1問1答 論文 外科

「インプラントは98%成功する」——その数字、たぶん成功率ではありません

1問1答 論文 外科

「歯を残す」を数字で擁護した総説(Clark & Levin 2019・Dental Traumatology/J Endod 同時掲載)

患者さんが「インプラントは98%成功するんですよね」と言って来院したとき、何と答えますか。この総説は、世に出回るその数字の多くが「成功率」ではなく「生存率」だと指摘します。口の中に残ってさえいれば、周囲炎を抱えていても「生存」に数えられる。そして5〜10年後、12〜66%が周囲炎になっているという報告があります。

論文
In the Dental Implant Era – Why We Still Bother Saving Teeth?
著者
Danielle Clark, Liran Levin(アルバータ大学・カナダ)
掲載
Dental Traumatology 2019 / Journal of Endodontics 2019(同時掲載)
種類
包括的総説(Comprehensive Review)=原著研究ではない
PMID
31132200(Dent Traumatol)/31623910(J Endod)

「インプラントって、98%成功するんですよね?」

そう言って来院した患者さんに、何と答えますか。

その数字は、どこかで見た本物の数字です。米国の医療情報サイト WebMD はインプラントの成功率を98%と書いていて、他の信頼できそうなサイトも95〜98%と報告している——この総説は、わざわざそう紹介したうえで、続けてこう指摘します。

それらの多くは「成功率」ではなく「生存率」で、しかも追跡期間が短い。

「生存」の定義を読むと、景色が変わる

インプラントは口の中に残ってさえいれば「生存」と数えられます。この総説の言い方を借りれば、生存には次のものが含まれます——インプラント周囲粘膜炎を起こしているもの、インプラント周囲炎を起こしているもの、重度の骨吸収があるもの、そして使われていないスリーピングインプラント。

では、実際にどれくらいが病気を抱えているのか。

インプラント周囲疾患の有病率(5〜10年後)

0 33.3% 66.7% 100% 5〜10年後の有病率 (%) 80% 12% 66% 周囲粘膜炎 周囲炎(報告の下限) 周囲炎(報告の上限) 周囲炎は12〜66%という1つの範囲で、右の2本はその両端。一般向けサイトが謳う成功率95〜98%の多くは、疾患を抱えていても口腔内に残っていれば数える「生存率」

図1:この総説が引く報告では、5〜10年後に80%が周囲粘膜炎、12〜66%が周囲炎を呈していた(Clark & Levin 2019 の記述より作成)

著者らの一文が刺さります。「病気を抱えたインプラントを、成功とはとても呼べない」。それなのに、この情報が患者さんに届いていないことがある。だから患者さんは、正しく情報を得たうえでの判断ができない、と。

つまり: 98%と12〜66%は、矛盾していない。前者は「残っているか」を、後者は「健康か」を数えているだけだ。

歯とインプラント、長期成績を並べてみる

この総説がていねいなのは、比較の相手を揃えろと言っている点です。問題を抱えた歯と比べるべきは「理想的で健康なインプラント」ではなく、周囲粘膜炎や周囲炎を起こしうる現実のインプラントだ、と。

その土俵で並べると、こうなります。

歯内療法をした歯
インプラント

0 33.3% 66.7% 100% 長期の生存率 (%) 89.7% 98.1% 73% 95.5% 歯内療法をした歯 インプラント 報告された下限 報告された上限 濃い棒=報告の下限/淡い棒=上限(Setzer らの比較・原著の引用文献32)。上限は近いが、下限の開きが大きい

図2:Setzer らの比較(原著の引用文献32)。各群の左が報告された下限、右が上限。上限どうしは近いが、下限に大きな開きがある

また別のシステマティックレビューでは、長期の歯の喪失率が3.6〜13.4%だったのに対し、インプラントの喪失率は0〜33%と報告されています。うまくいけばインプラントは一本も失われない。しかし報告によっては3本に1本が失われている。この幅の広さが、平均値だけを見ていると隠れます。

「残す」には、4つの手がある

この総説の実務的な骨格はここです。問題を抱えた歯に対して、抜く前に検討すべき治療として4つを挙げます。

各治療で報告された成功率

0 33.3% 66.7% 100% 成功率 (%) 89.2% 89.1% 96% 根管治療(大臼歯・10年) 意図的再植(メタ解析) 自家移植(報告の上限) 左2つは点推定(大臼歯の10年追跡/6研究のメタ解析)、右は原著が「as high as 96%」と書いた上限値。追跡期間も揃っていないので棒の高さを直接比べない。初回根管治療は別のシステマティックレビューでは68〜85%

図3:歯を残す手の成績。根管治療は大臼歯の10年追跡、意図的再植は6研究のメタ解析、自家移植は原著が「as high as」と書いた上限値

歯内療法——2007年のシステマティックレビューで初回根管治療の成功率は68〜85%。大臼歯の10年追跡では成功率89.2%、別の10年追跡では成功率84.1%・生存率93%。4年の追跡では、初回でも再治療でも生存率は95%に達します。

この節でいちばん効くのは、次の組み合わせかもしれません。成人を対象とした報告では、初回でも再治療でも4年の追跡で生存率は95%に達しうる。ところが同じ治療の成功率は初回83%・再治療80%です。同じ治療を数えているのに、生存率と成功率が12〜15ポイント開く——この記事の主題が、1組の数字にそのまま出ています。

歯周治療——適切に治療し、定期的にメインテナンスした歯周的に問題のある歯の生存率は92〜93%。ただしこれは患者さんのコンプライアンス次第だと明記されています。なお著者らは、この治療がうまくいかず結局抜歯になったとしても、バックアップとしてのインプラントには10年生存率82〜94%があることも併記しています。インプラントを否定しているわけではありません。

意図的再植——最後の手段と位置づけられがちですが、最初の6か月で成功率90%、6〜12か月で生存率は85〜80%へ下がり、48か月以降は安定する。6研究のメタ解析では成功率89.1%。インプラントより安価で、患者さんの負担も小さいと書かれています。

自家歯牙移植——原著の書き方は「最大で成功率96%、生存率98%」(as high as)で、点推定ではなく報告された上限値です。合併症は歯髄壊死・歯根吸収・過度の動揺。そして見落とせないのが、成長期の患者さんにはインプラントを入れられないという事実です。若くして歯を失うと、長い期間を欠損のまま過ごすことになる。自家移植はその子たちに選択肢を与えます。

つまり: 失敗したら次がある順序と、失敗したら次がない順序がある。自家移植が失敗してもインプラントに移れるが、先にインプラントを入れて失敗すると、2回目・3回目は1回目ほど成功しない。

そもそも「この歯は hopeless」の判定が当てにならない

ここが個人的にいちばん効きました。

侵襲性歯周炎(現在の Grade C)の患者を対象とした研究では、questionable、さらには hopeless と判定された歯が、最長で15年、口の中に残っていたという報告があります。同じ研究で、hopeless・questionable と判定された歯の生存率は60〜88%——原著の書き方に忠実に読めば、hopeless が60%、questionable が88%です。

著者らは、予後判定に使える道具が悲観的に出すぎることがあり、予測性に乏しく、結果として臨床医が歯を早く抜きすぎることにつながりうると書いています。加えて、インプラントは比較的新しい治療であり長期データが不足していることも、抜歯+埋入を計画する前に考慮すべき点として挙げられています。

そしてもう一行、痛いところを突く指摘があります。インプラントという選択肢が存在すること自体が、意図せず治療計画を歪めうる——と。

抜くと決めた後にも、やれることがある

すべての予後因子を検討したうえで本当に hopeless なら、抜歯になります。ただしこの総説は、そこで終わりにしません。抜けば歯槽骨は吸収し、硬組織も軟組織も変化して、患者さんがインプラントの準備ができたときに元通りにするのが難しくなるからです。

Decoronation(歯冠切除)——外傷で再植した歯がアンキローシスを起こした場合の一手。歯冠を除去して根だけを骨内に残します。すでに根管治療されていることが多いので、根充材を除去して根管を血液で満たしてから被覆する。根はやがて骨に置換され、歯槽骨の量が保たれます。アンキローシス歯を外科的に摘出するほうがよほど侵襲的で、こちらのほうが予知性が高く保存的だ、と。歯槽堤の高さと幅の両方を将来のインプラントのために保てます。

矯正的挺出——特に成長期の患者さんに。根を矯正的に挺出させることで付着歯肉の幅が増え、歯槽骨が保存されます。結果として、インプラントを埋入するときに骨造成が不要になりやすい

明日の臨床へ

持ち帰れることを3つに絞ります。

1つ目、患者さんに数字を伝えるときは「成功率」と「生存率」を区別する。98%という数字を否定する必要はありません。それが何を数えた数字なのかを添えるだけで、説明の質が変わります。

2つ目、比較の相手を現実のインプラントにする。問題を抱えた歯と、理想的に骨結合した合併症ゼロのインプラントを比べていないか。5〜10年後に12〜66%が周囲炎になるほうと比べているか。

3つ目、順序を意識する。20歳の患者さんにインプラントを入れるなら、70年、80年もたせる必要があります。しかし50年・70年後の成績を示すデータはほとんどない。歯と歯周組織、インプラントと周囲組織では生物学が異なり、長期的な防御は天然歯のほうが優れている——著者らはそう書いて、こう締めます。

インプラントが失敗したら、我々にできるのはもう一本インプラントを入れることだけだ。歯が失敗しても、まだインプラントという選択肢が残っている。

ここだけ、冷静に補助線 これは原著研究ではなく包括的総説(Comprehensive Review)で、検索式や選択基準、バイアス評価といった系統的レビューの手続きは示されていません。引かれている数値も、研究デザインも追跡期間もばらばらで、成功率と生存率が混在しています(この記事でも、どの指標かを明記するようにしました)。著者の Liran Levin は Dental Traumatology の編集長を務める歯周病専門医です(これは原著に書かれていない外部情報で、原著自体は「本研究に関連する利益相反はない」と申告しています)。それでも「生存率を成功率として売るな」「比較の相手を理想のインプラントにするな」という2つの指摘は、立場に関係なく成り立つと思います。数字の出どころを確かめる癖を、患者説明にも自分の治療計画にも持ち込みたい一本です。

今日のひとこと

抜歯は不可逆だ。インプラントが失敗したら、打てる手はもう一本インプラントを入れることしかない。歯が失敗しても、まだインプラントという選択肢が残っている——この順序の非対称性こそ、著者らが最後に置いた一文であり、明日の治療計画で効く唯一の原則だと思う。

Clark D, Levin L. In the dental implant era, why do we still bother saving teeth? Dent Traumatol. 2019;35(6):368–375. doi:10.1111/edt.12492 PMID: 31132200(同一論文が J Endod. 2019;45(12S):S57–S65. doi:10.1016/j.joen.2019.05.014/PMID: 31623910 にも同時掲載)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。