エンド|根管充填後も治らず外科処置に至った無症状の歯から、根尖部を歯ごとブロック生検し、光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡の両方で根管内の細菌・真菌を探した観察研究(Nair ほか 1990・J Endod)
根管充填をやり直しても消えない根尖部透過像。培養に出しても「菌は出ませんでした」と返ってくることがあります。では本当に菌はいないのでしょうか。スウェーデン・ウメオ大学の症例から採られた、治らない根尖病変12生検のうち、根尖部の根管が残っていた9生検を、光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡で丹念に追った研究です。9本中6本で微生物が見つかりました(細菌4本・酵母様真菌2本)。ただし光学顕微鏡だけで細菌をはっきり確認できたのは9本中1本で、残る3本は連続切片と電子顕微鏡の反復観察でようやく見つかっています。著者らは、この研究の菌は形態でしか見ていないため菌種の同定はできないこと、電子顕微鏡で見られる面積はごく狭いことも、あわせて書いています。
①「菌は出ませんでした」で、本当に終わりですか
根管充填をやり直した。仮封も丁寧にした。それでも根尖部の透過像が消えない。培養に出しても「菌の発育なし」。こういう症例を前にすると、原因が感染なのか、それ以外なのか、判断が止まります。
結論を先に言うと、この研究では、治らずに外科処置に至った9本の生検のうち、6本の根管内に微生物(細菌4本・酵母様真菌2本)が残っていました。そして重要なのが検出のしかたで、光学顕微鏡だけで細菌をはっきり確認できたのは9本中1本。残りは連続切片と電子顕微鏡を繰り返して、ようやく見つかっています。
②なぜ「見えない」ことが起きるのか
根管治療の目的は、根管内の感染を取り除き、再感染を防ぐことです。ところが治療がうまくいかないとき、その原因の特定は昔から難しいとされてきました。著者らは、根管形成の不備、器具の破折、根管充填の長さ、根尖部の形態といった局所因子を挙げつつ、長期の成否を左右する最大の単一因子は根管系に残った感染だろうと述べています。
では、なぜ確認が難しいのか。過去の外科標本の研究ではパラフィン切片が使われることが多く、根管内の細菌を見つけられた報告はごくわずかでした。著者らは、この研究で自分たちが光学顕微鏡を使って経験したことに照らせば、過去の研究の検出率が低いのは不思議ではないと述べています。菌が大きな塊になっているまれな場合を除けば、光学顕微鏡では見落とすからです。なお著者らは、電子顕微鏡で調べられる面積が極めて小さいことを、この研究自身の限界としても別に挙げています。今回の設計は、その穴を少しでも埋めるためのものです。
③今回の一手:歯ごとブロックで採って、切り尽くすまで探す
標本:根尖部の根と、周囲の骨の薄い板を含む根尖病変を、一塊のブロックとして採取(12本)。このうち根尖部の根管が標本に含まれていなかった3本を除外し、9本を解析。
追跡:治療から4〜10年。
処理:2%パラホルムアルデヒドと2.5%グルタルアルデヒドで8〜10日固定。0.25 M EDTAと4%グルタルアルデヒド(ショ糖添加)で6〜12週かけて脱灰。X線写真で向きを確認しながら、根管を通る面で2つに割り、0.5〜1 mmの薄切りにしてEpon包埋。
観察:1〜2 µmの準超薄切片をPASとメチレンブルー・アズールIIで染め、光学顕微鏡で観察。菌がいそうな部位(根尖孔の周囲、好中球が集まっている場所、根管内の空隙など)を選んで透過型電子顕微鏡(Philips 201)で観察。最初の超薄切片で見つからない場合は、10〜15 µmの深さまで準超薄の連続切片を作り、さらにブロックを削って深部で切り直す。これを微生物に行き当たるか、標本を切り尽くすまで繰り返した。
④結果1:9本中6本に微生物がいた
根管内に細菌が見つかったのが4本、酵母様の真菌が見つかったのが2本、合わせて6本。微生物が見つからなかった3本のうち1本は、異物巨細胞性肉芽腫の像を示しました(この症例は別報で報告するとされています)。
細菌の形態は、グラム陽性の糸状菌・桿菌・球菌でした。真菌は直径3〜5 µm、はっきりした核と細胞壁を持ち、出芽の像も多数見られたことから、著者らは酵母と判断しています。著者らは、ヒトの罹患した歯髄や根尖部から、この真菌がin situで光学・電子顕微鏡的に示されたのはこれが初めてだと書いています。
⑤結果2:光学顕微鏡だけでは、9本中1本しか見つけられなかった
光学顕微鏡で細菌をはっきり同定できたのは、1本だけ(GRS-9)でした。この症例では、根管が根尖側で分岐した副根管が細菌で埋まっており、連続切片を追うことで初めてその副根管が姿を現しました。
残る3本(GRS-3・GRS-5・GRS-10)では、準超薄の連続切片を作っても光学顕微鏡では確認できませんでした。理由は菌のいる形が違ったからです。GRS-9のように大きく密な塊になっているのではなく、単独で、あるいは数個のかたまりで散らばって存在していたのです。これらは電子顕微鏡の反復観察で確認されました。
⑥なぜ見つけにくい場所に残るのか
この研究の像が示しているのは、菌がどこに潜むかです。光学顕微鏡で唯一はっきり細菌を確認できた症例(GRS-9)では、根管が根尖側で分岐(デルタ形成)しており、その副根管が細菌で塞がっていました。同じ症例で菌は、過去の歯根吸収でできたハウシップ窩(吸収窩)を密に埋め、象牙質壁に貼り付くように存在していました。もう1本(GRS-3)でも、過去の内部吸収によるハウシップ窩と、根管内の空隙に、小さな群をなす細菌が見つかっています。いずれも、器具や洗浄液が物理的に届きにくい場所です。
この2本目(GRS-3)は、ガッタパーチャの充填が根管長のほぼ全長に達し、根管壁への適合も良好に見えた症例でした。それでも側方に未充填の空隙が残り、そこに歯髄の残渣と象牙質削片が詰まっていました。その空隙の根尖側の開口部には好中球が集まり、電子顕微鏡では好中球の内部に菌が確認されています。「レントゲンで緊密に見える充填」と「菌の残っていない根管」は、別の話だということです。
⑦明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・この論文の一番の実務的な含みは、「検出できなかった」を「いない」と読み替えないことだと思います。同じ標本でも、見る道具を変えると検出率は11%から44%に変わりました。
・菌が見つかった場所は、副根管・デルタ・吸収窩・充填の側方の空隙——どれも器具が届きにくいところです。「もっと太く削る」ではなく、形成の及ばない空間をどう減らすか・汚さないかという視点につながります。
・治らない症例で培養が陰性でも、それだけで感染を否定する材料にはなりません。この診療科では失活歯は培養が陰性になってから根管充填されており、それでも4〜10年後に4本から細菌が見つかっています。逆に、初診の培養で菌が出ていても、数年後の組織に菌がいるとは限りません。
・一方で、微生物がいない病変も存在する(9本中3本、うち1本は異物反応)ことも同時に示されています。すべてを感染で説明しない、という抑制もこの論文の中にあります。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:この9本の検討では、治らない根尖病変をもつ根管充填歯の大多数の根管内に微生物(細菌または真菌)が残っており、それが治療の失敗に関わっている可能性があると示唆された。微生物が見当たらない症例では、異物巨細胞型の組織反応が病変を支えている場合がある。そして実務に効く一文がこれです——微生物が大きな塊で存在するまれな例を除けば、光学顕微鏡は残存感染の検出にあまり役立たないかもしれない。「見つからなかった」は「いない」と同じではない、ということを、9本の標本が具体的に示しています。


