保存修復|合着・セルフアドヒーシブセメント・象牙質接着
前処理なしで塗って被せるだけ——セルフアドヒーシブセメントは手順が短く、術者による差も出にくい。ではその代わりに、接着はどれだけ落ちているのか。9種類のコンポジットセメントを同じ条件でセラミックと象牙質のあいだに挟み、接着強さを比べた研究があります。答えは両面でした。同じセルフアドヒーシブ5製品の中に2.8MPaと20.2MPaが同居する一方で、原著は「セルフアドヒーシブセメントは象牙質への接着効果が劣るという明らかな傾向があった」とも結んでいます。
①手順を減らすと、接着はどれだけ減るのか
間接修復の合着で、セルフアドヒーシブセメントを使う場面は増えました。エッチングもプライミングもボンディングも要らず、練って塗って被せるだけ。ステップが減れば術者による差も減り、チェアタイムも短くなります。
ただし当然の疑問が残ります。その省略のぶん、接着はどれだけ落ちているのか。そして「セルフアドヒーシブ」という括りに入っていれば、どの製品もだいたい同じなのか。
ルーヴェンのBIOMATグループが立てた帰無仮説は明快でした——セルフアドヒーシブセメントは、別に接着材を使うセメントと同じくらい有効である。これを9製品で検証しています。
②9種類を、同じ土俵に並べた
ヒト象牙質面に、フッ化水素酸でエッチングしシラン処理したセラミックブロック(VITAブロック マークII・厚さ約4.15mm)を合着します。加圧は1kgで統一、光照射は各面20秒×5面=合計100秒。セメント以外の条件をすべて揃えた設計です。
37℃で1週間の水中保管ののち、約1mm²のスティックに切り出して微小引張接着試験にかけました。エナメル質に接している辺縁のスティックは除外しています。
この研究のもうひとつの主題が「試験前破断(pretesting failure・ptf)」の扱いです。試験機にかける前に自然に外れてしまった標本を、0MPaとして数えるか、測定できた最低値として数えるか、除外するか。著者らは3通りすべてを計算して並べ、この処理の仕方で「有意差の付き方」が変わることを示しました(順位そのものは3通りとも同じです)。数字の見せ方を検証対象にしている、正直な設計です。
そして原著ははっきり立場を述べています——「試験前破断を単に省くことはできない。そうすれば接着強さが高い側にバイアスがかかるからだ」。だから以下では、0MPaとして数えた列(保守的な読み)を主役にします。
③結果:同じ括りの中で7倍以上の開き。ただし——
まず全体像。セメントは2つのグループに分かれました——接着強さ4MPa未満で試験前破断が多い群(マックスセム22/42、モノセム29/42、マルチリンク スプリント30/44)と、13MPa超で試験前破断がない(G-セムのみ3/37)群。前者はいずれもセルフアドヒーシブです。
ところが後者にも、セルフアドヒーシブが入っています。リライエックス ユニセム(20.2MPa)とG-セム(16.6MPa)は、エッチ&リンスのカリブラ(21.3)・バリオリンク(16.2)やセルフエッチのパナビアF2.0(20.5)と肩を並べる位置にいました。マックスセム(2.8)とリライエックス ユニセム(20.2)は同じ「セルフアドヒーシブ」ですが、7倍以上離れています。
著者らの結論は、そのまま引用する価値があります——「µTBSは、実際の接着アプローチよりも、明らかに製品に依存していた」。
結論の段落はこう続きます——「帰無仮説は、リライエックス ユニセムとG-セムについては受け入れられなければならない。しかしながら、セルフアドヒーシブ・コンポジットセメントは象牙質への接着効果が劣るという明らかな傾向があった」。原著の帰無仮説が問うているのはセルフアドヒーシブ5製品のほうなので、同等と言えたのはセルフアドヒーシブ5製品中2つということになります(カリブラ・バリオリンク・パナビアF2.0・クリアフィル エステティックは比較の基準側です)。「分類は指標にならない」と言い切ってしまうと、原著の半分しか伝えないことになります。原著自身の言い方は「セルフアドヒーシブセメントの接着は、セメントの化学組成と物理的性質(濡れ性など)に強く依存する」です。
そして対照群。クリアフィル SEボンド+APXは、どの処理方法で計算しても、すべてのセメントより有意に高い接着強さ(31.8MPa)を示しました。手順を短くしたぶんは、やはり接着強さで支払われています。
破断面の分析も見ておきます。ほとんどのセメントで「混合型」の破断——象牙質-セメント界面と/またはセメント-セラミック界面での破断に、セメント・セラミック・象牙質の凝集破壊が組み合わさったもの——でした。そのうえで接着強さが低いセメントほど象牙質-セメント界面での「アドヒーシブ」破断が多くなる傾向があり、逆に接着強さが高いほどセメント-セラミック界面での破断が増えました。対照群は主にセメント-セラミック界面で破断しています。原著の言葉では「とくに象牙質への接着が、間接修復物と歯の複合体における弱い環であり続けている」。
④なぜ製品差がこれほど出るのか
原著が挙げる理由は、憶測ではなく具体的です。
ひとつは化学組成。同じクラレのED Primer IIを使いながら、クリアフィル エステティックセメント(13.5MPa)はパナビアF2.0(20.5MPa)より有意に低い。原著はその差を10-MDPの有無に求めています——エステティックセメントのセメント部には接着能力に優れる10-MDPが入っておらず、パナビアの10-MDPは希釈剤としても働いて重合率を高めうる、と。
ふたつめが混和の方法。パナビアはスパチュラで手練和し、エステティックセメントはオートミックスシリンジです。気泡が減るのは一見よさそうだが、気泡は応力を逃がす働きもしうる——これがパナビアの高い接着強さのもうひとつの仮説だ、と原著は書いています。
みっつめが濡れ性と流動性。セルフアドヒーシブセメントは、酸性モノマーで濡れを高めて象牙質に接着します。だから水(G-セム)などの溶媒を含んだり、機能性モノマーをイオン化させるために湿潤下での接着を要求したり(モノセム)する。歯面をよく濡らすには高い流動性が要る、というのが原著の整理です。関連して、リライエックス ユニセムは常に加圧下で用いて窩壁に密着させるべきという先行研究も引かれています。
対照が最も強かった理由も明快でした。コンポジットセメントの組成は修復用コンポジットとよく似ており、十分に流動性があり適切に光重合できるなら、修復用コンポジットも合着材として使える。使ったフェルドスパー系セラミック(VITA マークII)は、4.15mmの厚みがあってもなお光を比較的よく通したと原著は述べています。ただし修復用コンポジットの粘度は修復物の適合を妨げうるという但し書きも付いています。
⑤明日の臨床へ——括りではなく、名前で選ぶ
第一に、自分が使っている製品名で文献を当たる。この論文が示したのは、クラスではなくプロダクト単位でデータを見るべきだということです。
第二に、それでも「セルフアドヒーシブ全体としては劣る傾向がある」という原著の但し書きを外さない。同等と言えたのは、セルフアドヒーシブ5製品のうち2つでした。
第三に、光が十分に届くケースでは、接着材+コンポジットという回り道が依然として最強。原著の結びも「十分な光透過が保証できるなら、従来の修復用コンポジットも間接修復の合着に使える」です。ただし粘度=適合の問題は別途考える必要があります。
第四に、加圧を軽く見ない。リライエックス ユニセムについては、加圧下で用いて窩壁に密着させることが推奨されています。この研究自体も1kgの一定加圧下で行われました。
1週間水中保管後の即時(immediate)接着効果を見た実験室研究で、長期の耐久性は評価されていません。標準偏差は2.7〜9.7MPaと大きく、中位のセメントどうしの差の多くはこの幅に埋もれます。試験前破断は臨床の脱離ではなく試験手技のバイアス源である点にも注意が要ります——原著は「最も低い測定値はおそらく接着材固有というより試験固有のもので、試験装置の精度に大きく依存する」「スティック作製時の過大な応力を避ける非侵襲的な作製法の開発が強く推奨される」と述べています。セラミックはフェルドスパー系(VITA マークII)で、ジルコニアや不透過な補綴物では条件が変わります。製品も2009〜2010年当時のものです。それでも「クラスではなくプロダクトで見る。ただしクラスの傾向も無視しない」という骨格は、いま新しいセメントを選ぶときにもそのまま使えます。
今日のひとこと
「セルフアドヒーシブだから弱い」でも「分類は関係ない」でもなかった。帰無仮説(別の接着材を使うセメントと同等)を受け入れられたのは、セルフアドヒーシブ5製品のうちリライエックス ユニセムとG-セムの2つだけ。残りには明らかに劣る傾向があった。つまり分類だけでは決まらないが、分類を無視してもいけない——選ぶ単位はあくまで製品名である。そして光が十分に届くケースでは、セルフエッチ接着材+修復用コンポジットという回り道が、いまだにいちばん強い。


