1問1答 論文 保存修復

そのボンディング、エアーで吹き飛ばしてない?──象牙質接着が4分の1に落ちる話

保存修復

論文解説|接着・ボンディング

「接着剤は薄いほどいい」と習った、あの一吹き。エナメル質では問題なくても、象牙質では接着強さを激減させているかもしれません。

論文
ボンディング剤へのエアブローがセルフエッチングプライマーシステムの接着性に及ぼす影響について
著者
山本一世 ほか(大阪歯科大学 歯科保存学講座)
掲載
接着歯学 22(2): 110–119, 2004
種類
in vitro(ウシ歯・ヒト抜去歯)

ボンディング剤を塗ったあと、スリーウェイシリンジで「シューッ」と薄く広げる。たぶん、多くの先生が無意識にやっている動作です。

「接着剤の層は薄いほうがいい」と習ったし、マージンに厚みが出ると審美的にも嫌ですよね。でも――その一吹きが、象牙質の接着を4分の1以下に落としているとしたら?

「薄いほどいい」は、どこから来たのか

ボンディング剤を薄く広げる理由は、ざっくり2つ。①「接着剤の層は薄い方がいい」という一般概念、②層が厚いとマージンの審美性が悪化し、歯ブラシでも摩耗しやすい。

さらにもう一つ。アセトンやエタノールを溶媒に含むタイプでは、光照射の前に溶媒を飛ばすためにエアブローが必須とされてきました。溶媒が残ったまま固めると重合を邪魔するからです。だから「塗ったらエアーで薄く」は半ば作法になっています。

でも、昔からこんな報告もボンディング剤の層を薄くしすぎると、空気(酸素)による重合阻害で固まり切らず、かえって接着力が落ちる。「薄いほどいい」と「薄すぎると固まらない」――実際の市販システムでは、どっちが勝つのか?

今回の一手:「ブラシだけ」 vs 「さらに強圧エアー」

大阪歯科大学の山本一世先生らが、3種類の2ステップ・セルフエッチングシステム(クリアフィルメガボンドユニフィルボンド/インパーバフルオロボンド)で、この境目を実験で確かめました。

比較したのは塗り方だけ:ブラシ法=ボンディング剤をブラシで薄く広げるだけ/② エアー法=ブラシで広げたあと、約1cmから3秒間、強圧でエアブロー。ウシ歯への引張り接着強さと、ヒト大臼歯歯頸部窩洞の辺縁漏洩(サーマルサイクル4,000回後)で評価。

結果①:象牙質の接着強さが激減した

エナメル質では3製品とも、ブラシ法とエアー法に有意な差はありませんでした。問題は象牙質です。

ブラシ法(良い)
エアー法(悪化)

0 10.7 21.3 32 象牙質への引張り接着強さ (MPa) 28.5 18.8 18.9 6.4 5.8 5.9 ブラシ法(薄く広げるだけ) エアー法(強圧で3秒吹く) ウシ象牙質・24時間後・n=10。3製品とも p<0.01 で有意に低下

各群の3本は左からメガボンド/ユニフィルボンド/フルオロボンド。メガボンドは28.5→6.4 MPaと約4分の1以下に。

破断面を見ると、ブラシ法は材料が強くて中で割れる「凝集破壊」が中心。エアー法は、くっつき切れずに剥がれる「界面破壊」が目立ちました。

結果②:象牙質マージンの漏洩も増えた

辺縁漏洩も同じ傾向。エナメル質マージンは差なし、象牙質マージンではエアー法で漏洩が増えました(メガボンド・フルオロボンドは有意 p<0.05、ユニフィルボンドは有意差なし)。

ブラシ法(良い)
エアー法(悪化)

0 1 2 3 象牙質マージンの漏洩スコア (0–3・低いほど良い) 0.3 0.4 0.8 1.5 1.7 2.1 ブラシ法(薄く広げるだけ) エアー法(強圧で3秒吹く) ヒト大臼歯歯頸部窩洞・サーマルサイクル4000回後・n=10。平均スコア。メガ・フルオロは p<0.05

スコアは0(漏洩なし)〜3。低いほど良い。接着強さが落ち、封鎖も甘くなる二重の裏目。

なぜエナメルは平気で、象牙質はダメなのか

カギは「くっつき方の違い」です。エナメル質はシンプルなメカニカルリテンション。多少未重合でも、上から詰めるコンポジットと一緒に固まれば成立する。だから薄くても平気。一方象牙質は、脱灰したコラーゲンとレジンが絡む「樹脂含浸層(ハイブリッド層)」をしっかり作る必要があり、ここが命です。

決定的なのがセルフエッチングの脱灰の浅さ。リン酸なら5〜8μm脱灰されるのに、セルフエッチングは約1μmと非常に浅い。染み込む層が薄いところへボンディング剤まで吹き飛ばすと、酸素による重合阻害がモノマー全体に及び、樹脂含浸層が固まり切りません。しかも今回の3製品はアセトン・エタノールを含まないタイプ=「溶媒を飛ばすためのエアブロー」はそもそも不要だったのです。

前向きな所見: セルフエッチングは脱灰がマイルドなため、漏洩が起きても色素は接着界面でとどまり、象牙細管から歯髄方向へ深く侵入しにくい(リン酸トータルエッチングより歯髄への安全性は高い)。

明日の臨床へ──「全部吹かない」より「どこを吹くか」

著者の結論はシンプル。接着力だけ考えれば、(溶媒を含まないこのタイプは)塗ったらエアブローせず、ただちに光照射するのがよい。とはいえ実際の窩洞では、ブローしないとマージンが厚くなり審美・摩耗で困る。完全にゼロにはできません。

落としどころ: マージン(エナメル質側)は薄くしたいので軽くエアーで整える。窩底(象牙質側)はボンディング剤の厚みをあえて残す。「全部に強圧エアー」をやめるだけで、象牙質の接着強さと封鎖性を底上げできる。
ここだけ、冷静に補助線これは2004年・in vitro(ウシ歯・抜去歯)で、長期の臨床予後を見たものではありません。また「1cmから3秒・強圧」というかなり強めの条件です。そして今の主流であるユニバーサル接着システムの多くは溶媒を含み、適度なエアブローが推奨されています。本研究の「吹かない方がいい」をそのまま全製品に当てはめてはいけません(各製品の使用説明書が最優先)。ただし「セルフエッチング系の象牙質では薄く吹き飛ばしすぎない/窩底は厚みを残す」という原則は、20年経った今も筋が通っています。

今日のひとこと

「薄いほどいい」は、エナメル質の話。象牙質では、しっかり固める厚みのほうが効く。無意識の「シューッ」を、一度見直してみる価値はあります。

出典:山本一世, 鈴木康一郎, 宮地秀彦, 岩田有弘, 三木秀治, 清水建彦, 井上正義. ボンディング剤へのエアブローがセルフエッチングプライマーシステムの接着性に及ぼす影響について. 接着歯学 22(2): 110–119, 2004.
※本記事は論文の要点を歯科医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンス、各製品の使用説明書をご確認ください。
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