1問1答 論文 保存修復

2.5倍あった強度差が、1.3〜1.4倍まで縮む——エナメル質に載せるということ

1問1答 論文 保存修復

接着修復|超薄型オンレー・二ケイ酸リチウム・ジルコニア・弾性率のミスマッチ

臼歯部のポーセレン修復物は1.5〜2.0mm——荷重に耐えるための厚み、と習いました。材料の強さで並べれば、ジルコニア1000MPa対二ケイ酸リチウム400MPaで2.5倍の開きがあります。ところが有限要素解析でこの2つを歯に接着した状態にすると、様子が変わりました。エナメル質に載せたときの差は、1.3〜1.4倍まで縮むのです。

論文
Load-bearing properties of minimal-invasive monolithic lithium disilicate and zirconia occlusal onlays: finite element and theoretical analyses
著者
Ma L, Guess PC, Zhang Y
掲載
Dental Materials 2013;29(7):742–751(ニューヨーク大学歯学部/米国標準技術研究所/フライブルク大学)
種類
計算研究(有限要素解析+古典的な板‐基礎理論による解析。実験ではない)
PMID
23683531

「臼歯部のセラミックは1.5〜2.0mm」——その厚みは何のためか

前歯部の接着性セラミックベニアは、長期の成功が実証された第一選択になりました。ところが同じ治療を臼歯部に持ち込もうとすると、破折が壁になります。とくに咬合面全体を覆う修復では。

だから現在の推奨は、臼歯部のポーセレン修復物の厚みを1.5〜2.0mmとすることでした。荷重に耐えるために必要な厚み、という理屈です。原著が冒頭に置くのはこの文脈——より強いセラミックが登場すれば、より薄く保存的な修復物でも臼歯部の荷重要件を満たせるようになる。

では材料を強い方へ振ればよいのか。曲げ強さで並べれば答えは明らかです。ジルコニアは1000MPa、二ケイ酸リチウムは400MPa——2.5倍の開きがあります。

この研究の仮説は、その常識に一本の補助線を引くものでした。二ケイ酸リチウムは、支えている歯質との弾性率の差がジルコニアより小さい。だから接着して支えられた状態では、材料単体の強度差ほどの差は出ないのではないか

この研究は「壊した」のではなく「計算した」

ここは読むうえで最も重要な前提です。この論文は実験ではありません

手法: さまざまな厚みのセラミックオンレーを、エナメル質または象牙質に接着した状態としてモデル化し、有限要素解析(FEA)古典的な板‐基礎理論の2つで、セラミック内面(接着面)に生じる曲げ引張応力を計算した。この応力が、オンレーがバルク破折する原因になる。荷重はエナメル質様の変形するインデンターと、対照としての剛体インデンターの2種類で加えている。

2つの手法の答えは互いによく一致しており、著者らはそれをFEAの精度の裏づけとしています。また応力の分布そのものにも意味がありました——荷重部直下のセラミックは圧縮が主体で、最大の引張応力はセラミック内面のセメント界面、荷重部の真下に生じていました。セメント層はセラミックの応力遮蔽効果によりほぼ圧縮状態で、エナメル質にも引張は生じるものの、その大きさはセラミック内の応力よりずっと小さい。

結果:載せる相手で、同じ材料が40%から75%へ動いた

0 33.3% 66.7% 100% ジルコニアを100としたときの二ケイ酸リチウムの破折荷重 (%) 40% 57% 75% 支えなし(自立した曲げ試験) 象牙質に接着(エナメル質を全部削った) エナメル質に接着(その下は象牙質) 有限要素解析と板‐基礎理論による計算値。材料単体の曲げ強さは二ケイ酸リチウム400MPa対ジルコニア1000MPa。何に載せるかで、同じ材料の相対的な強さが40%から75%へ動く
ジルコニアを100としたときの二ケイ酸リチウムの破折荷重。支えが変わると相対的な強さが動く

支えのない自立した曲げ(4点曲げや二軸曲げ試験のような状態)では、二ケイ酸リチウムの破折荷重はジルコニアの約40%——曲げ強さの比(400/1000)そのままです。

象牙質に接着すると約57%エナメル質に接着すると(その下は象牙質)約75%まで上がりました。なお変形するインデンターで荷重した条件では、厚さ0.7〜1.4mmの範囲で70〜75%という値が示されています(抄録のSignificanceでは厚さ0.6〜1.4mmで70%超、という書き方です)。

裏返して言うと、こうなります——象牙質に支えられた状態でのジルコニアの破折荷重は二ケイ酸リチウムの約1.8倍、エナメル質に支えられた状態では1.3〜1.4倍にまで縮む(厚さ0.6〜1.4mm)。原著の言葉では「二ケイ酸リチウムは、形成をエナメル質内に留められるような保存的修復にとくに適している」

理由は仮説どおりでした。二ケイ酸リチウムとエナメル質の弾性率の差が、ジルコニアとエナメル質の差より小さいから。理論式のうえでは、破折荷重はセラミックの強度と、セラミック/支台の弾性率比の対数で決まります。弾性率のミスマッチは対数で効くので影響は二次的ですが、セラミックの弾性率がエナメル質に近づく場合には、その寄与が無視できなくなるのです。

厚みへの依存が弱くなる

エナメル質に載せると、同じ強さをより薄い厚みで得られる

エナメル質に接着 厚さ 1.0 mm 象牙質に接着 厚さ 1.4 mm 本研究の計算より(二ケイ酸リチウムのオンレー)

エナメル質に接着 厚さ 0.5 mm 象牙質に接着 厚さ 2.0 mm こちらは原著が引く別の実験研究(上顎小臼歯に接着した e.max Press オンレーの破折試験)の所見

同じ破折抵抗を得るのに必要な厚み。上段は本研究の計算結果、下段は原著が引く別の実験研究(e.max Pressオンレーの破折試験)の所見

もうひとつの発見が、臨床的にはより効きます。エナメル質に支えられると、二ケイ酸リチウムオンレーの破折荷重は厚みに対して鈍感になる——とくに0.8〜1.7mmの範囲で。抄録の表現では、「破折荷重の厚みへの依存が比較的弱いことは、1.2mmの薄い二ケイ酸リチウムオンレーが1.6mmのそれと同等の破折抵抗を持ちうることを示している」

具体的な等価関係も示されています。エナメル質に支えられた厚さ1.0mmの二ケイ酸リチウムオンレーは、象牙質に支えられた1.4mmのものと同等の耐荷重性を示しました。

さらに原著は、自分たちの計算を裏づける実験研究を引いています。上顎小臼歯に接着したe.max Pressのオンレーを0.5mm(超薄)・1.0mm(薄)・2.0mm(標準)で比べたところ、エナメル質に支えられた0.5mmのオンレーの破折荷重は、象牙質に支えられた2.0mmのものに匹敵した

なお、実際の対合歯は剛体ではありません。天然歯・ポーセレン・ガラスセラミックはいずれも有限の弾性率を持つため、変形するインデンターで荷重した場合も計算されています。結果は剛体より少し高い破折荷重で、両者の相対比には有意な違いはありませんでした。理由は、剛体インデンターの高い弾性率は咬合面近傍のヘルツ応力を上げるものの、破折の起点である内面の遠方場の曲げ応力にはあまり影響しないからです。

明日の臨床へ

第一に、「材料が弱いから厚くする」という発想の前に、「何に載せるか」を先に考える。同じ二ケイ酸リチウムが、支えの違いだけで40%から75%へ動きました。エナメル質を残せる形成なら、材料の選択肢は広がります。

第二に、咬合面の挙上を伴う症例で、この差が効く。原著が挙げる適応がまさにそこです——隣接する咬合平面と調和させるためにわずかな咬合高径の増加が必要な患者。多くの場合、接着オンレーを受け入れるために形成が必要なのはエナメル質面だけで、従来のフルクラウンによる方法ならはるかに多くの健全なエナメル質を削らねばならない。重度の酸蝕症のリハビリにCAD/CAMの咬合面ベニアが有効だった、という報告も引かれています。

第三に、セメントの選択にも意味がある。原著が注意を促すのは、支台の弾性率はセメント・エナメル質・象牙質を合わせた「実効弾性率」だという点。セメントはエナメル質よりずっと弾性率が低いため、セメント層が入ること自体がセラミックの耐荷重性に不利に働きうる。だから弾性率が高く、薄いセメント層が最も望ましいとされています。

第四に、材料そのものの利点も並べられています。二ケイ酸リチウムはジルコニアに対し、審美性が優れ、エナメル質に近い摩耗挙動を示し、エッチングとシラン処理ができ、処理温度が低い。加えてモノリシックジルコニアの低温劣化については歯科文献のなかで議論が分かれているとも書かれています。

つまり: 材料単体では400MPa対1000MPaで2.5倍の開きがあっても、エナメル質に接着して支えられた状態では、差は1.3〜1.4倍まで縮む。そしてエナメル質に載せられると、破折荷重は厚みに鈍感になる——エナメル質上の1.0mmが、象牙質上の1.4mmに相当していた。
ここだけ、冷静に補助線
最も大事な留保は、これが有限要素解析と理論計算による研究であって、実際に何かを壊した実験ではないことです。臨床成績でも、抜去歯の破折試験でもありません(ただし原著は、e.max Pressオンレーの実験研究や、0.15〜1.5mmの広い厚み範囲でこの理論モデルが実験値とよく一致するという先行研究を裏づけとして引いています)。原著自身が挙げる限界も明快で、①理論解析はインデンター半径の影響を考慮していない(FEAでは考慮している)、②セラミックが薄くなるほど、放射状破折の臨界荷重の予測精度は落ちる、③モデルは弾性変形のみを仮定している——の3点です。加えて厚みが1.5mmを超えると、内面の放射状破折より先に咬合面のコーン破折が起こりうる(ただし単一荷重でのコーン破折はジルコニア4000N・二ケイ酸リチウム1100Nで、ヒトの最大咀嚼力をはるかに超えるため、この研究では臨界の破壊様式とみなしていません)。そして疲労も熱サイクルもモデルに入っていません——実際の口腔内では、繰り返し荷重が破折荷重を押し下げます。それでも「材料の強度だけを見て厚みを決めるのは、方程式の半分しか見ていない」という視点は、削除量を決める場面でそのまま効いてきます。

今日のひとこと

材料の強度だけを見て厚みを決めるのは、方程式の半分しか見ていない。支えのない曲げでは二ケイ酸リチウムはジルコニアの40%だが、象牙質に接着すると57%、エナメル質に接着すると75%まで上がる——弾性率の差が小さいぶん、支えを味方につけられるからである。しかもエナメル質に載せると破折荷重は厚みに鈍感になり、エナメル質上の1.0mmが象牙質上の1.4mmに相当した。ただしこれは計算による研究で、疲労も熱サイクルもモデルに入っていない。

出典:Ma L, Guess PC, Zhang Y. Load-bearing properties of minimal-invasive monolithic lithium disilicate and zirconia occlusal onlays: finite element and theoretical analyses. Dent Mater. 2013;29(7):742-751. PMID: 23683531
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。