インプラント補綴|モノリシックe.max・築盛ジルコニア・ヒートプレス・破折荷重
ジルコニアの曲げ強さはおよそ900〜1200MPa、上に築盛する長石系陶材は30〜97MPa。二層冠が抱える弱さは、この差にあります。ではその陶材の「付け方」を変えたらどうなるか。臼歯部インプラント上部構造として3種類を壊すまで押すと——ヒートプレス5229.6N、モノリシックe.max 3852.1N、手築盛3100.3N。同じジルコニアで1.7倍近い開きが出ました。
①ジルコニアは強い。では、その上の陶材は
オールセラミック冠の弱点は脆さでした。それを克服するために強化コアが開発され、いま最も新しいコア材料がイットリア部分安定化ジルコニアです。原著が挙げる数字を見ると、その差は歴然としています——ジルコニアの曲げ強さがおよそ900〜1200MPa、上に築盛する長石系陶材は30〜97MPa。
だから、二層構造のオールセラミック冠は結局「弱い物性」を抱えたままだ、と原著は書きます。実際、強いコアに弱い陶材を築盛した二層冠では、臨床使用の最初の5年で表面の3〜5%にチッピング・破折・デラミネーションが起こると報告されてきました。
そこで出てくる選択肢が2つあります。ひとつは陶材の付け方を変えること——手築盛ではなくヒートプレスにすれば、大きな気泡を避け、過度の結晶成長と二次結晶化を防げるとされています。もうひとつはそもそも築盛しないこと——CAD/CAMで削り出すモノリシックの二ケイ酸リチウム(e.max CAD、曲げ強さおよそ360〜400MPa)です。
臼歯部インプラント上部構造という条件で、この3つを並べたのがこの研究です。
②インプラント体に着けた24個の冠を、壊れるまで押した
大臼歯形態のオールセラミック冠を24個(各群8個)製作しました。
接着はレジンセメントで、内面処理は材料ごとに指定のものを行っています。荷重はインプラントフィキスチャーに連結したアバットメントに冠を着けた状態で、中心窩に当てて破折するまで圧縮。破断面はSEMで観察しました。
ここは読むときに効くポイントです——天然歯ではなく、金属のダイとインプラントアバットメントを使っています。原著が引くPotiketらの研究では、天然歯上に置いたオールセラミック冠の破折強度は447N未満で、しかも破折はすべて歯の内部で起きていました。土台が違えば、測っている数字の意味も変わります。
③結果:同じジルコニアでも、陶材の付け方で1.7倍近く違った
数字はこうでした——ヒートプレス(ZP)5229.6N、モノリシックe.max 3852.1N、手築盛(ZV)3100.3N。分散分析とScheffe検定で、ZP群だけが他の2群より有意に高い(P<0.05)という結果です。
同じジルコニアコーピングを使いながら、陶材の付け方だけで5229.6N対3100.3N——1.7倍近い開きが生まれていました。
そしてe.maxと手築盛ジルコニアのあいだには、有意差がありません。削り出しの単層冠が、二層のジルコニア冠と同じ土俵に並んだ、ということになります。原著の結論2はまさにそれです——「手築盛ジルコニア冠とモノリシックCAD/CAM二ケイ酸リチウム冠の破折荷重に有意差はなかった。モノリシックCAD/CAM二ケイ酸リチウム冠は、臼歯部インプラント上部構造として適用しうる」。
④壊れ方は、3群で見事に分かれた
ZV群(手築盛)は8個すべてが陶材層内のチッピングで、破片は小さいものでした。e.max群は8個すべてが、荷重をかけた中心窩から垂直方向への完全破折。ZP群(ヒートプレス)は8個中6個が完全破折、2個がチッピングです。
SEMでは、ZV群のほうがZP群より気泡が多く観察され、e.max群は均一な密度を示しました。
原著の解釈はこうです。ZV群が陶材層内だけで壊れたのは、長石系陶材の強度の弱さ、技工上の不備、そして気泡による構造的な弱さのため。一方ZP群でコアと陶材が一緒に完全破折したのは、ヒートプレスされた陶材が高い強度を持ち、ジルコニアコアと強固に結合していたからだろう、と。
もうひとつ、原著が指摘するのはばらつきです。e.max冠の破折荷重の標準偏差は、2つの築盛ジルコニア冠より小さかった。理由は率直で、築盛ジルコニア冠は陶材を盛り上げる工程での技工上の誤差で大きくばらつくのに対し、モノリシックCAD/CAMブロックは工場で標準化された方法により均一な密度で作られているから。しかも製作工程が単純になる、とも。
⑤その数字は、咬合力に対してどこにあるのか
原著は臨床的な物差しを丁寧に置いています。健康な若年成人の臼歯部咬合力は女性でおよそ597N、男性でおよそ847N、最大でおよそ900N。別の報告(Ferrarioら)では臼歯部の平均咬合力が700N、最大が1221Nとされます。
これに対して、最も低かった手築盛ジルコニア群でも3100.3N。原著の結論1が「試験したすべての冠の破折荷重は、報告されている臼歯部の平均咬合力より高かった」となるのは、この比較からです。
ただし、そのすぐ後に著者ら自身が釘を刺します——「しかし、この破折強度は臨床状況にとって十分ではないかもしれない。垂直方向の力のみを加え、熱水環境の影響を与えていないからである。実際の口腔内では側方力と熱水の影響が関与しうるし、石や貝殻を噛むといった不測のリスクも関わりうる」。
⑥明日の臨床へ
第一に、臼歯部インプラント上部構造で、モノリシックe.maxは選択肢として成立する——少なくともこの試験系では、手築盛ジルコニア冠と有意差のない破折荷重を示しました。しかもばらつきが小さい。技工の腕に結果が左右されにくいという意味では、日常臨床に持ち込みやすい性質です。
第二に、ジルコニアを選ぶなら、コアの材質だけでなく陶材の付け方をラボと確認する。同じジルコニアで1.7倍近い差が出ていました。原著の結論3は「ヒートプレスで築盛したジルコニア冠の破折荷重は他の群より有意に高かった。したがって、追加の強度が必要な場合にこの冠を用いうる」です。
第三に、壊れ方の違いを、リカバリーの難しさとして考える。手築盛ジルコニアの失敗は全例が小さなチッピングでした。e.maxは全例が完全破折です。どちらが「良い」とは原著も言っていませんが、起きたときに何が残るかは違います。
各群わずか8個の in vitro 静的荷重試験です。原著自身が「垂直方向の力のみで、熱水環境の影響がない」ことを限界として明記しており、側方力・サーモサイクル・繰り返し荷重はいずれも与えられていません。また土台が天然歯ではなくインプラントアバットメントである以上、この数字を天然歯支台の症例に持ち込むことはできません(本文②のとおりです)。先行研究との食い違いも原著が挙げており、条件が変われば順位も変わりうると読むべきでしょう。原著自身も長期の臨床研究が別途必要であると結んでいます。それでも「コアの材質ではなく、上物の付け方と有無で結果が変わる」という視点は、ラボと話すときの具体的な足がかりになります。
今日のひとこと
コアの材質ではなく、上物の付け方と有無で結果が変わっていた。同じジルコニアコーピングでも、ヒートプレス5229.6Nに対し手築盛は3100.3N。モノリシックe.max(3852.1N)は手築盛ジルコニアと有意差がなく、しかも標準偏差が小さい——工場で標準化されて作られるぶん、技工上の誤差が乗らないからである。そして壊れ方も分かれた。手築盛は全例が陶材層内の小さなチッピング、e.maxは全例が中心窩からの完全破折だった。


