1問1答 論文 エンド

仮封が外れたままの根管治療歯、細菌が根尖に届くまで何日?(Torabinejad 1990)

1問1答 論文 エンド

エンド|側方加圧で充填した抜去歯の歯冠側を細菌に曝し、根尖まで到達するまでの日数を1日単位で追った細菌漏洩の実験室研究(Torabinejad ほか 1990・J Endod)

根管充填まで終えたのに最終補綴が延びている歯、仮封が欠けたまま来院が途切れた歯。「やり直すべきか、このまま進めてよいか」は、日常的に迷う判断です。米国ロマリンダ大学の研究グループは、抜去した上顎切歯・犬歯45本を用意し、うち33本の根管をガッタパーチャとRothシーラーで側方加圧充填して根管内に10 mmだけ残し、その歯冠側を2種類の細菌に浸して、根尖側の培地の色が変わる(=細菌が根管を貫通した)までの日数を毎日観察しました(残りは陽性対照8本=シーラーなしのガッタパーチャ単一ポイント、陰性対照4本=同じ充填で歯冠側は人工唾液のみ)。全長が汚染されるまでの平均は、非運動性のStaphylococcus epidermidisで24.1日、運動性のProteus vulgarisで48.6日。ただしばらつきが大きく、最も速い歯はそれぞれ15日・10日で貫通しています。抜去歯を使った実験室のモデルであり、口の中の環境をそのまま再現したものではありません。

論文
In Vitro Bacterial Penetration of Coronally Unsealed Endodontically Treated Teeth
著者
Mahmoud Torabinejad, Borasmy Ung, James D. Kettering(ロマリンダ大学〔米国〕)
掲載
Journal of Endodontics 1990;16(12):566-569
種類
実験室研究(in vitro・抜去歯の細菌漏洩モデル)。直線的な根管をもつ上顎切歯・犬歯45本。根尖孔を#40まで拡大(ステップバック)し、5.25%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄。33本をガッタパーチャとRothシーラーで側方加圧充填し、歯冠側を熱したプラガーで除去して根管内に10 mmだけ残す。根面は根尖1 mmを除きマニキュア2層で被覆。歯冠側をラテックスチューブで包み、P. vulgaris群16本・S. epidermidis群17本に分けて菌液と人工唾液を満たし、根尖を下のフェノールレッド培地(乳糖3%入り)に2 mm以上浸して、培地が黄変するまでの日数を毎日観察。陽性対照8本(シーラーなしのガッタパーチャ単一ポイント)、陰性対照4本(歯冠側は滅菌人工唾液のみ)
PMID
2094758

仮封が外れたまま数週間、やり直しますか

根管充填まで終えた歯。補綴の予約が延びた、仮封が欠けた、コアが外れた——歯冠側が口の中に開いたまま時間が経った歯を前にして、「このまま進めてよいか、根管をやり直すか」を判断する場面があります。

結論を先に言うと、この抜去歯の実験では、シーラーを使って側方加圧で10 mm充填してあっても、歯冠側が細菌に曝され続けると、平均24.1日(S. epidermidis)・48.6日(P. vulgaris)で根尖まで貫通しました。しかも最も速い歯は15日と10日で、個体差が非常に大きいのが実情です。

なぜ「細菌」で測ったのか

歯冠側からの漏洩は、それまで色素(インク)や放射性同位体で調べられてきました。著者らは先行研究を引きながら、その限界を挙げています。同位体のイオンは色素分子よりずっと小さく拡散も速いため、臨床で起きる漏洩をそのまま映さない。色素は分子が小さければ偽陽性になりうるし、気泡があると逆に漏洩を止めてしまう。

そこで著者らは、実際に根管を汚染しうる細菌そのものを使うモデルを選びました。歯冠側に菌液を置き、根尖側にフェノールレッド培地を置いて、培地が黄色く変われば細菌が根管を貫通したと判定する仕組みです(どちらの菌も酸を作るため)。

著者らは「歯冠側の封鎖がない根管充填歯で、根管全長が細菌に侵されるまでの時間を報告した研究は見当たらなかった」と書いています。

今回の実験:10 mmの根管充填を、細菌が何日で越えるか

歯:直線的な根管をもつ抜去した上顎切歯・犬歯45本(10%ホルマリン保管)。歯冠側をゲーツグリデン#2〜#4で拡大し、根尖孔を#40まで拡大・穿通を保つステップバック形成。ファイルの号数ごとに5.25%次亜塩素酸ナトリウム約2 mLで洗浄。
充填(実験群33本):ガッタパーチャとRothシーラーで側方加圧。熱したプラガーで歯冠側を除去し、根管内に10 mmだけ残す。根面は根尖1 mmを残してマニキュア2層で被覆。
装置:歯冠側に25 mmのラテックスチューブをかぶせエポキシで封鎖。チューブごと5.25%次亜塩素酸ナトリウムで15分間滅菌し、滅菌水約300 mLですすいでから、フェノールレッド培地(乳糖3%入り)10 mLを入れた20 mLバイアルの蓋に固定。根尖は2 mm以上培地に浸す
菌:運動性のProteus vulgaris(約4.7×108/mL)と非運動性のStaphylococcus epidermidis(約7.5×106/mL)。菌液2 mLと滅菌人工唾液0.7 mLをチューブ内に満たし、S. epidermidisは5日ごと、P. vulgarisは5〜10日ごとに新しい培養液へ入れ替え(入れ替えのたびに古い培養液を培養して生存を確認)。
判定:毎日観察し、培地が黄変したらその日数を記録。黄変した培地は血液寒天で培養し、チューブに入れた菌と同じであることを確認。
対照:陽性対照8本=シーラーなしのガッタパーチャ単一ポイント(各菌4本ずつ)。陰性対照4本=実験群と同じくガッタパーチャとシーラーで充填し10 mm残したうえで、歯冠側に滅菌人工唾液だけを置いたもの。

結果1:平均24.1日と48.6日

0 20 40 60 根管の全長が汚染されるまでの平均日数(日) 24.1 48.6 S. epidermidis(非運動性・17本) P. vulgaris(運動性・14本) 原著の表1・表2の平均値。ばらつきは大きく、範囲はS. epidermidisが15〜51日、P. vulgarisが10〜73日。独立2標本のt検定でt=4.68、p<0.01。P. vulgaris群は16本のうち2本を除外して14本
根管の全長が汚染されるまでの平均日数(原著の表1・表2)。10 mmの充填を貫通する速さに換算すると、S. epidermidisで1日あたり約0.4 mm、P. vulgarisで約0.2 mm

非運動性のS. epidermidis(17本)は平均24.1日、運動性のP. vulgaris(14本)は平均48.6日で、独立2標本のt検定で有意差がありました(t=4.68、p<0.01)。

P. vulgaris群は16本で始めましたが、2日目に陽性となった2本を除外しています。著者らは、1本は陽性対照と取り違えた可能性、もう1本はラテックスチューブからの漏れが見つかったためと書いています。

意外なのは順番です。よく動く菌のほうが遅かった。著者らはここから「根尖までの到達の速さに、運動性は関わっていないかもしれない」と述べています。

結果2:半数に達するのは19日と42日

0 30 60 90 根管の全長が汚染されるまでの日数(日) 19 30 42 66 S. epidermidis(非運動性) P. vulgaris(運動性) 半数の歯が汚染された時点 8割を超えた時点 原著の表1・表2の累積割合から。19日でS. epidermidisは53%、42日でP. vulgarisは50%、30日で88%、66日で86%に達していた
累積で半数・8割に達した時点(原著の表1・表2の累積割合から)。19日でS. epidermidisは53%、42日でP. vulgarisは50%、30日で88%、66日で86%

抄録では「S. epidermidisに19日曝すと50%を超える根管が完全に汚染され、P. vulgarisでは42日で50%が完全に汚染された」とまとめられています。考察ではさらに、P. vulgarisは66日までに85%超、S. epidermidisは30日までに88%が全長汚染に至ったと書かれています。

対照群も結果を裏づけています。シーラーを使わずガッタパーチャ1本だけ入れた陽性対照は、8本中7本が1〜4日で黄変しました(残る1本は22日目。著者らは、取り違えか、たまたま非常に緊密な適合だった可能性を挙げています)。一方、歯冠側に滅菌人工唾液だけを置いた陰性対照4本は、90日を超えても色が変わりませんでした。装置そのものは汚染されていなかった、という確認になります。

いちばん効いたのは「ばらつき」

平均値以上に目を引くのは、個々の歯の差です。P. vulgarisでは10日から73日、S. epidermidisでは15日から51日と、同じ手順で充填した歯どうしで数倍の開きがありました。

著者らは、この大きなばらつきを色素を使った先行研究(Swanson&Madison、Madisonら)でも同様に見られたとしたうえで、形成された根管の形、使ったシーラーの種類、歯冠側が触れている液の性質によるのではないかと推測しています。あくまで推測であり、この研究ではその要因を切り分けていません。

明日の臨床へ

著者らの結論:歯冠側の封鎖が失われた根管充填歯では、S. epidermidisで19日、P. vulgarisで42日の曝露で、半数以上・半数の根管が全長にわたって汚染された。
補足(筆者の読み):
・この研究が測ったのは「根尖まで貫通したかどうか」という一点で、部分的な漏洩は判定していません。黄変は「もう全長が汚染された」という遅い指標です。
・「何日までなら安全」という線を引くための研究ではありません。最も速い歯は10日で貫通しています。平均日数を安全域として使うと、速い側の歯を取りこぼします。
・意味があるのは順序です。歯冠側が開いたままなら、根管充填の質にかかわらず時間とともに汚染が進む。だから「歯冠側を早く、確実に閉じる」ことが、根管治療の成果を守る側の仕事になります。仮封の厚みと材料、補綴までの日数、仮封が壊れたときの再来院の案内は、この一点に効きます。
・逆に、汚染された期間が長い歯を必ずやり直すべきか、という問いにはこの研究は答えていません。これはin vitroの汚染到達時間であって、実際の治療成績(根尖病変の発生や治癒)を調べたものではありません。判断は臨床所見と画像、最新のエビデンスを合わせて行う話です。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、著者ら自身が限界を明記しています。モデルは静的で、細菌の培地は唾液そのものではなく、扱いやすさのために菌種は2つに絞られています。実際の口腔内はもっと多くの菌種が混在し、唾液の流れや免疫の働きもあります。著者らは「臨床条件を模したin vitroモデルでの検討が必要」と結んでいます。第二に、抜去歯は10%ホルマリンで保管されており、象牙質の性状が生体と同じとは限りません。歯は直線的な根管の上顎切歯・犬歯で、大臼歯や湾曲根管ではありません。第三に、群の規模は小さめです(P. vulgaris 14本、S. epidermidis 17本、陽性対照8本、陰性対照4本)。P. vulgaris群では2本を途中で除外しており、うち1本は「陽性対照と取り違えた可能性」と書かれています。陽性対照にも22日目まで変化しなかった1本があり、同じく取り違えの可能性が挙げられています。第四に、この研究は1990年のもので、当時の材料(Rothシーラー・側方加圧)での結果です。それでも、「歯冠側が開いたままなら、根管充填は細菌の侵入を長くは止めない」という結果は、仮封と補綴のタイミングを見直すきっかけになります。

今日のひとこと

著者らの結論:歯冠側の封鎖が失われた根管治療歯では、抄録の表現で「S. epidermidisに19日曝すと50%超の根管が完全に汚染され、P. vulgarisでは42日で50%が完全に汚染された」。つまり、側方加圧でシーラーを使って10 mm充填してあっても、歯冠側が口腔内に開いたままなら、根管充填そのものが細菌の侵入を長く食い止める壁にはなりませんでした。ただし個体差が非常に大きく(P. vulgarisで10〜73日、S. epidermidisで15〜51日)、「何日までなら安全」と読める性質の数字ではありません。抜去歯・2菌種・静的なモデルでの結果です。

Torabinejad M, Ung B, Kettering JD. In vitro bacterial penetration of coronally unsealed endodontically treated teeth. J Endod. 1990;16(12):566-569. PMID: 2094758
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。