根管治療後180日の根尖病変を、デンタル・CBCT・組織切片の三者で比べた動物実験(de Paula-Silva 2009)
根管治療の半年後、デンタルで根尖の影が縮んでいれば「順調ですね」と言いたくなる。けれど二次元の写真は骨の重なりで病変を隠す。どれくらい隠すのか——それを確かめるには、撮ったあとに組織を顕微鏡で見るしかない。犬の下顎小臼歯でそれをやった研究が、この一本です。
①デンタルで「小さくなってきた」。本当に治っているのか
根管治療の半年後、デンタルを撮る。根尖の影が小さくなっている。「治ってきていますね」と患者さんに伝え、経過観察に切り替える——よくある場面だ。
けれど、その影の「大きさ」は誰が測ったのか。二次元のフィルムに映った影は、骨の中で起きていることをどこまで写しているのか。もし写真のほうが病変を小さく見せているとしたら、私たちは「治った」を早く言いすぎていることになる。結論から言うと、この研究では写真のほうが病変を小さく見せていた。
②写真は重なりで隠す
デンタルは、頬側から舌側までの構造をぜんぶ一枚に重ねて写す。皮質骨・海綿骨・隣の根・下顎管が同じ位置に投影される。著者らはこの重なりが、病変の大きさを過小評価する一因になった可能性を挙げている(原文は "could be related to")。筆者の補足だが、皮質骨に達しない病変が写りにくいという古典的な観察(Bender 1982)とも方向は同じだ。
CBCTは薄い断層で撮るので重なりがない。では、CBCTで見た病変の大きさは、組織切片で測った大きさにどれだけ近いのか。それを確かめるには、撮ったあとで顎骨ごと採取して切片にする必要がある。同じ実験条件をヒトに適用することはできない。
③犬の120根で、写真・CBCT・組織を突き合わせた
ブラジル・リベイランプレト歯学部のグループは、雑種犬15頭の下顎小臼歯120根を、開始時は各24根ずつ5群に分けた。ただし結果の表では第2〜4群が18・21・20根になっていて、減った理由は本文に書かれていない。以下の根数は結果の表のもの。
- 第1群(24根)=病変のない歯を抜髄して単回で充填
- 第2群(18根)=根尖病変を作ってから、単回で充填
- 第3群(21根)=根尖病変を作ってから、水酸化カルシウムを15日貼薬して充填
- 第4群(20根)=根尖病変を作って、治療しない
- 第5群(24根)=健全歯
病変は、歯髄を除去して根管を7日間口腔に開放し、45日で作った。充填から180日後にデンタルとCBCTを撮り、採取した組織(72時間固定・脱灰)から切片を作って、顕微鏡で測った病変の大きさを比較の基準に置いた。読影は3名の較正済み検者(κ=0.96)、組織は治療群を伏せた観察者(κ=0.87)が判定している。
④組織では21根すべてに残っていた病変を、デンタルは12根しか捉えなかった
CBCT
組織
いちばん治りのよかった第3群で、この差が出た。組織で見れば21根すべてに病変が残っている。CBCTもそれを21根すべてで捉えた。ところがデンタルは12根(57.1%)にしか影を認めなかった。残りの9根では、デンタル上に透過像が認められなかった——組織には病変が残っていたのに。
⑤大きさは全群で、縮小率は第3群で、写真のほうが「よく治った」ように見えた
画像上で測った病変の大きさ(図では面積mm²。本文には近遠心の最大径とも書かれていて、原著の用語は不統一)は、45日の時点でも180日の時点でも、CBCTで測るほうがデンタルより一貫して大きかった(P<.0001)。写真は病変を小さく見せる。
CBCT
縮小率で見るとこうなる。第3群として報告された縮小率は、デンタルで6割、CBCTで4割強。写真のほうが縮小を大きめに報告する(群の集計値で、どの根でもこの割合だったという意味ではない。差が有意だったのは第3群だけで、P=.0479は境界的な値だ)。なお単回治療の第2群では、どちらの方法でもほとんど縮んでおらず、方法間に有意差は認められなかった(デンタル 10.2%・CBCT 6.5%)。
組織の測定値との一致度を級内相関係数で見ると、CBCT 0.95、デンタル 0.86。著者らはこれを「CBCTの評価は顕微鏡による評価とほぼ同じ情報を与え、デンタルは病変の大きさを過小評価した」とまとめている。
⑥犬の実験条件では、病変のない歯を治療しても半年後に半数近くに病変があった
主筋とは別に、押さえておきたい所見がもうひとつある。実験開始時に病変のなかった第1群(生活歯髄の抜髄・24根)でも、180日後にはCBCTで45.8%、組織でも45.8%に病変が見つかった(Table Iの病変判定・11/24根)。デンタルでは37.5%だが、CBCTとの差は有意ではない(P>.05)。別項目の「炎症の広がり」(Table II)では、炎症なしが6根(25%)、根尖孔に限局が9根、歯根膜の半分までが9根で、18/24根に何らかの炎症所見があった。病変の有無と炎症の広がりは別の評価なので、45.8%と75%は矛盾ではない。
この実験は根尖のセメント質層を#15〜#30のファイルで意図的に穿孔し、根尖孔を開けている。ヒトの臨床とは条件が違う。それでも、根尖孔を意図的に開けた犬の条件下では「病変のない歯を治療しても、組織には炎症が残りうる」——この事実は、写真だけで経過を語るときの足元を揺らす。
⑦明日の臨床へ
先に線を引いておく。ヒトでのCBCT撮影の適応、再治療の判断、転帰の改善を、この実験は検証していない。以下は犬の所見から筆者が引く補助線である。
- デンタルで影が消えても、「治癒」とは別の出来事として扱う。写真の上で消えた病変が、組織には残っていることがある。
- 縮小率を治癒の指標に使うなら、写真のほうが大きく出た事実を心得る。第3群でデンタルは6割・CBCTは4割強だった。
- 小さい病変ほど、写真には写らない。著者らは平均径2.8mmの病変が写真では見えずCTで見えた先行報告を引き、小さな病変の検出にCBCTを使う意義を述べている。病変が大きいほど差が広がるかは、この研究では検証されていない。
- ただし被曝は別に考える。著者らは、全顎の口内法撮影シリーズの実効線量33〜84 µSv(2000年の報告)に対しCBCTは36.9〜50.3 µSv(2006年の報告)と引き、通常の診断画像と同程度だと述べている。ただしこれは本研究の測定ではなく引用値で、機種・撮影範囲で大きく変わる数字だから、この一文だけで正当化しない——ここは筆者の注意書きだ。
犬の実験である。歯髄を除去して根管を7日間開放して作った病変で(治療群では根管形成の際に根尖のセメント質層を#15〜#30で穿孔している)、ヒトの慢性根尖性歯周炎とは成り立ちが違う。観察も180日で、「治癒」を語るには短い。第2〜4群の根数が24から18・21・20に減っているが、その理由は本文に書かれていない。同じ犬の複数の根を独立した標本として扱っている点も、統計の記述からは読み取れない。第3群の検出率の差は原著でP<.0001とされているが、Table Iの12/21対21/21を単純なFisher検定に入れると再現できない(対応データなのでこちらから訂正はしない)。CBCTは当時のNewTom 3Gで1mmスライスの矢状断だけを評価している。それでも、撮ったあとに組織で答え合わせをしたという設計はヒトでは望めないもので、「写真は病変を小さく見せる」という向きは、先行するヒトの検出研究(原著が引く Estrela 2008)とも同じだ。ただし縮小率や治癒の評価をヒトで裏づけるものではない。
今日のひとこと
デンタルで影が消えることと、組織で炎症が消えることは、別の出来事である。組織に病変が残っていた21根のうち、写真が捉えたのは12根。写真は病変を小さく見せ、縮小率は写真のほうが大きく出た。犬の実験ではあるが、「影が消えた=治った」を言う前に、写真が何を写していないかを思い出したい。


