1問1答 論文 エンド

洗浄剤と貼薬剤は、象牙細管の中の菌にどこまで届く?——ウシ象牙質に菌を入れた実験室研究で、5分後に消毒作用が及んだ深さはヨードヨードカリが1000 µm超・5.25%次亜塩素酸ナトリウムが200〜300 µm・EDTAは0だった

1問1答 論文 エンド

エンド|ウシ切歯の象牙質シリンダーに4菌種を実験的に感染させ、洗浄剤(ヨードヨードカリ・次亜塩素酸ナトリウム・クロルヘキシジン・EDTA)と貼薬剤(水酸化カルシウム・CMCP)が象牙細管の中の菌をどこまで・どれだけの時間で殺せるかを比べた実験室研究(Ørstavik と Haapasalo 1990・Endod Dent Traumatol)

根管の中は洗えても、象牙細管の奥はどうでしょうか。ノルウェーとフィンランドの研究グループは、ウシ切歯の根から円筒形の象牙質試験片を削り出し、スメア層まで落として細管を全開にしたうえで、培地に浸けて4種類の菌を感染させました。そこへ洗浄剤・貼薬剤を作用させ、深さごとに象牙質を削って培養し、どこまで菌が死んだかを調べています。S. sanguis に5分間作用させたときに消毒作用が及んだ深さは、ヨードヨードカリ(IKI)が1000 µm超、5.25%次亜塩素酸ナトリウムが200〜300 µm、クロルヘキシジン(ヒビテンデンタル)が100〜300 µm、EDTAは0。貼薬剤では、水酸化カルシウム(カラセプト)が E. faecalis を殺すのに10日を超えてかかりました。そしてスメア層は、薬の効きを遅らせはしても、無くしはしませんでした

論文
Disinfection by endodontic irrigants and dressings of experimentally infected dentinal tubules
著者
Dag Ørstavik, Markus Haapasalo(NIOM=北欧歯科材料研究所〔オスロ・ノルウェー〕/ヘルシンキ大学歯学部カリオロジー教室〔フィンランド〕)
掲載
Endodontics & Dental Traumatology 1990;6(4):142-149.
種類
実験室研究(in vitro)。抜去したてのウシ切歯の根から、高さ約4 mm・直径6 mm・中央に直径2.3 mmの髄腔をもつ円筒形の象牙質試験片を削り出す。セメント質は意図的に除去し、17%EDTAと5.25%次亜塩素酸ナトリウムで各4分の超音波洗浄をしてスメア層を含む有機・無機の残渣を除き、オートクレーブ(121℃・15分)で滅菌。E. faecalis(ATCC 29212)・S. sanguis(ATCC 10556)・E. coliP. aeruginosa(後2者は臨床分離株)を接種した酵母エキスグルコース培地に試験片ごと3日〜6週間浸けて細管内へ感染させ、感染の培養を終えてから外側(歯根膜側)をマニキュアで封鎖した。感染は髄腔側から進むほうが多いが歯根膜側からも起こり、両者が出会うのは常に髄腔面から1000 µmを超えた位置だった。感染の深さは、髄腔側からISO 023〜050の球状バーで段階的に削って髄腔面から0〜1350 µmの象牙質粉を採り、BHIブロスで37℃・7日培養して発育の有無で判定(走査型電子顕微鏡とBrown & Brenn染色も併用)。そこへ薬剤を髄腔に満たして作用させ、残存感染を同じバー採取で調べた
PMID
2133305

根管は洗えた。では、細管の奥は?

次亜塩素酸ナトリウムで洗い、EDTAでスメア層を落とし、水酸化カルシウムを貼薬する。手順としては完成しています。けれど細菌は根管の壁だけでなく、象牙細管の中にも入り込みます。そこまで薬は届いているのでしょうか。

結論を先に言うと、この実験では薬剤によって届く深さがまるで違いました。S. sanguis を感染させた象牙質に5分作用させたとき、消毒作用が及んだのはヨードヨードカリ(IKI)で1000 µm超、5.25%次亜塩素酸ナトリウムで200〜300 µm、クロルヘキシジンで100〜300 µm。そしてEDTAは0 µmでした。

なぜ「細管の中」を別に考える必要があるのか

根尖性歯周炎は、歯髄と象牙細管に感染した細菌が起こします。著者らは冒頭で、根管治療とは機械的な清掃・形成に、抗菌性の洗浄剤と貼薬剤を組み合わせたものだと整理したうえで、感染した象牙質に対する薬剤の効果を調べた研究は、臨床・実験室ともに数えるほどしかないと書いています。

薬剤の選択は長らく経験に基づいて行われてきました。そこで著者らは、細管の中の菌に対する効き目を比べられる形で測るための実験モデルを組み立てました。この論文は、そのモデルを4菌種と6薬剤に広げたものです。

今回の一手:細管を全開にした象牙質シリンダーに、菌を入れる

試験片:抜去したてのウシ切歯の根から、高さ約4 mm・直径6 mm・中央に直径2.3 mmの髄腔をもつ円筒形の象牙質を削り出す。セメント質は意図的に除去。17%EDTAと5.25%次亜塩素酸ナトリウムで各4分の超音波洗浄をしてスメア層を含む残渣を除き、オートクレーブ(121℃・15分)で滅菌。
菌:E. faecalis(ATCC 29212)、S. sanguis(ATCC 10556)、E. coli と P. aeruginosa(臨床分離株)。
感染:菌を接種した酵母エキスグルコース培地に試験片ごと浸け、3日〜6週間培養して細管内へ感染させる。培地は1日おきに交換。感染の培養を終えてから、外側(歯根膜側)をマニキュアで封鎖した(薬剤を作用させるときのための封鎖)。感染は髄腔側から進むほうが多かったが歯根膜側からも起こり、両者が出会うのは常に髄腔面から1000 µmを超えた位置だった。
感染の深さの測り方:髄腔側からISO 023〜050の球状バーで段階的に削り、髄腔面から0〜1350 µmに対応する象牙質粉を採取。それぞれを2 mLのBHIブロスに入れ、37℃で7日培養して発育の有無を見る(走査型電子顕微鏡とBrown & Brenn染色も併用)。
薬剤:①カラセプト(水酸化カルシウムの飽和溶液・懸濁液)②CMCP(カンフル60%・パラモノクロロフェノール30%・エタノール10%)を液体と気体の両方で ③ヒビテンデンタル(0.2%クロルヘキシジングルコン酸塩・7%エタノール水溶液)④ヨードヨードカリ(2%ヨウ素+4%ヨウ化カリウム)⑤5.25%次亜塩素酸ナトリウム ⑥17%EDTA。
スメア層の実験:感染させた後、薬剤を作用させる前に、髄腔側をISO 023の球状バーで削ってスメア層を作り、同じ試験を行った。

結果1:洗浄剤の「消毒が届く深さ」は薬で大違い

0 366.7 733.3 1100 消毒作用が及んだ深さ(µm・5分作用後) 1000 300 300 0 ヨードヨードカリ(IKI) 次亜塩素酸ナトリウム 5.25% クロルヘキシジン(ヒビテンデンタル) EDTA 原著の表2(S. sanguis を感染させた象牙細管・5分作用)。IKIの原著表記は「1000超」=下限で、棒はその下限値。次亜塩素酸ナトリウム200〜300とクロルヘキシジン100〜300は範囲の上限を棒にした。EDTAは0
S. sanguis を感染させた象牙細管に各洗浄剤を5分作用させたときの、消毒作用が及んだ深さ(原著の表2)。IKIの原著表記は「1000超」=下限で、棒はその下限値。次亜塩素酸ナトリウム200〜300とクロルヘキシジン100〜300は範囲の上限を棒にした

ヨードヨードカリは、わずか5分で細管内の S. sanguis を有効に殺菌しました。次亜塩素酸ナトリウムは200〜300 µm、クロルヘキシジンは100〜300 µmの範囲で有効に菌を減らしています(表2の値。なお原著の本文は、この2剤をまとめて「100〜300 µm」と書いており、表と本文にずれがあります)。著者らは考察で、クロルヘキシジンは次亜塩素酸ナトリウムより強力ではなかったと述べ、また次亜塩素酸ナトリウムについては、よく知られた組織溶解性に加えて、かなりの深さまで届く抗菌性も持つ、と評価しています。

一方のEDTAには、殺菌作用が観察されませんでした。著者らは、EDTAが硬組織のキレート剤として使われる薬であり、抗菌効果はあるとしてもごくわずかだと確認された、と書いています。

結果2:貼薬剤は、菌の種類で成績がひっくり返る

貼薬剤の効き方は、菌の種類によって大きく変わりました。水酸化カルシウム(カラセプト)は、E. faecalis を感染させた細管を消毒するのに10日を超える時間が必要でした。S. sanguis に対してはもっと速いものの、ばらつきが大きく、2時間で消毒できた実験もあれば、24時間かかったものもあります。ところが P. aeruginosa は20分で、E. coli は1時間で消えました。

気体のCMCPを基準にすると、逆の並びになります。表1では、気体CMCPが E. coli を20分、S. sanguis を1時間、E. faecalis を1日で殺したのに対し、P. aeruginosa は4時間持ちこたえました。液体のCMCPでは、S. sanguis は5分で死にました。

栄養を断つとどうなるか(蒸留水に置いた対照):感染させた試験片を蒸留水に入れて放置すると、E. faecalis は細管の全長にわたり7日を超えて生き残りました(蒸留水での判定点は7日までなので、本研究が示せるのはここまで。表1と抄録には「10日超」と記されています)。S. sanguis は4時間を超えて生存し、24時間でも発育は見られたものの、細管の広い範囲では発育しなくなりました。P. aeruginosa は少なくとも4時間生存。E. coli は早く死に、4時間では短い距離に残るのみ、1日後にはまったく検出されませんでした。菌はまず試験片の中央から死んでいき、生きている感染が歯根膜側と髄腔側の両方へ後退していく、という観察も記されています。

結果3:スメア層は「遅らせる」が「無くさない」

0 93.3分 186.7分 280分 液体CMCPで菌が死ぬまでの時間(分) 5分 20分 60分 240分 S. sanguis E. faecalis スメア層なし スメア層あり 原著の表3(液体CMCP)。スメア層があると、どちらの菌でも4倍の時間がかかった。ただし E. faecalisの「スメア層なし60分」は、原著本文では先行研究(6)に帰属して書かれている。著者らはスメア層について「遅らせただけで、効果を無くしはしなかった」と述べている
スメア層の有無による、液体CMCPで菌が死ぬまでの時間(原著の表3)。どちらの菌でも4倍に延びた

感染させた後に髄腔側をバーで削ってスメア層を作ると、液体CMCPの効果は明らかに妨げられました。S. sanguis は5分から20分へ、E. faecalis は1時間から4時間へ。いずれも4倍です(E. faecalis の「スメア層なしで1時間」は、原著の本文では先行研究から引いた値として書かれています)。

ところが気体のCMCPと、S. sanguis に対するカラセプトは、細管が開いていても塞がっていても同じような効き方をしました。著者らは、気体のCMCPの働きが妨げられなかったことから、CMCPのガスはスメア層を自由に通り抜けているのかもしれないと述べています。そして考察で、スメア層は薬剤の作用を遅らせただけで、決して無効にはしなかったと明言しています。

明日の臨床へ

著者らの結論:CMCPは概してカラセプトより効率がよく、試した洗浄剤の中ではヨードヨードカリが次亜塩素酸ナトリウムやクロルヘキシジンより強力に見えた。スメア層は薬剤の効果を遅らせたが、無くしはしなかった。
補足(筆者の読み):
EDTAは消毒薬ではありません。5分で0 µm、つまり殺菌作用は観察されていません。スメア層や無機質を処理するための薬であって、抗菌の担当は別の薬です。
・著者らが考察で書いている一文が効きます——消毒は化学的機械的な清掃・形成に「先立つ」のではなく、それに「続く」工程である。細管の中まで薬を届けたいなら、まず物理的に減らす順番は変えられません。
・水酸化カルシウムが E. faecalis に対して10日超を要したのは、この菌の手強さを示す一方で、実験室の条件での話でもあります(⑧参照)。
菌の種類で薬の得意・不得意がひっくり返るのも実務的な含みです。カラセプトが20分で消した P. aeruginosa は、気体CMCPでは殺すのに4時間かかりました。「この薬が一番強い」と一列に並べられる話ではありません。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、ウシの象牙質を使った実験室研究で、ヒトの根管治療の成績を見たものではありません。しかも試験片はセメント質を削り、EDTAと次亜塩素酸ナトリウムの超音波洗浄でスメア層まで落とし、象牙細管を全開にした状態で使われています。臨床より薬が届きやすい条件だという前提で読む必要があります。第二に、感染は培地で増やした単一菌種の純培養で、臨床のバイオフィルムや複数菌種の相互作用は再現されていません。第三に、判定は「削った象牙質粉を培養して発育があるか」という生きているか死んでいるかの二値で、菌数を測ったものではありません。実際、P. aeruginosa では培養が陽性なのに電子顕微鏡ではごく少数の菌しか見えず、著者ら自身がこの食い違いを考察しています。第四に、観察の時点が5分・20分・1時間・4時間・1日…ととびとびなので、その間のことは分かりません。統計解析はなく、薬剤の実験については各条件の試験片の数が明記されていません(蒸留水での生存試験だけは「2個ずつ」と書かれています)。第五に、表3の「E. faecalis にカラセプト >10日」には、先行研究から引いた値である旨の脚注が付いています(同じ値は表1にも脚注なしで載り、結果の本文でも自らの所見として書かれています)。第六に、著者ら自身がいくつもの但し書きを置いています——栄養を断った後の生存時間の臨床的な意味は疑わしい(生体では細管内の菌に栄養が供給されうるため)こと。そして水酸化カルシウムの成績が振るわなかった点については、生体では長く効力を保ち、根管を物理的に塞ぐことで滲出液の蓄積=栄養供給を減らす可能性があると述べていること。著者らはさらに、このモデルが調べているのは象牙細管の中の菌に対する作用に限られ、歯髄の軟組織での殺菌効果は別の実験で扱う必要があるとも明記しています。加えて、P. aeruginosa で培養とSEMが食い違った理由として、バーで削る操作そのものが菌を未感染の象牙質へ運び込んだ可能性を挙げています——判定法そのものの限界です。最後に、これは1990年の研究で、その後の洗浄・貼薬のプロトコルはかなり変わりました。それでも、「薬が細管のどこまで届くか」を深さの数字で示したこの仕事は、今も洗浄の話をするときの土台になっています。

今日のひとこと

著者らの結論:CMCPは概してカラセプト(水酸化カルシウム)より効率がよく、洗浄剤の中ではヨードヨードカリが次亜塩素酸ナトリウムやクロルヘキシジンより強力に見えた。スメア層の存在は薬剤の効果を遅らせたが、無くしはしなかった。ここから持ち帰りたいのは2つ。EDTAには抗菌作用がほぼ無いこと(キレート剤として使う薬であって、消毒薬ではない)。そして著者ら自身が書いているとおり、消毒は化学的機械的な清掃・形成の「前」ではなく「後」に続く工程だということです。

Ørstavik D, Haapasalo M. Disinfection by endodontic irrigants and dressings of experimentally infected dentinal tubules. Endod Dent Traumatol. 1990;6(4):142-149. PMID: 2133305.
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。