシブステップバックと0.04テーパーのNiTiロータリーを併用。根尖孔は#30まで拡大。
群分け(各12本):
・A群(原著では陽性対照):形成中も最終も滅菌蒸留水
・B群:形成中も最終も5.25%次亜塩素酸ナトリウム
・C群(原著では陰性対照):形成中は次亜塩素酸ナトリウム、最終は17%EDTA
・D群:形成中は次亜塩素酸ナトリウム、最終はMTAD
最終洗浄の届け方:まず1 mLを注ぎ、綿を巻いた#15バーブドブローチに液を含ませて作業長まで挿入。4分後に4〜5回上下させ、さらに4 mLで洗浄(合計約5分・液量は計5 mL)。そのあと滅菌蒸留水10 mLで洗い流し、ペーパーポイントで乾燥。
評価:歯を縦割りしてSEM観察。2名の検者が盲検で、スメア層を「1=なし/2=中等度(表面はきれいだが細管に残渣)/3=高度」、侵食を「1=なし/2=中等度(管周象牙質が侵食)/3=高度(管間象牙質が壊れ細管どうしがつながる)」の3段階で採点。歯冠側・中央・根尖側の3か所。解析はCochran-Mantel-Haenszel法。
なお、原著はA群を陽性対照、C群を陰性対照と置いていますが、そう置いた理由の説明はありません。一般的な語感とは逆に見えるので、読むときは群の中身で追うほうが確実です。
④結果1:水と次亜塩素酸ナトリウムでは落ちない
A群(蒸留水)は全長にわたって厚いスメア層。B群(次亜塩素酸ナトリウム)も歯冠側・中央・根尖側のいずれも厚い削りかすで覆われ、A群とB群では象牙細管が見えませんでした。両群に差はありません(p=1)。
C群(EDTA)は歯冠側と中央で表面も細管も削りかすがなくなり、根尖側は表面はきれいでしたが細管の中に中等度の残渣が残りました。D群(MTAD)は歯冠側・中央・根尖側のすべてで表面も細管も削りかすがない状態でした。
・3つの高さすべてで、4群間に有意差あり(p<0.0001)
・A群 対 B群:差なし(p=1)
・C群・D群 は A群・B群より有意に清掃されていた(p<0.0001)
・C群 対 D群:歯冠側 p<0.2835(原著の表の表記のまま)、中央 p=0.5457、根尖側 p=0.2289=いずれも「有意差なし」と表に記載
ここは注意して読む必要があります。原著の本文には「根尖1/3の象牙細管は、MTADのほうがEDTAより有意に清掃されていた(p<0.0001)」という1文がある一方、表2の根尖側のC群対D群の欄は「有意差なし(p=0.2289)」となっており、食い違っています。表と本文のどちらを取るかで結論の強さが変わる箇所なので、この記事では両方をそのまま示します。
⑤結果2:差がはっきり出たのは「侵食」
EDTAは歯冠側で強い侵食(管間象牙質が壊れ、細管どうしがつながる)を起こしていました。統計でも、歯冠側(p=0.0003)と中央(p=0.0005)でC群のほうが有意に侵食が強く、根尖側では2群に差がありません(p=0.1276)。さらにEDTAは、中央より歯冠側のほうが侵食が強いという結果でした(p=0.0056)。
著者らは、EDTAの侵食は象牙質が液に触れている時間と相関するという先行研究に触れ、MTADは1〜20分の接触でも目立った侵食が見られなかったとパイロット研究の結果を紹介しています(この論文の本試験の結果ではありません)。
⑥「何を使うか」と同じくらい「どう届けるか」
この研究でもう1つ効いていそうなのが、液の届け方です。著者らは、綿を巻いたバーブドブローチを作業長まで入れることで、根尖部まで液を密に接触させられると述べています。実際、複数のパイロット研究で、ブラシやフォームを巻いた器具よりも綿を巻いたブローチのほうが効果的で、しかも歯質を傷つけにくかったとしています。
つまりD群の成績は、MTADという液の性質だけでなく、この届け方も込みの結果です。著者らも「洗浄液を正しく届けることが重要」と書いており、他の運び方でMTADを使ったときに同じ結果になるかは、この研究からは分かりません。
⑦明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・まず押さえたいのは、次亜塩素酸ナトリウムだけでは壁が水と同じくらい汚れたままだったことです。キレート剤を使う最後の1回のすすぎには意味があります。
・EDTAとMTADは、スメア層の除去そのものでは統計学的な差がついていません(表2)。「MTADのほうがきれいになる」と読むのは、本試験の統計からは行き過ぎです。
・差が出たのは歯冠側と中央の侵食で、EDTAのほうが強く出ました。EDTAの接触時間を必要以上に延ばさない、という使い方の話につながります。
・届け方も結果の一部です。作業長まで液を運ぶ工夫(この研究では綿を巻いたブローチ)を抜きにして、液の名前だけを置き換えても同じにはなりません。
・この研究は抜去歯のSEM観察だけで、抗菌効果も、封鎖性も、治療成績も測っていません。MTADの抗菌性についてはパイロットの記述があるだけです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:MTADは最終洗浄液としてスメア層の除去に有効で、次亜塩素酸ナトリウムと併用したとき象牙細管の構造を大きくは変えなかった。水と次亜塩素酸ナトリウムだけでは全長にスメア層が残り(この2つに差はなし)、EDTAとMTADはどちらも有意に清掃されていました。ただし、EDTAとMTADの間には、スメア層の残り方について3つの高さのいずれでも統計学的な有意差はついていません(表2)。差がはっきり出たのは歯質の侵食で、歯冠側と中央ではEDTAのほうが有意に強い侵食を起こしていました。なお原著のRESULTS本文は、根尖1/3の象牙細管についてはMTADのほうが有意に清掃されていた(p<0.0001)と書いており、表2と食い違っています。本文中に、この技術について特許出願中との記載があります。


